壊す。
大きな物も小さな物も、硬い物も脆い物も。
生きている者も生きていない物も、死んでいる者も死んでいない物も。
壊す。
邪魔な物も邪魔でない物も、愉快な物も不愉快な物も。
現実な物も幻想な物も、正常な者も異常な者も。
壊す。
身体に触れる物も触れない物も、眼に映る物も映らない物も。
己を傷付ける者も傷付けない者も、■■■■を傷付ける者も傷付けない者も。
壊す。
己以外の全てのモノを。
■■■■以外の全てのモノを。
壊して壊す。壊れたモノを壊して、もう一度壊して、最後に壊す。
殺して殺す。殺したモノを殺して、もう一度殺して、最後に殺す。
――――この能力(チカラ)に、それ以外の使い方など、存在しないのだから。
第二学区の一角に、嵐が吹き荒れていた。
高層ビルが、積み木で出来た家のように、バラバラに崩される。
警備員(アンチスキル)の訓練施設が、『嵐』に触れただけで半分消失した。
施設を問わず、建造物を問わず、あらゆるモノが破壊されていく。
道路を固めていたアスファルトは根こそぎ吹き飛び、荒い地面が剥き出しとなっている。
その地面すらも、抉られ、砕かれ、戦略爆撃を受けた跡のような有様だ。
『彼』の視界を遮るモノは、悉く崩落する。
たった一つ、■■■■を除いて。
生物ですらも然り。
不死である筈の屍人達が、ヒトを超越した異形である筈の屍人達が、ゴミのように引き裂かれていく。
『嵐』の前に、死者も生者も関係無く、ただひたすらに壊される。
元より、その周囲には屍人以外の生物など、存在しなかったのではあるが。
『彼』の領域を遮るモノは、悉く死滅する。
たった一人、■■■■を除いて。
『嵐』は止まない。
そして、ゆっくりと移動していく。
どこに向かうのかは分からない。彼自身にも、分からない。
恐らく、向かう場所など無いのだろう。
ただ歩き、壊すだけ。この世の全てを、この理不尽な世界の全てを、壊したいだけなのだ。
どこにも向かわなくとも、望んでいたモノは、今、彼の手元にある。
ようやく手に入れたその願いは、思っていたよりも簡単で。
とてもキレイな、赤い色に、染まっていた。
――――これでもう、ずっと一緒だね、って■■■は■■■は――――
聞こえる筈の無い声が、聞こえる。
ただそれだけで、彼の心は満たされる。
ただそれだけで、彼は幸せだった。
理不尽だと思っていた世界が、絶望に満ちていると思っていた世界が、クソッタレの掃き溜めのような世界が。
今となっては、こんなにも輝いて見える。希望に溢れて見える。
何も思い悩む必要は無い。誰も傷付く必要は無い。
夢に思い描くような理想郷。
彼は、自分自身が、そんな夢のような世界にいることを、自覚した。
嵐の中心に立つ、二つの人影。
一人の少年と、一人の少女。
一方通行(アクセラレータ)と打ち止め(ラストオーダー)は、生まれて初めて、二人だけの世界(シアワセ)を手に入れた。
最終更新:2010年11月07日 05:31