小川糸

食堂かたつむり


 ほんわかした、のんびりして、読み易いお話だった。ただ、あっという間に読み終わったので、文庫じゃないと勿体無いような気がする。ハードカバーの表紙は可愛いけど。
 ある日主人公の倫子は、同棲相手に荷物の一切合財を持って逃げられる。無事だったのは亡き祖母のぬか漬けのみ。無一文で行く宛もない倫子は随分昔に出た、折り合いの悪い母がいる実家に、その足で帰る。故郷で食堂を開くことを思いつき、それに四苦八苦するお話。
 四苦八苦と言いつつ、とてもゆっくりとのんびりとした進み方で、落ち着いて読めた。私は料理を扱ったお話が好きなので、その辺も良かった。活字だけで語られるおいしさはなんと素敵なことか。
 食堂を軌道に乗せるお話と並行して、母との歩み寄りも進む。壮絶なエピソードがあるわけではないが、なんとなくすれ違ってしまった感じの母子。
 読後感も爽やかで、「私ももういっちょ頑張るか」という気分になる。出てくる人がいい人ばかりで、リフレッシュにはちょうどいいと思う。私はホロリときた位だったが、疲れている人は泣くかもしれない。ふくろうのエピソードはやばかった。
 それからご飯作るのって大事だなぁと思った。私も実家を出て、それなりに毎日ご飯は作っている。元々食べることは好きで、残りの食事回数を思えば一食たりとも適当な食事は取りたくないとまで思えてきた。適当な食事というのは「粗末なもの」という意味ではなく、空腹と栄養さえ満たせればそれでいいという食事。食べたい!と思えるものなら、カップラーメンでもファミレスでもいい。ただ、「とりあえず食べとく」ことはなくしたいと思う。食事は私を作るもの。限られた食事回数ならば、納得して作るなり食べるなりしなければと思った。
(2009/07/14)

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最終更新:2009年07月15日 01:20
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