月刊誌『サイゾー』(2010年11月号)の巻頭特集記事は、「オタク大国ニッポンの闇」と題した、
オタク産業を巡るものであった。
当該特集内に、乙女ゲーム=女性向け作品を巡る記事の頁も設けられており、当然というべきか、
記事中には戦国BASARAとそのプロデューサーである小林氏の姿があった(p.85コラム)。
ここでは、その談話内容を確認してみたい。
以下、引用者による適宜改行等あり。

● 恋愛シミュレーションはつくりません!
“女性に媚びない”『BASARA』が売れたワケ
戦国武将同士が戦うアクションゲームでありながら、『歴女ブームの火付け役』となり、
多くの女性に支持されている『戦国BASARA』シリーズ。
男性向け作品がここまで女性向けファンの獲得に成功した理由とは何なのか?
プロデューサー小林裕幸氏に聞いた。


以上、コラムのタイトルと導入部。
以下が談話内容となる。

BASARAシリーズは、スピンオフ的な作品を交えながら毎年新作を出しており、
今年7月に発売した『戦国BASARA3』で6作目になります。
ユーザーの男女比については、1作目の『戦国BASARA』(05年)では8:2でした。
そもそもゲームユーザーは圧倒的に男性のほうが多いので、
女性ユーザーは2割もいれば「多い」と評されるんですよ。
それが翌年の『戦国BASARA2』では、購買者の母数が7:3になり、
さらに翌々年の『戦国BASARA2英雄外伝(HEROES)』では6:4にまで膨れ上がった。
『戦国BASARA3』は未調査ですが、肌感覚的に6:4のままではないかと。


購入者の男女比を巡る談話。
この数値はあくまで自己申告ではあるが、ほぼ正確なものと考えられる(尤も、引用者が内部のデータを持っている筈もなく、裏を取りようがないのだが)。
本人が2割で多いと述べていることから、4割にも上る層が女性であることは、
如何にBASARAが女性中心のマーケットを形成しているかが分かる。
これは、カプコンの社風が、男性向けの硬派なACT中心であることを考えると異常な数値ともいえる。
また、この動きは、初代の時点ではあまり目立たなかった、B厨・B腐の暴挙が表面化してきたのが、
2&英雄外伝以降であるという現実の動向とも整合するデータと評することが出来るだろう。

「歴所ブームの火付け役」とも言われていることから、
「BASARAは女性ユーザーの方が多い」と誤解されたり、
メディアで取り上げられる際に「乙女ゲーム」と称されることも少なくないのですが、
決してそうではありません。
確かにイベントなどに来場するのは9割9分女性ですけど(笑)、女性だけの購入層では、
1作で何十万本も売り上げることは不可能。
うまくいっても10万本が関の山でしょう。
乙女ゲームはヒット作といわれるものでも、売り上げが10万本台に届くことは滅多にない。
したがって、「女性の層が厚い普通のゲーム」というのが、正しい解釈だと思います。


前段落を承けて。
「歴史ブーム」とやらが、火付け役のBASARAの功績と評される類のものではなく、
利益のための放火の結果=捏造と度々称されるのはご存じのとおり。
さらに、その談話内容も「語るに落ちた」感がある。
氏自身、女性だけの購入層ではうまくいっても10万本が関の山と述べているが、
この数値は同記事(p.83)でも挙げられており、かなり正確な乙女ゲー市場への理解と言えるのである。
さて、真に女性層へのアピールを考えることなく、このような正確な理解を談話内で述べられるだろうか?
女性層を取り込むための方策を日々考慮しているが故に、正確な数値を知っていたのではないだろうか*1
そして、B関係の数多くのイベントは、殆どが女性向けの内容になっていること、
その内容が、先行する乙女ゲーの企画や、女性層に受けた作品の完全な後追いになっていることを考えると、
前段落にあるような女性層の割合の高さは必然的帰結と思われる。


最後に、そもそも「普通のゲーム」であれば、ここまでアンチ絡みの話題が拡大することはなかろう。
一般向けのゲームで、アンチWikiがこうまで大規模に作られる作品は滅多に現れないのだ*2

もともと1作目を制作した時も、女性ウケはまったく狙っていませんでした。
ただ、『ONEPIECE』(集英社)などの少年マンガのように、楽しむ人を制限しない作品にしたかった。
ボタンひとつで簡単にクリアできるように設計したのはそのためです。
操作が複雑だと、女性・子ども・お年寄りの三者は「難しくてできない」と投げてしまう可能性が高い。
特に女性は操作性やアクションよりも、キャラやストーリーを重視する傾向があるため、
その2つの魅力を難なく堪能できるように工夫したんです。


複雑な操作を女性や子供、ひいては高齢者が耐え難いと感じるのは事実であろうし、
そのためにボタン一つで操作を可能とするのは、確かにゲーム制作者としては一つの見識ではある。
しかし、本当にそういう設計思想を最初から持っていたかどうかは疑問の余地がある。
そもそも、Bのキャラクターデザインや世界観は、高齢者に受け入れられるような内容なのか。
子供たちのプレイへの熟達速度は高い場合が多く、単純な操作では飽きが来やすいのは明らか。
女性層がキャラやストーリーを重視するとは言っても、女性層はそもそもプレイをせず、
各種の代替行為で済ませる場合すらあるのだから。
UI絡みの人材不足、或いは練りこみ不足を、弱者優先という大義名分(=口実)で押し通したように見える。


ところで、Bには堪能するに足るストーリーがあったのだろうか?
基本的には、下手に描かれたストーリーよりも、
バカゲーとしてのストーリー無視の一発ネタこそが本来の姿だった筈なのだが。

ゲーム内で、伊達政宗が「Let’s Party!!」「Coolにいこうぜ」など英語交じりのセリフを叫んだり、
真田幸村がライダースジャケットを羽織っていたりと、武将を現代的にアレンジしているのも、
より幅広い層に楽しんでもらうための戦略です。
実在した武将を少年マンガのキャラのように構成し直すことで、たとえ伊達政宗を知らない人でも、
気軽に楽しんでもらえるのではないかと。
ゲーム自体のシステムはシリーズを通して同じでも、史実通りの武将を登場させていたら、
おそらく売れなかったと思います。
ただ、同時に「タイトルに『戦国』という冠が付いているのだから、
史実から完全に乖離した武将にしてはいけない」ということも心がけています。
“BASARAの伊達政宗”が支持されているのは、“史実の伊達政宗”の要素が残っているからであって、
そうでなかったら人気を獲得できなかったでしょう。
現にオリジナルキャラよりも、実在した武将キャラのほうが、圧倒的な人気を誇っているんですよ。
一度作ったキャラは、シリーズを通して描き続ける方針を取っては居るんですが、
ストーリーの都合上、出せなくなることもあって…。
そのキャラが好きな女性ファンから、イベントの時に直接クレームをもらうことも多々あります(笑)。


BASARAシリーズのキャラクターデザインに関する談話の部。
そして、恐らくは最も問題と見られる箇所でもある。
所謂B的解釈が、より幅広い層に楽しんでもらうための意図の下に為されていることが明言されている。
さて、幅広くというが、この解釈は先に自身が挙げた高齢層には受け入れられるものであろうか?
そもそも、少年マンガの様な(これ自体相当疑わしいが)解釈自体、
決して普遍性や妥当性のある解釈の方法とは言い得ないものがある。
根拠のない奔放な解釈とは、殆どあてずっぽうと同義と言わざるを得ない。
また、「タイトルに『戦国』という冠が付いているのだから、史実から完全に乖離した武将にしてはいけない」
と言っておきながら、実際には完全に乖離しているのが現状なのはどういうことであろうか。
驚くべきことに、この傾向はシリーズを重ねるごとに顕著になってすらいるのである。


そして、オリジナルキャラよりも実在した武将の方が人気が高いというのは、
ある意味、BASARAスタッフのセンスが本質的に欠乏していることを意味しているように見える。
何故なら、センスを一切遠慮なく全開に出来るオリジナルよりも史実武将の方が人気が高いというのは、
裏を返せばセンスの欠乏分を実在の戦国武将の魅力や名声で補完していることを意味するのだから。

BASARAシリーズは女性ウケを狙っていないからこそ、
多くの女性ユーザーに愛されているのではないかと思います。
女性は“追いかけること”が好きなので、「貴女のために」という姿勢を見せると、
逆に逃げてしまうんですよ。
よくスタッフから「もっと女性ウケを狙った要素を取り入れましょう」と提案されるのですが、
それは絶対にしない。
今後もBASARAシリーズは、女性に媚びませんよ。(談)

小林裕幸
1972年、愛知県生まれ。
95年にカプコン入社後、『バイオハザード』などの開発に参加。
99年よりプロデューサーとして、『バイオハザード』シリーズ、『デビル メイ クライ』シリーズ、
『戦国BASARA』シリーズなどの作品制作に携わる。
また、現在公開中の映画『バイオハザードⅣ アフターライブ』にも
アソシエイト・プロデューサーとしてかかわっている。


女性ユーザーと、BASARA公式との関係に関する談話の部。
ここで小林氏は女性ユーザーとの関係を開陳しているわけだが…
正直なところ、これが氏の女性遍歴の破綻ぶりを反映しているように見えるのは引用者の僻目であろうか?
真に女性が“追いかけることが好き”で、追われるのが嫌ならば、
そもそも男女関係におけるプロポーズの類は一切成立しない筈。
アイドルの追っかけの女性でも、贔屓のアイドルから「貴女のために」と求められたら、
逃げるようなことはまず無いだろう。
どうも、小林氏にはゲーム制作者としての能力や矜持のみならず、
女性に対する根本的なコミュニケーションスキルすら欠落しているようである。
もっとも、この「女性」というのが世間一般でいう「女性」を指しているかは甚だ疑問ではあるが。
そして、媚びないどころか女性中心の商業展開をしていることは、ゲーム本編の展開以上に、
旅行ガイドや企画、各種周辺アイテムの内容及びその展開速度を見れば火を見るより明らかである。
そもそも、Bにはシリーズを象徴する女性キャラが存在しないという点だけでもそれは疑いえない*3
当然、ゲーム本編まで女性に媚びた作りにすれば氏の言う関の山である10万本を下回るであろう事は想像に難くない。
男性ユーザーや周囲の第三者への対応策としての、無用な強がりや虚言は、いい加減にしたほうがいい。

最終更新:2013年01月29日 20:13

*1 ユーザー内の女性層が事実上全滅している、STGや対戦格闘ゲームのプロデューサーには即座にこの数値を出せないと思われる。

*2 確かに、FF13やポケモンBWやディシディアやキャサリン等、他ゲームのアンチWikiは存在するが、それら超大作とはBは規模からして違う。加えて、それら作品のアンチはあくまで旧作の支持者が中心である。要は内部同士の争いなのであって、周囲にまで影響を及ぼしてはいない。Bを巡る争いは、Bファンと彼らに迷惑をかけられたものとの争いの面が強く、内部と外部との争いという形をとっており、前者とは争いの持つ意味が全く異なる。逆に、規模的にはBより劣る同人ゲームでありながら、膨大な数の信者を擁する東方ProjectにもアンチWikiが存在するが、こちらは厨の言動や行動こそBに匹敵するかそれ以上の凶暴さだが、製作者に関しては比較的マシである。

*3 無双シリーズにはお市や貂蝉がおり、同じカプコンのゲームでも春麗やモリガンがいることを想起されたい。