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神裂20:19:08  >  第十五学区

神裂「……ステイル!?」

ステイル「ッ!! ……神裂……か?」


 第十五学区。
 繁華街が集中し、学園都市の娯楽の中心でもある学区である。
 その分学区内の人口も多く、今や屍人の街へと姿を変えた学園都市においては、最も危険な区域であるとも言えるだろう。

 その学区の正に只中で、神裂火織とステイル=マグヌスは出会った。

 神裂にとっては三人目の、ステイルにとっては初めての、生存者との対面である。


 相変わらず赤い雨はしとしとと降り続き、街は暗闇に包まれている。


神裂「無事だったんですね……良かった」

ステイル「そっちこそ。……まあ、君に心配など不要か」

 身体の緊張を緩ませ、会話を始める二人。
 話すべきことは、いくらでもあった。

 幸いにも、周囲に屍人の気配は無い。


神裂「まず、この状況についてですが――――」

 神裂は己が推測した現状をステイルに語って聞かせる。
 異界となった学園都市。赤い水と黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)の呪い。

 五和の事、そして土御門の事も、話した。

ステイル「…………そうか」

 ステイルは、それらについて、何も言わなかった。
 『呪い』については、薄々分かっていたのだろう。彼とて、凄腕の魔術師の一人である。

 土御門の話に対しても無反応なのは、つまり、もう此処では『そういう事』が珍しくない、ということだろう。
 或いはステイルも、同じように誰かを殺してきたのかもしれない。
 神裂はそんなことを考えながら、話を続けた。

神裂「赤い水に蝕まれ異形となった人間を――――屍人、と私は呼んでいます。
    彼らは、生半可な攻撃では殺し切れない。仮に殺したところで、やがて甦る」

ステイル「その屍人とやら……ここ数時間の間に、随分と数と種類が増えてきているようだが?」

神裂「ええ、そもそもこの学園都市そのものが閉鎖空間内に在り続ける以上、屍人の数は増える一方。
    私や貴方が僅かながら殲滅して回ったところで、焼け石に水です。
    加えて、屍人の『変異体』のようなものも見られるようになってきました」

ステイル「『変異体』?」

神裂「ええ、通常の屍人は人間と同じ様な体躯、二足歩行で行動しますが、変異体の行動は様々です。
    四足歩行で壁や天井を這いずる者、羽根を生やして空を飛び回る者など、およそ人間には不可能な行動を取れるようですね」

 ステイルは、道すがら見た、背中から羽根の生えた屍人のことを思い出した。
 アレが、変異体の一種だったのだろう。
 確かに、到底人間とは思えない、化物染みた造詣と動作だった。

神裂「特に注意すべきは、それらの変異体の『指令塔』となる存在がいる、ということ」

ステイル「指令塔、ね……」

神裂「ええ、どうやら特殊な波長のようなモノで周囲の屍人を操っているらしき変異体が存在します。
    特徴としては、頭部が特徴的な変形をしている、ということくらいですが……
    これも仮に、『頭脳屍人(ブレイン)』と呼ぶ事にしましょう」

ステイル「……しかし、どうやってそんなことを?」



神裂「――――試しました。
    頭脳屍人を斬り刻めば、周囲の他の変異体の活動は止まります」


 そこで初めて、神裂の全身が、隈なく血で染まっている事に気がついて、ステイルはゾッとした。

 赤い水ではなく、赤い血で、神裂の肌は、べっとりと濡れている。

 それは恐らく、屍人達を切り刻んだ返り血だ。


 今、周囲に屍人達はいない。

 果たしてそれは、ただの幸運か?


 果たして、ステイルの知っている神裂は、聖人・神裂火織は、こんな人間だっただろうか――――?


神裂「ステイル?」

ステイル「!! ああ、何でもない、何でもないさ」

 ステイルは短く頭を振って、思考を切り替える。

神裂「貴方の方でも、何か情報はありませんか?」

ステイル「情報、と言っていいのかどうかは分からないが………」


 ステイルは、コートの懐から、『それ』を取り出した。

 上条当麻の部屋で発見した、『首』のオブジェを。


神裂「…………これは?」

ステイル「分からない。上条当麻の自宅で発見した物だ。
      当然、本人からは何も聞いていない」

 『首』は、闇夜の中でも尚、強く存在感を放っている。

神裂「…………何だろう、一体。
    私にも、分かりません、こんなものが……」

ステイル「ああ、僕にも、さっぱり分からない。何なんだろうね、『コレ』は。
      魔力も何も感じないのに、何故か、不気味すぎる――――」


 両者は、『首』を前にして、口を噤んだ。
 謎のオブジェ。謎の生物。しかし、魔力は感じない。
 下手に手を出し難く、かと言って放置もし難い。

 神裂が、オブジェに手を伸ばす。
 特に理由があったワケでなく、ただ触れようとしただけだった。

 しかし、触れる直前で、その手は止まった。


神裂「――――残念ながら、お喋りはここまでのようですね」


ステイル「やれやれ、だ。本当に、底無しに出てくるね、コイツらは」


 いつのまにか、屍人の気配。
 数はさほど多くない。精々、三体か四体といったところか。

神裂「……ステイル、此処は、私一人が引き受けます」

ステイル「うん?」

神裂「さきほど少し話しましたが、私は先刻、上条当麻と此処で会っています」

ステイル「ああ、そう言えば、そんなことを言っていたね」

神裂「貴方は、彼の助太刀に向かってください」

ステイル「……僕が、よりによって、あの上条当麻(バカヤロウ)の助太刀に、だって?」

神裂「はい、或いはこの惨状を突破する手がかりが、あの『右手』にあるかも知れません。
    その為にも、彼には絶対に、死んで貰う訳にはいかない」

ステイル「――――まあ、ありえなくは無い考えだが」

神裂「お願いします、ステイル。私も必ず、後から追いかけます」

 一瞬の、沈黙。

ステイル「……分かったよ。行こう」

 それだけの短い返事を残して、ステイルはその場から走り去った。
 何も訊かず、何も謂わず、上条の下へ。

 走っていくステイルの後ろ姿に、神裂は最後に大声で呼びかけた。

神裂「ステイル! 最後に、一つだけ――――」

 それは、言うべきか、言わぬべきか、最後まで神裂が迷っていた、一つの憶測。
 確固たる証拠は無い、推測に推測を重ねただけの、不安定な結論。

 でも、多分それは正しいのだろう、と。
 神裂は、何故か、確信していた。

 朝の内からずっと、その胸に秘めていた、一つの思考。
 それは、つまり――――


 ステイルは、走りながら、数十秒前の神裂の言葉を思い返す。


  ――――この世界を変えてしまった、呪いの大源――――


 雨は止まない。
 次第に強くなってきてさえいる。
 しかし雨避けの呪(マジナ)いをかけたステイルの身体は、赤い雨を一滴も寄せ付けない。


  ――――全ての異変の原因は、恐らく――――


 それでも、ステイルの身体はじっとりと濡れている。
 身体の内から出る冷や汗が、コートの中で湿気となってべとついていた。


  ――――禁書目録(インデックス)――――


 ステイルは走る。
 その心に、一人の少女を想いながら。
最終更新:2010年11月07日 05:53
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