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神裂9:31:27  >  第二学区

神裂「…………」


 神裂火織は、第二学区内にある送電塔の頂上に立っていた。
 学園都市における電力供給は、都市内の風力発電・地熱発電・原子力発電等によって賄われており、
 能力研究や開発、230万人の人々の生活に必要な膨大な需要量に応えるだけの、膨大な供給量を誇っている。


 インフラ設備は非常に発達しており、電力供給のケーブルは主に地下を通ってはいるが、
 その中核を為す送電塔も僅かながら存在し、第二学区の中では、その送電塔が最も高い建造物となっている。


 神裂が今、その送電塔の頂上で立ち尽くしているのは、学園都市を見渡す為である。


 神裂火織は、イギリス清教でも5本の指に入るほどの凄腕魔術師であり、また、世界に20人程度しかいない『聖人』の1人でもある。
 ジーンズの片方を太腿上まで切断し、シャツの袖も片方だけを切り取り、髪をポニーテールにまとめ、腰には身の丈以上の長さがある大刀を差すという、
 極めて奇抜な恰好をしているが、全て魔術術式の構成に必要な要素を服装に取り入れた結果である。


 『聖人』である神裂は、通常の人間とは一線を画す身体能力を発揮出来る。
 何事もないように、地上高100m以上ある送電塔に上っているのも、そこから学園都市の端を見渡すことが出来るのも、この能力の恩恵を受けている部分が大きい。


神裂「やはり、外界とは断絶されているのですね」


 神裂は、一人、呟いた。


今朝、神裂は、えも言えぬ不穏な空気に目を覚ました。
 何か得体の知れないモノが、学園都市を包み込んでいるような錯覚さえ感じる、不穏な空気。
 実際、街に出てみると、明らかな異常が見て取れた。


 人間が、人間以外のモノに、変わっている。
 顔から赤い液体を垂れ流し、人を襲う化け物に。


 しかし今にしてみれば、街に異常が起きたというよりは、『街が異界に変わった』、という言い方の方が正しいのかもしれない。
 ここはもう、昨日までの学園都市ではない。学園都市に似た全く別の世界なのか、学園都市が丸ごと別の世界へ飛ばされたのかは分からないが、
 とにかく、今、ここは『異界』である。


 通信魔術を用いて本国(イギリス)や学園都市内の同僚と連絡を取ろうとしてみたが、それも通じなかた。
 魔術的な通信ラインが、この異界の空気に妨害されているのかもしれない。



神裂「こんなことになるなら、意地でも携帯電話を持ってくるべきだったでしょうか……」


 神裂は、携帯電話を所持していた。が、今回日本にやってくる折に、たまたま英国に忘れてきてしまっていた。
 もしかすると、今頃同僚のステイル・マグヌスなどは、英国のイギリス清教女子寮に置き去られているであろう携帯電話に、必死にコールを掛けているかもしれない。


神裂「……とにかく、現状をしっかりと確認しておかなければ。
    そして何より……」


 一人の少女。一人の少年。
 神裂の頭に、二人の人物が浮かんだ。


 一人は、神裂の同僚。そして、元親友。
 10万3000冊の魔道書をその頭脳に収めた、禁書目録(インデックス)と呼ばれる少女。


 もう一人は、神裂の恩人。そして、元宿敵。
 あらゆる幻想を殺し尽くす右手を宿した、上条当麻という少年。


神裂「……」


 彼らの身に、危機が降りかかっているかもしれない。
 そう考えるだけで、神裂は背筋が寒くなる。


 ―――あの二人には、絶対に手を出させない。


神裂「この事態を引き起こしたのが一体誰なのか、分かりませんが―――」


 神裂は、腰に差した刀の柄を握り、感触を確かめる。
 聖人の力を以てこの刀を振るえば、比喩でなく、神でさえも斬り裂ける。


神裂「―――私の友達を傷付けるというのなら、そんな幻想は、私がこの手でぶち殺す――――!」


 そう呟いた神裂の胸中には、一つの黒い疑念が渦巻いていた。
 しかし、神裂はそれを押し殺して。


 そして、送電塔から勢いよく飛び降り、街の中へと消えていった。



 神裂が見つめていた学園都市の景色。
 僅かに霧のかかった街。しとしとと降り続く雨。
 あちこちからあがる火の手。聞こえてくる銃声。



 そして、大きな外壁の外側には―――――赤い、赤い、深紅に染まった海が広がっていた。
最終更新:2010年11月07日 05:08
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