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一方21:33:20  >  第二学区

一方通行「邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だァァァァァッ!!
       どかねェヤツらァ、全員両手両足ブチ折ってダルマにしてやンぞォ!!」

 第二学区内にある、『警備員(アンチスキル)』の訓練所の中。
 一人の人間が、戦っていた。
 多勢の屍人達を相手取り、たった一人で、抗っていた。

 たった一人。しかし、彼に苦戦の色は無い。
 学園都市最強の能力者が、一方通行(アクセラレータ)が、苦戦などする筈もない。

 警備員達の放つ銃弾は全て跳ね返され、学生達の能力攻撃も何一つ彼には届かない。
 更に、その華奢な腕から繰り出される攻撃は、触れるだけで人間数人をまとめて建物外まで弾き飛ばす、規格外の威力。
 絶対的な防御と、圧倒的な攻撃。それでもまだ、彼の全力には程遠い。
 それが、『一方通行』。超能力者(レベル5)序列第一位の能力者。


 一方通行は、広間となっているフロントの角を背にして戦っていた。
 彼の背後には、幼い少女が一人、座り込んで眠っている。
 その少女を護る盾のように、一方通行は、戦っていた。

 彼女を――『打ち止め(ラストオーダー)』を――護る。
 今やそれだけが、彼のたった一つの目的だった。
 そして、それさえ達成できれば、他の目的など、必要無かった。

 彼は戦い続ける。
 たった一人。大切な者を護る為。



        終了条件:『打ち止め』を護り抜く


一方通行(チィ……次から次へと、キリがねェ……!
       ついさっき、バッテリーは充電出来たから、能力使用時間はまだあるが……
       それでも、この状態が続いてるンじゃァいずれジリ貧だ)

 つい数十分前、この建物に侵入した際、一方通行は真っ先に電源を確保した。
 そして、不完全ながらも、電極のバッテリーを充電することに成功していたのだ。

 一方通行の生命線とも言える、能力使用補助の電極。
 それをこの場である程度回復できたのは、大きなアドバンテージになる。

一方通行(だが、どうする……?
       そもそも、今となっちゃァこの学園都市全体が危険区域だ。
       むしろ、どこかに居着いて事態の終息を――――)

一方通行「――――っ、バカか、オレはァ?」

 待っているだけで助かるなら、耐えているだけで終わるなら、もうとっくに全て終わっている。
 ここは学園都市。科学の世界の頂点に立つ街だ。
 あらゆる外敵に対応した、最高の防衛機構を持つ、科学神話の結晶。

 それが、既に朝から十数時間。
 何の進展も救助もないまま、ただただ、加速度的に崩壊している。

一方通行(待ってりゃ良ィ、なんて考えは捨てろ。
       考えるンだ。そして動け。自分から何とかしなけりゃァ、どう足掻いても終わらねェ……!)

 一方通行が決意を固めた、その時。

 その眼前の屍人の群から、見覚えのある顔が二つ、現れた。

一方通行「――――っ」

 どっ、と冷や汗が一方通行の全身から溢れる。
 体温が急激に奪われていくような錯覚を覚える。

 できれば、今は、見たくなかった顔だ。

 黄泉川愛穂。
 今朝、一方通行の部屋に襲撃してきて以降、一度も遭遇していなかったが、何の偶然か、今再び相見えた。
 朝とは違う点と言えば、長く伸ばした黒い髪の横から、昆虫のような羽根が生えていることだろう。
 ズタズタになった警備員の戦闘服を纏い、空を飛びながら、一方通行へと銃口を向ける。

 そして、芳川桔梗。
 彼女は、四つん這いで、犬のように地面を這いながら現れた。
 一般的に、美人、とも形容出来る、利発的な顔立ちは、赤い液体で濡れてグシャグシャに歪んでいた。
 その頭部からは二本の触角のようなモノが生えていて、ピコピコと左右に揺れている。
 普段から好んで着ていた白衣も、やはり赤い液体でびっしょりと染まっている。


 一方通行は、動揺した。

 けれど、迷いはしなかった。


一方通行「――――邪魔だ、寝てろ」


 黄泉川が撃ち放った銃弾のベクトルを操作して、彼女の羽根を付け根から削ぎ落とす。
 『羽根型』の化物は、羽根を奪われると行動力がガクンと落ちる、という事実を、一方通行は知っていた。
 この数時間、戦い続けてきたのだから。

 大きく吠え、飛び掛かってきた芳川の身体を、片手で地面に叩き付け、捻じ伏せる。
 触れた箇所から、その体内を流れる『赤い液体』のベクトルを操作。
 両手両足に液体を移動・集中させ、血管を破り、皮膚を破り、筋肉を断裂させる。
 結果、芳川の四肢の表面は、爆発するように弾け飛んだ。


 一方通行は、何も言わず、倒れた二人の屍体を見下ろしていたが、
 やがて、視線を外し、相も変わらず列を作る勢いの屍人達の群を見た。

一方通行「コイツだけは、絶対ェに、護ってみせる」

 護るべきもの。護れなかったもの。
 その二つを抱えて、引き摺って、彼は戦う。

 屍人達から放たれる、ありとあらゆる攻撃。
 その全てを、反射する。一つたりとも、一方通行には、打ち止めには、届かない。届かせない。

 そして、その両手で、屍人達を叩き潰し、捻り潰す。

 異形と化したこの人間達は、倒してもやがて再生し、立ち上がる。
 そんな異常と化した光景も、一方通行は嫌と言うほど見てきた。

 だから狙うのは、倒してから、立ち上がるまでの僅かな間。
 この場にいる屍人全てを倒し、そして誰か一人でも立ち上がる前に、この場を離脱する。
 離脱する瞬間を目撃されて、追ってこられるのは面倒だ。
 目撃する可能性を潰し、完全に姿をくらます。

 反撃を始めるのは、そこからだ。
 この荒唐無稽な異常事態を引き起こした『敵』を、見つけ出す。

 『敵』は、人間とは限らない。
 一方通行も、今になって、これが精神操作系能力者の仕業だなどと眠たい事は言わない。
 これは、恐らく――――人間以外の、化物のしでかした事だ。

 一方通行は、知っている。そういう、人間を超えた存在が存在する事を、知っている。
 『天の使い』と呼ばれる存在と、或いは、全く次元の違う『何か』と、直に対峙したのだから。

一方通行「あァ、上等だ。神サマだろうが天使だろうが、関係ねェ。知ったこっちゃねェ。
       てめェがこれ以上、この街を、打ち止めを、どうにかしようってンなら――――」

 ギヒ、と一方通行は笑った。
 犬歯を剥き出しに、凶悪な笑みを、隠すことなく浮かべる。


一方通行「――――そンな幻想は、オレがこの手でぶち殺してやンよ……!!」


 屍人達の攻撃を跳ね返し、同時に屍人達を薙ぎ倒す。
 もう、終わりも見えてきた。
 襲撃された直後は、フロントの広いスペースが半ば埋まるほどの大軍勢だったが、もう既に半数以上は地に伏せている。

 手当たり次第に建物の外へ叩きだしたのも功を奏しただろう。
 一旦倒され、また『甦った』屍人達の中には、外へ叩きだされ、一方通行を見失った者もいる。
 そうやって、次第に、屍人の軍勢は数を減らしているのだ。


 前方一帯から、雨霰と襲いかかる銃弾。超能力。
 拳銃弾。ライフル弾。散弾。炸裂弾。手榴弾。
 火炎。水流。念動力。精神感応。空間移動。電撃。

 全て反射する。全て、放たれた方向へと、跳ね返す。



 ふと、違和感が、あった。


一方通行「…………………………………………………………………
       …………………………………………………………………
       …………………………………………………………………
       …………………………………………………………………
       …………………………………………………………………
       …………………………………………………………………
       ……………………………………………………………はァ?」


 電撃。

 つい数瞬前、反射した電撃。

 電撃。
 一般人がまともに受ければ、全身の細胞が焼き切れて死滅してしまいそうな程の威力を持った。
 けれど一方通行にとっては何の脅威にもならない、チクリともしない、ただの電撃。

 その電撃は。
 今、どの方向から、飛んできた?

 上?下?右?左?前?

 違う。

 ――――背後から、飛んできたんじゃ、ないのか。

 後ろから。背後から。一方通行の背中の向こうから。
 たった一人しかいない場所から。たった一人しか、いるはずのない場所から。
 一方通行へ向けて、攻撃が飛んできた。
 明確な殺意を伴った、電撃の槍が。


 そして、その電撃を。
 一方通行は。
 『一方通行』は。

 反射した。
 電撃を放った主へと。
 その電撃を。その殺意を。丸ごと、跳ね返した。



 一方通行は、振り返る。
 ガチガチ、と。ブルブル、と。全身を震わせながら、振り返る。

 視点の定まらないその目には、もう何も見えていない。
 前方にいる筈の屍人達の群も、それらから繰り出される豪雨のような銃弾、能力攻撃も。
 辛うじて心の奥に引っかかった理性が、機械のように『反射』演算だけを継続しているおかげか、
 依然変わらず、一方通行には、そして一方通行の背後には、欠片ほどの攻撃も届いてはいない。



 そして、振り返った先に。


 彼は、世界の絶望(オワリ)を見た。












打ち止め「        ぎゃぐぎいぎぎぎゅぐががぐぎゅ          」












 血。血。血。赤い。血が。体を。躯を。小さい、身体を。
 染まって。流れて。零れて。溢れて。
 どろどろ。びちゃびちゃ。ぐちゃぐちゃ。ぴくぴく。
 ぼろぼろに。焼けて溶けて壊れてぼろぼろに。

一方通行「                           






                                  」

 破れた頭蓋。露出した白い骨。赤い脳。赤い血。赤い水。
 眼球は片方、地面に落ちて。もう片方は、開き切った瞳孔で空を見て。
 口の端から漏れる赤い水。赤い血。抜け落ちた歯。
 可愛らしい笑顔は。惨たらしい破顔に。
 全身に焦げ跡。電撃の跡。服は破け、まるで屍の様だ。

 まるで、屍の、様だ。

一方通行「                           






                                  」

 壊れた少女。壊れた少女。壊れた少女。壊れた少女。壊れた少女。
 打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。打ち止め。

 打ち止めが、死んでいる。

 死んでいるのに、生きている。

 化物になって、生きている。

 そして、一方通行は、壊れた。
 声も無く、ただ壊れた。


 護れなかった。護れなかった。
 結局のところで、最後のところで、やっぱり護れなかった。

 違う。護れなかった、ではなく。
 壊したのは、一方通行自身の力だった。

 彼女の電撃を、『反射』したのは、一方通行だ。


 何だ。
 何も、変わってなかったのか。
 あの頃と。
 昔の頃と。

 結局、この力は、この能力は、他人を傷付けることしか、出来ないんだ。

 必死の奮起で、決死の覚悟で、今まで積み上げてきたモノは、結局、何だったんだろう。

 あの時、一人の無能力者に教えられたナニカは、何の役にも、立っていなかった。

 畢竟。
 『一方通行』が、誰かと何かを通じ合わせるなんて、無理だった。

 いつだって、いつになっても、彼は彼のままで。
 最終的には、一方通行のままで終わるのだ。
 誰かに何かを返す事も出来ない。誰かから何かを返してもらう事も出来ない。

 一方通行。
 それが、彼の全てを表す言葉。
 彼自身が付けた、己の真実を示す代名詞。



 彼の世界は終わりを告げた。

 けれど、世界は終わらない。
 絶望に満ちたこの世界は、終わることなく、廻り続ける――――



            終了条件未達成(ゲームオーバー)……?


Try Again ?

最終更新:2011年05月05日 12:41
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