銀齢の果て

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&font(#6495ED){登録日}:2021/04/25 Sun 15:16:00 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 11 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&font(#ff0000){皆さんにはこれから、殺し合いをしてもらいます}} 『銀齢の果て』は2006年に出版された筒井康隆の小説。 還暦を通り越した筒井御大が「老い」をテーマに強烈な問いを直球で放り込む老人文学である。 ……なお、断筆騒動を経て出版社から「表現問題に関して筒井先生を裏切りません(大意)」の覚書を得た後の先生が社会風刺で執筆して大人しい作品になるわけもなく、 &bold(){明け透けな[[グロ>グロテスク]]・パロ・さらにはエロをベースに、高齢化問題だけに留まらず多方面に喧嘩を売りまくる社会風刺をこれでもかとスラップスティックな群像劇にぶち込んだ怪作}へと仕上がっている。 &s(){要するにいつもの筒井節} なお、本作品は一切メディアミックスされていない。&s(){多分される日はこない} 検索した時にたまに引っかかる映画は三船敏郎デビュー作『銀&bold(){嶺}の果て』であり、完全に無関係なので注意。 *◆あらすじ 増大した老齢人口調節のため、ついに政府は&font(#ff0000){70歳以上の国民に殺し合い}させる&bold(){&font(#808080){「老人相互処刑制度(シルバー・バトル)」}}を開始した! 和菓子司の隠居、宇谷九一郎の住む宮脇町には、もと自衛官、プロレスラー、好色な神父など「強敵」が犇めいている。 刃物と弾丸が飛び交い、[[命乞い]]と殺し合いの饗宴が続く。 &bold(){長生きは悪なのか?} (以上、紹介文より抜粋) 身も蓋もないこと言えば&bold(){筒井版バトル・ロワイアル。} [[死]]を迫られるのが少年から老人に代わった訳だが、各々が自分の用意できる限りの手段を尽くして「処刑」に挑む姿はひょっとすると少年たち以上にエネルギッシュである。 &font(#ff0000){以下、ネタバレを含む} *◆老人相互処刑制度 本作品の中核をなす社会制度。作中ではほぼ通称の「シルバー・バトル」表記。 指定地区に住む満70歳以上の老人たちを対象者とし、1カ月を期限とし最後の一人になるまでの殺し合いを要請するもの。 既に二年に渡り実施されており、本作では&bold(){全国90カ所で一斉実施された事例の内いくつかが並行して描写される。} 過剰な福祉政策によって老人人口が増大し続けた[[日本>日本国]]&footnote(『バトル・ロワイアル』では舞台として架空の全体主義国家「大東亜共和国」を設定してあったが、本作では登場人物の台詞に平然と「今の日本は~」と出てきてしまう。筒井先生は怖いもの知らず)において、国民年金制度の維持と若年層負担軽減に伴う少子化問題解決を狙って成立した。 厚生労働省直属の中央人口調節機構(CJCK)が管轄する……が、その進行はすこぶるお粗末。 [[対象者を孤島に拉致したり爆弾首輪付けたりランダムな武器配ったり>バトル・ロワイアル]]といった手間暇をかけるつもりが一切なく、 &bold(){動ける対象者を集めて「この地域が対象になりました、対象者はリストの通りです、明日から1カ月以内でお願いします」と告知したらそのまま地域内で殺し合い(武器は自己調達)。} こうした事情の足元を見るようにヤクザ者の武器訪問販売が常態化している。お値段はワルサーで250万、[[ライフル>狙撃銃]]1000万の自動小銃2000万、お値打ち品として[[手榴弾]]1個30万。当然こんな状況では金持ってる方がある程度有利。 非対象者の避難もあくまで自己判断であり、序盤は割と平然と日常生活が行われている。頼めば地域外から出前だってとれる。 明確な禁止事項としては「指定地域外への脱走」「(内容を問わず)非対象者への協力強要」「非対象者の生命・財産への重篤な侵害行為」などが即時処刑対象となり得る模様。&s(){管理がテキトーだから結局わやくちゃになるがな!} 独特な点として&bold(){非対象者による対象者の助命(含む医療行為)も処罰対象}であり、この結果どこの地域でも対象者の内一定の割合で延命治療の途絶による死者が発生する。 対象者が期間内に一人に減らなかった場合は全員CJCKにより処刑。 最終生還者は以後のシルバー・バトルが免除される他、&bold(){他地区シルバー・バトルへの自由参加権}が授与される。 &bold(){老人は老人であることそのものが罪である}という思想に基づき「さっさと死ね、手間かけさせるな」という意志を隠さない非人道的制度であるが、 その非人道性に怯えた世論に反応してか&bold(){割と短絡的に対象外地域・対象外人物に関する規定が変更される。} 地域はともかく人物規定は実施中のシルバー・バトルでも適用されるため余計事態がややこしくなることも…… 総じて数多の[[デスゲーム]]に比しても「極めて雑」というのが特徴となるだろうか。 *◆舞台と主要登場人物 **宮脇町五丁目地区 老舗の立ち並ぶ宮脇町商店街を中核とする都内の区画。本作の中心舞台。 中心部には独居老人の集まるアパートもあるなど地区内の老人人口は非常に多く、 対象者は男22人、女37人の実に59人に及ぶ。 自宅での隠遁を選ぶ対象者も多いことから期間内の決着が不安視されており、 「有望株」にはCJCK処刑担当官から執拗な処刑督促が行われている。 &font(#0000ff,u){&font(#ffffff){その実色々な事情により持ち寄られた「武器」は完全に火力過剰。}} &font(#0000ff,u){&font(#ffffff){期限の近づいた最終盤には町はもう収拾がつかない状況に。}} ・宇谷九一郎 和菓子司三代目、蔦屋のご隠居として近隣に名の通った77歳。 息子一家とは一線を引いた付き合いを心掛けてきた作中では貴重な「好かれている老人」であり、 女性や事態を理解できない人物への殺害を厭うなどその感性も比較的良識派。 68歳のためバトル参加を免れた妻静絵も含めた一家との日常に帰るべく、 密かに呼び寄せた助っ人、着流しの内に隠し持ったワルサー、そして緻密な思考回路を武器に注意深く立ち回る。 ・猿谷甚一 元刑事の76歳。九一郎の[[小学校]]以来の学友にして鉄敷町二丁目地区バトルの生還者。 バトル参加以来殺戮の快楽の虜となっており、 シルバー・バトル実施以前に安値で買ったライフル片手に九一郎の助っ人として雇われた。 ギリギリまで彼の存在を秘匿したい九一郎の方針に不満を漏らすこともあるが、 殺し合い経験値の高さは伊達ではなく強固に九一郎をサポートする。 ・津幡共仁 元大学[[理学部]]教授で発明家。町内では「白髪鬼」の名で知られ、生意気な学生の肩を食い千切ったと噂される奇人。 開始早々にコルトを振りかざし白昼堂々殺人を犯す箍の外れた狂人 ……と思わせて、「開幕で殺意と銃器を露わにすれば凡俗の襲撃を低減できる」との計算を秘める財力・知力・暴力の三拍子揃った危険人物。 シルバー・バトルに関しては生き残りを賭けた知性のせめぎ合いとして肯定的に評価している。 途中、白髪鬼の恐怖に耐えかねて「自分の命運を完全に白髪鬼に委ねる」決断を下した独居老人、志多梅子の訪問を受けこれを下僕とする。 ・黒崎しのぶ&江田島松二郎 86歳の元映画女優にして未亡人と、彼女に心酔する79歳[[執事]]。 しのぶは既に忘我の域にあり、彼女の妄言に江田島が崇拝者としての想いを垂れ流す掛け合いは実に筒井文学的。 下賤の輩の死体を積み上げて貴族的絶頂の中二人死ぬ、という江田島の決意のもと、 &bold(){亡夫喜久雄氏が満州から持ち帰った重機関銃}を構えて[[籠城]]する、隠れた要注意人物。 ・菊谷いずみ 小中で九一郎と同級だった[[幼馴染>幼なじみ]]。サラリーマンの夫とは既に死別。 蔦屋の間取りをよく知る人物として襲撃計画を練っていたグループに勧誘されるも、九一郎にこれを密告。 以後も九一郎に恩を売りつつ別行動をとっていたが、その生存戦略は…… ・牧野信学 宮脇カトリック教会の神父。 いかにも[[偽善者]]的風貌と付き合いのない九一郎に言われる赤ら顔の肥満体であり、 その実態は自らこそ唯一生き残る資格を持つと信者に説法(というか懇願)する俗物。 女体に目がなく度々手を出してきた生涯のツケを払う形で、極めて冒涜的な死を迎えることに。 ・是方昭吾 陸自OB(三佐)の74歳。老後の楽しみは退官後に迎えた年少の妻との肉欲の日々。 ”精力的”生活を諦められず、自らの肉体的優位への自信もあって積極的に処刑を目論む。 端から警戒されていることでの情報戦の不利、資金面での立ち遅れ、自覚以上の老衰に精神的負荷、黒崎邸の籠城態勢など数多くの困難に悩まされるも、 一つずつ確実に解決法を模索し、宮脇町に屍を増やしていく。 ・乾志摩夫 元”コビト”プロレスラー。小学生に紛れ込むと見分けがつかない、先天的矮躯の持ち主。 自身の肢体を嘲る輩を知恵で出し抜くことに快感を覚える性質で、様々な知識を蓄えている。 障害者差別が叫ばれたことで職を失い、今また老人差別の中で死地に陥る境遇を自嘲しつつ、貪欲に生還を目指す。 自分しか内部構造を把握していない下水網に拠点を構え、マンホールを通じ神出鬼没かつ悠々自適なデスゲーム生活を送るが、 「身体障害者は相互処刑の対象外とする」法律の施行を把握していなかったことで命運は暗転し…… ・蓼俊太郎、よね子夫妻 25年の捕鯨船銛師としてのキャリアを商業捕鯨禁止によって絶たれた俊太郎と、そのよき理解者である妻。 長らく社会的に抹殺されたとの認識を共有して生きてきたが、直接的に抹殺対象となったこと、 殺生を非難された身の上で殺人を強要される[[矛盾>矛盾(故事成語)]]への鬱屈が膨れ上がり、期間半ばにしてついに閾値を突破。 &bold(){記念に取っておいた捕鯨砲}と共に待ち受け、襲撃者たちに目にもの見せてやることを誓う。 …ちなみに本作から13年後の2019年、&bold(){日本で商業捕鯨が復活}。詮無いことだが後13年耐えきれれば再び捕鯨船に乗れたのかも知れない。 ・山添菊松 元動物園園丁。金銭的には余裕がなく、ヤクザ者の売る武器には全く手が出なかった。 自前で用意できる凶器の類では銃器にとても太刀打ちできないことから、 唯一自分が勝利可能な武器として今もよく懐いている&bold(){団五郎(インド象)の投入}を検討。 「区域外にある動物園からの道中で団五郎が見つかれば脱走として一発アウト」とのリスクから躊躇し続けるも、 25日目にしてついに実行を決断、町内一帯の度肝を抜くことになる。 ・柏原寛丸 対象者の一人。認知症の進行で徘徊癖があり、介護者の息子が目を離した隙に失踪する。 彼の捜索が急務となったことで一時停戦及び例外的な区域外移動許可が発令され、 これを機に膠着した盤面が一気に加速することになる。 ・山際担当官 CJCKから派遣された中年の地区担当官。 期限切れによる一斉処刑を嫌がるCJCKの意向を預かり、何かと有望株のもとに様子見と催促に現れる。 柏原失踪の際には現場判断で地区外移動を許可するなど、担当官としては柔軟な方。 別地区で担当官殺害があった影響で若手の担当官を一人連れているが、こちらはより直截的。 **ベルテ若葉台地区 高台の敷地に構える、都内最高級の老人ホーム。男17人、女21人の入居者は皆対象者認定された。 全員が一つの建物に集合していること、事前に施設側と示し合わせ鍵を撤去したことで籠城が不可能なこと、 担当官の斉木又三による徹底的な扇動の影響により初日から熾烈な殺戮が繰り広げられる。 ・砂原仙太郎 対象者の一人。ベルテ若葉台の出資者でもあった。 殺人にも[[自殺]]にも踏ん切りがつかず、担当官に自殺幇助を懇願する気弱な人物だったが、 同じく対象者である元哲学教授霜田稔との対談を経て「殺人が不可避ならば誰を殺すか」の答えを獲得。 粛々と行動を進め、二日目にしてベルテ若葉台地区の生還者となる。 ・斉木又三 CJCKから派遣された地区担当官。金髪をトサカだててサングラスを纏う30代。 慇懃無礼な態度を崩さず、&s(){冒頭の隠しもしないパロディ台詞を吐きながら}集まる老人たちにバトルロワイアルの仕組みを教授し殺戮を扇動した。 非常に進行の早い展開への満悦と開始時に自らに縋りついてきたイメージからの油断により、 担当官の[[装備]]する[[拳銃]]を二重の意味で目当てとした砂原の奇襲を許し、彼の最初の被害者となる。 **[[広島県]]熊谷地区 過疎状態の村落と山林が広がる地区。面積では宮脇町5丁目地区の10倍以上あるとのこと。 元々老人がそのまま労働力でもある過疎状態の地域は処刑対象外だったが、 処刑逃れでの転入が相次いで人口が8倍になるという事態から、相互処刑が結局実行されることになった。 マスコミはより盛り上がる人口密度の高い地区を好むため訪れず、CJCKも手間がかかると碌に仕事をしていないため、 地区の状況に関する情報が殆どなく、対象者自身も事態の展開を理解していない。 ・八木熊 74歳の農家。 家を出たがなおも困窮状態の子供たちに仕送りを続けたい一心で、老人たちの殲滅を目指すパワフル婆さん。 熊谷には今300人(!)は老人がいる →半分は自分以外の手で死ぬとしても、もう半分は自分がやらなきゃ生き残れない &bold(){→ 一 日 五 殺 } の単純かつ尋常でない結論を、動物的直感と野良道具で愚直に実行する「処刑の熊」。 **大阪西成区反町地区 どうせ死ぬなら日時を決めて一斉に殺し合いを行い、観覧料を取って子孫に残してやるという意向のもと、 &bold(){『爺さん婆さんシルバー・バトル勝者決定戦』}が企画され全国放送されることになるが…… *◆余談 筒井御大はこの作品執筆の2年後、『[[世にも奇妙な物語]]』の日の出通りで開催されたバトルロワイアルに参戦している。 流石にあっちほど人外バトルにはなっていないが、「武器は自前調達」「住人たちの地元がそのまま舞台」「(結果的に)自分の生涯をぶつけ合う」といった点でパロディ元以上に世界観が近いことは興味深い。 追記修正はボサ・ノバで弔いながらお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,21) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - キャラの誰かのらっしゃあももんがという悲鳴がとても印象的 -- 名無しさん (2021-04-25 17:11:39) - 銀輪の覇者じゃなかったのか -- 名無しさん (2021-04-25 20:30:00) - 柏原寛丸の元ネタって柏原寛司さんか? -- 名無しさん (2021-04-25 22:38:18) - 読みたい!w -- 名無しさん (2021-04-27 09:11:19) - 何というか…皆さんお元気ですね… -- 名無しさん (2021-04-28 03:46:22) - ここで興味がわいて電子書籍で読了。 場面切り替えで段落を置くということがないので辞め時が見つからなかった。 ご隠居さんの最後の一言が印象深い。 -- 名無しさん (2021-04-28 21:39:14) - テーマの割に暗くなく、みんなエネルギッシュだが最後はそこはかとなく切ない、猿谷が好きだな -- 名無しさん (2021-05-03 19:14:28) - 不謹慎だが「どったんばったん大騒ぎ」というフレーズが浮かんだ -- 名無しさん (2021-06-16 11:20:51) #comment #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2021/04/25 Sun 15:16:00 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 11 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&font(#ff0000){皆さんにはこれから、殺し合いをしてもらいます}} 『銀齢の果て』は2006年に出版された筒井康隆の小説。 還暦を通り越した筒井御大が「老い」をテーマに強烈な問いを直球で放り込む老人文学である。 ……なお、断筆騒動を経て出版社から「表現問題に関して筒井先生を裏切りません(大意)」の覚書を得た後の先生が社会風刺で執筆して大人しい作品になるわけもなく、 &bold(){明け透けな[[グロ>グロテスク]]・パロ・さらにはエロをベースに、高齢化問題だけに留まらず多方面に喧嘩を売りまくる社会風刺をこれでもかとスラップスティックな群像劇にぶち込んだ怪作}へと仕上がっている。 &s(){要するにいつもの筒井節} なお、本作品は一切メディアミックスされていない。&s(){多分される日はこない} 検索した時にたまに引っかかる映画は三船敏郎デビュー作『銀&bold(){嶺}の果て』であり、完全に無関係なので注意。 *◆あらすじ 増大した老齢人口調節のため、ついに政府は&font(#ff0000){70歳以上の国民に殺し合い}させる&bold(){&font(#808080){「老人相互処刑制度(シルバー・バトル)」}}を開始した! 和菓子司の隠居、宇谷九一郎の住む宮脇町には、もと自衛官、プロレスラー、好色な神父など「強敵」が犇めいている。 刃物と弾丸が飛び交い、[[命乞い]]と殺し合いの饗宴が続く。 &bold(){長生きは悪なのか?} (以上、紹介文より抜粋) 身も蓋もないこと言えば&bold(){筒井版バトル・ロワイアル。} [[死]]を迫られるのが少年から老人に代わった訳だが、各々が自分の用意できる限りの手段を尽くして「処刑」に挑む姿はひょっとすると少年たち以上にエネルギッシュである。 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元大学[[理学部]]教授で発明家。町内では「白髪鬼」の名で知られ、生意気な学生の肩を食い千切ったと噂される奇人。 開始早々にコルトを振りかざし白昼堂々殺人を犯す箍の外れた狂人 ……と思わせて、「開幕で殺意と銃器を露わにすれば凡俗の襲撃を低減できる」との計算を秘める財力・知力・暴力の三拍子揃った危険人物。 シルバー・バトルに関しては生き残りを賭けた知性のせめぎ合いとして肯定的に評価している。 途中、白髪鬼の恐怖に耐えかねて「自分の命運を完全に白髪鬼に委ねる」決断を下した独居老人、志多梅子の訪問を受けこれを下僕とする。 ・黒崎しのぶ&江田島松二郎 86歳の元映画女優にして未亡人と、彼女に心酔する79歳[[執事]]。 しのぶは既に忘我の域にあり、彼女の妄言に江田島が崇拝者としての想いを垂れ流す掛け合いは実に筒井文学的。 下賤の輩の死体を積み上げて貴族的絶頂の中二人死ぬ、という江田島の決意のもと、 &bold(){亡夫喜久雄氏が満州から持ち帰った重機関銃}を構えて[[籠城]]する、隠れた要注意人物。 ・菊谷いずみ 小中で九一郎と同級だった[[幼馴染>幼なじみ]]。サラリーマンの夫とは既に死別。 蔦屋の間取りをよく知る人物として襲撃計画を練っていたグループに勧誘されるも、九一郎にこれを密告。 以後も九一郎に恩を売りつつ別行動をとっていたが、その生存戦略は…… ・牧野信学 宮脇カトリック教会の神父。 いかにも[[偽善者]]的風貌と付き合いのない九一郎に言われる赤ら顔の肥満体であり、 その実態は自らこそ唯一生き残る資格を持つと信者に説法(というか懇願)する俗物。 女体に目がなく度々手を出してきた生涯のツケを払う形で、極めて冒涜的な死を迎えることに。 ・是方昭吾 陸自OB(三佐)の74歳。老後の楽しみは退官後に迎えた年少の妻との肉欲の日々。 ”精力的”生活を諦められず、自らの肉体的優位への自信もあって積極的に処刑を目論む。 端から警戒されていることでの情報戦の不利、資金面での立ち遅れ、自覚以上の老衰に精神的負荷、黒崎邸の籠城態勢など数多くの困難に悩まされるも、 一つずつ確実に解決法を模索し、宮脇町に屍を増やしていく。 ・乾志摩夫 元”コビト”プロレスラー。小学生に紛れ込むと見分けがつかない、先天的矮躯の持ち主。 自身の肢体を嘲る輩を知恵で出し抜くことに快感を覚える性質で、様々な知識を蓄えている。 障害者差別が叫ばれたことで職を失い、今また老人差別の中で死地に陥る境遇を自嘲しつつ、貪欲に生還を目指す。 自分しか内部構造を把握していない下水網に拠点を構え、マンホールを通じ神出鬼没かつ悠々自適なデスゲーム生活を送るが、 「身体障害者は相互処刑の対象外とする」法律の施行を把握していなかったことで命運は暗転し…… ・蓼俊太郎、よね子夫妻 25年の捕鯨船銛師としてのキャリアを商業捕鯨禁止によって絶たれた俊太郎と、そのよき理解者である妻。 長らく社会的に抹殺されたとの認識を共有して生きてきたが、直接的に抹殺対象となったこと、 殺生を非難された身の上で殺人を強要される[[矛盾>矛盾(故事成語)]]への鬱屈が膨れ上がり、期間半ばにしてついに閾値を突破。 &bold(){記念に取っておいた捕鯨砲}と共に待ち受け、襲撃者たちに目にもの見せてやることを誓う。 …ちなみに本作から13年後の2019年、&bold(){日本で商業捕鯨が復活}。詮無いことだが後13年耐えきれれば再び捕鯨船に乗れたのかも知れない。 ・山添菊松 元動物園園丁。金銭的には余裕がなく、ヤクザ者の売る武器には全く手が出なかった。 自前で用意できる凶器の類では銃器にとても太刀打ちできないことから、 唯一自分が勝利可能な武器として今もよく懐いている&bold(){団五郎(インド象)の投入}を検討。 「区域外にある動物園からの道中で団五郎が見つかれば脱走として一発アウト」とのリスクから躊躇し続けるも、 25日目にしてついに実行を決断、町内一帯の度肝を抜くことになる。 ・柏原寛丸 対象者の一人。認知症の進行で徘徊癖があり、介護者の息子が目を離した隙に失踪する。 彼の捜索が急務となったことで一時停戦及び例外的な区域外移動許可が発令され、 これを機に膠着した盤面が一気に加速することになる。 ・山際担当官 CJCKから派遣された中年の地区担当官。 期限切れによる一斉処刑を嫌がるCJCKの意向を預かり、何かと有望株のもとに様子見と催促に現れる。 柏原失踪の際には現場判断で地区外移動を許可するなど、担当官としては柔軟な方。 別地区で担当官殺害があった影響で若手の担当官を一人連れているが、こちらはより直截的。 **ベルテ若葉台地区 高台の敷地に構える、都内最高級の老人ホーム。男17人、女21人の入居者は皆対象者認定された。 全員が一つの建物に集合していること、事前に施設側と示し合わせ鍵を撤去したことで籠城が不可能なこと、 担当官の斉木又三による徹底的な扇動の影響により初日から熾烈な殺戮が繰り広げられる。 ・砂原仙太郎 対象者の一人。ベルテ若葉台の出資者でもあった。 殺人にも[[自殺]]にも踏ん切りがつかず、担当官に自殺幇助を懇願する気弱な人物だったが、 同じく対象者である元哲学教授霜田稔との対談を経て「殺人が不可避ならば誰を殺すか」の答えを獲得。 粛々と行動を進め、二日目にしてベルテ若葉台地区の生還者となる。 ・斉木又三 CJCKから派遣された地区担当官。金髪をトサカだててサングラスを纏う30代。 慇懃無礼な態度を崩さず、&s(){冒頭の隠しもしないパロディ台詞を吐きながら}集まる老人たちにバトルロワイアルの仕組みを教授し殺戮を扇動した。 非常に進行の早い展開への満悦と開始時に自らに縋りついてきたイメージからの油断により、 担当官の[[装備]]する[[拳銃]]を二重の意味で目当てとした砂原の奇襲を許し、彼の最初の被害者となる。 **[[広島県]]熊谷地区 過疎状態の村落と山林が広がる地区。面積では宮脇町5丁目地区の10倍以上あるとのこと。 元々老人がそのまま労働力でもある過疎状態の地域は処刑対象外だったが、 処刑逃れでの転入が相次いで人口が8倍になるという事態から、相互処刑が結局実行されることになった。 マスコミはより盛り上がる人口密度の高い地区を好むため訪れず、CJCKも手間がかかると碌に仕事をしていないため、 地区の状況に関する情報が殆どなく、対象者自身も事態の展開を理解していない。 ・八木熊 74歳の農家。 家を出たがなおも困窮状態の子供たちに仕送りを続けたい一心で、老人たちの殲滅を目指すパワフル婆さん。 熊谷には今300人(!)は老人がいる →半分は自分以外の手で死ぬとしても、もう半分は自分がやらなきゃ生き残れない &bold(){→ 一 日 五 殺 } の単純かつ尋常でない結論を、動物的直感と野良道具で愚直に実行する「処刑の熊」。 **大阪西成区反町地区 どうせ死ぬなら日時を決めて一斉に殺し合いを行い、観覧料を取って子孫に残してやるという意向のもと、 &bold(){『爺さん婆さんシルバー・バトル勝者決定戦』}が企画され全国放送されることになるが…… *◆余談 筒井御大はこの作品執筆の2年後、『[[世にも奇妙な物語]]』の日の出通りで開催されたバトルロワイアルに参戦している。 流石にあっちほど人外バトルにはなっていないが、「武器は自前調達」「住人たちの地元がそのまま舞台」「(結果的に)自分の生涯をぶつけ合う」といった点でパロディ元以上に世界観が近いことは興味深い。 追記修正はボサ・ノバで弔いながらお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,21) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - キャラの誰かのらっしゃあももんがという悲鳴がとても印象的 -- 名無しさん (2021-04-25 17:11:39) - 銀輪の覇者じゃなかったのか -- 名無しさん (2021-04-25 20:30:00) - 柏原寛丸の元ネタって柏原寛司さんか? -- 名無しさん (2021-04-25 22:38:18) - 読みたい!w -- 名無しさん (2021-04-27 09:11:19) - 何というか…皆さんお元気ですね… -- 名無しさん (2021-04-28 03:46:22) - ここで興味がわいて電子書籍で読了。 場面切り替えで段落を置くということがないので辞め時が見つからなかった。 ご隠居さんの最後の一言が印象深い。 -- 名無しさん (2021-04-28 21:39:14) - テーマの割に暗くなく、みんなエネルギッシュだが最後はそこはかとなく切ない、猿谷が好きだな -- 名無しさん (2021-05-03 19:14:28) - 不謹慎だが「どったんばったん大騒ぎ」というフレーズが浮かんだ -- 名無しさん (2021-06-16 11:20:51) #comment #areaedit(end) }

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