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御坂8:29:19

美琴「はっ、はっ、はっ、はっ」


 御坂は、まだ走っていた。
 白井から逃げ出して、およそ10分。
 街のあちこちからは、絶えず銃声や悲鳴が飛び交っている。


美琴(何よこれ……一体、どうなっちゃったの……?)


 街の様子は、明らかにおかしい。
 かつて、宗教テロによって学園都市が滅茶苦茶に攻撃されるという事態もあったが、
 それでもここまで非常識なモノではなかった。


 顔馴染みの知り合いが顔から血を流して襲いかかってくる、なんてモノではなかった。


美琴(黒子……)


 あの後輩の顔を思い出す。
 いつでも少し高慢で、生意気で、でも根は優しくて、自分を慕ってくれていた、白井黒子。
 どうしようもなく変わってしまっていた、白井黒子。


 御坂の脚が止まる。
 10分以上、見えない敵を気にしながらの逃走は、14歳の女子の身体には厳しかった。
 まして、右肩の痛みは消えていない。血は止まっているようだが……


ちょうどその時、御坂の前方から二つの人影が走ってくるのが見えた。
 それもまた、馴染みの深い顔だった。


初春「はぁっ、はぁっ、はぁっ、あうっ!」


 二人の内の片方、頭に大きな花飾り(?)をつけた少女が、躓いて地面に倒れる。
 それを、慌ててもう片方の少女が抱きかかえて立ち上がらせた。


佐天「初春!? 大丈夫、立てる!?」


 初春飾利、佐天涙子。


美琴「……!」


 御坂の身体に緊張が走る。
 顔馴染みの二人。
 もしも、あの二人まで白井のように変わってしまっていたら―――


初春「あ、あれ、御坂さんじゃないですか!?」


佐天「ほ、ホントだ! 良かった、御坂さん、無事だったんだ!」


 しかし、二人の顔には変化はない。
 二人の間でしっかりと会話が通じている。
 どうやら、この二人は無事だったようだ、と御坂は胸を撫で下ろした。


美琴「初春さん! 佐天さん! 二人とも無事だったのね!?」


 二人の元へ駆け寄って、声をかける。
 先ほどの絶望感もあってか、安堵の気持ちが大きかった。


佐天「はい……って御坂さん、その肩!」


美琴「ああ、コレね。大丈夫よ、もう血は止まってるみたいだし、痛みもちょっとずつ薄れてきたし」


初春「大丈夫なワケないですよ! そんなのが刺さって……!!」


美琴「もう、大丈夫だってば。それより、佐天さんたちは、大丈夫だった?」


佐天「……その、私達、普通に登校しようと思ってたんですけど……
    街の人たちも、クラスメイトの皆も、様子がおかしくて……」


 佐天は泣き出しそうな表情で、うつむいた。
 恐らく、ここに来る前に、先刻の御坂と同じような状況に遭遇したのだろう。


初春「今、この街で何が起こってるのか……御坂さん、分かりますか?」


美琴「……ごめんなさい、私も、全然分からないの。
    さっきだって、急に黒子が……」


 御坂はそこまで言って、慌てて口を塞いだ。
 しかし、どうやら遅かったようで、初春と佐天は目を大きく開いて、みるみる青ざめていく。


初春「そん……な……白井さんが……」


佐天「………っ…」


 初春は、はっとした表情で御坂の肩に刺さった鉄矢を見る。
 それは、白井黒子が好んで使う武器だったはずだ。
 そんなはずはない、そんなはずはない、と初春は自分自身に言い聞かせているようだった。


初春「白井さんが、白井さんが、どうしたんですか!? 誰かに襲われたんですか!? そうですよね!?
    でも白井さんだって大能力者(レベル4)だし、その辺の人に襲われたくらいじゃ……」


美琴「……」


 御坂は唇を噛みしめた。
 確かに、白井黒子は学園都市でも数少ない、大能力者(レベル4)にして、空間移動能力者(テレポーター)。
 並大抵の能力者では、比にならない戦闘能力を持っている。


 しかし、現に白井は……


御坂は、両拳を強く握り締める。


美琴「初春さん、佐天さん。ただ街路を走って逃げてるだけじゃ危ないわ。
    これから言う場所に、誰も使ってない廃ビルがあるの。そこに二人で隠れてて。」


佐天「!? 何言ってるんですか、御坂さん!」


美琴「大丈夫よ。そこ、普通に入ろうとしてもバリケードがあるから、抜け道を知ってないと入れないの
    それに中は複雑な作りだから、もし誰か入ってきても、隠れてやり過ごし易いわ
    抜け道を知ってるのも―――」


 私と、黒子だけ。
 そう言おうとして、止めた。


美琴「私だけ、だから」


佐天「そういう意味じゃないですよ! それに、二人で、って御坂さんはどうするつもりなんですか!?」


美琴「私はもう少し、辺りを見て回ってくるわ。大丈夫よ、あんなゾンビみたいな連中に、私は負けない」


初春「でも、でも……そうだ、警備員(アンチスキル)の人もおかしくなってたんですよ!?
    銃器を持って、同じ警備員(アンチスキル)の人達と……っ……」


 初春は、何かをこらえるような顔で、懸命に御坂を引きとめる。
 しかし、御坂は譲らなかった。


美琴「だーいじょうぶだって! そんじょそこらの兵器じゃ私の能力には敵わないわよ。
    ……大丈夫、絶対、何とかする方法を見つけてみるから」


 御坂は努めて明るい声で返事を返す。
 初春と佐天を、少しでも元気づけようとしているのだろう。


佐天「……」


美琴「ある程度見て回ったら、私もその廃ビルに行くわ。
    それから、もっと安全なところに一緒に避難しましょう」


 そして、御坂は二人に廃ビルの場所、抜け道への入り方を教えた。
 二人は最後まで何かを言いたそうな顔をしていたが、御坂は敢えてそれを無視していた。


美琴「それじゃ、どうか無事でね、二人とも」


佐天「……はい、御坂さんも、無事でいてくださいね」


二人は御坂に背を向けて駆けだした。
 その背中を見ながら、御坂は静かにポケットに手を入れる。


 ポケットの中には、大量のコインが入っている。よく行くゲームセンターで使う、何の変哲もないコイン。
 しかし、それを御坂が使えば、音速を超える弾丸に変貌する。


 後には引けない。
 二人をあの場所に案内した以上、あの場所は絶対に安全な状態でなくてはならない。
 その為には、『抜け道』を知っている『敵』が居てはならない。


御坂「……黒子、アンタは、私が必ず助けてみせる」


 御坂はコインを取り出し、強く握り締めた。
最終更新:2010年11月07日 05:24
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