湊かなえ

告白


 読みやすい、でも重たいというか、気分は暗くなる本だった。評価は高いけど、もう一回読むには気合が必要な感じ。「告白」という題名と、表紙の学校の椅子の絵からして、愉快痛快話ではないだろうと踏んでいたけど(いじめ関係の話かな~と思ってた)、イメージ的には予想通り。ページ数はそう多くなく、読みやすいのもあって、一気に読み終わった。
 このお話は6章からなる。最後の2章は同じ人物だが、他は全部別の人間の視点からある事件について語っている。ある事件とは、中学校のプールで起こった小さい女の子の事故死。この子は森口という教師の娘で、シングルマザーの森口は自分の職場へ娘を連れて来ていた。1章はこの森口が生徒達の前に話す形で始まる。3学期の終業式のクラスでの挨拶で、退職することを告げる森口。生徒からは事件が原因かと質問されるが、森口は淡々と「娘はこのクラスの人間に殺されたのだ」と話を続ける。
 1章を読み終わった時に、その完成度の高さに実は短編ではないかと思った。ジャンルはよく分からないが(ホラー?)、不気味で、オチがつかない、解決しないお話かと。でも2章はそのクラスの生徒からの視点で、3章はまた別の人間、そうやって語り手を変えながら物語は進んでいく。
 このお話はこのミスへランクインし、本屋大賞も受賞したとのこと。確かに面白い。ただ、自分の見たくなかった部分に限りなく近づいてしまう面白さだった。単純に「面白かった!」と言ってのけづらい。面白かった部分をつきつめると、自分の残酷さが透けて見えるからだ。とはいうものの、読んで損はない本だとは思う。是非他の人の感想も見てみたい。

 ここから先はネタバレです。
 自分がなぜこんな微妙な感想になってしまったかというと、結局面白かったからだと思う。面白かったし、ある意味痛快だった。わけの分からない、思春期特有のくだらないプライドから幼い女の子を殺した中学生男子。後悔して泣きながら土下座でもして、今後の楽しみは徹底的に排除して、最終的に死ぬ位のことをすればいいのにと思ってしまう自分。その懲罰的な発想を怖く感じる。そもそも「女の子を殺した」という一点で、森口と読者は覆せないアドバンテージを握った。犯人の中学生男子にも、そんな人間を育てた親に、共感も同情もしなくてよい。森口に同情しつつその尻馬に乗って、悪役を成敗する経緯に溜飲を下げる。私は仕返しをした森口よりも悪意を持った中学生よりも、当事者でもないのに(当たり前だけど)、「ざまみろ」と思う、そんな自分に怖くなった。
 登場人物には誰一人として感情移入はできなかった。被害者遺族である森口にも、教育者の鑑である森口の夫にも、熱血教師にも、そして中学生にも。これで森口がもう少し感情移入しやすい人間なら、私はここまで気の重い感想を抱かなかったと思う。「犯人ひどい!森口先生と愛実ちゃん可哀想!因果応報だ!めでたしめでたし」とはならなかった。私はそこに作者の意図を感じる。娯楽を装って、読者に対して問いかけているように思う。誰にも共感できないように作り、その上で貴方は何を思う?と問いかけられているような気がした。
(2010/04/11)

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最終更新:2010年04月12日 00:11
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