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ステイル22:18:51  >  第二学区

  ステイル=マグヌス / 22:18:51 / 第二学区


 ステイル=マグヌスは、曲がりなりにも『必要悪の教会(ネセサリウス)』の一因を任せられた、天才魔術師である。
 弱冠十四歳にして、現存する二十四のルーンを完全に解析し、更に新たな力有るルーンを六つも開発した才能の持ち主だ。

 そして、『必要悪の教会』――――『対魔術師』を目的とする、イギリス清教第零聖堂特区。
 そこに属するということは、つまり『魔術師殺し』を任務とする、戦闘のエキスパートでもある、ということ。
 特にステイルは、ルーンを用いた多彩な炎魔術、切り札でもある教皇級魔術『魔女狩りの王(イノケンティウス)』、その他様々な戦闘補助の術式も使う、万能型の魔術師だ。

 一度は、あの『幻想殺し(イマジンブレイカー)』をも追い込んだほどの魔術師。
 自己に満足せず堕落せず、研鑽を重ね、磨き上げてきた、力の結晶。

 例え、この街に蔓延る屍人が、銃器と異能を携えた不死の化物であったとしても、遅れを取るとは思えない。

 『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』という魔法名の通り。
 それほどに、ステイル=マグヌスは、強大な魔術師だ。



 しかし。
 世界は広い。上には上がいる。

 学園都市には、そんなちっぽけな規格を遥かに超えるた人外が、存在する。


ステイル「――――何、だ、コレは」

 それはまるで、黒い嵐のようだった。

 その『何か』が触れた途端、『魔女狩りの王』が粉々に砕け散る。
 再生しようとする炎を、さらに覆い包むように黒の奔流が襲う。
 ズタズタに引き裂かれた『魔女狩りの王』は、完全に抑え込まれてしまった。

 その『黒色』を薙ぎ払おうとした炎剣は、まるで煙で出来た剣のように霧散してしまう。
 摂氏三千度の炎を更に超える、異形のオーラ。

 まるで話にならない。
 途方も無い、力の質の差。



 そして。

 黒い嵐の向こうから。
 その力の主が、姿を現した。


 雪のように白く染まった髪。
 血のように赤く染まった瞳。

 年の瀬は10代後半だろう。
 一般的な男性と比べてもさほど高くない身長と、幼さを残す顔立ちが見て取れる。
 だがその顔も、狂気に彩られ、美しい赤色に浸されていた。
 目からは血を垂れ流し、口からは狂ったような笑みが零れている。

 ステイルは、その少年を知らない。
 知っていれば、その場から逃げ出していただろうか。少なくとも、戦おうとは、しなかっただろうか。


 それは、学園都市二百三十万の頂点、超能力者(レベル5)第一位。
 『一方通行(アクセラレータ)』と名付けられた、最強の一。

 彼は今、屍人と化し、化物と化していた。

 黒の翼を操り、全ての形有る物を無に帰す、化物に。

一方通行「く、ひ。ひひひ。ひ。ひひひひ。ひひひひ。ひひ。」

 化物は、化物らしく、気の触れそうな声で、笑った。

 異能の黒嵐を背負い、世界の闇を引き摺って、一歩ずつ、ステイルへと近付いてくる。


ステイル「く……ッ!!」

 大規模な魔術を構築する余裕は無い。
 即時発動できる炎剣魔術で迎撃し、その後体勢を立て直す。
 ステイルは、咄嗟にそう考え、己の懐から、ルーンを描いたカードを数枚取り出す。


 けれど、『カードを懐から取り出す』という、それだけの動作ですら、眼前の化物にとっては遅過ぎる。


一方通行「――――fkjlas死vhdhnfr」


 一瞬、ノイズのような音が聞こえて。









 視界が。


 真っ黒に。


 染まった。





 ステイルが目を開けると、暗く淀んだ曇天の空だけが見えた。

 どうやら、仰向けに倒れているらしい。
 身体は、動かない。上半身も、下半身も、感覚を失ったかのように、ピクリとも反応しない。
 先程まで身体全体に漲っていた魔力も、最早雀の涙ほどしか感じ取れなかった。

 黒翼の化物は、どこかへ消えていた。
 この状態なら、止めなど刺しても刺さなくとも同じだ、と思ったのか。
 そして実際、そうなのだろう。

 ステイルは、ゆっくりと目だけ動かして、自分の身体を見る。


 ステイルの身体は、上下二つに引き裂かれていた。

 ビニール袋を破いたように、力任せに断裂させられていた。


 夥しい量の血液と、惨たらしく潰れた内臓が、べちゃべちゃとだらしなく腹からはみ出している。
 消化器系が裂けてしまったのか、汚物のような匂いが酷い。

 だが、それらも全て、赤い雨に流されていく。
 流されて、消えていく。


ステイル(――――ああ、死ぬのか)

 何の疑いもなく、自然に、そう思った。
 思わざるを、えなかった。

ステイル(それなら、せめて、最後に――――)


 ぺちゃり。

 足音がした。ステイルの、すぐ傍で。

 ステイルは声を上げる力も無く、目だけを動かして、その来訪者を見る。


 そこには。

 聖母のような笑みを浮かべた、『禁書目録(インデックス)』が、立っていた。

ステイル「――――」


 ステイルは、声も出ず。
 倒れ伏したまま、少女を見上げる。

 いつ現れたのか、どこから現れたのか。
 今まで何をしていたのか、今何をしようとしているのか。
 聞きたい事は山ほどあったが、ステイルにそれを尋ねるだけの力はもう残っていない。

 呆然と立っている少女を、呆然と倒れたまま見上げるだけしか、できない。


 赤い雨が、止め処なく零れていくステイルの血を洗い流していく。
 血液と同時に、自分の命も流れ出していくような錯覚。いや、実際に、命そのものが失われていることに違いは無い。
 もうあと数分を待たず、ステイルの魂はこの世から離れていく事だろう。

 赤い雨は、少女と少年の間を分つように、さあさあと降り続ける。
 少年は、何も言えない。少女は、何も言わない。

 神々しくすらある、その美しい顔と、流れるような銀の髪。
 身に着けられたフードとローブは、赤い雨に染まり、本来の純白はもうほとんど見えていない。


 そこで、ふと、違和感があった。


ステイル「……?」


 何かは分からない。
 けれど、何かが、おかしい。
 そんな気が、した。

 ステイルはその違和感について考えようとしたが、止めた。
 恐らく、考えてすぐに分かるようなモノでもない。

 それよりも、今はただ――――この聖女に、見惚れていたかった。

禁書「………………」

 禁書目録は、何も言わず、すたすたと歩いて来て。
 ステイルの傍らに落ちている『それ』を、ゆっくりと拾い上げた。

ステイル「ぁ…………ぅ」

 それは、ステイルが上条当麻の部屋で手に入れて、持ち歩き続けていた物。


 ――――『首』の、造形物(オブジェ)。


 先の黒翼の一撃を受けた際、ステイルの懐から転がり落ちたモノだった。

 ステイルは知らない。
 その『首』が、一体どのような存在のモノであるのかということを。
 その『首』が、この異界にとって、この異変において、どれほど重要なモノであるのかということを。



 禁書目録は、丁重に、慎重に、その『首』を胸に抱え込む。

 そしてようやく、にっこりと笑った。

ステイル「――――っ」

 その笑顔は、美しかった。

 死に際のステイルが、残り僅かな寿命を、更に縮めてしまうくらいに。
 まるで人間の顔とは思えない、妖艶な美しさ。


その笑顔を目蓋の裏に焼きつけたまま、ステイルは目を閉じる。

 もう、指一本動かす力も残っていない。
 恐らく、数秒後には呼吸も止まり、心臓も止まるだろう。
 閉じた瞳も、自ら閉じたと言うよりは、力尽きて自然に閉じられた、と言った方が正しい。


 それでも、最後に残った僅かな時間、彼は最後の祈りを、最後の感謝を、天に捧げる。
 心から祈った事も、感謝した事も無い、クソッタレの神サマに、今更ながら、本当の意味で祈りを捧げる。

 祈る事も、感謝する事も、決まっている。

 ステイル=マグヌスの全ては、一人の少女の為にあるのだから。



 ――――僕が最後に目にするのが、僕の最後を目にするのが、この子で良かった。



 神に、感謝を。

 少女に、祝福を。



 そうして、ステイル=マグヌスは、静かに息を引き取った。
最終更新:2011年05月05日 12:47
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