目覚まし時計が鳴った。
上条当麻は時計を叩きながら起き上り、しばらくぼーっと部屋の壁をみつめる。
上条(あー、何か全然寝足りねーな。やっぱ夏場は暑くて駄目だ、エアコン買おうかな……)
……うちのエンゲル係数がもう少し下がってくれればな……)
横目で、大喰らいの居候の寝床を覗き込む。しかし。
上条「…あれ? インデックス? どこだ?」
居るはずの女の子が居なかった。
昨晩は確かにそこで寝ていたのを確認したのだが、今は布団以外に寝そべっているものは無い。
上条「おかしいな、この時間ならまだアイツは寝てるはずなんだが……って、あらら?」
時間を確認しようと目覚まし時計に手を伸ばす。
時計が示している時間は、6時前だった。目覚まし時計は普段7時にセットしているはずなのだが。
上条「ってかよく見たらまだアラーム鳴ってねーじゃん。
……んー?」
上条は顎に手を当てて、少し考え込んだ。
その時。
―――ォォォォォォォォ―――
音が聞こえた。
上条「ん…? サイレンの音?」
地の底から響いてくるような音だった。
サイレンのような音。さっきはこれをアラームと勘違いしたのだろうか。
上条「何だ? 能力者が暴れてんのか?
ってかそれならインデックスが……!」
上条は慌てて寝床から飛び出して、服を着替え、外に飛び出した。
雨が降っている。 霧雨程度の雨だったので、上条は気に留めなかった。
インデックスは見当たらない。 サイレンの音も、止まらない。
上条(ったく、アイツ一体どこに……)
そこまで考えて、上条は僅かな異変に気がついた。
上条(……頭痛?)
―――オオオォォォォン―――
サイレンの音に共鳴するように、頭の奥から痛みが響いてくる。
上条(ク…ソッ…何なんだ、この音…!)
上条は頭痛をこらえながら、アパートの階段を駆け降りる。
街路を見渡しても、やはりインデックスの姿は無い。
インデックスが、早朝のこの時間に上条に一言も告げずに外出するなどということは、今までに一度も無かったことだ。
上条(まさか、また魔術師関係の事件に巻き込まれたのか?)
とりあえず、いったん部屋に戻って知り合いに連絡を取ってみようか、と考えた上条だったが、
直後、銃声が響いた。
上条「……ッ!」
銃声は数キロほど離れた場所から聞こえてきたようだが、恐らくは第七学区内であろうと思われた。
続け様に、更なる銃声と、爆発音のようなモノまで聞こえてくる。
上条(何だ!? 警備員(アンチスキル)が誰かと戦ってんのか!?)
上条の背筋が強張る。
以前、学園都市に魔術師が侵入したことは幾度かある。
勿論、それらの多くは隠密行動に長け、学園都市との正面衝突を回避していた。
学園都市の防衛機構は、並大抵の国家軍ならば退けることが出来るとさえ言われているほどだ。
が。それにも例外はある。
前方のヴェント。後方のアックア。
この二人は、学園都市のセキュリティと警備網を、文字通り正面から力ずくでぶち破った。
そのことを、上条は思い出していた。
インデックスが消えた。
街には銃声が響いている。
この二つが無関係だと言い切る事が出来ない程度に、上条は非日常に慣れていた。
上条(くそ、どうする…!
インデックスが家を出たのがいつなのか分からない以上、あまり遠くを探してもマズイ場合もある。
まずは学区の中をを探すか…!?)
1、学区外へ出て探す
→2、まずは第七学区の中を探す
3、その他
終了条件2:『フード』の発見
上条(アイツは走るのもそこまで速くねーし、交通機関の使い方も分かってない。
まだそこまで遠くには行って無い筈だ……!)
上条は走り始めた。
同時に、ズボンのポケットから年季の入った携帯電話を取り出して、アドレス帳を開く。
上条(まずは誰かに連絡を……とりあえず、土御門にしとくか)
元魔術師にして、現無能力者(レベル0)の隣人。
土御門元春に電話をかける。
無機質なコール音が、絶えず響いてくる銃声にかき消される。
いつの間にか、サイレンの音と謎の頭痛は止んでいた。
十数回目のコール音。
『こちら、○○お留守番電話センターです……』
上条「クソッ! まさかアイツもどっかで巻き込まれてんのか!?」
いったん通話を切って、再びアドレス帳をめくる。
上条(誰か、力になってくれそうなヤツは……)
瞬間。
上条の右手に持っていた携帯が、見えない『何か』に押し潰されるように、粉々に砕け散った。
上条「ッ!!」
バギン、と『何か』が砕ける音。
『何か』は、携帯を潰し、上条の体も潰そうとしたところで、上条の右手によって砕かれた。
異能の力を問答無用で打ち砕く、幻想殺し(イマジンブレイカー)によって。
上条「念動力(サイコキネシス)か……!?」
上条(っつーか俺の携帯……もう新しく買い替える金が……不幸だー……)
上条は前方を見る。
携帯電話を眼前に掲げていたため、周囲への注意が疎かになっていた。
そのおかげで、壊されるのは携帯だけで済んだのだが。
上条の前には、制服姿の少年が立っていた。
年の程は15,6だろうか。上条と同年代か、更に下。
顔に見覚えは無い。
というよりも、見覚えがあっても、分からないだろう。
少年の顔から、赤い液体が噴き出していた。
目から、鼻から、口の端から、挙句には耳からも。
赤い、赤い、血が噴き出しているようだった。
上条「……っ」
上条は思わず息を呑む。
あまりの異常さと恐怖に、体が動かなかった。
声を掛けようにも、舌が引き攣って声も出せない。
少年は、ゆっくり、近付いてくる。
のそり、のそりと。
ゾンビ映画のゾンビ達のように、脚を引きずることはない。
日常生活を送る人間のように、ごく普通に、上条に向かって歩いてくる。
上条(……?)
しかし、上条は、少年の右手に握られているものに気がついた。
見覚えのある、白い『フード』。
その白いフードは、少年の腕から零れる血で、赤く染まっていた。
ぎちり、と拳を握る音。
上条の体は、もう動く。
元より、怖がることなど何もない。
異常は飽きるほどに見てきた。恐怖は慣れるほど感じてきた。
その全てを、右手一本でぶち壊してきた。
上条「おい、お前、そのフードをどこで手に入れた?」
上条の質問を聞いて、少年は笑った。
口の端から血が零れ落ちるのも気に掛けず、口が裂けるくらい、にっこりと。
少年は、静かに右手を上条に向けた。
念動力(サイコキネシス)。
上条「ッッ!」
バギン!
飛来した念動力を、突き出した右手で迎え撃つ。
上条「やっぱ誰かに操られてるみてーだな……!」
念動力の塊を打ち消したと同時、上条は少年目がけて走り出す。
少年は尚も同じ体勢で念動力を撃ち出しているが、全て幻想殺し(イマジンブレイカー)によってかき消されていった。
元々10メートルも無かった二人の距離は、あっという間に縮まった。
上条(とりあえず操ってる魔術を打ち消してから、話聞かせてもらおうか!)
少年の右腕を払いのけ、上条の掌底が、少年の頭を打ち抜いた。
少年は後ろによろめき、フードを取り落とす。
しかし。
少年「あ゛、あ゛、あ゛ー?」
上条「!?」
その両腕が、今度は上条の喉を捉えた。
少年は、何も変わっていない。顔から血を垂れ流し、虚ろな表情を浮かべている。
上条「が、ふっ…!」
少年の両手に力が入る。人間とは思えないほどの力だった。
ミシミシと音を立てているのは、上条の喉笛だけではない。
少年の両腕が、過剰な力に耐えかねるように、軋んでいる。
上条(やべ、今の状態で念動力(サイコキネシス)を使われたら……!!)
上条「が、ああああっっ!!」
上条は目一杯の力を込めて、少年の体を蹴りつけた。
蹴る場所は、心臓。
少年「がう゛っ!?」
少年の口から、呻きと共に血が漏れる。
腕から力が抜ける瞬間を見計らって、上条は少年を突き飛ばし、距離を取った。
上条「が、はっ、げほっ、ごほっ」
心臓部に外部から強い圧迫を加えると、心原性の失神を誘発する。
これは頭部に打撃を加える場合よりも、遥かに確率が高いことを、上条は知っていた。
少年は、言葉も無く崩れ落ちた。どうやら、上手くいったらしい。
上条「とっさにやっちまったけど……死んだりしてないよな……?」
倒れた少年は、体を丸めてうずくまっている。ピクリとも動かない。
だが、呼吸はしているようだ。
上条は安堵して視線を移す。
頭を掌底で打った時に地面に落ちた、白いフード。
上条は改めてそのフードを見た。
上条(…やっぱり、インデックスの『歩く教会』……!)
禁書目録の頭脳を保護する為にあてがわれた、大聖堂級の結界能力を持つと言われる個人用防御礼装、『歩く教会』。
しかし、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって破壊され、今は何の防御能力も持たない布切れだ。
上条(インデックスは、まだ近くにいるのか……?)
上条は、うずくまった少年をジロリと睨む。
当然のことだが、何の反応も無い。
しかし、上条はある事に気がついた。
上条(この制服……長点上機(ナガテンジョウキ)の制服か?)
長点上機学園。
学園都市内でもトップクラスのエリート開発校だ。
学園都市内の高レベル能力者のほとんどが所属、またはかつて所属していたとも言われる。
上条(でも、それにしては、能力の使い方がお粗末だったな……
いや、それは操られてるから……というか、魔術で操られてるってんなら、俺の右手で……ん?)
様々な疑問が頭の中で渦を巻く。
居なくなったインデックス。サイレンのような音。戦闘音。顔から血を流す少年。右手を使っても戻らない意識。
そもそもこの状況、今何が起こっているのか、上条に判明していることはほとんどない。
確かな事は、インデックスが居ない事。学園都市に異変が起きている事。
上条「……黙って突っ立ってるだけじゃ、何も変わらねぇ」
上条は再び走り始める。
ひとまずは、第七学区内を見て回り、インデックスを探す。
もし見つからなかった場合は、第十八学区を探す。
長点上機学園の生徒ならば、十八学区が主な活動エリアのはずだ。
長点上機には寮もある。少年は十八学区で何者かの攻撃を受け、その後で第七学区に来た可能性もある。
手掛かりになるようなものは一つもない。
だから、走れるだけ走らなければならない。
上条は走った。
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アーカイブ:『歩く教会の一部』
最終更新:2010年11月07日 04:50