「バカタール加藤のアノ人に聞きたい!」(『ファミ通』2010-9/9号所収の対談記事)に、
小林氏のインタビュー記事が連載された。
その内容が一部で話題を呼んだので、確認をしてみたい。
以下、引用者による適宜改行等あり。
「人類に共通する”おもしろさ”」
加藤
昨今のゲーム業界においては、世界を視野に入れた展開は戦略上でも欠かせないと思います。
小林さんは、日本のゲーム業界の現状をどう見ていますか?
小林
海外のゲームショーに行くと、日本は独自路線を行っていて、世界と離れたと実感させられますね。
でも、僕の中では、日本人にもワールドワイドでおもしろいものが作れるんじゃないかと思うんです。
よく、「海外向けに」とか「海外で売れれば」みたいな発想がありますが、作っているのが日本人で、
日本に大勢のファンやゲームユーザーがいるのに、それを差し置いて海外というのは……。
加藤
日本人にとっては、ちょっと寂しいですよね。
一部の人々から絶賛された、国内市場重視論の開陳の箇所。
これ自体はよくある「日本ガラパゴス論」とも言えるが、発言者がカプコンの人物故に意味は重い。
何故ならば、現在のカプコンは業界有数の海外市場至上主義を採用しており、
事あるごとに海外市場への積極的進出を謳っているからである。
勿論、昨今のゲーム開発費の高騰を考えると、海外市場への展開は至上命題とも言えるのだが、
そのために国内市場を必要以上に蔑にするカプコンの姿勢は国内のユーザーの反感を買っている。
その代表が、俗に「セカイセカイ病」患者と揶揄される、彼の上司の稲船氏に他ならない。
その意味では、内部からの批判であり、極端な事を言えば内訌の予兆とも解釈し得る箇所である。
小林
それだったら日本も楽しめる、重なる部分を作れたらいいんじゃないか、と思う。
人類に共通する”おもしろさ”というものがあって、それは北米や欧州にも通用するはずなんですよ。
海外と日本で、ユーザーに受ける部分がかなり違うという点に関しては、
常にアンテナを張って意識していれば。
日本のクリエイターは優秀だから、対応できると思います。
加藤
任天堂さんなんかは、それをふつうにやっていたりしますし。
小林
『バイオハザード』や『デビルメイクライ』も、もともと海外を意識していたわけではなく、
「とにかくおもしろいゲームを作ろう」というのが出発点でしたから。
加藤
日本と海外の両方で売れていますもんね。
小林
カプコンのゲームも、もっと海外で売れると思うんですよ。
僕も、プロデューサーの立場なりに考えて、海外にもアプローチしていかなければ、と思っています。
本インタビューの中でも、その本質が如実に表れているのではないかと思える箇所。
発言内容自体は、全体的に正論と評価しうる。
だが、それ故に、普段のBlogやTwitterでの発言内容との格差が酷いことになっている。
兎に角、徹底的に余所行きの発言になっているのが分かるだろう。
加藤
それと同時に、たとえば携帯で遊ぶソーシャルアプリが人気を博したりと、
ゲーム自体のありようや遊ばれかたも変わってきていて、ゲーム作りが難しくなっている一面もあります。
そのあたりについては、どうお考えですか?
小林
何年か前に、ゲームで遊んでいるっていう若い子と話したときに、「ハードは?」と聞いたら、
「携帯です」という答えが返ってきたんです。
そのときに、自分が”家庭用ゲーム機だけがゲームである”と言い張っているように感じられて、
すごく衝撃でしたね。
でも、ゲームの枠というのはもっと広いもので、その人にとってのゲームは、
家庭用ゲーム機でも携帯でもPCでも、どれでもオーケーなんだと。
加藤
なるほど。
小林
そのうえで、僕はこれからも家庭用ゲーム機のゲームを作り続けていきたいと思っています。
僕は映画が好きなんですが、映画は映画でしかできない内容のエンターテインメントを作り上げればいいと思うんですよ。
テレビでも観られることをやる必要はなくて。;
それと同じで、家庭用ゲーム機のゲームが映画だとすれば、
携帯のゲームはテレビドラマとかテレビ映画になるんじゃないでしょうか。
加藤
映画とテレビ、それぞれによさがありますもんね。
小林
将来的にはわかりませんが、いまのところ、僕の中ではカジュアルゲームを作ろうとか、
作りたいという気持ちはないんです。
映画のほうに近いもの、しっかりと腰を落ち着けたゲームを作っていきたい、という思いが強いですね。
昨今のゲーム業界の内情に触れている箇所。
基本的にはBとは無関係の内容なので、特にコメントする必要はないと思われる。
ただ、既にBはカジュアルゲーになっているという批判は出来よう。
加藤
映画館にはよく行きます?
小林
映画好きの人には負けますが、けっこう行ってますよ。
劇場でやっている作品が、どんなプロモーションをしているかとか、どういう展開で見せるか、
どんなお客さんが来ているか……、すべてを仕事につなげている感じですが、そのへんを気にしています。
加藤
仕事漬けですねぇ、半分は趣味なんでしょうけど。
小林
“映画鑑賞は仕事”と思っていて、映画が楽しめない時期もあったんですよ。
でも、「こうやって驚かすのか」みたいにいちいち考えたりしていたら、途中で寝ちゃうようになって(笑)。
30代になってからは、観ているあいだは観客のひとりとして純粋に作品を楽しんで、
終わってから考えるようになりました。
だから、今はどんな映画でも楽しく観ていますね。
加藤
すごく興味深いお話ですね。
小林
ゲームとは違うけど、”楽しむ”という部分では共通で、そういう感覚って大事だと思うんですよ。
以前、週末に水道橋のあたりを電車で通ったときに、
家族連れが楽しそうに後楽園ゆうえんちに向かっている光景を見たんです。
そのとき、「ああ、こういうのって大事だよね」と強く思って。
加藤
その通りだと思います。
小林
だから、うちのスタッフにはとにかく「遊びに行け」と言っています。
会社と家の往復だとわからないし、週末にはそういうところを通らずに気付かなかったり。
その感じがわからないのは、ゲームの作り手としてはダメだし、大事だと思う気持ちをゲームに生かしたいと思っています。
(了)
最後、小林氏の語る映画論の箇所なのだが…どうにもとってつけた印象が拭えない。
紙幅の問題ゆえかもしれないが、自身が評価する監督・脚本家などが一切触れられていないため、
あまり映画愛好家とは思えない内容になっている(これは、Bには映画由来の場面や台詞が乏しいこととも無関係ではなかろう)。
他にも、如何にもビジネスライクな見方をしており、作品の内容よりも売上を気にするという、
氏のスタンスが如実に表れた格好となっているのが興味深い。
引用者が引っ掛かったのは、「遊びに行け」の箇所である。
視野を広くするため、会社と家とを往復するだけの単調な仕事を批判し、
市井の様子を見に行き、見聞を広め、感性を磨くのは確かに大切なことである。
だが、その理想とは裏腹に、現実には会社外=スタッフ個人の趣味や嗜好が作品内部に持ち込まれるという、
最悪な形での公私混同の勧めに堕しているように見える。
少なくとも、「仕事を家庭に持ち込まない(或いはその逆も)」という、社会人の基礎とはかけ離れていよう。
実際、B3の内容は、製作陣の贔屓が露骨なまでに表れた私物化作品になっていると悪名高い。
結果的に、そこにあったのは製作陣の規律低下に過ぎなかったのではないか。
結論を述べると、インタビュー内容自体は、極めて良心的なものになっている…少なくとも表面的には。
初読者が見れば、国内のゲーム業界でも有数の良識派と考えるのはある種の必然ですらあろう。
しかし、それ以外の箇所での発言を鑑みれば、その発言の虚飾・偽善は明瞭となる。
氏の理想を堕落させ、否定しているのは普段の氏の言動や、携わったゲーム内容それ自体に他ならない。
余談
なお、当連載の次回ゲストは、よりにもよってコーエーテクモゲームスのシブサワ・コウ=襟川陽一会長であった。
この最悪と言っていい人選に関して、常々PS寄りの偏向が噂される、
ファミ通=エンターブレインの悪意を見るのは難しくなかろう。
最終更新:2013年02月08日 23:14