深夜の第七学区。人影も少なくなってきた小道を、三人の少年が歩いていた。
一人は、ツンツン頭で目つきの悪い少年。
一人は、金髪サングラスにアロハシャツの少年。
一人は、青髪ピアスの関西弁の少年。
上条「だぁーっ! ったく、こんな時間まで補習とは、ホント俺ってば勉強熱心だなぁもう!」
土御門「補習っていう時点で全然勉強熱心じゃないのは明らかだけどにゃー」
上条「いやまあそうなんだけどさ。それ言ったら悲しくなるからやめてくれマジで」
三人は、ぎゃあぎゃあと他愛のない事を喋りながら、並んで歩く。
青ピ「まあボクとしては小萌先生とこんな時間まで一緒やなんて、夢のようやったけどね!」
土御門「お前は実際夢の世界に半分足突っ込んでたしにゃー」
頭上には雲一つ無い一面の星空と、光る銀の月。
少し肌寒い夜の空気を感じながら、三人は歩き続ける。
青ピ「じゃあボクはこっちやから」
一人、住居を異にする青髪ピアスが道を別れ、闇の中へと消えていった。
残った二人、上条当麻と土御門元春は、同じ寮の隣人同士であり、当然、同じ家路を辿っていく。
上条「にしても、最近は魔術師関連の事件とか何も無くて助かるぜ」
土御門「そういうこと言ってると、突然アホな魔術師が攻めてきたりするんだにゃー。
気を付けることに越したこたぁないぜい?」
上条「……いやいや、冗談でもキツいから、やめてホントそういうの。
平和が一番だってことはもう十分理解してるんですよ、ボクは!」
土御門「襲撃に備えて体を鍛えたりとか」
上条「毎日インデックスさんの相手するだけで上条当麻のレベルは上がり続けてるんだよ……
これ以上鍛えたりしたらあっという間にレベル99(カンスト)しちまうぞ」
どうでもいい会話。何でもいい言葉。
二度と交わせなくなる声とは知らず、二人は歩いていく。
そんな平凡な日常。
そんな平和な風景。
その中に。その途中に。
不自然なモノが、あった。
上条「ん?」
土御門「にゃ?」
綺麗に舗装された道の端に、何かが落ちている。
大きさにして四方およそ二十センチほどの物体。
ゴミの入った袋のような、ともすれば無視してもおかしくない程度のもの。
だが、何故か上条は、その物体に目を惹き付けられた。
上条「……?」
近付いてよく見てみると、それは、奇怪なオブジェだった。
一言で表すなら、生物の頭部を模した、精巧なオブジェ。
しかし、それが一体何の生物なのか、上条には分からなかった。
魚のような、鳥のような、竜のような――或いは、人のような――不思議な生物に、見える。
上条「何だ、これ?」
土御門「……カミやん、あまり迂闊に触らない方がいいかもしれんぜい?」
上条「どういうことだよ?」
土御門「いや、何かこう、不気味な置物だと思ってにゃー……」
土御門は、今でこそ力を失っているが、元々は世界でも有数の陰陽師。
『魔術的な要素を全く感じない』置物に、しかし全く別の『何か』を感じる事ができたのは、そのおかげだろう。
その言葉を聞いて、しかし上条は、ゆっくりと、そのオブジェに手を伸ばしていく。
土御門「おい、カミやん!」
上条「何か怪しいモノだってんなら、そんなのを放っとくワケにもいかねえだろ。
異能に関係するモノだったら、俺の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』でブチ壊せる」
そして、上条の右手が、『幻想殺し』が、そのオブジェに、触れた。
上条「…………何も、起こらないな」
土御門「……ああ」
謎のオブジェは、ヒビ一つ入る事なく、そこに在った。
一振りで地を抉る聖剣も、大聖堂級の防御力を持つローブも、触っただけで打ち壊す、『幻想殺し』。
それに触れて何の影響も無い魔具など、有り得ない。
土御門(ふむ、てっきり何らかの魔術的な要素を含んだ物品かと思ったが……
カミやんの右手に反応しないところを見ると、本当にただの置物なのか?)
土御門の予想は、概ね正しい。
確かに、今この時点で、そのオブジェは、ただの置物であり、何の魔術的要素も持たないモノだ。
しかし、例えば。
魔術を行使するのに必要なモノは、必ずしも魔力を帯びた物とは限らない。
陽の滴で練成された水晶の魔杖で発動した魔術は、透明ビニール製の日傘でも発動できるかもしれないのだ。
幻想殺しが水晶の魔杖を打ち壊したとしても、何の変哲も無いビニール傘を打ち壊せるだろうか?
黒トカゲの尻尾を十年炙り続けて作った灰で行う儀式があったとして、では上条の右手は黒トカゲの尻尾を打ち砕けるだろうか?
魔術の行使中や、儀式の最中ならば、打ち壊せるかもしれない。
だが、コンビニで購入した日傘なら、黒トカゲの死体から引っこ抜いた尻尾なら、そうはいかないだろう。
つまり、そのオブジェ――――その『首』も、そういう類のものだった。
『首』は、紛う事無く、とある生物の首ミイラだった。
何の変哲もない、とある異形の、屍体だった。
そこには何の魔力も、何の人為もない。
故に、上条の右手では、それは打ち壊せなかった。
ただそれだけの話だったのだ。
上条「……」
上条は、その首をじっと見つめる。
何故か、目が離せなかった。
何の魔術の素養もなく、能力的な超感覚も持たない上条だったが、しかし、その首に何故か見入ってしまった。
魅入られて、しまった。
上条「……ちょっと、持って帰ってみるか。インデックスにお土産ー、とか言って」
そんな言葉を、何気なく上条は口にした。
それがどんな意味を持っているのかすら、解らないまま。
これより約三十分の後。
誰にも聞こえない、始まりのサイレンによって、学園都市は変異する。
そして恐らく、この時の上条の気まぐれこそが、この異変の始まりであり、この異変の終着点だったのだ。
かくして、少年の意志は次なる輪廻を生み、虚母ろ主の輪は完成を迎える。
閉じられた世界は二度と開くことは無く、永遠に廻り続ける――――
The End.
最終更新:2010年11月07日 05:32