---私は、あれ以上誰にも悲しんでほしくはないんだ。
~In the fog~
6年前、11月、夜。ファーランド邸、執務室兼フォガー書斎。
その日、外は雪が舞い散っていた。窓には霜が降りている。
私、フォガー・F・ファーランドは、他領土からの書簡、自国軍の報告書、来年度の予算案、領民からの意見書…
そういった書類を傍に積み、コーヒーカップを片手に一枚一枚に目を通していた。
作業を始めてから2杯目のコーヒーを飲み終わると、扉を2回、叩く音が聞こえる。
「…どうぞ、入りたまえ」
「は、失礼します」
一礼の後入ってきたのはファーランド家に代々仕えてくれている忠臣、アウサー・サダルスウドだった。小脇には茶封筒を抱えている。
「フォガー様、例の件の調査の結果になります」
そう言ってアウサーは私に茶封筒を手渡す。
「……ふむ、これは。」
封筒の中身は、周辺国家の近況についてだった…
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ファーランド領。北方の雪国で、主な産業は建築。
北は海に面しており、南方には比較的小さい領主の国が散らばっている。
そして…西には強大な軍を持つ国家、ヴァンツ国。東には同じく軍事国家、エルド国があり、ここは丁度その二国に挟まれる形だ。
この領地を治めるファーランド家当主はフォート・F・ファーランドだが、彼は数年前病気に罹ってしまう。
そこで、現在は当主代行として私、フォガー・F・ファーランドが内政を、アウサーが主に外交を行なっている。
ちなみに私にはフィー・F・ファーランドという弟がいるが、彼には王都を守る城塞都市、ミュヴェールの警護に派遣している為に不在だ。
…まだ若いが十分立派な騎士と呼べるほど出来た弟だが、私から言わせてみれば優しすぎる。
あれには政治ではなく、真っ直ぐ騎士道を歩んで欲しいものだが…
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アウサーが口を開く。
「…やはりヴァンツ国は最近、急激な軍事力の強化を行なっているようです。それに対するかのように、エルド国も…」
「……もし両国の間で戦争が起これば…」
「…戦場になるのは、我が領土になりますな…」
執務室に重苦しい空気が流れる。その中で、私が再び話をつなぐ。
「両国の間に和平の余地は無いのかね?」
「…難しいかと。フォガー様もご存知の通り、両国の間には数代前から確執がありますので」
「うむ…ん?」
手を組み、黙考。そこに、ノックの音が。
そしてフォガーの返事を待つ事無く、新たな来客が。
「フォガー・F・ファーランド殿!お取り込み中失礼します!!」
来客は高い帽子と軍服を着た、王国の親衛隊の兵士だった。
「貴様、無礼だぞ!」
アウサーが声を荒げる。神経質な男だから無理も無いな…
仕方ない、私が…
「…要件は何か。」
「はっ!! 実は、国王様が貴方に魔導技術の提供を命じておられまして…」
「何だと!?」
私も立ち上がってしまう。ばかな、この時期に!?
「はっ、新エネルギーシステムの考案のためであります!! 2日後昼、王都に来るようにと!! 以上であります!! では失礼します!!」
こちらが言い返す間もなく、兵士は去ってしまった。
アウサーが不安気に口を開く。
「ふぉ、フォガー様…」
「…王の命ならば、行くしかあるまい…!」
「しかし、フォガー様がここを離れては…!」
「仕方無いと言っている! …フィーを呼べ!」
「ミュヴェールからファーランドまででは、フォガー様が戻るまでには…!」
「それまではアウサー、貴公が持たせろ!」
「は、はっ!何としても!」
……ヴァンツ国、エルド国両国は、私が去ったと知ると、互いの国に攻め込まんと我が領土を踏み荒らす筈…
…私の国を、民を、蹂躙などさせん!!