最終話『強き竜の子』
青空小に突然現れた、化け猫さん率いる悪のアナザー軍団。奴らの襲撃により窮地に陥った私を、そして青空小の生徒達を守る為、焔はついに自分に与えられた力の意味を見出し、女児符号を覚醒させた。
「《女児符号・憤怒ノ爆焔》!!!」
焔はそう叫びながら、肩に装着した真紅のマントを翻す。すると、マントがブワッと燃え始め、その炎がアナザー達の身体に燃え移った。
「「「ぐあぁあああ!!」」」
アナザー達の身体はたちまち大炎上し、黒焦げの炭と化していく。
「ふっ!」
再び焔がマントを翻すと、炎は一瞬で消えた。さっきまでアナザー達が燃えていた場所には、焼け焦げた紙の人形が落ちていた。
「妙に手応えがないと思っていたが、所詮は偽物か.....大方そこの化け物が奇怪な技でも使ったんだろう。」
「....ククク、バレては仕方ない。その通り、こやつらはワシの妖力で動かしていたただの人形じゃ。だが、ワシは奴らと違い本物の化け物じゃぞ?果たして勝てるかな?」
「無論だ!!いざ参るッ!!」
焔はマントを翻し、辺り一面を炎で覆い尽くした。
「フン、そんなことをすれば学校は燃えてなくなるぞ!」
「言っただろう、僕の炎は守る為の力でもあると!」
「ならば試してやろう!!フンッ!!」
化け猫さんは闇のオーラを放ち、炎を掻き消そうとした。しかし、焔が放つ炎はその闇を吸収し、より激しく燃え盛った。
「バカな!?」
「この炎は、僕が倒すべきものを燃やし、守りたいものを守ることが出来る炎だ!炎が燃えている限り、この学校には傷一つ付けさせんッ!!」
焔の言う通り、こんなにも激しく燃える炎に晒されても、校舎や中に居る生徒達、そして炎の中に居る私にも一切火が燃え移っていない。逆に、化け物さんのお尻には、いつの間にか火が点いていた。
「うわちちちちちち!?み、水!!誰か水をー!!!」
「貴様に慈悲など与えるものか!!そろそろ畳み掛けだ、これで終わらせる!!」
「させるかよッ!!」
焔の背後から、結が水流を放ち化け猫さんを包む炎を掻き消した。
「ハッ、所詮はただの炎か。水さえありゃどうとでもなるなァ?」
「くっ!まだ生き残りが居たか!」
「残念、私はあいつらと違ってホンモノなんだよねぇ〜♪ってことで死ねぇッ!!」
「させるかよ。」
私はすかさず、結の攻撃から焔を庇った。同時に、《言羽》で生み出した風の刃で、結を吹き飛ばす。
「助かったぞ、我が友よ!」
「サポートは任せて、副会長!」
「おのれぇ.....餓鬼共の分際で!!」
「残念ながら、もう貴方達に勝機はありませんよ。」
炎の奥から、月音さんが現れた。その手には、符号で作り出した紫色の槍を構えている。
「姉さ.....会長!!奴らに倒された筈では...!?」
「ふふ、何の話です?それよりも....焔、見ていましたよ。貴女が持つ力をどう使いたいか.....その答えを示した瞬間を。」
「..........!」
「なれたのですね....竜のように強く、そして勇気ある者に。」
「....ええ。僕の力は、竜のような強い人になる為に与えられた......幼い頃、貴女が言っていた言葉の意味がようやく分かりました。会長は、僕がこの体質を正しく使いこなせるように....ずっと前から、導いてくれていたのですね。」
焔の言葉に、月音さんは大きく頷く。そして、槍を構え直して化け猫さん達と対峙した。
「さぁ、終わらせましょう。この不毛な戦いを。」
「はいっ!!」
「うん!」
月音さんと、私、そして焔。学校を襲う敵の前に、三人の戦士が並び立つ。
「おのれ....人間如きがぁああああ!!」
「ああそうだ、僕達は人間だ!人間だから、失敗し、自分を見失うこともある!だが、それでも立ち上がる心の強さも併せ持っている!!貴様ら化け物如きに、僕の強さは測れないッ!!!」
焔はマントに炎を纏い、化け猫さんを攻撃し始めた。ただでさえ少ない化け猫さんの身体を覆う布部分が、どんどん燃やされていく。
「ぐあああああ!?」
「てめぇッ!!」
今度は結が焔に襲いかかる。しかし、私と月音さんがそれを防ぎきった。
「こっちは私達に任せて、焔はそいつを!」
「了解した!今度こそとどめだ!!」
マントから溢れ出す炎が、巨大な竜の形になっていく。
「火竜の怒りを.....思い知れぇええええええええええええええええッッッッ!!!!!!」
焔がそう叫び、手をかざすと、炎の竜は化け猫さんをあっという間に飲み込み、空中を何周か飛び回ってから地面に激突した。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
想像を絶する大爆発に巻き込まれ、化け猫さんは空高く吹き飛んでいった。
「うげっ、爆風がこっちまで来やがった!?」
「「はっ!!」」
「おいちょっ、ああああああああ!?」
私と月音さんの合体技を喰らった結も、その爆風に煽られ吹き飛ばされた。
「....はぁ、はぁ........見たか......これが、真の怒りの力だ.........!!」
啖呵を切った直後、焔はふらっと体勢を崩し倒れかけた。その身体を、咄嗟に月音さんが抱き抱える。
「.......会、長.............?」
「....姉様で良いですよ、焔。」
「..........!....僕.......やっと姉様のお役に......立てましたか........?」
「いいえ、今に限った話ではありません。貴女はずっと前から、そしてこれからもずっと.....優秀な生徒会副会長ですよ。」
「.....っ........う....うう........うわああああああああああああああああん!!!!!」
焦り、プレッシャー、不安....自分を苦しめていたもの全てから解放され、ようやく安心することが出来た焔は、月音さんの胸元で大声をあげて泣き出した。
「......ごめんなさいね......厳しい言葉をぶつけてしまって..........でも、本当は信じていましたよ。貴女ならきっと立ち上がってくれると.....」
「ぐずっ....ねえさま....っ、ねえ゛ざま゛ぁあああ....っ!」
少しずつ鎮火していく炎の中で、抱き合いながら涙を流す二人。どうやら、これで一件落着したようだ。
「....良かったね、焔。」
「....っ、ああ....!君のお陰だ、初!本当にありがとう.......!!」
「ううん、此方こそありがとう。焔が居てくれたから、この学校を守ることが出来たんだよ。」
「そうですね。焔はやはり、この学校に必要不可欠な存在です。」
「....で、では......このまま副会長として....僕をお傍に置いて貰えるのですか.....?」
「ええ、勿論♪これからも副会長として、活躍を期待していますよ、焔....♪」
「.....!!はい!!お任せ下さい、会長!そして....初、改めてありがとう。これから先は僕一人で大丈夫だ。副会長としての華々しい活躍を、この先も見守っていてくれ!」
「うん!応援してるよ、副会長♪」
「ふふっ、ありがとうな♪」
「.....うぅ.......いててて.......やるではないか、人間共よ...........」
黒焦げになった化け猫さんと結が、煙の中から這い出してきた。
「貴様ら、まだ生きていたのか!?」
「大丈夫、実は二人とも敵じゃないよ。」
「な、何?」
「ククク、一芝居打たせて貰ったのじゃ。そこの華龍院の末裔、お主の真の力を引き出す為の敵として協力してほしいと初に頼まれてな。」
「そ、そうだったのか!?」
「そうそう、んでニセモノでも良いから敵は数増しした方が良いって話になってさー。けどそれなら私もニセモノで良かったじゃん!何で私だけ本人なわけ!?」
「あはは、ごめんごめん。せっかくだしどうかなーと思って。でも結的には楽しかったんじゃない?」
「何のせっかくだよ!?....まあ、久々に暴れられて楽しかったけど?」
「な、何だ.......初も貴様らも、初めからグルだったのか.......ということは、姉様も?」
「はい、しばらくの間彼女達に倒されたということにして、何処かに隠れていて欲しいと頼まれまして♪」
「何ですかそれ〜〜〜!!本気で心配したんですよ!?」
「全く、こんな三文芝居も見抜けぬとはまだまだじゃな。だが、一皮剥けたことに変わりはない。これからも精々励めよ、若いの。」
「うるさい!!生意気な猫め、もう一度燃やされたいか!!」
「ひぇ〜〜〜!!せっかく励ましてやったのに世知辛いのじゃ〜〜〜〜!!」
「そりゃ言い方が偉そうなんだからそうなるよ......化け猫さん....」
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かつて、竜の血を引いて生まれてきた華龍院家の人間は、そのあまりの強大な力に溺れ破滅する者も少なくなかったという。
そんな中、特に血が濃い先祖返りとして生まれ、力を制御することに成功した焔は、華龍院の令嬢として誇るべき逸材である。
「...........と、昨日父上が仰ってくれた!」
焔は嬉しそうにそう言った。肩には、相変わらずあの時のマントを着けている。
「そのマント、随分気に入ってるみたいだね。」
「結構便利なんだ、このマント。感情が昂っても無駄なエネルギーを吸収して抑え込んでくれるし、僕の意思で炎を生み出したり消したりも出来る。何より、これを着けているだけで副会長の勲章として申し分ないからな!」
「ふふん♪」と胸を張りながら、マントをひらひらとはためかせる焔。しっかり者だけど、やっぱり歳相応の子どもらしさはまだ残ってるんだなと私は少し微笑ましくなった。
「おはよー!」
「うむ、おはよう!」
「わっ、副会長さんのマントかっこいー!あたしもこれ欲しいなー!」
「君がマントを着けるに相応しい生徒であれば、少しだけ貸してやっても良いぞ。まず服装は乱れていないか?歯はしっかり磨いてきたか?朝食を抜いてきていないか?」
「あ......朝ご飯は時間無くてあんまり食べれてないかも.....あと歯磨きも......」
「全く、朝食はしっかり食べないと、僕のように朝から元気で居られないぞ?」
「だ、大丈夫だもん!旭ちゃんはいつでも元気ー!」
「あっこら!スカートの裾が折れているじゃないか!僕が整えてやるからそこに直れー!」
ちょこまかと逃げ回る旭と、それを追いかける焔。これじゃどっちが歳上か分からない。
「初ちゃん、おはよ。」
「玲亜。おはよう。」
「今日で臨時生徒会も終わり?」
「うん、何だかあっという間だったよ。でも、約束通り焔の悩みを解決出来て良かった。」
「ふふっ、そっか。お疲れ様♪」
玲亜の微笑みに、私も肩の荷が一つ降りたような気分になって思わず笑みを零した。
「おーい!誰かそのちびっ子を捕まえてくれー!」
「全く、旭ちゃんったら.....ほーら捕まえた!」
「おぎゃべびーっ!?玲亜ちゃん降ろしてーっ!」
「観念しろ、僕がきっちり正してやる!」
「おっとと、あんまり揉みくちゃになると危ないよ!」
青空小生徒会副会長、華龍院 焔。彼女が生徒の皆を守ってくれているお陰で、今日も校門前には元気な笑い声が満ち溢れる平和な光景が広がっていた。
「....これで、焔の件はひとまず安心ですね.....」
焔達の様子を生徒会室の窓から見下ろし、小さく息を吐く月音。すると、机に置かれた電話から着信音が鳴り出した。
「....はい、此方青空小生徒会......あっ、どうもこんにちは。ご無沙汰しています。......はい。...........まぁ、そうなんですね。分かりました。......はい、なるべく早くお伺い致します。はい。」
電話を終え、月音は受話器を置いた。
「やはり流石ですね、嫦娥財団と契約した企業は......これで、生徒会の活動もより活性化出来そうです。」
「........................」
「...........オハヨウゴザイマス。コレヨリ、ラーニングヲカイシイタシマス。」
FIN.