安価でオブジェクト製作スレ @ ウィキ

ヤナギカゲ重工試験記録書

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「『エレノア』のしゅうりひはこちらでうけおってやる。代わりに『オールマイティ計画』で作ったあたらしいきたいを送れ」

情報オブジェクトの捕獲任務をしくじって、保険とかないの?と依頼人に『ヘッジホッグボマー』の修理を頼んだところ帰ってきた返事がこれだった。
正直、今回の仕事は割に合わなかったとジンは思い返す。
同じ仕事を請け負った仲間は『割に合わない』と途中リタイア。2対1の不利な状況に持ち込まれて撃破、エリートのフェンと機体は回収したが機体はスクラップ状態。
挙げ句の果てに標的の情報オブジェクトは肝心の中身がどこかの誰かに抜き取られて空っぽだったという。
依頼人が修理費を請け負うのもそうした事情を鑑みてくれたからだろう。……とりあえずは、『仕事』の話である。

「いきなり作れ、と言われてもなあ。どういうコンセプトで作るとか注文してくれないと俺にはどうしようもないな」
「へらず口を叩くな、ジン=ヤナギカゲ。おまえは『7thコア』にあるていどひょうかされているとはいえ、気分しだいで切られる『しっぽ』の一つでしかないのだぞ」

茶色のロングヘアをかきあげて依頼人である少女は藍色の目で鋭く厳しい視線を向けてくる。
コイヒメ=パンゼルワーゲン
『資本企業』でも珍しい、軍事産業一本のみで生計を立てている『パンゼルワーゲン社』のエリート。ジンより年若ではあるが、その能力はかなり高いと他の企業の間で有名である。

「ヒメちゃん言うこときついなオイ」
「ヒメちゃんと呼ぶな。……『ヘッジホッグボマー』が抜けたことで、アレが担当していた『情報同盟』とのスパークエリアの一つが手薄になった」

とどのつまり、代打要請だ。

「何でもいい。こちらとしては『エレノア』が欠けてももんだいないことを『情報同盟』に見せつけるひつようがあるからな」
「へえ。なんでも良いのか?」
「……何かのじょうやくに引っかからないかぎりはな」 

コイヒメが怪訝な顔をしたのは、まあ少なからずジンとの付き合いを重ねてロクでもない人柄を知っていたからだろう。だがしかし、この場ではそれは疑念にだけ留めてコイヒメは口に出すことはなかった。

「オーケー。幸いこの間新しい機体を建造したばかりだ。場所を教えてくれ、三日以内に輸送する」
「……おまえはよくそんなにオブジェクトを作れるな?いったいどこからそんなしきんをねんしゅつしてるんだ」
「内緒。出来る男には秘密の一つ二つあった方が魅力的だろ?」
「ぺっ」
「オイ唾吐くんじゃねえ、俺の心が傷つくだろ」

そして三日後。
輸送されてきた機体を見たコイヒメの感想は一言。

「なんだこのきたい」

まず目を引くのは目の冴えるような赤や青などの派手な蛍光色、そしてそれらを無造作に塗りたくったような模様だ。
まずまともな迷彩効果は認められないだろう。むしろ目立つといっても過言ではない。
機体前面に主砲が一門有るのみで、あとは対人機銃やらレーザーなどの攻撃力の低い副砲ばかりである。

「どーよヒメちゃん。これが『ヤナギカゲ重工』の新作オブジェクト、『スティンクディール』だ。感想を一言」
「なんだこのきたい」
「それさっき聞いたよ。他の感想をプリーズ」
「……とりあえず、うんようの仕方だけきかせてくれ。わたしがのるから」
「あー……いや、とりあえず俺がどういう風に運用するかを遠隔操縦で見せてやる」
「『マリオネットシステム』か?まだみかんせいのはずだろう」
「一応動かせる程度には精度は上がってきた。まあ百聞は一見に如かず、だ。ゆっくりと見てなよ」



ロッキー山脈とシエラネバダ山脈の間に位置する北米大陸特有の植生が生息する乾燥地帯。
そこが『スティンクディール』の初陣の場であった。

「『スティンクディール』ははっきり言って直接的な攻撃力はないに等しい機体だ」
「見れば分かる。きじゅうやらレーザーやらまめでっぽうしかつんでないからな」
「基本的な運用は一当てして即逃走。で、その相手は……アレか」

地平線の先から現れたのは銀色のオブジェクト。特に際立った特徴も見受けられないところから見るに『スティンクディール』と同じ第一世代だろう。

「なんて名前だっけか」
「『ミセスジェニファー』。特筆するようなことは何もないありふれた第一世代ね」
「あっそ。んじゃ、性能試験開始っつーことで」

言うなり、『スティンクディール』が先制攻撃。主砲から空中に向けて実弾頭を発射した。
『ミセスジェニファー』は奇襲に一瞬遅れて気付くも時既に遅く……実弾頭は目前で炸裂。中に入っていた何らかの液体をありったけ銀の機体にぶちまけた。

「……これだけ?」
「うん。これだけ」
「もえたりは?」「しない」
「そうこうをとかしたりは」「しない」
「……こうげきりょくは?」「全くない」

じゃあ何のためにうったのよっ!!とコイヒメがジンに殴りかかった。
ぼこぼこにボディブローを受けながらジンは必死に説明を続けようとする。

「おうふっ、ちょっとまっ、待てってヒメちゃんっ!?スティおっふ!!『スティンクディール』は攻撃力はねぇって言っがはっ!?」
「じゃ何のいみがあったの!!せつめいしなきゃグーよグー!!」
「さんざんグーで殴ったじゃねえかよ!!まあ良い、答え合わせといこうか」

散々殴られた脇腹を擦りながら、ジンは通信をオープンに切り替える。
聞こえてきた『ミセスジェニファー』のエリートの声が、コイヒメに答えを明確に示した。

『あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!!くっさ、ヴォエッ!!なんだこの匂いは!?ゴホッ……おえ"え"え"え"!!』

控えめに言って地獄みたいな状況であった。
聞きたくはないし認めたくもないがコイヒメがジンに問いかける。

「……あの、もしかしてこれって」
「うん。『スティンクディール』は攻撃力はないけど代わりに『嫌がらせ』に特化した機体。その真骨頂が今打ち込んだ特殊悪臭弾頭だ。スカンクの屁、硫黄、ホルマリン、くさや、シュールストレミング、その他諸々を基に作り上げた液体が詰まってる」

コイヒメの顔がひきつるのと反比例するかのようにジンの顔はどんどんにこやかなものになっていく。

「単純に『臭い』ことのみを追及した液体だから毒性はほぼない。匂いの方も酸素に触れたら発生するようにしてるからミサイルの段階じゃ全く匂わねえ。何より『スティンクディール』には脱臭機構をありったけ積んだから中に匂いが来ることもない」

オープン回線から飛んで来る阿鼻叫喚に腹を抱えて笑いながらジンは『ミセスジェニファー』のエリートを嘲った。

「かわいそうに。モロに液体被ったら1ヶ月は臭いとれねえぜ」
『…ふっざけんなてめえこらああああああ!!』

コイヒメは初めて敵に同情した。
誰だってこんなオブジェクトの相手なんかしたくない。
『ミセスジェニファー』が『スティンクディール』に向けてコイルガンを乱射した。
一発、二発。音速の金属弾頭が極彩色の機体へ突き刺さる……が、『スティンクディール』はびくともしない。

「嫌がらせ特化だぜ?ヘイトを買うのは分かりきってたから防御には死ぬほど注力してるに決まってるだろ」

おにか、こいつ。コイヒメは隣にいる味方を怨敵でも見るかのような目で見つめた。
一方のジンはへらへらと相手を煽りながら『スティンクディール』を撤退させ始める。
当然怒りが天元突破している『ミセスジェニファー』は追いすがろうとするが、尋常ではない速度で引き離される。

「逃げ足も早くなくちゃな。囲んで叩かれるのはごめんだ」
『にげんなこのやろおおおおおお!!』
「はは、やなこった。ついでに置き土産だ。持ってけ」

ぼん、と音を立てて『スティンクディール』が真っ赤な煙幕を展開する。
明らかに嫌な予感がした『ミセスジェニファー』はここで退くべきか追うべきか一瞬、二の足を踏む。
赤い霧が晴れる。『スティンクディール』な姿はもう、地平線の向こうへと逃げ去っていた。

通信を切り、ゆっくりと息を吐いてからコイヒメは一言。

「……ねえ、あの赤いきりって」
「ああ、キャロライナリーパーっていう世界一辛い唐辛子をマイクロ粒子まで砕いたやつ。煙幕兼兵士避けだよ」
「……うわあ」



「クソみたいな機体だな」
「そうだな。匂いはクソ以下だけど」
哀れな『ミセスジェニファー』を煽るだけ煽ってベースゾーンへ戻ってきた『スティンクディール』の姿は、ちょっとした凹みを作っただけで全くの無傷であった。
多分すぐ出撃しろと言われてもその命令にすぐ従えるだろう。それをベースゾーンの建物の屋上で眺めながら、ジンは呟いた。

「実際こいつは戦闘では役立たずと言っても過言じゃない。ゲロとクソ以下の液体をぶちまけて唐辛子の粉を吐き出すのが関の山の雑魚オブジェクトさ」
「……ではなんで、こいつを出してきたんだ?おまえの所にはこうげきりょくにすぐれた『サンジャオロン』がいただろう」

だってつまらないじゃないか。
ジンが何気なく放った返答にコイヒメは耳を疑った。
懐から煙草を取り出して一服、口から紫煙を吐き出してから笑いかける。

「どこもかしこもオブジェクトを作る時には新技術だの高いスペックだのと言ってるが、遊び心がない。そういう要素は案外重要なんだぜ?この『スティンクディール』は雑魚だが、そんな俺自身の『遊び心』で作った傑作だ」
「けっさくか。こっちはそのあそび心にいのちをあずけなければならないのだからほどほどにしておけ」
「はいよ……ところでさ、ヒメちゃんアレ乗る気なの?」
「は?」
「試験前に言ってたじゃねえか。『わたしがのる』って」

その言葉を聞いてコイヒメは思わず苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。
確かに言った。だがそれはあのクソオブジェクトの本性を知らなかったから言えたことであって今は絶対乗りたくないと断言出来る。脱臭だか防臭だか知らないがそんなことしても乗ったら自分も臭ってきそうで怖い。

「……まあ、その顔見りゃ嫌なのは分かるぜ?でもな、エリートがいなきゃアレは単なるデカいオブジェだ。中身もお前のものに合わせたんだし、乗ってくれなきゃ困る」
「……やだ」
「やだっつってもさあ……」

その時、ベースゾーン中に喧ましい警報音が鳴り響くと同時に、遠雷のような音が重なって聞こえてきた。
慌ててコイヒメは遠くを見やり、狙撃用の入力デバイスとして調整された赤い左目で『それら』を見つける。

「『ミセスジェニファー』、『サヴァンナ』、『セラフィーナ』……うそでしょ、『ミザリィ』まで来てる!?」

都合四機、『情報同盟』のオブジェクト達が『スティンクディール』しかいない『資本企業』のベースゾーンを襲撃するという前代未聞の事態が今、勃発しようとしていた。

「どういうこった、『情報同盟』の連中が揃い踏みって」
「わたしだってしらないわよ!!そっちが何かやらかしたんじゃないの!?」
「ヒメちゃん素が出てるって。俺は何もやらかしてなんか……あ」

一つの想像が思い当たる。
あり得るかもしれない、だが現実であって欲しくない想像に。

「『スティンクディール』か?……まさか、馬鹿にして煽っただけじゃねえかよ」
「それでじっさいに来てるじゃないのっ!!それも四機も!!」

ふう、とジンは息を吐いた。
それはまるで四機がかりで襲ってきた『情報同盟』に呆れたかのような様子、あるいは予想外の事態に心を落ち着けているかのようで。

「『スティンクディール』を出す。ヒメちゃんはここの部隊と一緒に逃げな」
「えっ」
「なに、前に銃撃戦のド真ん中にぶちこまれた時よか遥かにマシだ。話が通じるだけな」
「ちょ、ちょっとまて!!いくら『マリオネット』でうごかせるといってもおまえじゃエリートのぎりょうの足元にも及ばないぞ!!それでうごかすなんてじさつこういだ!!」
「だからこそ良いんだ」

敵は四機、こちらの手元にあるのは攻撃力0のオブジェクト一機。絶望的な状況であるにも関わらず……ジン=ヤナギカゲは子供のように快活な笑顔を浮かべていた。

「攻撃力がなくとも『スティンクディール』が恐ろしい存在であることを奴らに教えてやるよ」



『情報同盟』、というか『ミセスジェニファー』のエリートはキレていた。
全うな戦闘行為ならまだしも、攻撃力0の臭い液体を引っかけられ、煽られ、挑発された挙げ句に悠々と逃走を許してしまった。
おまけにかけられた液体の臭いがとんでもなく強い上に消えないために部隊の指揮官からは『お前臭いから中破するまでベースゾーンに来るな』とゴキブリか便所コオロギ扱いである。

もう一度言う。
『ミセスジェニファー』のエリートはキレた。
普段の顔の広さを利用し、近くの部隊を説得してあのスカンクオブジェクトが待機しているであろうベースゾーンを襲撃する手筈をものの数時間で整え、実行に移したのだ。

あの憎らしいスカンクオブジェクトは、極彩色の機体でもって悠々と彼らを待ち構えていた。

『はは、4対1か。ずいぶんと汚ねえマネすんなオイ』

意図しないブーメランかあるいは彼に取ってはジョークなのか、どこかのんびりした様子で通信ごしから男の声が聞こえてきた。

『ただまあ……実際有効だ。正直このオブジェクトにはそれをひっくり返すだけのスペックはない。が、白旗を挙げるなとも言われていてな』

そう言うわけなんで、と男は仕方ないとばかりにため息を吐きながら言葉を続ける。

『ここはやはり自爆しかないな。かーっ、しょうがねえなー!!上からの命令だもんなー。とんでもない被害が出るけどまあ覚悟の上なんだろーなー!!」

棒読みな上に明らかに楽しんでいる口調で相手は言い放つ。
馬鹿にしたような調子に苛ついて、『ミセスジェニファー』のエリートは声を荒げた。

「なにがおかしいっ!!きさまはいまきゅうちに立たされているのだぞっ!!」
『ああ。確かにそうだな。だがそりゃあよ、『短期的』に見た場合の話だ』
「……何?」
『この『スティンクディール』はとことん嫌がらせといえ目的を突き詰めて開発した機体だ。そんな機体がタダで負ける訳がねえだろうが』

2万リットル。
唐突に彼はそんな数字を挙げた。

『この機体にはお宅にぶちまけてやった例の液体が『原液』の状態で2万リットル詰まっている。他の皆も良く嗅いでみなよ、時間が立ったとは言え臭いは未だ健在のはずだ。なんなら希釈率も言ってやろうか』
「だから、きさまはなにを……!!」
『スットロいねえ、案外。では馬鹿でも分かるように簡単に教えてやろうか。
……この機体を自爆させたら、半径10km圏内にあの激臭の液体がぶちまけられるって言ってんだよ、希釈してねえ『原液』の状態でな!!』

その言葉に、ようやく『ミセスジェニファー』のエリートも事態を理解し……背筋が凍りついた。
分厚いオニオン装甲を通してですら苦痛に悶えたあの激臭が、広範囲に拡散される。
おまけにアレですら希釈して臭いを薄めた状態。その原液の臭いなど想像したくもない。

『まあ、まずこのベースゾーンは使い物にならなくなるだろうな。ベースゾーンだけじゃねえ、オブジェクトだって『原液』を直で浴びればまず間違いなく全体の総取っ替えが必要になる。その間、お前らのベースゾーンはだれが守ってくれるんだ?お礼参りに『資本企業』が殴り込んでくるリスクもあるんだぜ?』

誰も反論出来なかった。
相手が嘘を突いている可能性はある。だが犯すリスクがあまりに大きすぎるのだ。
オブジェクト4機で実質オブジェクト1機の交換は余りに不公平極まりない。
敵は無防備。攻撃力など殆どない、第一世代のオブジェクト。
だがその機体を撃てる者は、この場に存在しなかった。

『俺としてはどちらでも良い。生殺与奪はお前らにあるからな。さぁ、好きに選びなよ。賭けるか、降りるかをな」



ジンからの連絡があったのは、コイヒメ達の部隊がベースゾーンから脱出して1時間が経過しようとしていた頃であった。

『終わったよ。全く諦めの悪い奴らだな、30分も居座りやがった』
「もとはと言えばジンのせいでしょうがっ!!」
『まあとにかくこれで、暫く時間は稼げるだろ。『ヘッジホッグボマー』の修復まではな』
「どうしてそんなことが言えるのよ?」
『ちょっとしたリスクとメリットの話をエリート連中にな……おっと、授業料を請求しなきゃならないかな?』
「ジン!!」
『ははははは、悪いねヒメちゃん。今度はもっとまともな機体持ってきてやるから』

弄りがいのある友達との通話を終え、ジンはたった独り残されて静寂に包まれたベースゾーンを一瞥し、煙草に火を付ける。

「……これにて『スティンクディール』の性能試験は終了、と。『嫌がらせ』の方はともかく、『機体性能』は割り切っても未だ届かない、か」

かつて買収した、ある事件によってふきとんだ会社の跡地。
その地下で幸運にも無傷で残っていたデータベースから取り出したデータを眺めながらジンは悔しげに呟いた。

「全く厭になるなぁ。どんだけ頑張っても世の中にゃ上がいるんだもの。心に遊びがなきゃ嫉妬で狂い死んじゃうよ」

所々に意図的な穴はあれど、恐らくこのオブジェクトは最強のオブジェクトとしての名を欲しいままに出来るだろう。
尤も作れるのは、このデータを残した名も分からない天才だけだろうが。

「まっ、とにかく俺は俺の道を往くぞぉ!!そのうちこれを超えるものが造れるかもしれないからな!!」

『INDOMINUS』と銘打たれたデータを閉じて、ジン=ヤナギカゲは落ちゆく夕陽に向かって叫んだのだった。

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