荻原浩2

ママの狙撃銃


 荻原浩は面白い。引き出しが多い。安心して読める。そう思っているうちに読んだ本が結構増えたと思う。この本は勿論面白い。面白いんだけど、今まで読んだ荻原浩の中では平凡な感じがした。
 念願の一戸建てを買った主人公。夫の稼ぎと教育費とローンの支払に頭を痛めるごく普通の主婦。決して条件の良いとは言えない小さなマイホームが彼女の世界。だけど実は彼女の祖父は殺し屋で、それなりにハードボイルドな世界に身を置いていた過去を持つ女性なのです、というお話。ひょんなことから過去を掘り起こされた彼女は今の自分を守るためにどうするのでしょう。
 華々しい(ある意味)過去の割りに今の姿がリアリティありすぎて、ファンタジーに身を任せて良いのかリアリティを共感すれば良いのか、自分の立ち位置に迷った。昼間は主婦、夜は殺し屋、みたいな漫画みたいな展開になることもなく、「何日も昼間家を空けるわけにはいかない」と悩むその姿は、まるっきりその辺にいるお母さんだ。その漫画みたいな展開なんてないんじゃー!と主張したいために描いているような気までする。
 最後まできちんと収束し、後味も良いし、結末にはちょっとほろっとする。重たいものは読みたくない、という時の気分転換に読むにはぴったり。
(2010/11/16)


 実は、内容をほとんど覚えていない。感想を描く資格もないのですが、ただインパクトだけはすごかったので、記録を残しておきたい。
 確か刑事さんが主人公で殺人犯の捜査に当たる。被害者は学生で、刑事かつおっさんの主人公ではなかなか捜査がスムーズにいかない。そしてページの途中で、ところどころ挟まれる誰かの会話。女子高生にものを流行らせる会社が胡散臭くて、本当にあるんだろうなぁという感じ。
 それだけで普通に「あー面白かった」と読み終えられるところだったのに、最後の最後でもう一度1ページ目から読む気にさせられる。そのひっくり返される感覚と、そのセリフが秀逸だなぁと思った。
 普通に面白いのでお勧めです。

 ここから先はネタバレです。
 きもさぶ。たった四文字なのにこのインパクト。なかなか忘れられない。
(2010/05/11)

コールドゲーム


 とても胸の痛いお話だった。この作者のお話はどこかにユーモアがあることが多いけど、このお話は少しだけある笑えそうなところすらも、辛い気持ちを煽ってしまうような気がした。「いじめ」という題材をできれば見たくないと思ってしまうのは、被害者にも加害者にもなりえた人生を歩んできたからだと思う。一歩間違えれば被害者になっていたかもしれない。積極的でなくても、消極的な加害者であったかもしれない。「見ない振り」をしたという点でも、加害者を止めなかったという点でも恐らく同罪だと分かっているからだ。
 高校3年の夏休み。光也はしばらく会っていなかった幼馴染の亮太に呼び出される。中学時代いじめられっこだった廣吉が、当時のクラスメイトに仕返しをしていると言う。血気盛んな亮太は返り討ちにしてやると、光也に協力を求める。
 正直言ってとても苦手なテーマだ。なのに、続きが気になってしょうがない。重い気持ちになりながらもページを繰る手を止められなかった。面白かったのに、読後感はやっぱり暗い。なんか矛盾しているようだけど、本当に面白かったのだ。でも。
 中学時代ひどいいじめにあっていた廣吉が、一人一人に復讐して回る。光也は積極的にいじめに加担してはいなかったけれども、罪悪感は残っている。恐らく読者の大多数が、この光也の立場じゃないかと思う。昔捨てた汚物を今になってなすりつけられているような気分(てなことを描いていた)。その心情がいちいち私の心をちくちくと刺す。お前もだろ?他人事みたいな顔してるんじゃないよ、て感じで。全くの第三者の立場でなら面白く読めたのに、この作者はそれを許さない。しかも立ち位置は復讐される側。だんだん廣吉が怖く、憎くなるが、そもそもそんな風に追い詰めたのは自分達側なのだ。怖がったり仕返しされたりするクラスメイトを見て、廣吉を悪く思うたびに罪悪感が跳ね返ってくる。
 「いじめかっこ悪い」とか言われるよりこたえた。だけど絶賛中学生活満喫中の子供達がこれを読んで果たして同じように思うかは疑問だ。渦中ではなく、時間が経って振り返った現在だから、こんな気持ちになるのだと思う。
 自分は苛められないと確信を持っている子供って、一体どれ位いるんだろう。このお話程ひどくない(と思う)にしろ、今までの学校生活の中で「いじめ」は確実にあった。その子達を今思い出しても自分がそうならなかったことが、奇跡のように思えてならない。もし私が転校生だったら?極端に空気の読めない子だったら?権力のある子に逆らってしまったら?そんなこじつけはなくても、明らかに理不尽な理由でなんとなく嫌われてしまった子もいた。その頃は意識はしていなかったけど、私がそうならなかった理由なんて、本当に偶然でしかない。地雷原をたまたまうまいこと歩けただけだと思う。いじめがなくならないのは、自分が標的になるのが怖いとか、反対に自分はいじめられる側じゃないと主張してるとか、そんな理由もあると思う。
 ネガティブな感想ではあるが、私がこのテーマを苦手なだけで本当に面白い、良いお話だと思う。ちなみにいじめがテーマのお話のなかでは、まだソフトだ。ひどいのはもっとひどい。ミステリ仕立てになっており、最後まで気を抜けなかった。いろいろ書いたけど本当に面白いのですよ。

 ここから先はネタバレです。
 お墓参りにいい子ぶる学級委員の女の子が、皆から詰られるような雰囲気の中で光也がやめろというシーン。巧く言えないけれど、すとんと何かが落ちるようなそんな気がした。私もそのいい子ぶる女の子にイライラしていたこと。そして「やめろ」と光也が言ったことで、また廣吉に対するようないじめを繰り返しそうになっていたことに気づいたこと。その子が責められるのは当然かのように思ってしまっていたこと。決して説教めいたことを描いているわけでもないのに、無意識に加害者側に立っていた自分に気づかされた。私は読んでいる間ずっと「傍観してしまった」罪悪感に捕らわれていたけど、れっきとした加害者だった。
 読んでいて居心地が悪かったのは、このお話の登場人物のどれにも自分がなり得たからだと思う。苛められたり、苛めたり、傍観したり、復讐したり、復讐されたり。だから誰にも感情移入できず、誰の気持ちも分かるように思った。
(2009/05/02)

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最終更新:2010年11月17日 02:13
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