樹なつみ

デーモン聖典






 11巻で完結しました。この人のお話はどれもはずれなく面白いです。最初「りな」「もな」という名前や、お団子二つの髪型や、幼女が出てくるところがなんとなく受け入れ辛く、「萌漫画?!」と思ったのが、遠い昔のようです。いや~そんなはずなかった。なんであんなこと考えたんだろう?
 このお話は現代よりもちょっと未来が舞台のようです。「りな」と「もな」は双子の姉妹。両親を亡くし、親戚の忍という二十代の青年を保護者として共に暮らしています。りなは逆行症候群(リターンシンドローム)という、若返りやがては消滅してしまう病気を抱えています。この病気は原因不明で世界中に蔓延していますが、りなが他と違うのはその若返りが非常にゆっくりであること。その珍しい症状を隠すため、もなと忍は注意を払います。
 そんな中ミカという超絶美形な白人男性が突如3人の前に現れ、自分はインテリジェンスと呼ばれる異世界の生物であること、逆行症候群はインテリジェンスが人間に触れることで起こること、稀に消えない人間がいてその人はそのインテリジェンスの「鎖」と呼ばれる存在になることを説明します。りなの母「れな」は双子を妊娠している時にミカの鎖になった為りなも発症、ただし体内接触だったので症状がゆっくり出ているとのこと。そしてもなが発症していないのは、鎖体質を引き継いでいるから。ミカは、もながミカより位が高いインテリジェンスの鎖となることで、りなの症状が食い止められると話します。
 ミカが呼び出したインテリジェンスは無事もなの支配下となり、この当たりで舞台設定が整ったという感じ。インテリジェンスとはなんぞや。ミカは一体なんなの?止まったとは言えりなは治るのか?忍の生い立ちは?と物語が展開します。近未来なのでSFなのか、異世界生物とかあるからファンタジーなのか、と相変わらず説明とジャンル分けが下手な私ですが、面白いですよ。どっちかってと、女性向けなのかなと思います。美形が多くて現実離れしている(笑)それにしても、ある一定のお約束事って説明するのが難しい!この漫画もそうですが、「花咲ける青少年」のラギネイや「OZ」の世界観、「パッション・パレード」「八雲立つ」の家に対する重みも、独特の舞台設定やお約束事が本当に作りこまれていると思います。
 感情が昂ぶったり、深く考えたりそういうことはありませんでした。でもこの人のお話好き。読み応えがあるというか、ストーリーが練りこまれている感じがあって、読んでいて落ち着くんです。風呂敷を広げすぎて破綻しないかしら?というハラハラとは無縁だなぁと思います。その綺麗さや計算された美しさが物足りなくもあり、安心でもあり、といったところでしょうか。全巻出揃ったので、また一気読みしたいと思います。

 以下、ネタバレあり感想です。
 最終巻でミカが忍とりなに「私は悪魔(デーモン)なんだよ」と言ったシーン。なんとなくですが、このシーンを一番描きたかったんじゃないかなぁと思いました。ずっとミステリアスで、何を目論んでいるのか、もしかして黒幕なんじゃないか、と意味深な言動が多かったミカですが、最終巻でやっと秘密が明かされます。それは全く熱さの無い、静かで激しい聖典(サクリード)への愛。れなからの愛の言葉をもう一度貰うため、幼い頃のれなの思い出を胸に何千年でも何億年でも待つ。その目的が「死」というのは、さらっと流されていますがよく考えるとすごいなぁと。
 最終巻のミカを見て思いましたが、この作者さんはこういう無償の(厳密にはささやかな見返りはあるけれど)愛が多いように感じます。いや、人を好きになるってそういうものなのかもしれませんが。ミカかられなへ。「花咲ける青少年」のムスターファから花鹿へ。「OZ」の1019からムトーへ。他の、例えば忍のりなへの想いとどう違うのか?と言われるとうまく言えないのですが、好きであることや相手が存在することで既に満足していて、それ以外の見返りはあったら嬉しいけどでもなくても想いは変わらない、といった感じ。たった一人その人でないと駄目で、無条件でその存在に向く想い。恋愛ともちょっと違う。あ、今挙げた登場人物には、皆一様にドライで他のものに執着しないって共通点がありました。それなだけに、その愛を思ってもらい泣きしたりはしないのですが、深いなぁと。
 結局聖典から愛の言葉をもらえたのは、二人だけでした。これって難しい条件ですよね。もながビーストに触れた時に閨人のことを考えてたからよかったけど、子泣き爺を思い浮かべていたら、果たしてりなはK2を好きになったのだろうか、と思うと難しかったろうなぁ。やっぱり年頃の異性でよかったねって思いました。
 忍とりなの間にある絆に入れず拗ねていたもなも、K2を好きになってからはそれを受け入れてましたね。ヘルムートが何よりも欲しがって忍の言葉を、りなが「残酷な自分」を感じながらも喜んでいたシーンでは、うまく言えませんがとても大切なことを語っているような気がします。誰よりも大切な人ができるということは、それ以外の人が2番目以降になるということ。
 最後にりなが戻って忍と抱き合った時に「よかったね~」とぐっと来つつ、「何年か分の無駄毛がぼうぼうなんだろうな」とも思ってた私は、もっと純粋な気持ちを取り戻すがいいと思う。
(2007/09/12)

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最終更新:2007年09月13日 00:56
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