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ステイル5:32:42

ステイル・マグヌスは、第三学区内外部来客用ホテルの一室で目を覚ました。


ステイル「……何だ、この感じ」


 ステイルはイギリス清教内でもトップクラスの魔術師である。
 故に『異変』に気がつくのも早かった。


ステイル(生温い……どろどろとしたものに包まれてるような空気だな……)


 手早く普段の装束に着替え、部屋を出る。
 ホテルをチェックアウトしようと、フロントへ行き、自動精算機にカードキーとマネーカードを通す。


 そこまでの道のりに人の気配が全くなかったが、ステイルは別段気にする事も無かった。
 機械化が進んだホテル内に従業員の数はさほど必要ない。
 加えて、学園都市の来客というのも、あまり多くは無い。
 それゆえ、昨夜チェックインした際も、ほとんど他人の顔を見る事は無かった。


チェックアウトを済まして、外へ出る。
 少し雨が降っているようだったが、気になるほどではない。
 ステイルは、大人しく濡れておくことにした。


ステイル(しかし、何だ? このおかしな雰囲気……)


 違和感。それも、明らかな。
 何かが、この周囲一帯を包みこんでいるような。


ステイル(……とりあえず、神裂にでも連絡を取ってみるか)


 神裂もステイルと同様、今は学園都市に滞在しているはずだ。
 ステイルはコートのポケットから携帯電話を取り出して、神裂に電話をかける。


 …


 …


 出ない。
 コール音だけが空しく響く。


ステイル(まさか寝ている訳じゃあるまいな……)


 神裂も魔術師の1人。それも、世界に20人しかいない『聖人』の1人でもある。
 まさかこの異変に気づいていないとは考え辛いが……


ステイル(しかし、時々大ポカをやらかすからな……)


ステイルが諦めてコールを切り、携帯を再びコートにしまおうとした時。


 自動小銃の弾丸が、豪雨の様にステイル目掛けて飛来した。


ステイル「……っ!」


 速度1500m/sを超える弾丸は、しかしステイルに当たる直前に全て防がれた。
 ステイルのコートに編まれたルーン魔術による障壁と、両手から噴き出した炎の壁によって、当たる前に全て蒸発したのだ。


ステイル「いきなり銃撃とはご挨拶だね……
      この街の警備員は悪即殺がモットーなのかな?」


 弾丸を撃ち込んだ人物は、いつのまにかステイルの目の前に立っていた警備員(アンチスキル)。
 しかし、その顔からは、赤い液体―――恐らくは血液が、だらだらと流れ出している。


ステイル「キミ、話は出来るかい?」


警備員「うひ、ウヒヒヒ、うひひひーぃ」


ステイル「……そうか」


ステイル(魔術で操られているのか、はたまた何かの『超能力』なのか……
      どちらにしても、困ったことになったな)


 世界は、『魔術(オカルト)』の世界と『科学(テクノロジー)』の世界に分けられていて、
 お互いの領分を維持しよう、拡大しようと、せめぎ合っている。
 勿論、不可侵協定(のようなモノ)は存在するが、裏ではドロドロとした攻防が日夜繰り広げられている。


 そして、ステイルは『魔術』側の人間であり、学園都市は『科学』側の世界である。
 ステイルが下手に学園都市の一般人を殺してしまえば、それはステイルだけを処罰して済む問題ではない。


ステイル(……まぁ、今更そんな体裁を気にしても仕方ないか。
      どっかの芸術バカライオンとか、黄ガッパピアス女とか、好き放題やってくれやがったし……)


 満面の笑みを湛えた警備員(アンチスキル)が、再び小銃をステイルに向けようとした。


 が、その小銃が、突然爆発する。
 その爆発と銃の破片をまともに喰らった警備員(アンチスキル)は、叫び声をあげてうずくまった。


ステイル「まぁ、命までは取らないよ。しばらく、じっとしててくれ」


ステイル「さて…と…」


 うずくまる警備員(アンチスキル)を尻目に、ステイルは歩き始める。
 明らかに、異常だ。
 この血を流す人間と、おかしな雰囲気。無関係ではないだろう。


 だとすると、この『異常』は、一体どれくらいの範囲に及んでいるのだろうか、とステイルは考えた。


ステイル(確か、学園都市は23区に区分けされていたな……
      ここは第三学区、だったか)


 この学区内だけがおかしくなっているのか、それとも学園都市全体か。
 或いは、もっと広範囲か。
 これが学園都市を標的とした攻撃であることはほぼ間違いないとみていいだろう。
 そうなると、かなりの広範囲が異常に巻き込まれている可能性も高い。


ステイル(ひとまず状況を確認しないと……イギリスにも、後で連絡を入れてみるか)


ステイル「……と思ったら……まったく次から次へと、ゾンビ映画みたいだね」


 誰も居なかった周囲が、喧しくなり始める。
 一般人と思われる学生、親子連れ、小学生くらいの子供も姿を現し始めた。
 いつも通りの日常の風景だった。


 その全てが、顔から赤い血を流していることを除けば。


ステイル「やれやれ、流石にこの数の人間を殺さずに行動不能にするってのは、難しいな。
      元々、殺すのが専門なんだよね……」


 軽口を叩きながら溜息を吐くステイル。


 その時。
 視界の端に、ふと、見知った何かが映った気がした。


 斜め前方に100メートルほど。
 15,6歳と思われる、一人の学生が歩いている。
 その学生の右手に、何かが握られていたる


ステイル「あれは……『歩く教会』……!?」


 見覚えのある、白いフード。
 『歩く教会』と呼ばれる、イギリス清教内でも指折りの礼装の一つだ。
 そして、今それを身に着けているのは、一人しかいないはず。


ステイル「待……」


???「あ゛ーっ」


???「あ゛あ゛あ゛ー!!」


 ステイルが学生に近付こうとした時、周囲の人間(?)達が一斉に雄叫びをあげ、ステイルの元へ殺到した。


ステイル「クソ! 邪魔だ、どけ!」


???「あ゛あ゛ーっ!!」


 少年は背中を向けて、ずんずんと歩いていく。
 ステイルは必死に近付こうとするが、人間(?)達の抵抗が激しく、全く脚が進まない。
 脚が進まないどころか、異常な腕力で殴られ、締められ、体力がどんどんと奪われていく。


ステイル(クソッ、クソがッ!!
      アレは確かにインデックスの『歩く教会』……!
      どういうことだ、インデックスが巻き込まれてるのか! あのバカは、上条当麻は何をしている!!)


 禁書目録。
 かつて、ステイルが友と呼んでいた、一人の少女。
 彼女の為なら、ステイルは神にでも反逆すると誓った。


ステイル(……どうする……!?)



→1、ひとまず退いて、ゆっくり見つからないように、少年の後を追う 



     終了条件1:『第七学区』への到達


ステイル(余計な犠牲を出すわけにはいかない……!
      ひとまず退いて、それからあの少年を追うんだ!)


 ステイルは懐からルーンの描かれたカードを出し、一言、呟いた。


ステイル「―――」


 途端、カードから放たれた光が辺りを覆い尽くす。
 ステイルの周囲に群がっていた人間(?)達は、まともにその光を浴びて、目を押さえてうずくまった。
 その隙を突いて、ステイルは包囲網を抜け出した。




ステイル(……何とか、脱出出来たか)


 ステイルは一旦建物の陰に身を隠し、機を伺った。
 しかし、少年が向かった方向は覚えているが、どこへ向かったのかは分からない。
 あまり時間をかけ過ぎると、少年を見失ってしまう


ステイル(急がないとな……
      ……っ……なん、だ……?)



―――ォォォオォォ―――



 音が、聞こえる。
 動物の唸り声かと思ったが、違う。地響きでもない。


 まるで。サイレンのような。


―――ォォォォオオオォォォォ――――


ステイル「……が…ッ!?」


 頭痛。
 突如、割れるような強烈な頭痛が、ステイルを襲った。


ステイル(ぐ…っ、なん、だ、これは……!?)


 ステイルの脳裏に、奇妙な映像が流れる。
 映像。
 というより。
 誰かの、視界。


 自分以外の、誰かの中から、見ているような。


―――ォォオォオオオオオオォォォォ―――


ステイル「が、アアアア―――ッ!?」


 更に頭痛が激しくなる。
 しかし、頭痛が激しくなるにつれて、頭の中の映像はクリアになっていく。


ステイル(これは……何だ? 誰かの、他の誰かの、視界?)


歩いている。
 ゆっくりと、歩いている。
 息遣いも聞こえる。体の揺れも感じる。全て分かる。


 『誰か』の中から、外を覗いているような感覚。


―――ォォォォ―――


 響いていたサイレンのような音が、次第に小さくなってきた。


ステイル「―――ッ」


 サイレンのような音が止むにつれて、頭痛も引いていく。
 そして幻視の感覚も消えていく。


ステイル(何だったんだ……? いや、今はあの少年を追わなければ!)


 幸い、先ほどのステイルの呻きも、変異してしまった人間たちに聞こえてはいなかったようだ。
 ステイルは建物の影から影へ忍び足で移動しながら、先ほど少年が向かっていた方向へ進んでいく。


ステイル(クソ、しかし随分時間を無駄にした……あの少年は今どこにいるのか……)


 思わぬ失態に、目を瞑り顔をしかめるステイル。


ステイル(…っ!?)


 ステイルは、何気なく目を瞑っただけだった。
 だが、その頭の中に、今までの視界とは違う『映像』が流れ込む。


ステイル(これは…っ!)


 それは、先刻と同じ。
 誰かの視界のようだった。


 驚いて目を開けると、『映像』はすぐにステイル自身の視界に切り替わる。


ステイル「参ったな……『超能力』……なのか? これは」


 学園都市は、『超能力』を開発する為の教育機関である。
 しかし勿論、能力開発というものはそう簡単に為せる業でもない。


 脳髄に電極を挿し、あらゆる投薬を繰り返し、脳の構造を人為的に作り変え、
 『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を画定し、世界の法則を書き換える術を身につける。
 そこまでして初めて、超能力という異能の力を得られるのである。


ステイル(まあ、こんなあからさまに怪しいチカラを疑いなく使うほど、僕は馬鹿じゃない。
      でも……見えてしまったモノは仕方無い、ってことだ)


 今、一瞬覗き見た視界の中に、あの少年が映っていた。
 右手に白いフードを持った、少年が。


ステイル「ちょっと、都合が良すぎる気もするけどね……まあ、いいさ。
      何かが仕組んだ罠だって言うんなら―――叩き壊して進むまで、だ」


 視界に写された景色は、よく見たことのあるモノだった。
 かつて、この学園都市に初めて訪れた時にも見た風景。
 今でも、時折同じ風景を目にしなければならないことも多い。


ステイル「―――第七学区、か」


 そこは、幻想殺しの少年と、禁書目録の少女が住む場所。


 ステイルは、静かに、けれど全力に近い速さで走り出す。
 知りたいことは山ほどある。でもそれは全て後回し。
 何よりもまず、あの少女の安否を確認しなければならない。
 迷っている暇も、戸惑っている暇も、無い。



        終了条件1達成(ミッションコンプリート)

最終更新:2010年11月07日 05:16
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