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上条8:23:52

学園都市内での『成績』は、主に能力の強度、学力、その他の特殊技能等を元にして掲出される。
 中でも重要なのは、言わずもがな、脳開発で得た超能力の強大さ。
 より強力で、より特殊な能力を持つ学生が、『成績優秀』として評価されるのである。


 当然ながら、その『成績優秀者』を集めたエリート校も存在する。
 例えば、御坂美琴の通う『常盤台中学』や、学園都市の5本指にも数えられる『長点上機学園』、『霧ヶ丘女学院』など。
 そして、それらエリート校が集中して本拠を構えるのが、第十八学区。
 現在、上条当麻が走り回っている学区である。


上条「ぜっ、ぜっ……ぐ、のっ、結局、知り合いにゃ、誰一人、会わなかったな……」


 上条が大きく息を切らしているのは、自宅のある第七学区からここまで、走り通しでやってきたからだ。
 初めは公共の交通機関を使おうとも思ったのだが、電車もバスもタクシーも、全く運行していなかった。
 学園都市内の公共交通機関はほとんど機械化されているため、運転手などの業務員は必要ない。
 システム自体に何らかの異常が起きているか、学園都市側が強制的にストップさせたか、どちらかである。


上条「……にしても、一体、皆どうなっちまってんだよ……?」


 上条は、第七学区から第十八学区まで来る間に、フードを持っていた少年のように、顔から血を流して虚ろな目をした人間を何人も見かけた。
 というより、見かけた人が全て、そうだった。
 なるべく見つからないように、時には物陰に隠れてやり過ごし、時には正面から全力疾走で振り切って、ここまでやってきた。


 更に言えば、強力な銃器を持った警備員(アンチスキル)までもが、おかしくなっていた。
 上条の右手が打ち消せるのは、『異能の力』だけ。
 銃器を使って襲ってくる人間には、到底勝ち目はない。


 必死の思いで辿り着いた十八学区だが、インデックスに関する手掛かりも、今の状況を理解する手掛かりも、何も得られていなかった。


上条「くそっ!」


 上条は思わず舌打ちをして、近くの電柱に拳を打ちつける。


 右拳。あらゆる異能を打ち消す、幻想殺し(イマジンブレイカー)。
 けれど、今の状況を打開する為に、この右拳で、一体何を殴ればいいのだろうか。


上条「………ん?」


 その時、上条の数十メートル先の道路を、よく知った姿が横切るのが見えた。


上条「あれは、美琴!」


 御坂美琴。
 『超能力者(レベル5)』の一人、『超電磁砲(レールガン)』の能力者。
 上条とは、とある『実験』に関する事件を経て以来、友人のような関係だ(と上条は思っている)。


上条(そうか。常盤台中学も十八学区の学校だったっけ。
    何か、必死に走ってる感じだったな……。
    それに今アイツ、右肩を押さえながら走ってたような……)


 上条は考える。
 周囲には、顔から血を流す警備員(アンチスキル)が増えてきている。
 加えて、第十八学区は『エリート』の集まる学区だ。
 当然、能力の強さも、低くて強能力者(レベル3)、下手をすれば超能力者(レベル5)すら出てくる可能性もある。


 安全を考えて、インデックスの手掛かりを効率よく探るなら、なるべくこの学区は離れた方が良いのではないだろうか。


上条(……)


→1、御坂の後を追いかける
2、御坂は放っといて、学区外へ出る


終了条件2:『青髪ピアス』を倒す


 考える。
 御坂美琴は、電気を操り、雷さえも呼び起こす力を持った能力者だ。
 たった一人で、最新装備の軍隊一個大隊と渡り合えるほどの力を持った、学園都市第三位の超能力者。


 ―――でも、たった十四歳の女の子でもある。


上条(……もしかしてアイツ、誰かに襲われて怪我でもしてるんじゃ……)


 走っていた御坂の表情は、離れていた上条には分からない。
 本当に怪我をしているのかどうかも分からない。
 でも、もし、御坂美琴が誰かに突然襲われて、負傷して、必死に逃げ回ってる途中なのだとしたら。
 『あの時』と同じように。誰かの助けを待ってるんだとしたら。


 上条当麻は、そんなことは見逃せない。


 上条は、街中に消えていった御坂の後を追って走り始めた。


上条(まあ、無事なら無事でいいんだし、それに美琴もインデックスとは知り合いだから、もしかしたらどっかで見かけてるかもしれねーしな!)


勿論、あまり大声で呼びかけたりすると、周りの『操られている』人たちに気付かれてしまう。
 なるべく他人に見つからないように、それでも出来る限り速く。
 上条は走った。


上条(ってか大覇星祭の時も思ったけど、アイツ走るの速くねー?
    ……って、どこいった!? やべ、見失った!)


 いくら自分も疲れているからとは言え、十四歳の女子中学生(もしかしたら怪我人)に走り負けるという事実を、
 上条は認められない。


上条(ぐ……ちくしょ、こっちに行ったのは分かってんだ、思いっきり走れば見つかるだろ!)


 上条は疲れた体に鞭打って、無理矢理速度を上げる。
 とっくに息は切れ、脚もフラフラするが、しかし上条にとってこんなことは日常茶飯事でもある。


 それでも、上条は気がつくべきだった。
 背後から近付いてくる足音に。


  ごがっ


上条「!?」


 軽い音がして、上条の身体が前方に強く押し飛ばされる。
 前傾姿勢で疾走していた上条は、当然姿勢を保てる訳もなく、地面に叩きつけられて、ごろごろ転がっていく。


上条「っ、なん、だ!?」


 辛うじて受け身を取れたお陰で、怪我はほとんど無かったが、背中にまだ衝撃の余韻が残っている。
 誰かから攻撃を受けた、と考えるまでもなく、上条は立ち上がり、背後へ向き直った。


上条「―――――お、まえ」


 そこに居たのは、これまたよく見知った顔だった。


 ただでさえ大した能力も無い人間を集めた上条の高校のクラスの中で、
 更に上条と並んで『クラスの三バカ(デルタフォース)』と称される、落ちこぼれの一人。


 漫画のような青髪に、不良ぶったピアス。
 人のよさそうな笑顔と、線の細い体。
 関西人が聞いたら耳に障りそうなエセ関西弁。


 その『アイツ』が、そこにいた。


青ピ「かぁーみ、やぁーん♪」


 顔から、ドロドロと、血を流して。


上条「――――」


 上条は、何も言えなかった。
 あの少年を見たときもそうだったが、今度はそれ以上に。


 『一般人が』『操られている』。上条は、先ほどそう考えた。
 ならば、上条の知り合いもまた、同様に操られている可能性があるのは、自明の事だ。
 この、青髪ピアスのように。


上条「――――ぁ、て」


青ピ「へ、へへへへ、かみやぁぁ~~~ん♪
   かみ、かみ、かみ、かぁみやんんんんん♪」


 青髪ピアスは、楽しそうに笑いながら、上条に歩み寄る。


 そういえばコイツは、肉体強化能力の無能力者(レベル0)だったっけ。
 だから、後ろから俺に追いついてきたのか。
 多分、走ってきて、そのままドロップキックでもしたんだろう。


 上条の頭は、そんな無為な思考で埋め尽くされ、十分に機能していない。


青ピ「へ、へへへ、へへへへへへへへへへへ」


 青髪ピアスは笑っている。楽しそうに笑っている。


青ピ「かみやぁーん♪」


 楽しそうに、幸せそうに、笑いながら、言った。



青ピ「    た ノ  し   イ ナ   ぁ   ♪      」



上条「――――ッ」


 上条は、何も言わず、背中を向けて、逃げ出した。


上条(そんな、そんなそんなそんなやめろやめろよやめてくれなんだよそれなんなんだよこれ!)


 吐き気を抑えて。疲れも忘れて。走った。
 走って走って、逃げて逃げて、そのままどこかへ行ってしまおうと。


 でも、もう一度、背中に衝撃。
 もう一度、地面に転がる。


青ピ「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
    みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
    やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
    ん????????????」


 さっきと同じ。走っていて、追いつかれて、蹴り飛ばされた。
 じゃあ、走って逃げられる筈が無い。


上条「……っ……っ」


 上条は立ち上がれない。
 今度は、蹴り飛ばされて転がされるだけでなく、そのままマウントポジションにもちこまれていた。
 青髪ピアスの腕が、上条の首に伸びる。


 万力のような力で、上条の首が締めつけられる。
 あの少年の時と同じく、人間とは思えない力。


 操られている人は、どうやら力も多少強くなっているようだ。
 いや、青髪ピアスは肉体強化を使っているからだろうか。


 上条の思考は脱線する。
 何も考えたくなかった。



 昨日まで、普通に学校に行って、普通に馬鹿騒ぎをして、普通に遊んでいた、友人。
 いつも三バカ三バカと呼ばれて、何かと一緒につるむことも多かった。
 昨日も、夜遅くまで、担任の教師の自宅で、三人並んで特別補習を受けた。


 その友人が今、自分の首を容赦なく締めつけている。


上条「……が……っ……ぁ」


 名前を呼ぼうとするが、声が出ない。
 精神的にではなく、肉体的に、直接喉を締められているのだから。


 青髪ピアスは、笑っている。
 上条の首を締めながら、笑っている。


 ふと、目から流れる血の筋が、上条には涙を流しているようにも見えた。
 それでも、腕の力は緩まることなく、上条の意識を削っていく。


上条(………ぁ)



 そこで、上条はふと思った。



 御坂美琴。
 大の大人が100人まとめてかかっても敵わないであろう、『超電磁砲(レールガン)』の少女。
 彼女が、本当に怪我をしていたのだとしたら、その理由は何だったのだろう。


 警備員(アンチスキル)の銃器も、磁力の壁は突き破れない。
 学園都市第三位を傷付けられる能力者も、そうはいない。
 そもそも、銃器や能力を前にすれば、御坂美琴も警戒するし、それなりの防御行動はとるだろう。


 でも、もし。彼女が攻撃されたのが、彼女の友人だったなら。
 今、この瞬間の上条と同じように、親しい友人が、顔から血を流して襲ってきたのなら。


 御坂美琴は、学園都市第三位の超能力者。
 電気を操る、最強の電撃使い(エレクトロマスター)。


 ―――でも、たった十四歳の、女の子。


上条の拳に力が入る。


 上条の勘違いなのかもしれない。勘違いであってほしい。
 それでも、一度考えてしまうと、上条にはそれが許せないことに思われた。


 それは御坂美琴でなくともいい。学園都市に住む、ごく普通の学生、教師、その他の一般人でも構わない。
 親しい友人、家族、先生、生徒から、突然攻撃を受ける。
 殴られ、蹴られ、首を絞められる。
 それが、どれだけ惨いことなのか。どれだけ悲しいことなのか。


 そう考えるだけで、上条の拳は、硬く、硬く握り締められていた。


上条「……ぉ」


青ピ「?」


上条「――――ッッ!!!」


 硬く握った右拳を、青髪ピアスの頬にブチ込む。
 容赦はしない。できない。


 突然の反撃を受けた青髪ピアスの腕から、僅かに力が抜ける。
 それを見逃さす、左腕で青髪の右腕を掴んで引き剥がす。


上条「ごほぉっ! が、はっ、げほっ、げほっ!」


 呼吸が戻る。急な酸素供給で頭が揺れる。
 それに怯んでいる暇はない。
 頬を殴った右拳で、そのまま青髪の耳を掴み、目一杯引っ張る。


青ピ「アアァァァ~!?」


 耳を引っ張り、体勢を崩し、マウントの体勢から脚を抜く。
 そのまま脚に力を込めて、青髪の身体をひっくり返すように立ち上がる。


そしてそのまま、今度は上条が上になって、マウントポジションを取った。
 肉体強化とは言えど、所詮無能力者(レベル0)。
 完全にマウントを取ってしまえば、そうそう崩せはしない。


 上条は、再び右拳に力を込める。


上条「……悪い、必ず、俺が元に戻して見せる。
    だから、今はちょっと我慢してくれ」


 青髪の顔面を殴っても、耳を引っ張っても、やはり『何か』を破壊出来た感覚は無かった。
 人を操っている『何か』は、直接身体を触っても破壊出来ない類のモノなのだろう。


青ピ「 ア ァー」


 青髪は、一声呻いてから、


青ピ「    さ すガ は カ ミヤ  ン や ネ  」 


 ―――確かに、そう言って、笑っていた。


 上条は迷わない。


 全力を込めた右拳で、青髪の顔面を、真上から叩き伏せた。
 硬いコンクリートの路面に、青髪の後頭部を叩きつけるようにして。


 冗談みたいに、小さく、軽い音がして、青髪ピアスの少年は、動かなくなった。




        終了条件2(ミッションコンプリート)
最終更新:2010年11月07日 04:52
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