禁書0:00:00  >  第七学区

異形の神。堕ちた魚。
 この世の理を超ゆるモノ。闇那基の欠片。
 終わらない世界。繰り返す絶望。
 全てを呪う呪い。総てを祟る祟り。

 サイレンの音。堕辰子の声。



 ―――ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ―――



       サ イレ  ン    ガ  キコ    エル      ――――



 『それ』は、世界を丸ごと包み込むようにけたたましく、少女の頭の中に鳴り響いていた。

 少女の頭の中にだけ、鳴り響いていた。


 学園都市、第七学区。
 上条当麻の住まう、安アパートの一室で。
 イギリス清教の誇る魔道図書館『禁書目録』は、一人、その『音』を聴いていた。

 その『音』に、蝕まれていた。



 ―――ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ―――



 ――――『天地救之伝』と呼ばれる、一冊の『原典』がある。

 それは一冊の『邪本』であり、一冊の『聖典』であり、一冊の『魔道書』であり――――、一冊の『絵日記』である。
 始まりと終わり、アルファとオメガ、因と果を記した物語。
 人ならざる者の肉を食み、常世の呪いを受けた一人の少女が綴った、物語。

 巡り廻る世界の反復を経て、その呪の書は、今、一人の少女の記憶に封じられている。
 その他十万と三千の魔本と共に、禁書目録に綴じられている。

 それは、ただそこに在るだけでは、何の異常も異能も持たない『原典』。

 しかしその『原典』は、正にたった今、その本来の『呪い』を解き放っていた。
 上条当麻が、何気なく『拾って』きた、とあるモノに、呼び起こされるように。


 十万三千冊の原典を収める『禁書目録』という特異。
 十字教の『信仰』と言う名の防壁。
 それらは、決して弱くない。

 しかしそれらを以てしても尚、その呪いを、その祟りを、抑え込むことは出来なかった。


 禁書目録は。
 十万三千冊の汚濁をその内に抱えた魔神は。

 たった一冊の『原典』により、その精神を完膚なきまでに殺し尽くされた。
 たった一匹の『神』により、その全てを絡め取られ、祟り尽くされた。


 禁書目録の目には、もう何も映らない。
 何も感じない。何も想わない。何も言わない。何も聞かない。何も、できない。


 いつかどこかで、一人の少女が願った。
 絶望を繰り返し、悲劇に生き続けた少女は。
 ただ一つの目的を、たった一つの目的を、果たす為だけに。
 『彼女』の願いは―――――。




 ―――― コ ■  呪 ■    ヲ       解  ■  テ 。


全てはこれより動き出す。

 形を得た呪いは世界を歪め、終わらない物語が始まっていく。

 神の花嫁にして呪の祭祀。インデックス。
 捧げられた神体。首。
 異形の住まう街。学園都市。

 その全てが、まるで仕組まれていたかのように作用して、原初の呪いを再現する。

 人を変貌させる、赤い水。
 神の成り損ない、屍人。
 街中に鳴り響く、サイレン。
 永遠に廻る、円環の世界。

 ――――――、堕辰子。




 ―――ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ―――



 そして、サイレンの音が―――――
最終更新:2011年05月05日 12:26
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