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捕虜の扱いというものは、昔から大体決まっている。
男は労働に回されたり、女子どもは慰み者にされたり。
戦場で偵察をするうちに、そんな話は嫌でも耳に入ってきた。
だから、自分が不注意で捕まったときも、覚悟は決めていた。

しかし。我々のような、人間でない存在の場合は……どうなるんだ?

そう思いながら、私は今いる場所を見回す。
暗く狭い、石の牢獄。空気は冷たく、手や足、首の枷から凍傷になりそうだ。
アーロン様の波導は……感じられない。
一体ここは、何処なんだろう。
そう思っていると、不意に外から足音が聞こえた。
誰だと思う間もなく、いきなり戸が開けられた。
現れたのは、青い甲冑を纏った人間だった。
……青? あの場にいた甲冑は、赤か青の筈だ。
では、この人間は……何処の国の人間だ?
いや、その前に、この嫌な臭いは……
その人間が突然、金属の椀を差し出した。
中に……何か、ある。異様な臭気を放っている。
「これでも食ってろ、狗。ありがたく思えよ」
一瞬、意味が解らなかった。
人間はともかく、我らにもこういうものを食べる習慣はない。

それは……いわゆる、糞だった。

一体この人間は何を言っているんだ?
これが……捕虜への扱いなのか?
どうして、こんな物が食べられると言うんだ?
突然頭が押され、鼻の奥に便が入り込んできた。
「ぼさっと考え事してんじゃねえよ糞狗! 未だにユウシャサマとか夢見てんのか!?」
無理やり押し込まれたので、否応なく鼻や口の中にまで入ってくる。
「いい加減にしろよ敗残者。狗は余計なこと考えないで人間様に仕えてりゃいいんだよッ!!」
臭い。気持ち悪い。頭が痛い。何で、こんなことに……
突然酸いものがあがってきたかと思うと、私は全てを吐き出していた。
胃液や最後に食べた食事、先ほど口に入った便も、全てを椀にぶちまけていた。
涙と鼻水が止まらない。
咳き込んでいると、一瞬視界が白くなり、私は床に身体を打ち付けていた。
叩き飛ばされたらしい。頬の熱で、やっと悟る。
「糞狗が……てめえは糞狗らしく糞食ってればいいんだよ。人間様の飯なんざ食わせねえからな!」
男はそう言うと、足音荒く部屋を出て行った。鍵と閂の音を残して。

私は……吐き続けていた。まだ、気持ち悪いのが治まらない。
口を漱ぐ水さえないので、喉の奥には嫌な臭いと、妙な甘さが残っている。
吐くだけ吐くと、体中から力が抜け、思わずぺたりと座り込んでしまった。
情けない事に、身体の震えが止まらなかった。
これからも、あんな事になるのだろうか。
一体いつ、開放されるのだろうか。もしかしたら、永遠にこの中で暮らすことになるのだろうか。あんな目にあいながら。

一番の心配事は、アーロン様だった。
アーロン様は…………どうなったのだろう。
私と同じように捕虜にされたのか、別の場所で生きているのか、あるいはもう……
いてもたってもいられなくなり、私ははどうだんを出そうと構えた。
が。……出ない。はどうだんが、出ない。
そういえば先ほどから、波導が何一つ感じられない。
……力を、封じられた……のか?
頭が痛い。意識が、遠のきそうだ。
本当に、これから……どうなって……

(ルカリオは きぜつした)







冷たい空気を感じ、目が覚めた。
どうやら、早朝らしい。昇り始めた日の光が、石と石の間から漏れ出している。
枷に気をつけて、何とか起き上がることが出来た。
せめて、もっと外が見えれば、此処が何処か解るかもしれないのに……
そう思い、石の間に目を凝らしかけたが。
「起きたのか、糞狗」
さっきの男の声が聞こえてきた。……アイツだ。
私にあんなものを食べさせようとした男。人間の風上にも置けない男。
殴りつけようと身構えた瞬間、戸が開き……何故か腹に衝撃が走った。
今度は、蹴飛ばされたらしい。
「おら、何してんだよ。糞狗なんだから、糞狗らしく糞垂れ流して糞食っとけよ」
……口が悪い男だ。リーン様は勿論のこと、アーロン様にも絶対会わせたくない。
などと考えている余裕もなかった。突然身体を抱えあげられたかと思うと、
「アレもってこい」
「はい」
と、何かを指示する声が聞こえた。
逆向きになるように抱えられてしまったので、男が何をしているのか見えない。
一体何を、と思った瞬間。
「ひッ……!?」
何かが、入ってきた。……尻の穴から。
「勝手に垂れ流されちゃ堪んねえからな。出させてやるよ」
男がそう嘲笑う声が、耳の奥に響いていた。
腹の底が、すうっと冷たくなっていく。何かが無理やり注ぎ込まれていく。
液体なのか、時々ちゃぽんと水音がする。
……なんだこれは。気持ち悪い……
あまりの気持ち悪さに、頭の中がぐるぐるしてくるのを感じる。
が、その気持ち悪さも、突然の腹痛に飲まれてしまった。
肛門から抜かれた……と思った瞬間、また栓をされる。
……一体何がしたいんだ!?
腹はまだぐるぐると鳴っているし、今にも……漏れそう、なのに……
「おっと、まだ出すなよ」
男は私の腹を摩りながら、下種びた笑い声を上げた。

それからどのくらい経っただろうか。
腹の張りと痛みが限界に達した……と思った瞬間。
「よし、出せよ糞狗。狗らしく糞捻り出しちまえッ!」

栓が、外された。
そう思う間もなく。
「――ッ!?!?」
汚い、恥ずかしい音と共に、私は、私は――
「うわぁ、汚ねえ! こいつこんなところで糞垂らしてるぜ! やっぱお前は糞狗だな!」

私は――漏らしてしまった。
辺りには、昨日無理やり食べさせられた便と同じ、嫌な臭いが立ち込めている。
抱えなおされて、漸く見た背後では、桶に私の――が、溜まっていた。

がしゃんと枷ごと床に落とされ、起きようとしたときにはもう、戸は閉まっていた。
「部屋で漏らされたら掃除が面倒だからなあ。お前の便所はあの桶だ。
毎朝持っていってやるから、そこにしろ。ああ、出なくても心配すんじゃねえぞ。
どうせてめえは糞ッ垂れの狗っころなんだ。さっきみたいにすりゃいくらでも出せるって!!」
そんな男の声が、戸越に聞こえ……やがて、遠ざかっていった。







アーロン様と生活を始めた当初は、わからない事だらけだった。
マナーの席で粗相をしたことも、少なくはない。
だがその度にアーロン様は、優しく訂正してくださった。
今ではちゃんと便所にも行けるし、水浴びをして清潔にすることも出来る。
食事のマナーも、会食のためならばと覚えた。
アーロン様は厳しかったが、決して頭ごなしに叱る事も、獣だからと馬鹿にする事もなかった。

だが……今の私はどうだ。アーロン様がいなければ、波導の力がなければ……唯の獣にすぎないのではないのだろうか。
いや、と頭を振って考えを払う。
私は……ルカリオ。アーロン様の弟子。波導使いのルカリオだ。
誇りさえ捨てなければ、私はずっと私だ。唯の獣ではない、私自身だ。

今は確かに、糞狗扱いかもしれない。
だが、私はいつか、ここを抜け出してみせる。
そう、強く心に誓った。







「部屋から出るぞ」
そう言われたときは、思わず耳を疑ってしまった。
もう……捕虜生活は終わりなのか?私は自由なのか?
なら、これほど嬉しい事はない。早く城に戻って、リーン様やアーロン様に会わなければ……
「何勘違いしてるんだ、狗。公爵に会いに行くんだよ。お前のご主人様には」
……え? 私の……ご主人様?
ふざけるな。私が仕えるのは、生涯リーン様とアーロン様のみだ。それを何故、見知らぬ国の――
「いいから立てよ!」
息が詰まる。枷が首に食い込む。足が床から離れる。
視界が奪われる。どうやら目隠しされたらしい。

そのまま感覚を失ったまま、私はどこかへ連れて行かれているようだった。

目隠しをはずされた時、私は大広間にいた。
大広間といっても、オルドラン城のような豪奢なものではない。
ただ漠然と広いだけで、どこか煤けた、がらんどうのような広間だった。
そしてその奥にある椅子に、男が座っていた。どうやらこの男が、族の首領らしい。
「公爵様、捕虜をつれてきました」
「ご苦労」
背筋がぞわりとする。
どんなに外道でも、首領になるだけの男だ。恐らくは、それほどの力を持っているのだろう。
重い足音と共に、公爵がこちらにやってきた。
「顔をよく見せてみろ」
背けようとした瞬間、顎を捕まれて無理やり目を合わされる。
思ったより醜悪な顔ではない。だがその目は、今まで見たどの人間よりも、穢れていた。
「コレの名前は?」
「申し訳ございません、公爵様。残念ながら、わか」
「貴様に名乗る名などない」
私が言葉を発した瞬間、周りの兵がざわめいた。喋るとは思っていなかったらしい。
「……」
公爵も、黙って私を見つめている。
「そんな目で私を見るな、汚らわしい」
睨みを利かせたつもりだったが、公爵は私の頭に手を伸ばし……あろうことか、ぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
「いい。気に入った。気が強いほうが楽しい」
「撫でるなッ! 貴様に撫でられても、嬉しくも何とも」
……? 熱……
次の瞬間目の前が真っ白に光り、そして。
「……ッああ!?」
行き成り、熱が襲ってきた。
熱い。肺の中まで焼けてしまいそうだ。
「気が強いと、こういう楽しみ方も出来るからな。なあ、ヘルガー」
公爵の声が白濁した視界の向こうから聞こえる。
どうやら行き成り、目の前にかえんほうしゃをされたらしい。
転げまわっていると、連れてきた男の足が見えた。
「解ったか。公爵様に逆らうとどうなるのか」
解りたくもない。こんな人間に、誰が従うというんだ。
「私は、貴様なんかには……ぐぅッ!」
腕に、ヘルガーの牙が食い込んだ。……熱い。
ヘルガーの炎には毒があると、アーロン様から教わったことがある。
今このヘルガーは、その毒を直接熱と共に放出しているのだろう。……私の体内に。
吐き気で胃がひっくり返りそうだ。
「言うんだ。公爵様にお仕えすると」
「誰が……! ぐああッ!!」
腕が……引き千切られる……!?
更に数匹のヘルガーが公爵の元から飛び出し、私の四肢に噛み付いた。
そして最も大きいヘルガーは、口から炎をちりちり吐きながら、前脚で腹を押さえつける。
……頭が、クラクラする。毒が効いてきたのだろうか。
もしこのまま抵抗を続ければ、きっと私は……殺される。それこそ、他の連中と同じように、あっさりと。
だが、それは駄目だ。生きるんだ。生きて、アーロン様やリーン様と会うんだ。
生きて、オルドラン城に戻るんだ。生きて、またあの頃の暮らしに戻るんだ……!
その為に誇りを捨てることは、フリだとはいえ、とても苦しいことだった。
だが、生きていれば、命さえあれば……いつか、必ず脱出できる。
そう信じ、私は口を開いた。

「……解った。誓いの言葉を言おう……」

「ほう?」
公爵が興味深そうに眉を動かした。
「一体どういう心変わりだ?」
「……それが、捕虜というものだろう。私は貴様……いや、貴方に捕まった。
なら、言う事を聞くのは当然……でしょう?」
こんな人間に、こんな言葉遣いをする羽目になるなんて……
「いい。それでは宣言してもらおうか。このホールにいる人間全員に聞こえるようにな」
宣言? 何を……
ヘルガー達の牙が、すっと離れた。それと同時に、連れてきた男が、羊皮紙を手渡してきた。
「それに書いてある通りにするんだ。本当に公爵様に忠誠を誓うつもりなら、簡単だろう?」
兜越しでも、その男が嫌な笑い方をしたのが解った。
私は羊皮紙を開き……愕然とした。何だ、何なんだこの内容は……!
「どうした、やらないのか?」
一度は離れたヘルガー達が、いっせいに口の中を火に染めた。
「……いや、やる……やらせて、下さい……」
これで生き延びられるなら、またアーロン様と会えるなら……これくらい!

私は、公爵に歩み寄った。
枷と毒のせいで、足元が覚束ない。まるで暗闇の中、古い一本橋を渡っているような心持だった。
そして橋を渡りきっても、そこは目的地ではない。そこは悪しき者渦巻く魔窟でしかないのだ。
漸く公爵の元にたどり着いた時には、手や足、首の毛皮が擦り切れていた。
それでも、言わなければならない。自分で、そう言ったのだから。
私は、息を吸い込み、そして――自らを貶める言葉を吐いた。

「私は、敗残者です。生きる価値もない、ただ駆逐されるだけの存在です。
しかし偉大なる公爵様は、塵芥にも等しい私を、こうして生かしてくださいました。
私は決して、公爵様のご慈悲を忘れません。その証として……」

灼けた肺が酷く痛んだが、何とか唾を飲み込み、言葉を続ける。

「……私は、公爵様の奴隷となります。道具になります。公爵様だけの為に生きます。
公爵様だけを愉しませる為に、閨の相手も致します。ですから、どうか……どうか、お側において下さい」

私の中で、何かが少し、歪に砕けた気がした。

「……クッ……ハハハハハハ! よく言えたなあ!」
公爵は拍手しながら立ち上がると、私に近づいてきた。
「奴隷となるか。なら、早速言うことを聞いてもらおうか」
そう言いながら、目の前に足を出す公爵。……どう言うつもりだ?
「本当に奴隷となるのなら……靴を清めてもらおうか。お前のその舌で」
! 舐めろというのか、貴様ごときの靴を。
だが、ヘルガー達はまだ、睨みを利かせている。なら……
「……ん」
何とか、舌を這わせる。皮や泥の、嫌な臭いがした。
砂利がいやおうなく、舌を転がり、口の中に入ってくる。
それでも怪しまれてはいけないと、必死でそれを舐め続けた。
「なかなかやるじゃないか、狗」
公爵がそう言う声が、耳に突き刺さった。

アーロン様、リーン様……ごめんなさい。
ですが、これは私の本心ではないのです。
生きて貴方達と会うために、私は私を偽ったのです。
どうか、赦してください――







部屋に戻されてしばらくすると、おい、と呼ぶ声が聞こえた。
人を糞狗呼ばわりする、あの男の声だ。
「お前、閨の世話とか言ってたよな。意味解ってるのか?」
「……?」
「そっか、知らねえのか。無知って罪だよなあ……お前、人生の半分損してるぜ? まあ、お前は狗だけどな」
……何だか腹が立ってきた。
「そんな怒るなよ、今教えてやるからよ」
教える? 何を?
そう思った瞬間、戸が開いた。

入ってきたのは、ザングースにヘルガー、それにサイドンだった。
皆異様に血走った目で、こちらを見ている。
一体何なんだ、と思った瞬間、いきなりザングースが飛び掛ってきた。
普段なら避けて往なすこともできたが、枷が仇となった。
ザングースは鉤爪で強引に私を押さえつけると、一気に押し倒してきた。
ガツンと頭に衝撃。一瞬目の前が白くなる。
一体何をする気なんだ? まさか、また妙な事を……
その予想は、当たっていた。
いきなりザングースは、私の身体をうつ伏せにした。
今度は顎と鼻先が、冷たい床とぶつかる。
本当に何をするつもり何だ、一体!?
「ひッ!?」
突然尾が持ち上げられ、嫌な悪寒が背筋を走る。
また、だ。また、肛門に、何かが……何かが、入って、くる。
「あッ、ぐぅ……ひぁッ!?」
かり、と、それが、中を引っかくのが解った。
これは、きっと、考えたくないが……ザングースの、鉤爪だ。
獲物を一瞬で引き裂く爪が、私の中で蠢いている。
つまり、ここから腸を引き裂くことも……そう考えると、寒気が増した。
しかし。
「ふあぁッ!?」
自分でも、一瞬何が起こったのか解らなかった。
浮ついた声を出したのも自分だと、解らなかった。
ザングースが何処かを触った一瞬、悪寒とは違う何かが、身体を走ったのだ。
まるで電撃のような衝撃だった。
今のは一体。そう考える間もなく。
「な、なんッ、……ッああ!?」
また、何かがびりりと身体を走った。
そこを弱点と見たのか、ザングースはそこを更に刺激してきた。
その度に訳の解らない衝撃ばかりが、体中を駆け巡る。
身体が熱い。頭の芯が、蕩けてしまいそうだった。
そして私は、気づいてしまった。自分の状態に。
普段は胎内に仕舞われているはずの性器が、露出している。
これを何に使うのかは、本能的に知っている。
知っているが、今何故現れるのか解らない。……解りたくない。
こんな状況で、身体が……交尾の準備を始めるなんて。
「へぇ、狗のチンポはそんな風になってんだなあ。それにしても行き成りケツに挿れられて感じるなんてよ、てめえ実はヤるの好きなんじゃねえの?」
あの男の笑い声が聞こえた。……一体アイツは何を言っているんだ!?
「おっと、そろそろいいぜザングース。十分解れたみたいだしな。お前はそいつのチンポ握ってやれ。
優等生面しやがって、シコったこととかないだろ。しっかり教えてやれよ。
ヘルガー、ザングースの代わりにバックからヤれ。サイドンはあの喧しいお口に突っ込んでやれよ」
パチンと指を鳴らす音。それは小さな音だったが、私には今から起こるであろう、悲劇の引き金の音に聞こえた。

突然、脳が灼けた。

肛門には、太い火かき棒が突っ込まれたようだった。
しかもその先は、さっきザングースが弄っていた辺りを的確に突いてくる。
ヘルガーに突かれる度に腰の奥で何かが弾け、熱が噴出してくる。
挿してくるこれが熱いのか、私の身体が熱いのか、境目がどんどん曖昧になっていく。
性器の方も、急に血が集まっていくのが解った。
ザングースの肉球が、器用にそれを擦っている。
ぐちょぐちょと音を立てているのは……きっと、私のそれから流れてしまったものだ。
……出したい。ぶちまけてしまいたい。だがそうすると、私の理性が……ッ!

一番苦しいのは、口の中だ。
サイドンは行き成り性器をむき出しにしたかと思うと、それを私の口の中へ突っ込んできた。
苦い。苦しい。顎をこじ開け、喉の奥まで無理やり入れてくる。
強烈な臭気と味が、口内に広がる。だがその香りを嗅ぐと、何故か頭の中がぼうっとしてくる。

「んッ、んんッ、んんんッ!!」

そのときの私は、きっと何よりもみっともない、情けない姿だっただろう。
それこそあの男が言わせたように、塵芥にも等しい。
だが肉体の、性器の全てを支配されては、もうどうしようもなかった。
獣の、野生の血が目覚めてしまう。

ああ、もう、駄目だ。出したい。精液を出したい。
子を作りたい。出す。出すんだ。雌に出すんだ。出――

胎内と口内に、突然精液を注ぎ込まれた。
どぷどぷと私の中に、否応なく侵入してくる。
そして私も……ザングースの手のひらに、それを出してしまっていた。
一瞬、何か妙な思考ばかりが頭を占めていたような気がする。
解らない。思い出したくもない。
それはきっと、……私じゃ、ない。

熱に魘され視界が白く染まる中、私はあの男の声を聞いた。


「それが閨の相手って奴だ。さっきてめえはメスとヤりたいって、メスのマンコにチンポ打ち込んでガキ作りたいって思ったかもしれねえけど、それはムリだ」

「何でか教えてやろうか? てめえがメス役なんだよ。尻尾振ってケツマンコ見せて公爵様おチンポ下さいって言うのがてめえの仕事だよ」

「この程度じゃおちねえことは解ってるよ。何せ勇敢な騎士殿でいらっしゃる」

「でも覚えとけよ。一気にヤった時、てめえは唯の狗っころだったんだよ。ハドーとかユウシャサマとか関係ねえ、唯のヤるしか能がねえ狗っころだ」

「何れそれが、本当のてめえになる。ヤってアンアン善がることが生きがいになる」

「まあ、ガキは残せねえだろうけどな。チンポ打ち込むより、打ち込まれる方が幸せになるんだから」

「これから、てめえはそうなっていくんだ。楽しみにしとけよ糞狗!」


意味は、よく解らなかった。だが、たった一つ、解ったことがある。
――私は今、絶望的な状況の中に、いる。









「おい、散歩に連れて行ってやるぞ」
そう言われた時、私は耳を疑った。
監禁状態が続いているのに……あんな目にも会ったのに、何故散歩に?
「ちゃんと運動しないと不健康だってよ。公爵様は健康的な方がお好きだから。
まあ、心の健康はどうか知らねえけどよ。……さ、行こうぜワンちゃん。楽しいお散歩の時間だ」
そういう彼の手には、何かが握られている。
それは……人間の、雄の性器だった。
何でこんなものがここにあるのか、解らない。唯、それを私に使うつもりなのだということは、嫌でも解ってしまった。
「おい、ケツ向けろよ」
躊躇していると、顔を叩き飛ばされ、無理やり向けさせられた。
「何恥ずかしがってんだ。ヘルガーのチンポ突っ込まれて善がってたくせに」
顔がかあっと熱くなる。
「まあ、せめてあんま痛くないようにしてやっからよ……力抜けよ」
瞬間、ぬるりとしたものが肛門を這った。男の指だ。
何か軟膏のようなものを、そこに塗り込んでいるらしい。
何だか、また身体が熱くなってきた。……駄目だ、この熱に流されては……
そう思っていると、いきなり指が入り込んできた。
妙な感覚に、思わず声が上擦る。
「やっぱスキモノじゃねえか。この調子だとあんま調教に時間かからなさそうだなあ」
指が、中で這いずる。
「解るか? 俺の指咥えて離さねえぞ。濡れてるし」
……ッ! どうして、いちいちそういうことを……!
「あぁッ! う、うぁ……」
文句を言おうとした瞬間、指が変に動いた。
曲げられている、らしい。身体の奥がぞわぞわして、気持ちが……
「や、やめ……」
「今更やめろとか言うのかよ。狗。こんな締め付けてきてよく言うぜ。
心配すんな、すぐにヨくなるようにしてやんよ」
途端、すっと腹の中から違和感が消えた。……抜かれたらしい。
思わず、安堵の息を吐く。
「おら、力抜けよー」
……!? また、か!?
頭の中に閃光が走る。痛い。苦しい。内臓が圧迫される。
声が出ない。陸に揚げられたトサキントのように、口をパクパクさせるしかない。
「息吐けよ、楽になるから。それ、もうちょっとだ」
もうちょっと? 何がもうちょっとなんだ……!
「コレ全部咥えこまねえと散歩つれていかねえからな。……さあて、これでラスト、っと!」
「うわああッ!!」
完全に、貫かれた。口の中から飛び出してしまいそうだ。
「がッ……あ、ぁ」
「何鳴いてんだよ。これからもっとイイコト教えてもらえるってのに、こんなんでヒーヒー言ったらどうしようもねえじゃねえか」
これから、もっと……もっと、だって……?
最後にぐっと私の体内に押し込むと、男はこっちに回りこんできた。
「さ、散歩の時間だぜ」
枷が外される。毛が擦り切れて、鬱血していた。
そして枷のかわりに、首輪が嵌められる。皮製で、紐がついていた。
それに肛門には、あの性器が刺さったままだ。
おまけに最後には、目隠しをされた。
……気分が悪い。こんなもの、散歩とは言わないんじゃないか。
「おら、立てよ」
蹴られて反射的に立ち上がる。行き成り頭を押さえつけられた。
「誰が立って歩けって言ったんだよ。てめえは狗だから狗らしく四つんばいになっとけばいいんだよ。
……さあ、出るぜ。精々ぶつからねえように気を配るんだな」
ぐいっと紐を引っ張られる。身体が動くたびに、性器が私の中を蠢く。……苦しい。

どうやら私達は、廊下を歩いているらしかった。
石製らしい床は冷たく、時々小石が手のひらに噛み付いた。
だが、それよりもっと辛いのは……人々のひそひそと話す声だった。
敗残者……捕虜……負け犬……妾……
惨めな姿……メス狗……肉奴隷……
顔から火が出そうだった。頭の中が熱で白み、心臓がどくどくと音を立てる。
違う。私はそんな存在じゃない。
今は確かにそうかもしれない。だが、生きるためには、生きてあの方と会う為なら……
そう固く心に誓ったが、言葉のナイフはその誓いすらも切り裂いていく。
「遅えんだよ、キリキリ歩け」
ッ!? ……ダメだ。また電撃が走った。
違和感に歩を止める度、男は私の尻を蹴った。
その度にアレが私の中で暴れる。痛みと熱が生まれる。
腰の奥が、熱くて痛い。
「……お? おい、てめえ……気づいてるか?」
何をだ。この痛みにか? そんなものにはとっくに……

「勃ってるぞ、てめえ」

え? タッテル……ナニガ……?
考える余裕もなく、私は無理やり引き摺られた。
暫く引き摺られると、手元の感覚が、石から草のそれに変わった。
どうやら、外に出たらしい。

目隠しを外されてまず見たのは、天気でもこの辺りの概観でもなく……私自身、だった。
「見ろよ、ほら。ガチガチになってる」
そういって、男が私の性器を突付いた。
気持ち悪いはずなのに、ぴりぴりして、ぼうっとして……熱くなる。
「お、また硬くなったな。
なんだあ? ケツに張子突っ込まれて引き摺られて見られて叩かれて……それでチンポおっ勃てて?
やっぱ糞狗……いや、糞狗以下だな。スケベで淫乱でどうしようもねえ。ヤるだけの価値しかねえ淫乱狗だ。
マンコ狗だ。マンコするしか能がねえ!」
……一体何処から、それだけの罵詈雑言が……!
「……まあ後だ。後でじっくりと、如何にてめえがマンコ狗か仕込んでやる。
その前にションベン済ませな。ほら、さっさと」
木の根の傍まで、また無理やり引き摺られた。
石畳も痛かったが、かさかさと乾いた葉も、毛と毛の間から侵入し、肌の柔らかい所に細かい傷をつけていく。
その木の近くには、やはり同じく、青い甲冑を着た男達がたむろしていた。
「ソイツが公爵様の新しい寵児かい? いや、寧ろ寵獣だな」
「ちっせえうえにでけえ目玉してんなあ。こりゃあ公爵様が気に入るわけだ」
「馬ッ鹿、公爵様に寵愛の御心とか似合うと思うのか? 玩具だよ、玩具」
「違えねえ!」
そう言って、下品な笑い声をたてて笑う男達。
あの公爵、それ程人望がないらしい。
それにしても、部下にこれほど言われるとは……どれ程酷い男なんだ。
それこそ、人間以下の……畜生と同じ、なのではないだろうか。
「さっさとションベンしろよ、ほら……狗だったら狗らしく、な」
そう言って男は行き成り、私の片足を持ち上げた。
それは、ガーディやデルビルがとるような姿勢だった。
完全に、犬がとる姿勢だった。
それだけでも恥ずかしいのに――

「……やっぱちいせえな」
「でも勃ってるじゃねえか。我慢汁垂らしてるしよ」
「立派なもんだなあ」
「こういう状態で勃つってのはどうなんだ?」
「どう見ても淫乱です。本当にありがとうございました」
「ですよねー」

見られている。私の性器が、見られている。アイツらに、見られて……
「ほら、さっさと出しちまえ……よッ!」
突然ぎゅっと腹を押され、私は、
「あっ、だ、だ、め……ッ!!」
思いっきり、それを、出してしまった。

初めに尿が、そして精液が……木の根元に、溜まりを作ったのが見えた。
「おいおい、イッちまったぜ」
「ションベン垂らしてイッちまったな」
「張子突っ込まれて見られて? ……流石に俺も引くわあ」
男達の声だけが、虚ろに響いて、もう、何も――感じられない。

気がついたとき、私はまた、あの部屋の中にいた。
何がどうなったのか、どうやって戻ったのか、まるで思い出せない。
唯、あの男の言葉だけは覚えている。

「散歩っていったら、コレだからな。覚えておけ」

ああ、覚えている。……忘れたいのに、覚えている。
あの辱めも、何もかも……覚えて、いる。