(始まりのパルフェ)

更新日:2020/01/15 Wed 08:41:21
ここはとある場所にある一軒の家の中。
少女は住み慣れた部屋を見渡した。いつも使っている木のテーブルやイス。使い慣れたキッチンやお気に入りの本まで、今日は全てが違って見えた。
黒と白に分けられた髪を肘あたりまで下ろし、不安げな赤い瞳でこの世界を見つめる。
少女の名前が呼ばれ、駆け出した。
白と黒の翼が不安げに空を切る。赤い脚が床を蹴る音が部屋に響き、消えた。
少女は自分を呼ぶ声の元まで走る。
「モーゼフ!」
「お嬢ちゃん」
少女を呼んでいたのは、長年共に過ごした世話役のモーゼフだった。
モーゼフはどこにでもいるような小太りの男である。下半身が山羊で、頭からネジ曲がった角が生えている事を除けば。
「お母さんがいらっしゃいますよ」
モーゼフの言葉に、少女は目をキラキラさせながら辺りを見渡す。
風が動き、一人の女性が姿を現した。
「アンコ、ハロハロ♪」
「お母さん!」
少女の声に、少女と同じような黒い翼を持った、やや露出度の高い服を着た女性がほほ笑む。
「モーゼフから聞いたわよ、今日からお仕事だって?」
少女は年相応の幼い口調で返した。
「うん、アルバイトだけどね」
「仲良くなれそうな子はいた?」
「まだ分かんないよ…でも、面接の時にあった緑色のお姉さんは優しそうな人だった」
母は満足げににっこりし、娘を励ますかのように抱き寄せる。
「大丈夫。あんたなら直ぐに友達が出来るわ」
「でも、今まで友達なんていなかったし」
傍にいたモーゼフが少し悲しそうな顔をするのが見えたので、少女は吹き出した。
「あなたは別よモーゼフ。大切な親代わりだもの。同年代の友達が出来るかどうかが不安なの」
モーゼフのガッツポーズを尻目に、母は少女に語りかけた。
「あなたが不安なのは、周りと触れ合えなかったから。でも力が制御出来るようになったから、これからはきっと大丈夫よ」
母はもう一度娘をキツく抱きしめた。
「友達と仲良くする方法、なんだと思う?」
母の問いに、少女は言葉が詰まった。暫く考えて、ようやく口を開く。
「愛想笑い、褒める、同意する。この三つかな」
「楽しければ心から笑う。凄いと思ったら讃える。間違った事なら否定する。正解はこの三つよ」
母はそう言って長い指で娘の頭をチョンと小突き、額にキスをして離れた。
少女は飛ぶ態勢を整える。
「ぅぅお嬢ちゃん。立派になって…」
「モーゼフったら、アルバイトが終わったらすぐ帰ってくるって」
感極まって泣く親代わりの様子を見て、少女はクスクス笑った。
そして少女は、白と黒の翼を広げ、赤い足で大地を蹴り、空に舞い上がった。
「美味しい赤飯とぜんざい作って待ってますよ」
(やった!ぜんざいだ!)
モーゼフの言葉に、少女は苦笑いしながらも心躍った。
「それじゃあ、行ってきなさい。アナスターシャ」
母の優し気な声が、耳に届く。
「うん、いってきます」
少女は、長い髪をたなびかせながら、モノクロの翼で空を翔けるのであった。
少女は住み慣れた部屋を見渡した。いつも使っている木のテーブルやイス。使い慣れたキッチンやお気に入りの本まで、今日は全てが違って見えた。
黒と白に分けられた髪を肘あたりまで下ろし、不安げな赤い瞳でこの世界を見つめる。
少女の名前が呼ばれ、駆け出した。
白と黒の翼が不安げに空を切る。赤い脚が床を蹴る音が部屋に響き、消えた。
少女は自分を呼ぶ声の元まで走る。
「モーゼフ!」
「お嬢ちゃん」
少女を呼んでいたのは、長年共に過ごした世話役のモーゼフだった。
モーゼフはどこにでもいるような小太りの男である。下半身が山羊で、頭からネジ曲がった角が生えている事を除けば。
「お母さんがいらっしゃいますよ」
モーゼフの言葉に、少女は目をキラキラさせながら辺りを見渡す。
風が動き、一人の女性が姿を現した。
「アンコ、ハロハロ♪」
「お母さん!」
少女の声に、少女と同じような黒い翼を持った、やや露出度の高い服を着た女性がほほ笑む。
「モーゼフから聞いたわよ、今日からお仕事だって?」
少女は年相応の幼い口調で返した。
「うん、アルバイトだけどね」
「仲良くなれそうな子はいた?」
「まだ分かんないよ…でも、面接の時にあった緑色のお姉さんは優しそうな人だった」
母は満足げににっこりし、娘を励ますかのように抱き寄せる。
「大丈夫。あんたなら直ぐに友達が出来るわ」
「でも、今まで友達なんていなかったし」
傍にいたモーゼフが少し悲しそうな顔をするのが見えたので、少女は吹き出した。
「あなたは別よモーゼフ。大切な親代わりだもの。同年代の友達が出来るかどうかが不安なの」
モーゼフのガッツポーズを尻目に、母は少女に語りかけた。
「あなたが不安なのは、周りと触れ合えなかったから。でも力が制御出来るようになったから、これからはきっと大丈夫よ」
母はもう一度娘をキツく抱きしめた。
「友達と仲良くする方法、なんだと思う?」
母の問いに、少女は言葉が詰まった。暫く考えて、ようやく口を開く。
「愛想笑い、褒める、同意する。この三つかな」
「楽しければ心から笑う。凄いと思ったら讃える。間違った事なら否定する。正解はこの三つよ」
母はそう言って長い指で娘の頭をチョンと小突き、額にキスをして離れた。
少女は飛ぶ態勢を整える。
「ぅぅお嬢ちゃん。立派になって…」
「モーゼフったら、アルバイトが終わったらすぐ帰ってくるって」
感極まって泣く親代わりの様子を見て、少女はクスクス笑った。
そして少女は、白と黒の翼を広げ、赤い足で大地を蹴り、空に舞い上がった。
「美味しい赤飯とぜんざい作って待ってますよ」
(やった!ぜんざいだ!)
モーゼフの言葉に、少女は苦笑いしながらも心躍った。
「それじゃあ、行ってきなさい。アナスターシャ」
母の優し気な声が、耳に届く。
「うん、いってきます」
少女は、長い髪をたなびかせながら、モノクロの翼で空を翔けるのであった。
この少女、名前はアナスターシャ。あだ名はアンコ。
今日から本とお菓子の喫茶店『オウマがトキ』で働く娘だ。
「アナスターシャ」
空を行くアンコに話しかけたのは、一羽の白鳥だった。アンコには、その白鳥に見覚えがあった。
「え、お父さん?」
アンコは驚いた。父が自分に会いに来てくれるなんて。
「お前の内定祝いだ。持っていきなさい」
白鳥が咥えていた物は、赤いリボンだった。
「お前の成功を祈っているよ」
白鳥に姿を変えていた父は、一瞬だけアンコと同じ白い翼を持つ男性の姿に戻り、リボンを娘に渡して離れた。
「ありがとう!」
アンコはその赤いリボンで髪を二つのお団子にし、お礼を言った。
アンコの姿を見た父は少しだけ微笑むと、直ぐに厳格な様子に戻り、娘に激励を飛ばした。
「よし、どこまでも行ってこいアナスターシャ!」
「はい喜んで!」
アンコはその父の言葉を受け、より一層高く、早く飛ぶのだった。
今日から本とお菓子の喫茶店『オウマがトキ』で働く娘だ。
「アナスターシャ」
空を行くアンコに話しかけたのは、一羽の白鳥だった。アンコには、その白鳥に見覚えがあった。
「え、お父さん?」
アンコは驚いた。父が自分に会いに来てくれるなんて。
「お前の内定祝いだ。持っていきなさい」
白鳥が咥えていた物は、赤いリボンだった。
「お前の成功を祈っているよ」
白鳥に姿を変えていた父は、一瞬だけアンコと同じ白い翼を持つ男性の姿に戻り、リボンを娘に渡して離れた。
「ありがとう!」
アンコはその赤いリボンで髪を二つのお団子にし、お礼を言った。
アンコの姿を見た父は少しだけ微笑むと、直ぐに厳格な様子に戻り、娘に激励を飛ばした。
「よし、どこまでも行ってこいアナスターシャ!」
「はい喜んで!」
アンコはその父の言葉を受け、より一層高く、早く飛ぶのだった。
夕暮れより少し前、午後三時頃、アンコは『オウマがトキ』に到着した。
裏口の呼び鈴を鳴らすと、青い身体をした不機嫌そうな少女が中から出てくる。
「あなたがアルバイトさん?」
「は、はいそうです」
アンコは、この少女の気迫に押されそうになりながら言った。
アンコを中に招き入れた少女は、色々と指差しながら指示を出してくる。
「あそこがキッチン。あっちで着替えて、ミューティングで自己紹介してもらうから、直ぐに来て。あ、何もかも手をつける前に手を洗う事!」
「は、はい喜んで!」
アンコは厳しそうな先輩に、内心涙目になりながら返事をするのだった。
裏口の呼び鈴を鳴らすと、青い身体をした不機嫌そうな少女が中から出てくる。
「あなたがアルバイトさん?」
「は、はいそうです」
アンコは、この少女の気迫に押されそうになりながら言った。
アンコを中に招き入れた少女は、色々と指差しながら指示を出してくる。
「あそこがキッチン。あっちで着替えて、ミューティングで自己紹介してもらうから、直ぐに来て。あ、何もかも手をつける前に手を洗う事!」
「は、はい喜んで!」
アンコは厳しそうな先輩に、内心涙目になりながら返事をするのだった。
「アナスターシャ・デビルケーキです。調理を担当させて頂きます。よろしくお願い致します」
アンコは深々と頭を下げた。
「わ~!ふわふわでかわいい!チャイナ服も似合ってる!」
元気一杯な、頭のてっぺんから爪先まで、全身ピンク色の女の子がアンコの手を取った。
「私、プラム・ロリポップだよ!よろしくね!アナスターシャ!」
黒の中にあるピンク色の瞳が、興味深そうにアンコを見つめてくる。
「よろしくお願いします。あの、アンコって呼んで頂けると嬉しいです」
「え、どうして?」
「そ、それは・・・」
プラムの純粋な疑問の声に、アンコは言葉が詰まった。初対面の人に話すような内容ではない。
「こらこら~♪アンコさん困ってるでしょ♪」
間に入ってくれたのは、全身がエメラルド色の、おっとりした雰囲気の人だ。アンコは、この人と一度会ったことがある。
「メローナさん、あの・・・面接の時はありがとうございました」
アンコのお辞儀に、メローナはニコニコしながら告げた。
「いいのよ♪アンコさんの気持ちも分かるし。あ、それでね、ここにいる子達、皆私の妹なの♪どうか仲良くして頂戴ね♪」
「はい!喜んで!」
アンコは深々と頭を下げた。
「わ~!ふわふわでかわいい!チャイナ服も似合ってる!」
元気一杯な、頭のてっぺんから爪先まで、全身ピンク色の女の子がアンコの手を取った。
「私、プラム・ロリポップだよ!よろしくね!アナスターシャ!」
黒の中にあるピンク色の瞳が、興味深そうにアンコを見つめてくる。
「よろしくお願いします。あの、アンコって呼んで頂けると嬉しいです」
「え、どうして?」
「そ、それは・・・」
プラムの純粋な疑問の声に、アンコは言葉が詰まった。初対面の人に話すような内容ではない。
「こらこら~♪アンコさん困ってるでしょ♪」
間に入ってくれたのは、全身がエメラルド色の、おっとりした雰囲気の人だ。アンコは、この人と一度会ったことがある。
「メローナさん、あの・・・面接の時はありがとうございました」
アンコのお辞儀に、メローナはニコニコしながら告げた。
「いいのよ♪アンコさんの気持ちも分かるし。あ、それでね、ここにいる子達、皆私の妹なの♪どうか仲良くして頂戴ね♪」
「はい!喜んで!」
アルバイト初日は、厨房にある道具の場所や、店の一日の流れを覚える事になった。
店の入り口から如何にもマフィ・・・やくざっぽい強面の二人組が入ってきた時はヒヤリとしたが、メローナの知り合いだと知って驚いた。
「アニキ!このサンデー、苺がこんなにたっぷり入ってますぜ!」
「克夫克夫克夫、だからお前はマザコンなんだよ」
他にも、オウマがトキには色んな人がやって来ていた。
「今日はのじゃ猫ちゃんお休みカ、ちょっとさみし・・・いや、寂しくないゾ」
「落ち込むな妹よ。・・・俺の苺やるから」
仲の良い兄妹や家族、お一人様。変な人まで、色んな人が来店していた。
「お姉ちゃん!このケーキすっごく美味しいよ!」
「本当?!私もそっちにしとけば良かったかな~」
「旭、私のケーキ一口あげるわ」
「え、本当?お母さん大好き!」
店の入り口から如何にもマフィ・・・やくざっぽい強面の二人組が入ってきた時はヒヤリとしたが、メローナの知り合いだと知って驚いた。
「アニキ!このサンデー、苺がこんなにたっぷり入ってますぜ!」
「克夫克夫克夫、だからお前はマザコンなんだよ」
他にも、オウマがトキには色んな人がやって来ていた。
「今日はのじゃ猫ちゃんお休みカ、ちょっとさみし・・・いや、寂しくないゾ」
「落ち込むな妹よ。・・・俺の苺やるから」
仲の良い兄妹や家族、お一人様。変な人まで、色んな人が来店していた。
「お姉ちゃん!このケーキすっごく美味しいよ!」
「本当?!私もそっちにしとけば良かったかな~」
「旭、私のケーキ一口あげるわ」
「え、本当?お母さん大好き!」
それから少しだけ調理をさせてもらえる事になった。
「パフェ一人前です!」
「了解」
黄色の女の子の声に、オレンジの女の子が呼応した。
パフェグラスの底にイチゴジャムを塗り、コンフレークを入れ、その上にアイスディッシャーで掬ったバニラとチョコのアイスを一つずつ落とす。
プリン、旬の果物を乗せてストロベリーソースをかける。
仕上げにブルーベリー、ミント、サクランボを飾り付けて完成。
「なかなか手際いいじゃんだって」
オレンジ色のマーマレードが、末の妹のピオーネの言葉を代弁するかのように呟いた。
しかし、アンコは緊張のあまりよく聞いていなかった。今までモーゼフ以外の人に食事を振舞ったことは無いのだ。
「パフェ一人前、出来上がりました」
「はぁ~い♪」
アンコの緊張を払拭するかのようにメローナが柔和にほほ笑んだ。
メローナの手によって運ばれていくアンコが作ったパフェ。
アンコはその行方を見守った。
メローナの足が止まる。
姿ははっきり見えないし、声もよく聞こえなかったが、お客さんはどうやら喜んでくれたようだ。
ホッとしていたら、すかさずマーマレードに怒られてしまった。
「ほら、そんな所でボーっとしてないで、このゴミ捨ててきて」
迷惑そうに果物の皮やら卵の殻やらが入った袋を渡され、アンコはドキッとした。
「は、はい喜んで!」
「パフェ一人前です!」
「了解」
黄色の女の子の声に、オレンジの女の子が呼応した。
パフェグラスの底にイチゴジャムを塗り、コンフレークを入れ、その上にアイスディッシャーで掬ったバニラとチョコのアイスを一つずつ落とす。
プリン、旬の果物を乗せてストロベリーソースをかける。
仕上げにブルーベリー、ミント、サクランボを飾り付けて完成。
「なかなか手際いいじゃんだって」
オレンジ色のマーマレードが、末の妹のピオーネの言葉を代弁するかのように呟いた。
しかし、アンコは緊張のあまりよく聞いていなかった。今までモーゼフ以外の人に食事を振舞ったことは無いのだ。
「パフェ一人前、出来上がりました」
「はぁ~い♪」
アンコの緊張を払拭するかのようにメローナが柔和にほほ笑んだ。
メローナの手によって運ばれていくアンコが作ったパフェ。
アンコはその行方を見守った。
メローナの足が止まる。
姿ははっきり見えないし、声もよく聞こえなかったが、お客さんはどうやら喜んでくれたようだ。
ホッとしていたら、すかさずマーマレードに怒られてしまった。
「ほら、そんな所でボーっとしてないで、このゴミ捨ててきて」
迷惑そうに果物の皮やら卵の殻やらが入った袋を渡され、アンコはドキッとした。
「は、はい喜んで!」
店の勝手口にあるゴミ捨て場に行くと、先客がいた。
真っ赤な身体にチョコやキャンディのアクセサリー。黒の中にある赤の瞳が、アンコの姿を捉えた。
「ん?あ~新人じゃないか。名前はたしか・・・」
「アンコです。えっと、ストロベリーさん」
「あははは、あたいはアイベリー。アイベリー・ロリポップだぜ。まあお互いゆっくり覚えていこうじゃないか」
アイベリーは背伸びして、空を少し見上げてから聞いてきた。
「初めての仕事はどうだ?」
「大変でした。凄く緊張したし、マーマレードさんには怒られるし・・・でも私の作ったパフェを食べてもらえて良かったですよ」
「そうか」
アイベリーは満足そうに頷いた。
「マーマレードはいまいちノリが悪いからな・・・まあ気にすんな。悪いやつじゃない。あ、そうだ。所でお前、アップルパイ作れるか?」
アンコは得意気に胸を叩く。
「はい!得意ですよ!初めて作ったのもアップルパイでしたし」
「よし!それじゃ今から作ってくれないか?作りおきがあった筈なんだが、無くなってたんだよ」
アンコの耳に、何故か猫の鳴き声が聞こえた気がした。
真っ赤な身体にチョコやキャンディのアクセサリー。黒の中にある赤の瞳が、アンコの姿を捉えた。
「ん?あ~新人じゃないか。名前はたしか・・・」
「アンコです。えっと、ストロベリーさん」
「あははは、あたいはアイベリー。アイベリー・ロリポップだぜ。まあお互いゆっくり覚えていこうじゃないか」
アイベリーは背伸びして、空を少し見上げてから聞いてきた。
「初めての仕事はどうだ?」
「大変でした。凄く緊張したし、マーマレードさんには怒られるし・・・でも私の作ったパフェを食べてもらえて良かったですよ」
「そうか」
アイベリーは満足そうに頷いた。
「マーマレードはいまいちノリが悪いからな・・・まあ気にすんな。悪いやつじゃない。あ、そうだ。所でお前、アップルパイ作れるか?」
アンコは得意気に胸を叩く。
「はい!得意ですよ!初めて作ったのもアップルパイでしたし」
「よし!それじゃ今から作ってくれないか?作りおきがあった筈なんだが、無くなってたんだよ」
アンコの耳に、何故か猫の鳴き声が聞こえた気がした。
厨房に戻り、アップルパイを作る支度をする。
マーマレードやピオーネには、アイベリーが説明してくれた。
熟した林檎を手に取り、流水で洗う。
包丁でするすると皮を剥き、芯を取り除いて手頃な大きさに切り分ける。
「うお、ピーラーじゃなくて包丁で皮剥くのか!すげーな、あたいには出来ねぇや」
隣で見守っていたアイベリーが褒めてくれるので、アンコの耳は赤くなった。
砂糖と共に熱してコンポートを作る。
パイシートでパイの原型を作り、溶いた卵をうっすら塗ってオーブンへ。
「あ!なんか美味しそうな匂いがする!」
出来立てのアップルパイの匂いに釣られ、六女のプラムが厨房に入ってきた。
「ヤスカタ用のアップルパイ作ってもらってたんだ。あの猫が食べたのか、作りおきが全部無くなってたから」
「え~!あんなにあったのに?っていうか、これアンコが作ったの?!」
「え、あ、はい。私が作りましたよ」
「すっごいね!マーマレードお姉ちゃんも褒めてたよ!」
キラキラした瞳を向けるプラムに、アンコは聞き返した。
「今、なんて?」
「マーマレードお姉ちゃんが、シトロンお姉ちゃんに話してるのを聞いたの。今日来た新人、あの腕ならここよりももっといい就職先があったんじゃないかって」
アンコが驚いて目を丸くすると、アイベリーが嬉しそうにニヤリとした。
「な、あいつも案外悪いやつじゃ無いだろ?」
マーマレードやピオーネには、アイベリーが説明してくれた。
熟した林檎を手に取り、流水で洗う。
包丁でするすると皮を剥き、芯を取り除いて手頃な大きさに切り分ける。
「うお、ピーラーじゃなくて包丁で皮剥くのか!すげーな、あたいには出来ねぇや」
隣で見守っていたアイベリーが褒めてくれるので、アンコの耳は赤くなった。
砂糖と共に熱してコンポートを作る。
パイシートでパイの原型を作り、溶いた卵をうっすら塗ってオーブンへ。
「あ!なんか美味しそうな匂いがする!」
出来立てのアップルパイの匂いに釣られ、六女のプラムが厨房に入ってきた。
「ヤスカタ用のアップルパイ作ってもらってたんだ。あの猫が食べたのか、作りおきが全部無くなってたから」
「え~!あんなにあったのに?っていうか、これアンコが作ったの?!」
「え、あ、はい。私が作りましたよ」
「すっごいね!マーマレードお姉ちゃんも褒めてたよ!」
キラキラした瞳を向けるプラムに、アンコは聞き返した。
「今、なんて?」
「マーマレードお姉ちゃんが、シトロンお姉ちゃんに話してるのを聞いたの。今日来た新人、あの腕ならここよりももっといい就職先があったんじゃないかって」
アンコが驚いて目を丸くすると、アイベリーが嬉しそうにニヤリとした。
「な、あいつも案外悪いやつじゃ無いだろ?」
「ヤスカタさん、いらっしゃいますか~?」
作ったアップルパイをトレンチに乗せ、本屋の方に来ていた。
「あの、すみませ?!」
突然、アンコの足と足の間を何かが走り抜けた気がした。
「き、気のせい・・・かな?」
「にゃぁん」
聞こえた猫の鳴き声に、アンコはビクッとした。
「ヤスカタさんの・・・飼ってる猫ちゃん?」
アンコは怯みながらも奥に進んでいった。
作ったアップルパイをトレンチに乗せ、本屋の方に来ていた。
「あの、すみませ?!」
突然、アンコの足と足の間を何かが走り抜けた気がした。
「き、気のせい・・・かな?」
「にゃぁん」
聞こえた猫の鳴き声に、アンコはビクッとした。
「ヤスカタさんの・・・飼ってる猫ちゃん?」
アンコは怯みながらも奥に進んでいった。
「あの・・・?」
本棚と本棚の間にその人はいた。
ふんわりとした緑の髪、その髪と同じ色のワンピースを着た、まるで眠れる森の美女のような雰囲気の少女だった。
「アップルパイね、ありがとう」
ヤスカタは大人びた声で言う。
「のじゃ猫ちゃんも一緒に食べる?」
「のほほ、バレとったか」
ヤスカタが虚空に語りかけたと思ったら、突然別の女の子が姿を現した。
「わし、のじゃロリ猫」
アンコが黒い猫だと思っていた子がいう。
「わしにもアップルパイをおくれ」
「え、あ、はい。どうぞ」
アンコがトレンチを差し出すと、のじゃロリ猫は早速一切れ口に運んだ。
「のほぉ!お主料理の天才じゃのお!」
「あ、ズルい・・・私も食べる」
「どうぞヤスカタさん」
ヤスカタも一切れつまむと、だんだんと笑顔になっていった。
「さて、腹も膨れたし旭や天晴のとこに顔出して凹ちゃんにちょっかいかけてこよかな」
「あなた、今日お仕事無かったの?フロートちゃんが探してたわよ」
「にゃははは、そうだったかの?悪い、ヤスカタにアンコ。忘れとくれ」
のじゃロリ猫はそう言うと、くるりと姿を眩ましてしまった。
「もう、困った猫ちゃん」
「そ、そうですね・・・」
本棚と本棚の間にその人はいた。
ふんわりとした緑の髪、その髪と同じ色のワンピースを着た、まるで眠れる森の美女のような雰囲気の少女だった。
「アップルパイね、ありがとう」
ヤスカタは大人びた声で言う。
「のじゃ猫ちゃんも一緒に食べる?」
「のほほ、バレとったか」
ヤスカタが虚空に語りかけたと思ったら、突然別の女の子が姿を現した。
「わし、のじゃロリ猫」
アンコが黒い猫だと思っていた子がいう。
「わしにもアップルパイをおくれ」
「え、あ、はい。どうぞ」
アンコがトレンチを差し出すと、のじゃロリ猫は早速一切れ口に運んだ。
「のほぉ!お主料理の天才じゃのお!」
「あ、ズルい・・・私も食べる」
「どうぞヤスカタさん」
ヤスカタも一切れつまむと、だんだんと笑顔になっていった。
「さて、腹も膨れたし旭や天晴のとこに顔出して凹ちゃんにちょっかいかけてこよかな」
「あなた、今日お仕事無かったの?フロートちゃんが探してたわよ」
「にゃははは、そうだったかの?悪い、ヤスカタにアンコ。忘れとくれ」
のじゃロリ猫はそう言うと、くるりと姿を眩ましてしまった。
「もう、困った猫ちゃん」
「そ、そうですね・・・」
アンコは住み慣れた部屋を見渡した。いつも使っている木のテーブルやイス、使いなれた筈のキッチンやお気に入りの本まで、今日は全てが小さく見えた。
「アンコお嬢ちゃん、初仕事はどうでした?」
「大変だけれど楽しかったよ、それに・・・」
モーゼフがお祝いのぜんざいをよそいながら聞いたので、アンコは笑みを見せて言った。
「お友達ができそうなの」
「アンコお嬢ちゃん、初仕事はどうでした?」
「大変だけれど楽しかったよ、それに・・・」
モーゼフがお祝いのぜんざいをよそいながら聞いたので、アンコは笑みを見せて言った。
「お友達ができそうなの」