「夢の、中…………?
この、世界が……?それって、どういう……」
「そのままの意味よ。ここは、現実の世界ではない。
Dr.マッドが、自分の思い描く理想を叶えるために作り出した仮初の世界なの。
現実に限りなく近いシミュレーション空間、とでも言うのかしらね」
「で、でもっ!わたし達には生まれてから今までの記憶があります!それに今だって、こうして物に触ったり、みんなと話したりできて……」
そこまで言ってから、ゾッとした。
記憶も、感覚も、全てわたし達が勝手にあると思い込んでいるだけのものだとしたら?
全部全部、作られた偽物だとしたら?
じゃあ、わたしという人間は?
周りにいる、みんなは?
この、世界が……?それって、どういう……」
「そのままの意味よ。ここは、現実の世界ではない。
Dr.マッドが、自分の思い描く理想を叶えるために作り出した仮初の世界なの。
現実に限りなく近いシミュレーション空間、とでも言うのかしらね」
「で、でもっ!わたし達には生まれてから今までの記憶があります!それに今だって、こうして物に触ったり、みんなと話したりできて……」
そこまで言ってから、ゾッとした。
記憶も、感覚も、全てわたし達が勝手にあると思い込んでいるだけのものだとしたら?
全部全部、作られた偽物だとしたら?
じゃあ、わたしという人間は?
周りにいる、みんなは?
本当に 実在 するの ?
「うっ、うわ、わああぁっ……!!!」
「落ち着いて、はもはもちゃん!!
ごめんなさい、言い方が悪かったわね。
あなた達はここに存在するわ。間違いなく。
……ただ、『あなた達がどう存在するか』は、あくまでDr.が想像しているものなの。
Dr.の『符号』は平行世界の自分自身に意識を飛ばすもの。恐らく彼女はそれを途方も無い回数繰り返す事で、未来予知に近い精度のシミュレーションができるようになった。
そして辿り着いた平行世界の果ての果て、思い描いた空想が現実になる世界で、彼女は自分だけの理想の世界を作ろうとしているのよ。
本来、『宇宙人の侵略を装って人類を全員シェルターに閉じ込める』、『対抗して作られた兵器を全て乗っ取って人類を抹殺し、女児しかいない世界を作る』なんて現実には実行不可能な計画ばかり。だけど、この世界ならそれができてしまう。
Dr.マッドは既に、この世界を好きに作り変える事ができる『力』を手にしている。
─────『禁忌符号』と言われる力よ」
「落ち着いて、はもはもちゃん!!
ごめんなさい、言い方が悪かったわね。
あなた達はここに存在するわ。間違いなく。
……ただ、『あなた達がどう存在するか』は、あくまでDr.が想像しているものなの。
Dr.の『符号』は平行世界の自分自身に意識を飛ばすもの。恐らく彼女はそれを途方も無い回数繰り返す事で、未来予知に近い精度のシミュレーションができるようになった。
そして辿り着いた平行世界の果ての果て、思い描いた空想が現実になる世界で、彼女は自分だけの理想の世界を作ろうとしているのよ。
本来、『宇宙人の侵略を装って人類を全員シェルターに閉じ込める』、『対抗して作られた兵器を全て乗っ取って人類を抹殺し、女児しかいない世界を作る』なんて現実には実行不可能な計画ばかり。だけど、この世界ならそれができてしまう。
Dr.マッドは既に、この世界を好きに作り変える事ができる『力』を手にしている。
─────『禁忌符号』と言われる力よ」
────────────
私には、何もない。
どこまで平行世界の移動を繰り返しても、
私が望む世界はどこにもなかった。
だけど、それでも。
私は、あの思い出を永遠にしたかった。
どこまで平行世界の移動を繰り返しても、
私が望む世界はどこにもなかった。
だけど、それでも。
私は、あの思い出を永遠にしたかった。
…………始めは、ただそれだけだったのに。
どこで、間違えてしまったのだろう。
どこで、間違えてしまったのだろう。
「アリアちゃん!突然だけど、今日お家に行ってもいい?」
「えっ、今日……?
……うん、お父さんもお母さんも帰りが遅いから、たぶん、大丈夫だよ」
「良かった!こないだ貸してくれた本の続き、読みたいなぁって思ってたんだ!」
「はもはもちゃん、あの本……気に入ってくれたんだね。嬉しい……!」
「うんっ!それにね、アリアちゃんと遊ぶの、とっても楽しいから!」
「えっ……えへへ、ありがとうっ。
私も、はもはもちゃんと遊ぶの、
好きだよ……!」
「えっ、今日……?
……うん、お父さんもお母さんも帰りが遅いから、たぶん、大丈夫だよ」
「良かった!こないだ貸してくれた本の続き、読みたいなぁって思ってたんだ!」
「はもはもちゃん、あの本……気に入ってくれたんだね。嬉しい……!」
「うんっ!それにね、アリアちゃんと遊ぶの、とっても楽しいから!」
「えっ……えへへ、ありがとうっ。
私も、はもはもちゃんと遊ぶの、
好きだよ……!」
……………………
………………………………
…………………………………………
(アイツ、誰とも話さないで本ばっか読んでて
暗いよな。少しは打ち解けようとか思わないのかね)
(シッ、聞こえるよ!)
(構うもんかよ。どうせ本に夢中で聞いちゃいねぇだろ)
「……………………………………」
暗いよな。少しは打ち解けようとか思わないのかね)
(シッ、聞こえるよ!)
(構うもんかよ。どうせ本に夢中で聞いちゃいねぇだろ)
「……………………………………」
……………………
………………………………
…………………………………………
「ねぇ、アリアさん、今日みんなで飲み会やるんだけど……良かったら、来ない?」
「………………私は、大丈夫。みんなで、
行ってきた方が、良いよ」
「そ、そう?それなら、良いんだけど……」
(なんであの子なんか誘うのよ。どうせ来たって一言も話しやしないでしょ?来るわけないんだし誘うだけ無駄よ)
(一応形だけでも誘わないと後味悪いじゃん。
断ってくれて良かった。来るって言われたらどうしようかと……)
「………………………………………………」
「………………私は、大丈夫。みんなで、
行ってきた方が、良いよ」
「そ、そう?それなら、良いんだけど……」
(なんであの子なんか誘うのよ。どうせ来たって一言も話しやしないでしょ?来るわけないんだし誘うだけ無駄よ)
(一応形だけでも誘わないと後味悪いじゃん。
断ってくれて良かった。来るって言われたらどうしようかと……)
「………………………………………………」
……………………
………………………………
…………………………………………
こんな世界に、価値なんてない。
どいつもこいつも自分の事ばかり。
他人に興味なんてないくせに、
私はそうじゃないですってツラした偽善者
どもが、偉そうに他人を見下している。
こんな世界は、滅んでしまえば良い。
どいつもこいつも自分の事ばかり。
他人に興味なんてないくせに、
私はそうじゃないですってツラした偽善者
どもが、偉そうに他人を見下している。
こんな世界は、滅んでしまえば良い。
私は、私だけの理想の世界を作る。
あの頃の美しい記憶だけが永遠になる世界。
そして、その世界を現実に『上書き』し、
仮初ではない、紛れも無い現実にするのだ。
そのために必要な人員も、機材も、この世界なら好きに用意できる。
私の『禁忌符号』は、間もなく完成する。
あの頃の美しい記憶だけが永遠になる世界。
そして、その世界を現実に『上書き』し、
仮初ではない、紛れも無い現実にするのだ。
そのために必要な人員も、機材も、この世界なら好きに用意できる。
私の『禁忌符号』は、間もなく完成する。
怯えろ、人類ども。
お前たちは、お前たちが生み出した
私という怪物に、滅ぼされるのだ。
お前たちは、お前たちが生み出した
私という怪物に、滅ぼされるのだ。
────────────
「禁忌符号……?
それって加速符号みたいな、
女児符号の一種なんですか?」
「確かに、女児符号から派生したものよ。
だけど、アレはそんな生易しいものじゃない、『あってはならない力』なの。
女児符号はね、実は他の人に渡すことができるの。自分がもう女児じゃなくなる時、自分では力を使いこなせないと思った時、そして……何らかの要因で、死んでしまう時。
相手の子の手を握って心から強く願えば、力を譲り渡す事が出来る。
私はそれを、『継承符号』と呼んでいるわ。
能力の相性にもよるけど、譲り受けた人の『符号』は2つが合わさって強くなる事が多いの。
───だけど、禁忌符号は、相手から無理やり力を引き剥がす事で発動する。合意を得ずに力を奪い取れば、その相手は命を落とす。
だから、それは絶対に存在してはならない、禁忌の力なの。
Dr.マッドは、平行世界の自分自身から力を奪い取り続けた。そうして異常な数の自分の力を積み重ねて、ついに辿り着いたのが、この世界。私達は普通に暮らしているように感じているけれど、この世界は強い願望が形として現れるようになっている。
猫丸ちゃんが作ってくれた牧場が良い例ね。たぶん、『本来の世界』にいる猫丸ちゃんの符号は、想像を『一時的に』実体化するだけ。あんな規模の大きなものを、ずっと残しておく事はできないはずよ。だけどこの世界なら、それができてしまう。Dr.マッドにとっては、理想を形にするのに最適な場所というわけ」
それって加速符号みたいな、
女児符号の一種なんですか?」
「確かに、女児符号から派生したものよ。
だけど、アレはそんな生易しいものじゃない、『あってはならない力』なの。
女児符号はね、実は他の人に渡すことができるの。自分がもう女児じゃなくなる時、自分では力を使いこなせないと思った時、そして……何らかの要因で、死んでしまう時。
相手の子の手を握って心から強く願えば、力を譲り渡す事が出来る。
私はそれを、『継承符号』と呼んでいるわ。
能力の相性にもよるけど、譲り受けた人の『符号』は2つが合わさって強くなる事が多いの。
───だけど、禁忌符号は、相手から無理やり力を引き剥がす事で発動する。合意を得ずに力を奪い取れば、その相手は命を落とす。
だから、それは絶対に存在してはならない、禁忌の力なの。
Dr.マッドは、平行世界の自分自身から力を奪い取り続けた。そうして異常な数の自分の力を積み重ねて、ついに辿り着いたのが、この世界。私達は普通に暮らしているように感じているけれど、この世界は強い願望が形として現れるようになっている。
猫丸ちゃんが作ってくれた牧場が良い例ね。たぶん、『本来の世界』にいる猫丸ちゃんの符号は、想像を『一時的に』実体化するだけ。あんな規模の大きなものを、ずっと残しておく事はできないはずよ。だけどこの世界なら、それができてしまう。Dr.マッドにとっては、理想を形にするのに最適な場所というわけ」
禁忌、符号…………。
それってつまり、Dr.マッドが力を手に入れるためだけに、平行世界にいた何人ものアリアちゃんの、命が…………。
「うっ、ぐ……うぇっ……うえぇっ……!!」
思わず、吐き気を催してしまう。
こんな事をするためだけに、アリアちゃんが何回も何回も、力を奪われて、無意味に殺されただなんて……!!
「はもはもちゃん、大丈夫?……気持ちは、分かるわ。
大切なお友達がそんな目に遭ったと知れば、誰だって許せない。もう、今のDr.マッドはかつての彼女とは別人よ。
目的のためなら、平気で何もかも犠牲にできてしまう。平行世界にいる、自分自身の命でさえ、ね」
それってつまり、Dr.マッドが力を手に入れるためだけに、平行世界にいた何人ものアリアちゃんの、命が…………。
「うっ、ぐ……うぇっ……うえぇっ……!!」
思わず、吐き気を催してしまう。
こんな事をするためだけに、アリアちゃんが何回も何回も、力を奪われて、無意味に殺されただなんて……!!
「はもはもちゃん、大丈夫?……気持ちは、分かるわ。
大切なお友達がそんな目に遭ったと知れば、誰だって許せない。もう、今のDr.マッドはかつての彼女とは別人よ。
目的のためなら、平気で何もかも犠牲にできてしまう。平行世界にいる、自分自身の命でさえ、ね」
信じられない。
わたし達しか存在しない世界を作る?
その世界を、永遠に残す?
そんなくだらない目的のために、
何も知らないアリアちゃんを、
犠牲にするなんて……!!
絶対に許せない!!
「Dr.マッドは、禁忌符号を使って今私達がいるこの世界を、現実の世界に上書きするつもりでいるの。そうする事で、夢は現実になる。現実では起こり得ないはずの機人の暴走や人類の死滅が、本当の事になってしまう。そうなる前に、彼女を倒さなくてはいけないわ。もう一刻の猶予もない。
……さっきの無線で、計画が最終段階に入っている事が分かった。猫が焦っていたのは、そういう事よ。
危険な戦いになるから、本当は急かしたくなんてないけれど……時間がないの。
お願い。世界のために、Dr.マッドを倒して……!」
わたし達しか存在しない世界を作る?
その世界を、永遠に残す?
そんなくだらない目的のために、
何も知らないアリアちゃんを、
犠牲にするなんて……!!
絶対に許せない!!
「Dr.マッドは、禁忌符号を使って今私達がいるこの世界を、現実の世界に上書きするつもりでいるの。そうする事で、夢は現実になる。現実では起こり得ないはずの機人の暴走や人類の死滅が、本当の事になってしまう。そうなる前に、彼女を倒さなくてはいけないわ。もう一刻の猶予もない。
……さっきの無線で、計画が最終段階に入っている事が分かった。猫が焦っていたのは、そういう事よ。
危険な戦いになるから、本当は急かしたくなんてないけれど……時間がないの。
お願い。世界のために、Dr.マッドを倒して……!」
「待った。時間がないのは承知だけど、ひとつだけ、確認させて欲しい」
今まで黙って話を聞いていたしおんちゃんが、凛とした声を上げる。
「ええ。何でも答えるわ。どうしたの?」
「Dr.マッドを倒すのは良い。世界を救うための戦いだからね。だけど、彼女を倒せば
───この世界は、どうなるんだい?」
今まで黙って話を聞いていたしおんちゃんが、凛とした声を上げる。
「ええ。何でも答えるわ。どうしたの?」
「Dr.マッドを倒すのは良い。世界を救うための戦いだからね。だけど、彼女を倒せば
───この世界は、どうなるんだい?」
「ッ…………!!」
「………………Dr.マッドは、この世界を形作っている張本人。彼女を倒せば、この夢の世界は、ッ…………消滅、するわ。
私達が歩んだ歴史も、存在も、全てがなかった事になる。
現実の世界に影響を及ぼさないようにするためには…………これしか、方法がないの」
「…………うん。分かっていたよ。
だけど、その言葉を直接聞きたかった。
偽らずに話してくれて、ありがとう。
神楽坂さん」
「う、うぅ…………ごめんなさい、
ごめんなさい…………!!こんな大切な事を、ずっと黙っていて!!
隠していたんじゃ、ないのっ……!言い出す勇気が、なかったのよ……!!私は、貴女達を失うのが怖くて……ずっとずっと隠している事しかできなかった……ただの、臆病者なの……!!」
「神楽坂さん、お願いだ、泣かないで。
私も、問いただすような事をしたかった訳じゃないんだ。
みんなも、きっとそうだろう。
ただ……決戦の前に、覚悟を決めておきたかった。それだけの事だよ」
しおんちゃんがちらりとこちらを見る。
強く、頷く。
皆、覚悟は決まった。
戦いに勝てば、今ここにいるわたし達は、
消える事になるだろう。
だけど、自分達が生き延びるために、現実世界で今も生きている別のわたし達を、見殺しにするわけには行かない。
行こう。
Dr.マッドとの、決戦の地。
のじゃ猫ちゃんが、最後の力を振り絞って
教えてくれた場所。
天川学園へ。
私達が歩んだ歴史も、存在も、全てがなかった事になる。
現実の世界に影響を及ぼさないようにするためには…………これしか、方法がないの」
「…………うん。分かっていたよ。
だけど、その言葉を直接聞きたかった。
偽らずに話してくれて、ありがとう。
神楽坂さん」
「う、うぅ…………ごめんなさい、
ごめんなさい…………!!こんな大切な事を、ずっと黙っていて!!
隠していたんじゃ、ないのっ……!言い出す勇気が、なかったのよ……!!私は、貴女達を失うのが怖くて……ずっとずっと隠している事しかできなかった……ただの、臆病者なの……!!」
「神楽坂さん、お願いだ、泣かないで。
私も、問いただすような事をしたかった訳じゃないんだ。
みんなも、きっとそうだろう。
ただ……決戦の前に、覚悟を決めておきたかった。それだけの事だよ」
しおんちゃんがちらりとこちらを見る。
強く、頷く。
皆、覚悟は決まった。
戦いに勝てば、今ここにいるわたし達は、
消える事になるだろう。
だけど、自分達が生き延びるために、現実世界で今も生きている別のわたし達を、見殺しにするわけには行かない。
行こう。
Dr.マッドとの、決戦の地。
のじゃ猫ちゃんが、最後の力を振り絞って
教えてくれた場所。
天川学園へ。