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「…………さて。こうして、
何とか住処に戻ってきたわけだが」
「仕切り直しじゃな。
狐め、調子に乗りすぎてヘマしおってからに」
「お前も一緒になってはしゃいでいただろう。
攻め時だったのは確かだが、奴の底力を見誤ったな」
「しかしよ、これで死んでねぇってのはホントなのか?
どう見てもぐちゃみその肉塊だぜ……うっぷ、
ずっと見てると吐きそうだ」
「おい、ここで吐くなよ彼岸花。
これでも清潔感には気を使っているんだ」
何とか住処に戻ってきたわけだが」
「仕切り直しじゃな。
狐め、調子に乗りすぎてヘマしおってからに」
「お前も一緒になってはしゃいでいただろう。
攻め時だったのは確かだが、奴の底力を見誤ったな」
「しかしよ、これで死んでねぇってのはホントなのか?
どう見てもぐちゃみその肉塊だぜ……うっぷ、
ずっと見てると吐きそうだ」
「おい、ここで吐くなよ彼岸花。
これでも清潔感には気を使っているんだ」
都の外れの、ワシらが住んでいる荒屋。
神楽坂の眷属である蝙蝠達のおかげで
何とか撤退はできたものの、状況は芳しくない。
最大戦力のひとつである狐は物言わぬ肉塊と化した。
この様子じゃと、再生には少なくとも
一月はかかるじゃろう。
大仁田はありとあらゆる手を使ってワシらを潰そうと
してくるはず。狐の復活を待っている猶予はない。
……戦力としては期待できんの。
神楽坂の眷属である蝙蝠達のおかげで
何とか撤退はできたものの、状況は芳しくない。
最大戦力のひとつである狐は物言わぬ肉塊と化した。
この様子じゃと、再生には少なくとも
一月はかかるじゃろう。
大仁田はありとあらゆる手を使ってワシらを潰そうと
してくるはず。狐の復活を待っている猶予はない。
……戦力としては期待できんの。
「そういえば、彼岸花の救出ご苦労じゃったのぉ神楽坂。
まさかオヌシの蝙蝠達が彼岸花に化けているとは露知らず、間に合わなかったのかと焦ったわい」
「何?あの狐の奴……お前に作戦内容を
教えていなかったのか?全く……誰かに似て、
性格の悪い事だな」
「んん?それは誰の事じゃ???」
「……天然なのかわざとなのか知らんが、
突っ込まないからな」
はて、性格が悪い……?まさか間違っても
ワシな訳はないしのぉ……。
まさかオヌシの蝙蝠達が彼岸花に化けているとは露知らず、間に合わなかったのかと焦ったわい」
「何?あの狐の奴……お前に作戦内容を
教えていなかったのか?全く……誰かに似て、
性格の悪い事だな」
「んん?それは誰の事じゃ???」
「……天然なのかわざとなのか知らんが、
突っ込まないからな」
はて、性格が悪い……?まさか間違っても
ワシな訳はないしのぉ……。
「とにかく!状況を整理するぞ。私達は今、
倒すべき最悪の敵である大仁田を追い詰めてはいる。
のじゃ狐が奴の力の源である『人間からの求心力』を
奪ったからだ。しかし奴には奥の手があった。
奴が力を最大限発揮できる時間帯である、『夜』を
擬似的に作り出す妖術だ。遠くから見た限り、
作られた夜は奴を中心に、およそ半径五丈程度の
円形に広がっていたように見えた。
相当な広さがある。外から奴を攻めるのは、
かなり難易度が高いだろう」
倒すべき最悪の敵である大仁田を追い詰めてはいる。
のじゃ狐が奴の力の源である『人間からの求心力』を
奪ったからだ。しかし奴には奥の手があった。
奴が力を最大限発揮できる時間帯である、『夜』を
擬似的に作り出す妖術だ。遠くから見た限り、
作られた夜は奴を中心に、およそ半径五丈程度の
円形に広がっていたように見えた。
相当な広さがある。外から奴を攻めるのは、
かなり難易度が高いだろう」
「だけどよ、中に入って戦うのは奴の思う壺だろ。
さっきみたいにアイツが『夜』を展開したら一旦退いて、
ってのを繰り返せば良いんじゃねぇか?奥の手って言うくらいだ、そう何度も何度も使える妖術じゃねぇだろ」
「いや、さっきの撤退は奇襲だったからこそ上手く
行っただけだ。それこそ何度も通じるものではない」
さっきみたいにアイツが『夜』を展開したら一旦退いて、
ってのを繰り返せば良いんじゃねぇか?奥の手って言うくらいだ、そう何度も何度も使える妖術じゃねぇだろ」
「いや、さっきの撤退は奇襲だったからこそ上手く
行っただけだ。それこそ何度も通じるものではない」
「じゃが、このままワシらが逃げ出す訳にも行かんしの。
この機を逃せば奴はまた別の地で同じ事を繰り返す。
そうなれば今以上に厄介な存在になり、この日ノ本を
めちゃくちゃにされてしまう」
ワシら妖は、ヒトの営みに積極的に関わる事はない。
さほど興味がないというのもあるが、本来妖とヒトは
適度な距離を保って生きて行かねばならないからだ。
大仁田は連綿と保たれてきたその距離を、
いとも容易く壊してしまいかねない怪物。
絶対に捨て置く訳には行かん。
この機を逃せば奴はまた別の地で同じ事を繰り返す。
そうなれば今以上に厄介な存在になり、この日ノ本を
めちゃくちゃにされてしまう」
ワシら妖は、ヒトの営みに積極的に関わる事はない。
さほど興味がないというのもあるが、本来妖とヒトは
適度な距離を保って生きて行かねばならないからだ。
大仁田は連綿と保たれてきたその距離を、
いとも容易く壊してしまいかねない怪物。
絶対に捨て置く訳には行かん。
「……このままでは埒が明かないな。
別の角度からの意見が欲しいところだが…」
「───それなら、役に立てるかも知れん」
ザッ、と。
部屋のど真ん中に、見知った奴が風のように現れた。
「ご、ござる!?お前、なんでここに!」
「息災のようで何よりでござる、彼岸花。
青天京で何やら妖による騒ぎがあったと聞きつけ、
お主の身を案じて急いでやって来たのでござるが……
まさか斯様な面倒事になっていようとは。
のじゃの猫、神楽坂。癪ではござるが……
今回ばかりは礼を言う。
───彼岸花を助けてくれて、有難う」
別の角度からの意見が欲しいところだが…」
「───それなら、役に立てるかも知れん」
ザッ、と。
部屋のど真ん中に、見知った奴が風のように現れた。
「ご、ござる!?お前、なんでここに!」
「息災のようで何よりでござる、彼岸花。
青天京で何やら妖による騒ぎがあったと聞きつけ、
お主の身を案じて急いでやって来たのでござるが……
まさか斯様な面倒事になっていようとは。
のじゃの猫、神楽坂。癪ではござるが……
今回ばかりは礼を言う。
───彼岸花を助けてくれて、有難う」
顔を覆う布を外し、しっかりとこちらを見据えて……
ござる鼬は頭を下げた。
いくら友人を助けてもらったとはいえ、
ここまで殊勝な様子は初めてじゃな。
それほどに彼岸花は大切な存在と言う訳か。
「カカカ、まさかオヌシから礼を言われる日が来るとは。
長生きはしてみるものじゃな」
「礼には及ばない。私とて、知り合いが無実の罪で
殺されるのをむざむざ見過ごすのは寝覚めが悪いからな」
ござる鼬は頭を下げた。
いくら友人を助けてもらったとはいえ、
ここまで殊勝な様子は初めてじゃな。
それほどに彼岸花は大切な存在と言う訳か。
「カカカ、まさかオヌシから礼を言われる日が来るとは。
長生きはしてみるものじゃな」
「礼には及ばない。私とて、知り合いが無実の罪で
殺されるのをむざむざ見過ごすのは寝覚めが悪いからな」
「……それで、さっきオヌシが言うておった件じゃが。
今は狐と同じく一時停戦して、大仁田を倒すために
手を組む、という認識で良いのかの?」
「そう思ってもらって構わないでござる。
拙者にとってはこの日ノ本もあの大仁田という男も、
さほど重要ではないが……彼岸花を助けられた恩は
返さねばならん。今回は共に戦う事を約束しよう」
今は狐と同じく一時停戦して、大仁田を倒すために
手を組む、という認識で良いのかの?」
「そう思ってもらって構わないでござる。
拙者にとってはこの日ノ本もあの大仁田という男も、
さほど重要ではないが……彼岸花を助けられた恩は
返さねばならん。今回は共に戦う事を約束しよう」
「そうかそうか!!それは何よりだぜ。
全くてめぇらは何の因縁があるのか知らねぇが、
出会った途端に殺し合いをおっぱじめやがるから
驚いたぜ。せっかく長く生きられる妖やってんだから、
仲良くやろうぜ!な!」
楽しそうにけらけらと笑う彼岸花。
普段ならこちらの事情も知らんくせに……と思うところ
じゃが、今はこやつの明るさが救いになっている。
全くてめぇらは何の因縁があるのか知らねぇが、
出会った途端に殺し合いをおっぱじめやがるから
驚いたぜ。せっかく長く生きられる妖やってんだから、
仲良くやろうぜ!な!」
楽しそうにけらけらと笑う彼岸花。
普段ならこちらの事情も知らんくせに……と思うところ
じゃが、今はこやつの明るさが救いになっている。
「話を戻すぞ。ござる鼬、さっきの言い方だと、
お前は何か大仁田に対抗する策を持っているのか?
それなら是非聞かせてもらいたいところだが……」
「策を持っているのは拙者ではござらん。
『こいつ』でござるよ」
ずるり、と這いずるような音がして……またしても
見知った気配がこちらに近付いて来るのを感じた。
「おいおいおいおいマジか。
こんなに連続で分け身の奴らに会うのは初めてじゃぞ。
のぉ、『ですの蛇』よ」
「いひ、いひひひ……私だって、会いたくて来たんじゃ
ありませんから。あくまで、あの男を倒すため、です」
『ですの蛇』。
ワシの分け身の中でもかなり湿っぽい部類に入る、
蛇の化身。まさか此奴まで外に出て来るとは……。
お前は何か大仁田に対抗する策を持っているのか?
それなら是非聞かせてもらいたいところだが……」
「策を持っているのは拙者ではござらん。
『こいつ』でござるよ」
ずるり、と這いずるような音がして……またしても
見知った気配がこちらに近付いて来るのを感じた。
「おいおいおいおいマジか。
こんなに連続で分け身の奴らに会うのは初めてじゃぞ。
のぉ、『ですの蛇』よ」
「いひ、いひひひ……私だって、会いたくて来たんじゃ
ありませんから。あくまで、あの男を倒すため、です」
『ですの蛇』。
ワシの分け身の中でもかなり湿っぽい部類に入る、
蛇の化身。まさか此奴まで外に出て来るとは……。
「オヌシがそんな事を言うとは驚いたの。
大仁田と何か因縁でもあるのか?」
「いいえ、私と縁があるのは……前の代官、
葛さんの方です。あの人には、いひ、毒を製成するための
薬草とか、実験台とかを融通してもらっていましたので。
あの人が、お代官じゃないと、私が困るんです」
……なるほどの。葛はただの人間でありながら、
『妖としての』大仁田について詳しすぎるとは思うて
おったが。あやつの情報源はですの蛇だったわけじゃな。
大仁田と何か因縁でもあるのか?」
「いいえ、私と縁があるのは……前の代官、
葛さんの方です。あの人には、いひ、毒を製成するための
薬草とか、実験台とかを融通してもらっていましたので。
あの人が、お代官じゃないと、私が困るんです」
……なるほどの。葛はただの人間でありながら、
『妖としての』大仁田について詳しすぎるとは思うて
おったが。あやつの情報源はですの蛇だったわけじゃな。
「そちらの事情は分かった。時間の猶予も
あまりないからな、話を先に進めよう。単刀直入に聞く。
今の大仁田への有効な対策はあるのか?」
「あります。……ですが、それを話す前にまず、皆さんの 認識を正すところから、始めなければいけません。
大仁田は、あの男の本当の正体は、鬼ではありません。
……いえ、あの、いひ、今は鬼なんですけどね。
かつては、あの男は『神』と呼ばれる存在でした。
ツクヨミノミコトの血を引く、夜を支配する力を持つ、
本物の八百万の神、なのです」
あまりないからな、話を先に進めよう。単刀直入に聞く。
今の大仁田への有効な対策はあるのか?」
「あります。……ですが、それを話す前にまず、皆さんの 認識を正すところから、始めなければいけません。
大仁田は、あの男の本当の正体は、鬼ではありません。
……いえ、あの、いひ、今は鬼なんですけどね。
かつては、あの男は『神』と呼ばれる存在でした。
ツクヨミノミコトの血を引く、夜を支配する力を持つ、
本物の八百万の神、なのです」