初春飾利と佐天涙子は、廃ビル二階の片隅で、恐怖と疲弊に耐えていた。
佐天「大丈夫だよ、初春……学園都市には強い人も一杯いるしさ、警備員(アンチスキル)だって、皆が皆ああなってるわけじゃないし……
それに、ほら、御坂さんだって絶対戻ってくるってば!」
自身もセミロングの黒髪を震わせながら、佐天は初春を懸命に励ます。
初春「……っ、っ……」
初春はそんな佐天の言葉を聞きながら、何とか涙を流すまいと堪えていた。
初春(そうだ……御坂さんも、白井さんも、私なんかとは比べ物にならないくらい強い人たちなんだから、きっと大丈夫。
だから、あの二人ともう一度会えるまで、私も何とか頑張らなくちゃ……!)
初春「佐天さんっ!」
佐天「えう!? ど、どしたの初春」
初春「……頑張りましょう! きっと、すぐに御坂さんたちが来てくれますよ!」
そう言って、初春は佐天の片手を、自分の両手で強く握った。
佐天の手は、震えている。
でもそれ以上に、初春の手も震えていた。
佐天「……ぷ」
その様子を見て、
佐天「あは、アハハハハ!」
佐天は、口を開けて笑った。
大きな笑い声が廃ビルの中に反響する。
初春「な、何がおかしいんですか佐天さん! というか、声大きいです、ボリューム下げてくださいっ!」
初春は慌てて佐天の口を手で塞ぐ。
それでも、佐天は初春の手の中で、尚も笑いを止めようとしない。
佐天「うくくくく、いやいや、ごめんね初春。なんかおかしくなっちゃってさ。
……うん、そうだよね。きっと、御坂さんも、白井さんも、来てくれるよね」
初春「……はい!」
そして、初春と佐天はお互いの手を、一層強く握った。
手の震えは、止まっている。
カツン、と誰かの足音が、ビル内に反響した。
初春「!」
佐天「!」
二人の身体が緊張で凝固する。
カツン、カツン。
高い音。女子中学生の二人がよく耳にする、革靴の足音だ。
初春「佐天さん、これって……」
佐天「シッ! 静かにっ」
足音は段々と、階段を上って近付いてくる。
二人は、いつでも逃げ出せるよう、立ち上がって構えておく。
足音は、階段を登りきって、二階へやってきた。
そして、フロア部分の入口で立ち止まる。
沈黙。激しい雨音が、ビル壁を叩く音だけがこだまする。
そして。
美琴「佐天さぁーん、うーいはーるさーん?」
初春「……ぁ、御坂、さんだ」
二人の身体から、一気にこわばりが抜けた。
初春は安堵のあまり、泣き出しそうな顔で腰を抜かしている。
佐天は、すぐさま足音の元へ駆けていった。
佐天「御坂さんっ! 無事だったんで―――」
美琴「 ア゛ は ♪」
そこで佐天が見た、御坂の顔は――――
―――ォォォォオオォォ―――
数分後。
サイレンのような音が、学園都市中に鳴り響く中。
御坂は、十八学区の街路を歩いていた。 雨に濡れるのも、まるで気にせずに。
いつもの通学路を歩いていた。
いつもの道を、いつものように、歩いていた。
ふと、御坂の視線の先で、一人の男子学生が街路を走って行った。
ツンツンの黒髪が、雨に濡れて萎れている。相変わらず、目つきが悪い。必死に何かを探している様子だ。
その顔に、御坂はイヤと言うほど見覚えがある。
御坂は、その少年を見て、笑った。いつもとは違って、嬉しそうに、笑った。
赤い液体を顔から垂れ流し、幸せそうに、笑った。
美琴「 あは うふ うふふ とぉま とぉま かみ、じょー?
うふ うふふふふふふふふふふふふふふふ」
―――ォォォォオオオオオォォォォ―――
三度目のサイレンが、雨音を掻き消すように、学園都市に響き渡っていた。
最終更新:2010年11月07日 05:25