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795 :名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:36:32 ID:xHa9ioDc

2010年/横浜・みなとみらい21。
あの日、俺達は光を求めた―――――――――――。







「こっちも開かない……」

閉じ込められてから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
あれだけ大勢いた大人達とも、はぐれてしまった。
今居る場所もいつ火の手が回るか分からない……焦げ臭い匂いが、少しずつ近づいてくるのが分かる。
どうしようもない恐怖感と焦りが、自分自身を追い詰めていく感覚に、思わず震えた。

「ぐすっ……えぇぅ……!」
「泣くなよ。俺だって泣きたい」

10歳の子供に何が出来るって言うのか。
しかも、家族とはぐれたっぽい余計なオマケまでいる。
いつの間にか、この場所に取り残されたのは俺と泣きじゃくる女の子だけになっていた。
他の場所に移動しようにも、施設の中は真っ暗で非常用電源すら消えてる始末。闇雲に動くのは返ってマズイ。
携帯で連絡しようにも電話もメールも使用不能になってて、まさに万事休すって感じだった。

「俺が言うのもなんだけど……お前、ドン臭いな。大人達に付いて行きゃ助かったかもしれないのに」
「だって……急に暗くなったから……ひっく……それに、音が聞こえたから……」
「音? 非常ベルなら聞き飽きたよ」
「違う、もっと、別の音……ピアノの鍵盤、押したみたいな……」
「そりゃ幻聴だ。お前、パニくってたんだろ」

映画を見ていたら、突然スクリーンに妙なものが映ったのは覚えてる。
何だったのかまでは一瞬で判別できなかったけど、いきなり停電したのにはビビった。
非常ベルが鳴り響く中、何かヤバイと思って逃げてたら、いつの間にかコイツと2人きり。
最悪の1日だ……パパもママも、俺がこんなことになってるなんて夢にも思わないだろうな。

「映画、お前も見てたのか」
「親戚の家族と、一緒に……でも、はぐれちゃった……」
「こういう時、子供ってのは無力って相場が決まってんだ。
 こう暗くっちゃ何処をどう歩きゃいいのかも分かんねぇし」
「私達、死んじゃう、の?」
「死んでたまるか」

俺には将来やりたいことなんてない。でも今、こんな理不尽なカタチで死ぬなんてゴメンだ。
こういう時こそ、人間って足掻くもんなんじゃないだろうか。
この子だって、ここで死にたくなんかないはずだろうし。

「お前の名前、教えろよ」
「えっ……?」
「だって、いつまでも“お前”じゃイヤだろ?」
「私、あのね、私の名前―――――――――――――――――」



悪夢はいつもここで終わる。
あの子の名前、結局なんだったんだろうな。
聞いた気はするけど……思い出せねぇ……。



796 :名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:38:37 ID:xHa9ioDc

「(……久々に見た)」

よぉ、俺だ。
夢見が悪いってのは、まさに今みたいなのを言うんだろうな。
何年かぶりに嫌な夢……見ちまった。
俺がまだ小学生の頃、横浜で起きた第二次ネットワーククライシスに巻き込まれた時の夢だ。
あの時、俺、どうやって助かったんだっけか……それに一緒に居たあの子も……。
7年前のことだってのに、記憶に靄が掛かったみたいに不鮮明でよく思い出せない。
よっぽど恐かったんだろうか? 子供の頃の記憶なんてそんなもんなのかもしれねぇし……。

「さみっ。今日は冷えるな」

誰が言ったか知らないが、1人暮らしをすると独り言が多くなるらしい。
無論、俺は違う。ちゃんと不定期ながら両親はこの家に帰ってくるから、厳密に言うと1人暮らしじゃねーわな。
1人で居る時間が多いってのは否定しねぇけど……。
12月も下旬、もうすぐ新年のせいか部屋の中の気温は10℃程しかない。だがニュース曰く、今年は暖冬傾向らしい。
さーて、いつまでも寝てるワケにも行かねぇな。
そんなことを呟きながら身体に噛み付いてくる寒さを払いつつ洗面所へと向かう。





「千草……メールきてたのか」

顔洗いを済ませて、適当に焼いたトーストを齧りながら携帯をいじる。
いつもなら、ご飯と味噌汁なんだが生憎と昨日どっちも切らしてしまった。
千草の奴も朝は和食派なんだよな……あいつが泊まりに来てくれりゃ、飯には不自由しねぇんだけど。
んで、俺が寝てる間に千草からメールが着てた。時間は朝7時くらいか、折角の冬休みくらい寝てりゃいいのに。
内容は他愛なもんだ、朝の挨拶から始まって、年末の予定とか諸々。
あと千葉から俺の住んでる東京まで、あいつはよく飯作りに来る。だから次は何食べたいか、とかそんな内容だ。
けど何故か今日は、メールだけで済ませようって気分じゃなかった。

「よぉ。千草」
『りょ、亮クン? あの、どうしたんです? 《The World》じゃなくて携帯の方に連絡くださるなんて……』
「何つーか、千草の声……聞きたくなったから」
『えぇっ? あ、あのぅ……』
「今日、会えないか」
『きょ、今日!? 今からですか?』

一応、クリスマスと年末は一緒に過ごそうって約束はしてる。
でも今日は何か、無性にアイツに会いたかった。
《The World》のアトリじゃなくて、リアルの日下千草に会いたい。
でなきゃ、ゲームにログインしてショートメールで呼び出してるさ。
けどそれじゃ、なんか物足りねぇ。今日はそういう気分なんだ。



797 :名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:40:43 ID:xHa9ioDc

千葉から東京までそう遠くはない。
だから千草も小遣いの許す範囲で週何回か東京まで来れる。
あいつの親も俺んちの親同様、子供に対してはやや放任主義らしいし、金には不自由してなさそうだ。
ただし、千草の服装とかに関する躾は厳しいらしいけど。

「お、お待たせしました!」
「ん」

第三次ネットワーククライシスを回避して以降、俺達はリアルでちょくちょく会ってる。
つか、ぶっちゃけ付き合ってる。知らない間に、いつの間にかお互い好きになってたって言うんだろうか。
ゲームで知り合ってリアルでオフ会、とかよく聞くしゲームで結婚式挙げちまう奴だって珍しくない。
けど、俺達みたいにゲームで結婚式まで挙げてリアルでも付き合ってる奴らはそう居ないんじゃないだろうか。

「寒くなかったか」
「厚着してますから大丈夫ですよ」
「まぁ、千草は風邪ひきそうにねぇからな」
「うぅ。遠まわしに馬鹿にされた気がします……」

最近は千草の拗ねた顔を見るのが好きになった。
少し膨れっ面になって、顔を赤くする姿が堪らない。
が、同時に「俺ってこういうキャラだっけか?」と自己嫌悪になるので、諸刃の剣とも言えなくもねぇけど。
消房かっての。

「えっと……亮クン。それで、今日は……?」
「いや、特になんも考えてねぇ。最初は千草の声聞きたかっただけだし、ついでに会いたくなっただけ」
「ちょっ、出前じゃないんですから!」
「怒んなよ。わざわざ千葉から呼んだんだ、損はさせねぇ」

たまには《The World》とか抜きで千草とゆっくりしたいんだ。
俺はアトリのことならある程度知ったつもりでいる。でも千草のことは、まだ全然知らないって言っていい。
俺達、付き合ってんなら……お互いのこと、もっとよく知る必要もあるんじゃないかって、そう思ったから。

「千草に会いたかったから」
「そ、そうですか……」

呼び出された理由を聞いて、やや呆れ気味だった千草がやっと押し黙る。
俺がお前に会いたいって思った様に、お前だって毎日俺にメールよこしてたくらいだから
多少は会いたかったんだろ、俺に。ならいいじゃん。
クリスマスや年末にゃちょっと早ぇけど、それでも会いたかったんだしさ。

「……私、千葉じゃなくて東京に住んでれば良かったですね。 そうすれば、もっと亮クンの側に居られるのに」
「大学入ったら、こっちに越せよ。どうせなら一緒の大学、行ってみるか?」
「あはは……私の偏差値じゃ一緒はちょっと厳しいかも、です」
「(同じ大学は無理か……)」

まだあと2年あるんだし頑張ればそこそこイイ線いくと思うんだけどな。
千草は確かに電波なとこあるけど頭が悪いってワケじゃねぇし、むしろ頭の回転は速い方だ。
……って、俺、さっきから肯定的な意見ばっかだな。恋は盲目ってこういうコトかもしれん。
気をつけねーと。

「とりあえず歩くか」
「あ、はい」

俺が差し出した手を千草が取って、繋いだまま2人して歩き出す。
どちらの体温も寒さのせいで屋内にいる時よりも下がってるってのに、
手ェ繋いだだけでそんなの気にならなくなるのは何でだろうな。
少し前の俺なら人前で手繋ぐなんて絶対やろうとしなかった……人間、何が切っ掛けで変わるか分かんねぇもんだ。



798 :名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:42:48 ID:xHa9ioDc

「平和ですよね」
「何だよ、いきなり」
「だって私達がもしクビアに負けていたら今頃……」
「原発のメルトダウンで人類絶滅ってか」

ゴジラVSデストロイアみたいなことになってたかもしれねぇ、ってことか。
確かに千草の言う通り、こんな悠長に街中歩いてる場合じゃなくなってただろうな。
再誕の影響でまだネット関連で不便なケースも残ってるし。
でも、だからこそ俺達が守ったんだって実感も沸くんじゃねぇか?

「千草は誰かに褒めてほしかったのか?」
「えっ?」
「私達が世界を救いました、って言っても誰も信じねぇのがオチだぞ」
「うーん……そういうんじゃないんですけど」
「?」

何だ、違うのか?
人間誰だって差異はあるだろうけどヒーロー願望はあるもんだ。
《The World》やってる奴の中には特にそういう奴、多そうだし。

「あのですね。私じゃなくて、亮クンのことです」
「俺?」
「亮クンはあれだけのことをやってのけたのに、その、いつもと同じだなぁ、って」
「仕方ねぇだろ、俺の目的は最初から志乃を助けることだったんだ。世界を救ったのはなりゆきってか、そんな感じだな」
「はぁー。やっぱり私が神経質すぎるのかなぁ……」

碑文使いとは言え、俺達も結局は一介のプレイヤーに過ぎない。
さすがに7年前のドットハッカーズみたいに祭り上げられるのはゴメンだった。
今はただ他の連中と楽しく馬鹿やってられれば、それだけで満足なんだし。
志乃も揺光も他の未帰還者達もリアル戻ってこれた……1人、戻って来れてねぇ奴もいるけど。
それでも、俺はこの結果に満足してる。俺達が歩んできた1年が決して無駄じゃねぇって、思いたいから。

「それに」
「はい?」
「……世界救えなかったら、千草と一緒に歩けなかっただろ」
「……」
「オイ。何で黙んだよ」
「亮クンって……ハセヲさんの時と違って……あ、やっぱりいいです。すいません」

何だ、何だ、何が言いたいんだ?
そりゃ確かに俺はネット弁慶かもしれねぇけど、《The World》はロールが基本だろ?
ハセヲがロールだったら、お前だってアトリの時の電波はロールってことになるぞ。
俺だって年中怒鳴り散らしたりしてるワケじゃねーんだからさ。

「でも亮クンの言う通りだと思います。
 私も、亮クン達と出会わなければきっと、このまま世界が滅んでもいいかな、とか思ってたかもしれませんし」
「お、お前、終末思想でもあるのか?」
「いえ、ですから。実際、自分達の手で救うことで実感するってことです。生きてて良かったって」

まぁ、な。
未帰還者を救えても世界そのものが滅んじゃ話になんねーし。
そう思うとやった価値はやっぱあるんだなって俺も思うよ、千草。
お前の場合は生きてて辛いこともあるかもしれねぇけど、それでも俺は千草が生きてて良かったと思う。
……アレだ、お前の作る飯は美味いからな。



799 :名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:45:34 ID:xHa9ioDc

「救いは一歩踏み出すことだ。もう一歩、そしてこの同じ一歩を繰り返すことだ」
「あ、それって……」
「千草はサン・テグジュペリの言葉、好きだったろ」
「覚えててくれたんですか?」

とりあえず著書は何冊か読んだ。
今のは「城壁」の一節、他に読んだのは「夜間飛行」、「戦う操縦士」、「星の王子さま」。
古典文学ってのも読んでみると面白いもんだ、現代っ子ってのは活字離れしてるって言うけどそうでもねぇ。
なつめみたいに絵本作家目指してるような奴も身近にいたのも影響してるけどな。

「死の恐怖だった頃の俺は誰の手も借りずに突っ走ってた。
 俺1人でも志乃を助けるんだって勝手に思い込んで……けど、データドレインされて
 シラバスやガスパー達に……アトリに出会って、ちょっとずつだけど……変われた気がする」
「私、最初の頃は亮クンを怒らせてばかりでしたけど……」
「あの時は……な。立ち止まれ、なんて言われて頭に血ィ上ってた。
 立ち止まってる暇なんてない、走り続けねぇと、って。けどそうじゃない。
 俺はいつまでも同じ場所をグルグル回ってただけで……立ち止まるのが恐かったのかもな。
 立ち止まって、深呼吸して、違う方向を見つめてたら……もっと早く追いつけてたのかもしれないのに」

オーヴァン、俺はアンタに追いつきたかった。
けど世の中にはどうにもならねぇことがあるんだよな、やっぱ。
アンタはいつも俺や志乃を置いてけぼりにして先に行っちまう。
いつも置いていかれる側の気持ち、考えたことあるか?
俺は考えたぞ。考えたから、走るのを止めたんだ。
歩くような速さでも辿り着ける場所なんて、いくらでもあるって気づけたからな。
なぁ、オーヴァン。アンタは、それに気づいてたのに1人で突っ走ってたんじゃないのか。
なぁ……。

「……亮クン?」
「何でもねぇ。年末が近いとな、色々思い出しちまうだけだ」
「クリスマスに大晦日、すぐにお正月ですからね」
「デパートとかは今が一番の稼ぎ時だろうからな。
 今年はネットワーククライシスの影響で打撃受けたとことかも多そうだし」

企業が集中してる東京は特に再誕の影響を強く受けてる。
俺が7年前に遭遇した第二次ネットワーククライシスの時よりも深刻なレベルで、な。
まさか皆、ゲームの影響であんなことが起きたなんて思っちゃいねぇだろう。
俺だって事件に関係してなきゃ、まず信じてねぇし。

「ついでだ。百貨店で何か買ってくか?」
「今日って……やっぱり、最終的には亮クンのおうちに……ですか?」
「いや、お前が来たくなけりゃ飯食った後に解散でもいいけど……」
「……いえ、今日は泊まります」
「そっか」

聞けば千草の両親も俺のとこと同様に年末は忙しいらしく、家にいないとのこと。
暇つぶしに《The World》やるか、文鳥3羽の世話するか……お前もお前で寂しい生活送ってんのな。
俺が言えた義理じゃねぇけど。

「亮クンの食生活くらいは、私でも何とかできるって証明したいですから」
「頼もしいもんだな。アトリの時みたいに空回りしねぇことを祈るぜ」
「そ、そういう亮クンだって……この前、私が包丁で手を切った後……」
「ここでそーいうコト思い出すなよ」

あれは俺が思い出しても恥ずい。千草を宥めようとして、何か臭い台詞連発したのは覚えてんだけど……。



800 :名無しさん@ピンキー:2007/01/31(水) 03:48:15 ID:xHa9ioDc

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「お前の作る飯が美味いのは認めるけど、また牛丼は勘弁だからな」
「でも私、野菜苦手で……」
「牛肉と玉ねぎなら牛丼以外にも色々作れるだろ。肉じゃがとかシチューとか(てかコレ、前にも言ったぞ)」
「あ、そうですよね。盲点でした」
「……」

や、可愛いんだけどな。

「やっぱり朝の食事も大切だと思うけど、夜の食事も大切だと思うんです。
 剣のサーヴァントも『晩御飯はまだですか?』って、よく質問してますしね」
「どこのセイバーだそれ」

中の人なんていない。

「……あの、亮クン」
「どしたよ」
「志乃さんとは、会ってるんですか?」
「退院した後、何度か会った。最近は会ってねぇ。
 志乃も志乃で大学の留年決まって、単位取るのに忙しいだろうしな。今はちょうど後期試験の真っ最中らしいし」
「はぁ。大学生って大変なんですね……」
「何だ。妬いてんのか?」
「ちっ、違っ……まぁ、当たらずとも遠からずと言いますか……」

お前は会った頃から志乃に対して対抗意識燃やしてたもんなぁ。
つか、千草。お前は俺が二股できるような器用な奴に見えるのかと小一時間。
志乃にはとっくにフラれたよ。今はただのお友達。
俺自身がそれで満足してんだ……俺は志乃じゃなく千草を選んだから、これが結果。

「前に好きな女が居た男は、信じられないってか」
「そんなことは絶対ないです」
「けど、お前いつも……」
「だって、人を好きになるのって……とっても素敵なことじゃないですか」

俺がお前を、好きになったみたいにか?

「亮クンが本当に何に関しても無関心な人なら、誰も好きになんかならないですよね?
 でも亮クンは志乃さんが好きだったから……志乃さんを助けたいって思ったから、あんなに頑張れた。
 それってすごいことだって、私は思います。だから亮クンが志乃さんを好きだったこと、私は否定しません」
「……」
「人が人を好きになるのは、とても自然なことだから。
 ですから、いちいちそんなコトに怒ってたらキリがないんです」
「お前……オトナだな」
「私もこの1年で……亮クンと一緒に居て、色々と考えさせられましたから。
 自分のことばかりじゃなくて、相手のこと、しっかりと見なきゃって。
 一方通行じゃダメって、気づけました……だから亮クンが私のこと見てくれてるように、私も見てます。ね?」

変わったな、千草。もうアトリの時に纏ってた陰は微塵も感じねぇ。
けど、ハセヲは変われたけど三崎亮は変われたんだろうか……って、千草と一緒に歩いてる時点で……分かりきってるのにな。

884 :名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:31:35 ID:SNXjEdGx

「お前は野菜嫌い、直した方がいいな」
「えっ?」
「今時BLTサンド注文する時にレタス抜き頼む奴ってそういねーぞ」
「うぅ……努力します」

申し訳なさそうにBLTサンド(レタス抜きだからBTサンドか?)に
パクつく千草を半ばあきれつつ、俺もBLTサンドに食らいつく。
カリカリのベーコンとパン、そしてレタスのシャッキリした歯応えが丁度いい按配で結構美味い。
人の好みってのは分からないもので、世の中にはレタスみたいに匂いも味もないような野菜まで嫌いな奴もいるそうだ。
チャーハンに入れると美味いのにな。まぁ、千草の場合は野菜のほぼ全般に当てはまりそうな気もするけど。

「亮クンってこういうお店とかにも、よく来るんですか?」
「たまにな。ここの喫茶店は気に入ってんだ」
「ふぅん」
「俺だって静かに考え事した時くらいあんだよ」

どっちかっつーとファーストフード店とかよりは個人経営の喫茶店とかの方が好きだな。
DQNとかとの遭遇率も低いし、静かにこういうの食えたりコーヒー飲めるし。
ネット喫茶全盛期の今じゃ、こういう店の存在は貴重だったりすんだ。
わざわざ千草を千葉から呼んだんだ、たまには俺のお気に入りの店に連れてってやるのも悪くねぇ。
……彼女だし。

「千草は月の樹の連中とは会ったりしてないのか」
「七枝会の幹部クラスの方々はオフ会とかやってるかもしれませんね。
 でも私は、どなたともリアルで会ったことないんです」
「へぇ……でも俺とは会ってるじゃん」
「ハ、ハセ……亮クンとは、その、お付き合いしてますから。あ、会うのは当然だと思います!」
「(何故そこで声高になる……)」

何つーか、あるよな。
ネットで仲良くなった男女がリアルでいざ会ってみるとゲームの時とのギャップに絶望した!
なんて話。《The World》については1200万人もプレイしてんだ、ネタにゃ事欠かねぇだろうよ。
幸いにもアトリの場合、と言うよりも千草は俺の許容範囲だったワケだが。

「月の樹って言えばよ」
「はい?」
「ずっと前、お前らのギルドと同じようなコトしてる連中いたんだよな……。
 不正チートPCとか、鉄アレイみたいなモンスター操る呪紋使い追っかけたりしてた、自治厨みたいな連中……」
「えと……それって、もしかして紅衣の騎士団ですか?」
「あーそんな感じの名前だったかも」
「私も詳しくは知らないんですけど、R:1時代に
 そういう名前のボランティア団体が存在していた、っていう話は聞いてます。
 でも、亮クンって《The World》始めたの、R:2からですよね……? どうして紅衣の騎士団のことを?」
「あ、あぁ……多分、BBSか何かで見て覚えてたんだろ」

何か、最近の俺は変だ。
俺の記憶であって、そうでないよう記憶を極たまに思い出すことがある。
それも《The World》を始めてからここ1年ばかりで急に、だ。
……ゲームのやり過ぎで疲れてるとか、ストレスとかが原因かもな。

「あの、ですね」
「? 何だよ」
「私、同世代の男の人とこういう喫茶店とかに入るの、初めてなんです」
「俺も女と入るのは初めてなワケだが」
「ですから……こういう時くらいは、ゲームのお話から離れて……
 も、もっと普通のお話をするべきと言いますか、何と言いますか……」



885 :名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:33:45 ID:SNXjEdGx

けど俺らの場合、出会いの場がネトゲだからな……。
話もネトゲ関連に帰結しちまわね?
千草がもっと普通の話したいなら俺も合わせるけどよ、俺だってこういう時に
どんな話すればいいのか分かってるってワケでもねぇんだぞ。

「た、例えばですね。亮クンは私以外の女の子のこと、どう思ってるのかな……とか」 
「結局はゲームの話じゃねーか」
「ですけど、やっぱり、か、彼女としては気になります!」
「お前は俺がお前以外の女と、二股三股できる器用な奴に見えるんだな」
「見えます」
「(俺ってもしかして全然信用されてない……?)」

千草はいじめとかに遭ってた経験上、そういう人間関係とかにも過敏なんだろーな。
俺としても身の潔白を証明したいもんだ、誤解されたままじゃ気分悪ぃし。
今後の千草との関係にも支障をきたさない保障はどこにもねぇからなぁ。
にしても可愛い顔して結構エグいこと聞いてくるな、コイツ。今夜あたり、おしおきしてやらねーと。

「わーったよ。最初は誰だ?」
「じゃ、じゃあ……揺光さんから」
「揺光なぁ……」

千草も千草でやや後ろめたいのか、いちいち口を開く度に上手く言葉が声に出せていない。
やっぱいざ付き合うとなると、男の心情とか知っておきたいんだろうか。
まー彼氏の携帯の記録アドとか着信メールチェックしてるような女は世の中にわんさといるしな。
千草はそういうことせずに直接聞いてくるだけマシってもんだ。

「友達以上、ってのは認めるぜ。
 まぁ……アイツも俺に少なからず好意持ってくれてたみたいだし……」
「うぅ」
「馬鹿、泣くな。お前を選んだ時点でそれ以上の進展はねぇよ、友達だって友達」
「し、信じますからね……!?」

表面上はアトリと揺光、仲良くやってるみたいだけど、水面下は火花散らせてんのか……?
一緒にクエストやってた頃は揺光の奴、アトリを俺の彼女と勘違いしてたしな。
男の俺にゃ分かねぇようなこと、女同士で競い合ったりしてるんだろうか。
そういやBTFのパート2でもドクが宇宙の永遠の謎は女だ、って言ってたっけか。
今になって俺にも意味が分かってきたぜ、ドク。

「ほい次」
「次は……カールさん、です」
「カール……カール、カール……ぶっちゃけ好みだった、かな」
「ちょっ!?」
「だから、だったって言ってるだろうが。過去形に気づけ、過去形に」

いつもポーカーフェイスで何考えてんのかサッパリ読めねぇし、
「おばあちゃんが言っていた」だの「私は○○においても頂点に立つ女だ」とか
意味不明なこと言ってるし、俺だってあんなのの何処が好みだったのか全然分かんねぇってのが本音だ。
けど、たまに見せてた真剣な表情とか寂しげな横顔見てると
「コイツの傍に居てやりたい」って思わせる何かを感じたのも事実だったりする。
つか、揺光の紹介で出会う以前に、カールとはどっかで会ってた気もすんだよな……まさかな?

「た、確かにカールさんは私より頭も良いし、背も高いし、髪も長いし、揺光さん程じゃないけど
 胸も結構大きくて、すらっとしてて、強くて、元宮皇ですけどっ! 今は私が亮クンの彼女ですからね!?」
「無駄な心配しなくていいから、もうちょい声抑えろ」
「(あぅっ、す、すいません)」
「(俺達以外にも客が居んだからよ……)」



886 :名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:36:06 ID:SNXjEdGx

ヒートアップすると周りが見えなくなるのはネットでもリアルでも同じか。
千草の素がこれなんだろうな、いじめのせいでちょい性格暗くなって電波になったってだけで。
俺が他の女にちょっかい出してないか気にしてるあたり、可愛いもんだ。

「俺だって一緒に居て面白い奴が彼女なら、退屈しねぇしな」
「わ、私、つまんない子ですか?」
「だから、無駄な心配すんなっての。飽くまで好みだった、ってだけじゃねぇか」
「う~~~。でも、カールさんって平気でタウンの中とかでハセヲさんに抱きついてるじゃないですか」
「ありゃアイツなりのスキンシップみたいなもんだ、じゃれてるだけだって」
「カールさん、ハセヲさん以外の男性PCにはキツいですよね? 特にクーンさん……」
「や、そこまでは俺も知らねぇけど……とにかくカールとはそれくらいだから、お前は堂々と胸張ってりゃいいんだよ」
「胸……私よりもカールさんの方がおっきい……」

しまった、千草に胸の話題は禁句だったか。
早急に次の話題に変えねぇと……残ってる女はパイと楓とボルドーとタビー……ダメだ、どいつも胸がでけぇ。
いや、朔がいるじゃねぇか。って、小学生と比較されちゃ千草のプライドもズタズタか。
なおかつ志乃の話題なんか出してみろ、「まだ志乃さんに未練があるんですね……?」とか言いながら
何してくるか分かんねぇからな、コイツの場合。どうしたもんか。

「お前さ、前にメールした時に俺にふさわしい女になるって言ったよな?」
「えっ……は、はい。言いました、けど……」
「つまんねーことにばっか気ぃ取られすぎ。
 お前、他の女と自分比較して量りにかけてね? 無理にんなコトする必要なんかねぇっつの。
 俺は……だな。千草には千草らしくいてほしいつぅか、何つーか……いつものお前が好きなんだよ」

げぇっ。我ながら最高に恥ずくて臭い台詞だ。
今時の厨房向けのラノベの主人公だってこんな台詞、滅多に吐かねぇぞ。
やべぇ、言わなきゃよかった。言った瞬間に自分で言った台詞で鳥肌立ったぜ。

「亮クン……そ、そうですよね! 亮クンの言う通り……これじゃ私、前のマイナス思考な私に逆戻りですよね!
 な、何でだろ、やっぱり亮クンの言ってたみたいに、年末だから色んなコト思い出しちゃったのかな……アハハ」
「(い、今ので納得できるプラス思考にも問題があるような気もするけどな……)」

そんなこんなで俺と千草のランチタイムは終了。
今日は俺のおごりってことで先に千草を外に出してマスターに勘定を頼むと
『俺の店をお気に入りだなんて、うれしいこと言ってくれるじゃないの』
っぽい視線を送られた気もするが、多分気のせいだ。ここのマスター、いつも無表情でカップ磨いてるし……。

「待たせたな」
「いえ。でもお肉とか冷蔵庫に入れた方がいいと思いますから、早めに亮クンのお家に……」
「ん」

そっか、そういや今日は千草、泊まるんだったな。
やけに駅に着いた時から荷物が多いと思ったら着替えか……。

「……えっと」
「?」
「(今日は……亮クン、したいですか……?)」
「(……)」

このクソ寒い日に、顔を少し赤くしながらコイツは耳元でこんなコトを言う。
小声とは言え、人通りの多い街中で「うん、ヤリたい」なんて言えるワケがない。
だから返事をする代わりに繋いだ手をギュッと握って返答する。
すると千草は少し照れくさそうに、手を握り返してきて笑うんだ。……その笑顔は反則だろうよ。



887 :名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:38:09 ID:SNXjEdGx

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『イヤだぁ~っ!』
『ママァ~~ッ!!!』
『牛丼にしてやりてぇっ!』
『まずその太った青ダヌキから……!』
『ボ、ボクはタヌキじゃない! ロボットだから硬くて噛めない、美味しくないんだ!』

さすがにいつも牛丼じゃ飽きるんで今夜はシチューってことになった。
俺も手伝おうかって一応は言ってみたんだが、千草は全部一人でやりたいらしい。
いつも同様に自前のエプロン着込んで、気分は新婚の若奥様みたいになってやがる。
で、台所から締め出されて暇を持て余してる俺は29年も前の映画見てるってワケだ。
つーか剛田、こんな時に牛丼とか言うな。

『おやめなさい! 牛魔王!』
『観世音菩薩さま……』
『助けに来たわよ、お兄ちゃん!』
『ドラミ! 派手なタイムマシ――――――――――――――――――プツン』

台所からシチューの匂いが居間にまで届いてきたところで、俺はテレビの電源を切る。
市販のルーでも結構いい味出せるしな。千草がシチュー作るの初めてだし、興味もないワケじゃない。

「千草、シチュー出来たか」
「もうちょっとですよー」
「何だ、結構時間かかるな」
「タマネギを炒めて、あとジャガイモが煮崩れるまで煮込まないと」
「(そこまでする必要もねぇと思うけど……)」

割と千草は凝り性と言うか、本格志向らしい。
煮込んでる間くらい居間に来て俺と喋ってりゃいいのに、鍋から目を離さずに番してるってか。
変なところでマジメな奴め。

「あと少しですから……って、りょ、亮クンっ?」
「少し味見」

とは言っても、シチューじゃない。千草の味見だ。
大体リアルで会うのも久しぶりだってのにエプロン姿なんか見せられてみろ。
手ェ出したくなるに決まってる。最近は千草のほっそい手足や腰もこれはこれでアリな気がしてきてるし。

「相変わらず、ほっそいな」
「りょ、亮クン……私、お鍋、見てないと……」
「ほっときゃ煮込み終わるだろ」
「でも、っ……」

エプロンの隙間から千草の胸に手を滑り込ませてみると服の生地越しに柔らかい感触が伝わってくる。
俺の方に引き寄せてから後ろ向きのまま胸を揉めば、くすぐったいのか千草は身体を
くねらせて無駄な抵抗を試みてきた。そういや台所でこんなことヤるの、初めてだったな。
普段ゲームでデカい胸に見慣れてるせいか、逆に千草くらいの胸が丁度いいって思えてきた俺は末期かもしれない。

「千草の胸、やーらかい」

先端が硬くなるようにしつこく指で刺激してやった。ボリュームが無い反面、感じやすい体質っぽいし。
案の定、触り始めてまだ1分かそこらしか経ってないのに指で掴めるくらいに硬くなってる。千草、やっぱ受け体質だな……。



888 :名無しさん@ピンキー:2007/02/08(木) 00:40:43 ID:SNXjEdGx

髪からも身体からも良い匂いがする。
シチューの匂いとはまた違う意味で(むしろ性的な意味で)の良い匂い、ってことな。
手の平サイズに収まる慎ましい胸も手によく馴染んで、心地良い。
傍目から見たら俺、変態確定だな。

「もうっ、ダメって……言ってるのに……」
「だってお前、さっき俺にヤりたいかどうか聞いてきたし?」
「だ、だからって……!」

反抗を封じるために左腕を押さえつけてみる。
知っての通り、千草の左腕にはリスカ痕があるワケだがいつもは包帯で隠してんだが……
俺と親密になっても、そのぎこちなさは変わらない。だから手首ごと掴むのは簡単。
そして細くて白い指は、まだ食べたことがない。

「ん……」
「ひゃ、ひゃわわ……ちょっ、亮クン!? な、何するんですかぁっ!」
「ふひのあふぃみ(指の味見)」

この味、シチューのルーをさっきまで触ってやがったのか?
……タマネギ触った後じゃないだけマシか。でなきゃ俺がマヌケすぎる。
にしてもホント、指までほっそいのか。舐めるついでに食い千切りたくなるな。

「もうっ! エッチなのはいけないって、前から言ってるじゃないですかっ!」
「おっと」

千草の指の味見に集中してたせいで腰を抑えてた方の手の力が緩んだらしい。
俺の拘束から解放されたコイツはさっきよりも真っ赤な顔して抗議してきやがる。
何だよ、そう怒んなよ。いいじゃん、胸掴んで指しゃぶるくらい。

「し、親しき仲にも礼儀ありという言葉、亮クンはご存知ですかぁ……?」
「んだよ、マジになんなって。可愛い冗談ってやつだ」
「可愛くないですっ!」

ほ、ほら。シチューがいい感じでグツグツ言ってんじゃねぇか。
腹減ったし、そろそろ食おうぜ、な? 怒るなよ、隙見せたお前にも責任あんだしさ。

「ホントに……調理中にこういうコト、禁止なんですからね」
「前は風呂場でもヤらせてくれたじゃん」
「それはそれ、これはこれっ! 神聖な台所でエッチなことはいけません!」
「女子高生の鑑だな」

お前みたいなのが世の中にいっぱいいりゃ、少しはマトモに料理作れる女も増えるだろうに。
調理場は戦場って言うしな、邪魔したのは素直に悪かったって認めてやる。
俺だって女性は産む機械だなんて思っちゃいねぇよ。千草は実際、いい嫁になると思うし(性格に難ありだけど)。

「いつも思うんですけど……言っていいですか?」
「言ってみろよ」
「……亮クンってハセヲさんの時より……エッチなんですね」
「お前も結構ノってたクセによく言うな、オイ」
「だ、だから……! はぁ……も、いいです。シチュー、お皿に盛りますから運んでください」

いつものパターンだな。俺が千草にちょっかい出す→千草が抵抗する→俺が言い負かすのコンボ。
俺もそれなりに自分のやってることがすげーガキだってのは理解できてんだぜ?
けどよ、アレだ。せっかくこうしてお前が俺んちまで来てくれたんだしさ、俺だって内心嬉しいんだぞ。
夜中まで待てずにがっついたのはちょっと早計過ぎたかもだけど……しゃあねぇな。しばらくは自粛してやるか……。


76 :名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 04:52:48 ID:MwgLFZjP

「……」
「……なぁ」
「何ですか」
「まだ拗ねてんのか」
「拗ねてません、呆れてるんです」

よぉ、俺だ。
晩飯のシチュー食うのに約10日もかかったような、かからなかったような、そんな錯覚に陥ってる。
確かにシチュー自体は美味い。タマネギはあめ色になるまで炒めてるだけあって甘みが引き立ってるし、
肉もジャガイモも柔らかくて簡単にスプーンで砕けるくらい。ルゥも良く煮込まれてるし上出来だ。
が。作った本人が不機嫌なんじゃ話にならねぇワケで。

「ごっ、ご飯作ってる最中にあんなコト……」
「だから謝ってるじゃねぇか」
「あ、あのですね、亮クン? セクハラは犯罪ですよ?
 かかか、彼氏彼女の関係でも犯罪として成立しちゃうんですよ? 分かってるんですかっ!?」
「いや、だってお前、昼間……」
「そりゃ確かに……い、言いましたけど……時と場合を考えてほしいと言いますか……!」

台所で胸掴まれて、指しゃぶられるのはそんなに嫌か。
千草は基本受け体質だし、あーいう不意打ち系には弱いのかもな。
だって見てると“いぢめ”たくなんだよ。いじめじゃねぇ、いぢめな。
コイツの困った顔とか慌てる顔とか恥ずかしがる顔とか……あと声。
そーいうの見たいし聞きたい、みたいな? 消防レベルの嫌がらせっぽい気もするけど、笑いたきゃ笑え。
どーせ俺の頭ん中は消防の頃のまんまだよ。

「と、とにかく……今後、ああいうことは謹んでください。分かりましたかっ!?」
「はーい先生」
「(全然反省してるように見えない……)」

何だかんだ言って、千草も俺より1コ年下だしな、ちょろいもんだ。
特に千草みたいな生真面目な(かつドジ属性持ち)委員長タイプの相手は
とにかく相手に表面上だけでも従ってりゃ事態は次第に収まるって相場が決まってるしな。
よーするに、相手を満足させてやりゃ文句は出ねぇってコト。

「ホントにもう……ハセヲさんの時と全然違うんだから……」
「そうか? ゲームの時、特にロールとか意識してねぇけど」
「そういう意味じゃなくて……ハセヲさんの時は、もっと節度があるって言うか……」
「お前だってアリーナで初めて勝った時とか、俺に抱きついて来てたじゃねーか。
 あれエキシビジョンマッチだぞ? 世界中の1200万人が見てた可能性あんだぞ? 分かってんのか?」
「うぐっ、それを言われると……で、でも亮クンだって揺光さんが復帰した時、思いっきり抱きしめてたじゃないですかっ!」
「あ、あれは……ハグだよ! ドラえもんの歌にも『犬にも猫にもハグしちゃお♪』ってあるだろ!」
「だからって何も私が後ろで見てる時にやるコトないじゃないですかぁ!」
「友情の表れだ、過ぎたコトいちいち気にしてんじゃねーよ!」

マズイ、話が元の木阿弥になっちまいそうだ。
普段の俺なら軽くスルーしてただろうに、さっき台所で千草にがっつき損ねたせいか
やや話を終わらせるタイミングを間違えたっぽい。火が点くとコイツ、止まらねぇし……。

「……亮クンって、女の人に抱きついたり抱きつかれるの、好きなんですか」
「オイ、ちょっと待て。何でそーなんだよ」
「だって、いっつも誰かに抱きつかれてるじゃないですか!」
「いっつもって……」
「トボけないでください!」



77 :名無しさん@ピンキー:2007/02/17(土) 04:55:20 ID:MwgLFZjP

【揺光の場合】

「ハ~セ~ヲっw」
「おわっ! んだよ、揺光か」
「何だとは何さー。せっかくアタシがゲームに復帰できたんだぞ、クエストやろうよクエスト!」
「やってもいいいけど、いきなり抱きつくのはやめろ。お前が元気なのは分かったからさ」
「うん! 揺光さんは元気、元気!」



【カールの場合】

「カールはホントに大聖堂が好きなんだな」
「建物自体も好きだけど、ここから眺める湖畔とか夕日も好きだったりするけどね」
「……で、何でわざわざ俺と腕組んで眺める必要があるのかと」
「おばあちゃんが言っていた……太陽が素晴らしいのは塵すらも輝かせるからだ、って」
「(ワケ分かんねぇ。でも、コイツとここに居ると……何か、落ち着く……何でだろ……)」



【エンデュランスの場合】

「見て、ハセヲ……。僕らが守った世界は、こんなにも美しい……」
「そ、そうだな」
「僕らが……守った世界……あぁ、ハセヲ……。僕の中で……君への想いは……無限大に膨らんでゆく……」
「エ、エンデュランス? な、何で、腰に手ェ回してくんだ? なぁ、おいっ!?」
「好きなものは好きだから、しょうがない……」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」





******************





「どうですか? これでも言い逃れできますかっ!?」
「……最初の2つはともかく、最後のは断固否定すんぞ」
「ホモが嫌いな女子なんていません!」
「!?」

い、今、げんしけんの大野さんの声が聞こえたような……げ、幻聴か……!?

「? もうっ、何なんですか?」
「いや、何か今、お前、ホモがどうとか……」
「誤魔化さないでください!」

よかった、やっぱさっきのは幻聴だったみたいだな。
そりゃそうだ、千草にそんな趣味あるワケねーよ。疲れてんだよ俺……


つづく
亮×千草2-2
最終更新:2007年11月25日 10:07