上条当麻は、辿り着いた。
体は赤い雨に濡れ、今に気絶しそうなほど息を切らし、
全身擦り傷切り傷打撲に覆われ、なけなしの体力を振り絞って、辿り着いた。
崩壊を抜け、変異に抗い、嘆きを呑み、苦痛を払い、犠牲を踏み、絶望を超え、恐怖を倒し、
ようやく、ココに辿り着いた。
惨劇の中心。異界の深奥。混沌の原初。
全てを終わらせる、最後のステージ。
直径にしておよそ五メートルはある、赤い水溜まり。
中央に立つ上条の姿が、ハッキリと、その水溜りに映し出されている。
赤い水に創り上げられた、深紅の水鏡。
鏡は、異界の入り口を示すシンボル。
その赤い水鏡は、まるで煉獄の入り口のように。禍々しい深紅が、奈落の底まで続いているように見えた。
そして、その煉獄の中に。
銀髪のシスターの姿が、上条の姿と共に、映し出されている。
現実の上条の隣には、誰もいない。
しかし、水鏡の中には、彼女がいる。
禁書目録。Index-Librorum-Prohibitorum。
十万三千冊の魔道書を手にする、一人の少女。
世界を壊せる、一つの魔神。
禁書目録は、何も言わない。
淀んだ瞳で、鏡の中から上条を見つめ返してくる。
上条「――――やっぱり、お前はそこにいるんだな、インデックス」
誰に話しかけるでもなく、上条は、一人呟いた。
悲しそうな眼。けれど、燃えるような意志(ちから)を込めた瞳。
上条は、右の掌を、大きく開く。
上条「初めて会った時に、言ってたよな」
――――地獄の底まで、ついてきてくれる?
少女は、そう言った。
上条「俺の答えは、あの時と変わらねぇ。
地獄の底までついていくなんざ、ゴメンだよ」
――――地獄の底までついて行きたくなけりゃあ、地獄の底から、引きずり上げてやるしかねーよなぁ
だから、少年は、そう思った。
地獄のような戦いを何千回経たとしても、今日という絶望を何万回繰り返したとしても、その答えは、変わらない。
少なくとも、今、少年がそこに立っているのは、たった一人の少女を救う為だった。
そして、救われなかった世界の全てを救う為に。
いつかの時と同じように、いつもの時と同じように。
命をかけて、たった一人の少女を地獄から引きずり上げる為に、世界の全てを救う為に、上条当麻は立っている。
それはきっと、どちらを優先するべきという事も無く、その少年の中で、二つは同じ事なのだろう。
禁書目録を救う。世界を救う。理由も無く、信念も無く。
ただ、上条当麻は、救いたいと思うから。命を懸けて救う価値があると思うから。
上条は、開いた右手を、赤い水鏡に叩きつけた。
水鏡はまるでガラスのように、バギン、と音を立てて、砕け散る。
砕けた水鏡の奥に広がっているのは、赤い世界。煉獄のインフェルノ。
上条は右手を強く握りしめ、その煉獄へと堕ちていく。
インデックスを救う為に。この惨劇の幻想を、打ち壊す為に。
最終更新:2011年05月05日 12:10