森見登美彦

走れメロス


 山月記、藪の中、走れメロス、桜の森の満開の下、百物語。文学史に残る名作をモチーフに森見登美彦が、同題でリメイク(?)した作品。走れメロス程度しか読んだことないので、どのへんが変わってるのかそのあたりはよくわかんなかった。もったいない。
 別々のお話を基にしているけど、この本の中では連作短編だった。京都の大学のお話。ところどころ繋がっていて、また同作者の他作品とも関連がちらほら。また詭弁論部が出て来てちょっとうれしい。
 とても好きなんだけど、読む人を選ぶなぁとは思う。この作者の他の本を好きな人、原作(?)文学が好きな人、本が好きで本は娯楽だと思っている人(私みたいな奴)は、面白いんじゃないかな。どこが、とははっきり言えないけど、この京都の大学を舞台にした空気がなんだか懐かしくて馬鹿馬鹿しくて、好きだ。
 個人的には走れメロスと桜の森の~がよかった。走れメロスの主人公の、無茶苦茶な理屈に笑ってしまった。原作ではメロスはセリヌンティウスの信頼を裏切らないために走るのに対して、今回は正反対。「あいつは約束を守らない、という信頼を裏切らないために、断固として約束を破る」と、よく分からない理屈。駄目な意味での信頼がすばらしい。桜の森~は「原作を読んでおけばよかった」と一番後悔した。坂口安吾はよく名前を聞くけど、一度も読んだことはない。だから模倣作を読んでこんなことを思うのも変だと思うけど、妙にお耽美で綺麗な文章だなぁと思う。淡々と粛々と、それこそ音も風も無く降り積もる桜の花びらを連想した。読んでみようかなー。
 元々の作者の持ち味を活かしつつ、でも雰囲気が随分変わって面白かった。本当に、原作既読ならもっと面白いのに。残念。
(2008/08/19)

太陽の塔


 「夜は短し歩けよ乙女」を読んだ勢いに乗って、この本を読みました。当たり具合は「夜の~」の方が上でした。なんかこっちは暗い。
 主人公は京都の男子大学生。今はフリーなのですが、以前別れた元恋人の生活を観察している、所謂ストーカーです。ただ彼はくどい程に読者に念を押します。水尾さんに未練があるわけではなく、純粋な研究対象として見ているのだ、と。題して「水尾さん研究」。立ち寄りそうな所をリストアップし、「この曜日のこの時間なら、本屋だ!」と本屋へこそこそと出かける姿は、どこに出しても恥ずかしくないストーカーなんですが。
 また、彼の友達もまた同じような性質(ストーカーではなくて)を持っており、世の中の恋人同士に敵意を燃やしたり、毒づいたりしているのです。ネットの「クリスマス撲滅委員会」を髣髴とさせるその思考、行動は読んでいて本当に面白い。またそれを「妬んでいる」「僻んでいる」とはついぞ認めたくない彼等が、可愛いと言うか何と言うか。おそらくそんな風に思われることすら、彼等のプライドが許さないのだと思いますが、彼らが屁理屈を見ているだけでも面白い。(痛ましい?)
 「夜は~」付き合う前のお話でしたので、もしかしてこのお話はの後日談なのかしら?と思いました。そうだとしたら、「夜は~」の二人は微笑ましかったのでちょっと寂しいな。
 主人公は水尾さんに振られたことを認められず、でもよりを戻したいとは言えず、葛藤を「水尾さん研究」にぶつけることで心の平安をはかります。恋愛慣れしていない男の子が、虚勢を張ってるようで愛しさ倍増なのですが、大人なのであまり美しくないのが残念なところであります。
 途中で恋敵と夢の中に入っていったり、突如ファンタジーになるのがちょっと分かりづらかったです。
 私の好きな文体は「夜は~」に比べるとちょっと物足りなかったのですが、それでもこれを一番に読んだら同じように「当たりだー」と思っていたに違いありません。
(2007/07/27)

夜は短し歩けよ乙女


 この人の本は初めて読むのですが。「当たりだー!」とニヤニヤしながら読んでいました。文章が面白い。誤解覚悟で言うなら「オタク受けする文章」だと思います。
 主人公は二人。「彼」と「彼女」(見落としてるのかもしれませんが、名前出てなかったような)が交互に語る形で進んでいきます。「彼」は同じサークルで後輩の「彼女」に一目ぼれ。一歩間違えばストーカー、いや既にストーカーと化しているのですが、どうにかして「彼女」と自然にお近づきになろうと追い掛け回します。片や「彼女」はそんなことに全く頓着せず、お酒を求めて夜の街をふらついたり、古本市をふらついたり、学園祭をふらついたり。
 「彼」は、「彼」の独白部分では所謂「非モテ」なオーラ漂う、理屈っぽくプライドは高いのにある意味行動がドジっ子なのですが、「彼女」視点から見るとあら不思議。なんだか落ち着きのある寡黙な先輩に見えるじゃありませんか。すっごく苦労してやっと傍に行けたのに「たまたま通りかかったから」とか言っちゃうんですよ。実はその台詞だってめっちゃ練習してるのに。世の中を闊歩しているおとなしそうな男性陣も、頭の中ではこんなのかしらと思うと、人生楽しくなりそうです。
 「彼」が「彼女」とお付き合いを目指して奮闘するラブストーリーなのですが、ファンタジーなのでいきなり展開が飛んだりします。その辺の現実との境目部分があやふやで、ちょっと戸惑いましたが無問題!むしろ宮崎監督か押井監督にアニメ化してもらいたいです、この怪しげな雰囲気を。
 「彼女」は天然な不思議ちゃんなのですが、不快感は全くなくとても可愛らしいです。邪念が無いというか、「彼」と「彼女」がお付き合いすることになったらさぞかし「彼」は苦労するのだろうなぁと予想します。
 この本の表紙もはっきりした絵柄でかわいくて、しかも「彼」は色白優男眼鏡で、頭の中で考えている内容とギャップがあってまた良し!なのです。舞台は京都で、京都に詳しければもっと楽しいんだろうなぁ。
 一番印象に残った台詞は(元は誰かの詩なんですけど)、「一人ある身はなんとせう!」
(2007/07/24)

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最終更新:2008年08月20日 01:34
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