とある暗部の少女共棲

登録日:2025/06/16 Mon 21:50:18
更新日:2025/07/18 Fri 20:58:18
所要時間:約 17 分で読めます




『とある暗部の少女共棲(アイテム)とは、『とある魔術の禁書目録』のスピンオフの一つ。

レーベル:電撃文庫
著者:鎌池和馬
イラスト:ニリツ
作画(コミカライズ):strelka


超能力者(レベル5)の一人、麦野沈利を主役に据えた外伝作品。
小説を主体にしたシリーズもののスピンオフは何気に初となる。*1

単行本は既刊4巻。コミカライズ化もされており、こちらは既刊2巻。
さらに、『超電磁砲』の4期と共に、TVアニメ化の予定が発表されている。


作風


空から落ちてきた系ヒロインのアイツはおらず、「少女共棲」の名の通り可愛い女の子達がキャッキャウフフするだけのハートフルな作風





な訳がない。





具体的に言うと主人公があの麦野沈利。しかも浜面がアイテムに来る前の切れたナイフ時代の話なので登場人物の死傷率が物凄く高い

彼女が戦う理由はのように「困っている誰かを助けたい」とか「大切な人を護りたい」などという優しい理由ではなく、「証拠隠滅の任務だから」「商売敵だから」という非常にドライなものであり、場合によっては「単に任務をこなすより儲かるから」という理由で依頼主*2を拷問にかける事すらあるなど、とあるシリーズでも珍しい悪人を主役に据えたスピンオフ

当然、敵達も主役に負けない外道揃いであり、さらに風紀委員が警備員の不手際で死地に送り出された挙句焼却処分されかけたり、あるいは既にバラバラ死体になっていたりするなどショッキングな描写も多く、殺伐とした雰囲気を漂わせている作風となっている。
とはいえずっと暗い展開が続く訳でなく、アイテムのメンバー達の日常や友情など微笑ましいシーンも多い。
……結末を知っていると、それがよりやるせなくなる訳だが。

また、科学サイドの話で完結している事と、本編開始からおよそ一年前の物語であり、他のスピンオフや本編を見なくても話を理解しやすいので、新規の読者にも優しい作品となっている。
作風は全く優しくないが
無論、他のスピンオフや本編を読むと楽しめる外伝ならではの描写も存在しているので、この作品から本編や『超電磁砲』を読みはじめるのも面白いかもしれない。


あらすじ


これは、やがて「凄惨な事件」へと至る少女たちの、出会いと友情と暗闇の物語。

科学技術の粋を集め、超能力開発が進められる学園都市。一見すると平和で華やかなこの街の裏側には、「暗部」と呼ばれる者たちの存在があった。「アイテム」のコードネームで知られる少女たちもその一部で、超能力者(レベル5)である麦野沈利を筆頭に各分野のスペシャリストで構成される精鋭部隊だ。その「アイテム」にひとりの新メンバーが加入したことを機に、彼女たちはこの街の地下で蠢く陰謀に巻き込まれていくのだが……。


登場人物

ここでは代表的なキャラを抜粋。

『アイテム』

『アイテム』のリーダーで学園都市で7人しかいない『超能力者』の1人。
実家が裏社会の大物という犯罪界のサラブレッド。

性格は一言で説明するとジャイアニズムの権化。
本編での初登場時はそれに加えて味方の死すら何とも思わない冷酷な悪役だったが、外伝の本作では仲間が拉致された際に不眠不休で捜索したり、表の世界の友人に思いを馳せるなど劇場版ヒロイックな描写が多い。
敵には容赦ない上に、舐めた事を抜かす部下もボコボコにするが、正規構成員だけでなく下っ端のチンピラにも病院での治療を受けさせ(過程で能力の推測もするという話ではあるが)ついでに見舞いに行くなど本当に良くも悪くもジャイアン的な性格。

しかし、話が進むにつれて様々な要因で精神的に追い詰められていき……?
作者曰く、「自らを裏切らず」「自らが窮地に陥ってなければ」仲間思いの少女との事。
口も態度も荒っぽいものの、本編での初登場時において浜面相手への言動は、実は物凄く優しい態度だった事が判明している。

表の身分は女子高生であり、裏社会の生き方らしく顔を知られないように必要最小限の出席日数を維持している。
だがそれでもなお、麦野を気に掛ける人は居てしまい、暗部の仕事では戦う羽目になった事もある。

能力はレベル5の『原子崩し(メルトダウナー)』。
電子を粒子でも波形でもない曖昧な状態に固定する事で強力な破壊光線として放つ。
本作ではビームだけでなく物質に電子を流し込み組成を変化させるといった応用を見せたり、逆に敵の攻撃からシリコンバーンによる拡散攻撃を思いつく場面もある。
能力とは全く関係ない謎のフィジカルも健在。


ご存知死んでからの方が出番多い系ヒロイン。話が進むごとに着実に死亡フラグを立てていく。
妹を溺愛しており、彼女に自分の薄汚れた所を見られないように四苦八苦している。
能力については長らく不明だったが、本作で無能力者(レベル0)である事が判明。*3
爆薬の扱いに長けたエキスパートであり、その知識は大学教授並。さらに応用として化学や工学知識にも長けたリケジョ。
その知識と人脈によって『アイテム』を支える縁の下の力持ちだが、それはそれとしてうっかりでやらかす事も多め。

仲間思いな性格だが人間同士の殺し合いをおかずにご飯を食べられる畜生。
「仲間じゃなければ殺しているぐらい超悪趣味」などと絹旗には面と向かって言われてしまった。

超カルト映画好きロリ。
本作は研究所に冷凍保存されていた彼女が麦野達に連れ出された所から物語が始まる、それが本編の1年前なので実は超新入り。
シャバの空気はどうだと麦野に聞かれて悪くないと返す所は超ヤクザ映画のそれ。
フレンダからは新入りと呼ばれて若干舐められている。
ちなみに映画好きの理由だが、研究所のモルモットだった頃はサブリミナルや極低周波音響などが混ざった洗脳映画が唯一の娯楽だったという超笑えないものであった。

能力はレベル4の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』。
元々は射程の広い大気操作系の能力者であったようだが*4、『暗闇の五月計画』の実験によって一方通行の思考パターンの一部を移植されており、それによって空気中の窒素を操り全身を超高圧縮した気体の壁で包み込む事で絶大な防御力と疑似的な怪力を発揮する能力に変質している。


「アイテム」の良心でありジャージが特徴的な脱力系少女。彼氏はまだいない。
実は麦野とは一番長い付き合い。その希少な能力を狙われて冤罪事件で捕まった所*5を彼女の手引きで不起訴処分にされて救われたとの事。
やっぱクソッスね学園都市
麦野が能力を目当てに自分を拾い上げた事は理解しているが、自由と居場所を与えてくれた彼女には恩義を感じている模様。
一方で譲れない要求があった際には麦野に対して物応じもせず意見するなど本編で見せた胆力は相変わらず。
能力を使わずとも現場の痕跡から敵の能力などの推察もできるなど頭脳も明晰。

能力はレベル4の『能力追跡(AIMストーカー)』。
能力者の発する微弱な波長を記録して追跡したり、能力に干渉する事で照準を操作するなど、殺傷力こそ無いがサポートとしては非常に優秀な能力。
一方で能力を発動するには「体晶」という劇物を摂取しなくてはならないという諸刃の剣。


  • 華野超美(はなのちょうび)
『アイテム』の人員が足りないと常日頃ボヤいていた麦野の為に「電話の声」が用意した追加人員の少女。
なお彼女が来た時には既に絹旗を加入させていたというバッドタイミングであった。*6
とりあえず仮採用という形で加入する事となり、何やかんやで他のメンバー達とも打ち解けていくのだが……。

無能力者(レベル0)だが変装の達人であり、少女からオッサンの姿まで様々な人間に化けられる。


麦野本家

  • 貉山
麦野家に幼少期から仕える老執事。
麦野の事を気にかけており、電話する度に生活の近況について尋ねてくる。
何やかんやで沈利も彼の事を信頼しており、困った時にはアドバイスを求める事もある。

麦野家の「幹部」なだけあって戦闘能力は非常に高い。
狙撃手が本領なのに、近接格闘だけでアイテムの面々と渡り合える能力を持つ。もう初老の域なのに、戦った相手からは人間離れした動きと驚愕される程である超人。
実は『超電磁砲』30話の扉絵には、幼少期の麦野の傍に彼と思われる人物が佇んでいる。


  • 麦野炸夜
『血族』の一人で麦野沈利の叔母にあたる人物。次期当主の座を狙って暗躍する。
沈利との仲は険悪だが、″ある一点″に関しては非常に似通った性格。


  • 本家当主
麦野家の現当主であり、沈利の祖父にあたる人物。本名は不明。
一見すると親しみやすい爽やかなナイスミドルだが麦野家の掟を破った相手(特に堅気に手を出した者)には容赦なく血の雨を降らすギャングらしい人物。
趣味は鉄道模型。


『超電磁砲』からのゲスト出演。
統括理事長の本拠である『窓のないビル』の情報を対価に保険会社の常務(アブラぎったおっさん)の護衛役を務めており、常務を拉致しにきた『アイテム』と交戦。
学園都市への復讐に燃えていた頃の為、平然と民間人を攻撃に巻き込んで殺傷するなど非常に残虐であり、フレンダや麦野からも苦言を呈されていた。*7

最終的に敗北したものの、レベル5とレベル4二人&爆発物のエキスパート相手に優勢に立ち回るなど非常に強力な能力と高い戦闘センスの持ち主。

能力はレベル4の『液化人影(リキッドシャドウ)』。
比重20以上の液体を自在に操ることができる能力であり、警策は特殊な液体金属を用いている。
本体と同じ体積・形状でないと精密動作性が低下する為、基本的には人型の姿をした人形として攻撃を行っている。

およそ1トンの質量から放たれる人形の物理攻撃は非常に脅威であり、加えて元は液体金属なので物理攻撃は一切無効という厄介な性質を持つ。
人体を水と同じ比重1とみなすと本体の体重は50(ry
さらに本作では人形の複数操作だけでなく、液体金属を雲の状態にして高度一万メートルほどの上空に待機させ金属矢の雨として降らすという離れ業を披露した。


  • 女貞木小路楓(いぼたのきこうじかえで)
『学園都市第6位の超能力者(レベル5)を自称する、ルール無用の地下格闘技「コロシアム」の元締めである少女。
さらに自らのチームを「アイテム」と呼称しており、麦野を困惑させた。

性格は外道そのもの。選手の命を自らが金を稼ぐ道具としか思っておらず、死の匂いを感じる人や物を好む。
なんと常盤台所属のお嬢様であり、お嬢様社会にいる状態だと世間の流れに疎くなるので世間の流れを知るために裏社会で活動しているという筋金入りの悪党。
しかも現在でも平然と学校に通っている模様。教育はどうなってんだ

稼いだ150億円の大金を巡り、麦野沈利率いるもう1つの「アイテム」と激突する。
メンバー同士が血で血を洗う抗争をしたわけだが、その実態は上層部が絵図を描いた「暗部同士が手を組まないように潰し合わせる」という悪辣な計画。
学園都市に歯向かう危険分子にならせないようにした事であって、アイテム双方共に踊らされた状態である。


  • 鮎魚女(あいなめ)キャロライン
見た目は10歳くらいの褐色ギャルだが、その正体は麦野沈利の能力を開発した主任研究者
麦野の事を失敗作と見下しており、新たな成功作の能力開発の為に暗躍する。
「毎日お弁当を作ってくれているお姉ちゃん」が偶然の事故により死んだ事で、その死が意味のある事だと証明したいという思いで行動している。
というだけなら美談だが、本性はとんでもないサイコパス。姉の事を「毎日お弁当を作ってくれるお姉ちゃん」としか認識してなく、人の気持ちなど全く考えられていない。
その異常性は、主任研究者としての立ち位置にも表れている、データ上では飛び級に飛び級を重ねた才女なのだが、
内訳は『カンニングを繰り返して試験を突破した』というのが実態であり、つまり『誰にもバレないようにする手間などで、数倍の労力がかかる』状況なので普通に勉強した方が楽であるのに、わざわざその方法を取っている。


  • 太刀魚(たちうお)メアリー
麦野に代わって、キャロラインが次のレベル5と目論んでいる能力者。
外見は巨乳の陰キャ風な美女。学校ではいじめられっ子だったが、キャロラインの指導により能力が開花。本人はその事に深く感謝しており、キャロラインのためなら汚れ仕事も厭わない。
能力だけでなく、キャロラインの肉体改造が加えられた肉体は独特の筋肉配置と503個の骨を備えており、トン単位の重量物を軽々と持ち上げるなど超人的な身体能力を持つ。
しかも脳神経に書き込んだ反射により、その辺の廃材を中国式の武器として扱えるなど、格闘技術にも優れている。


その他

  • 電話の声
『アイテム』の上司にあたる人物であり、麦野達に命令を下す。


レベル4の『窒素爆槍(ボンバーランス)』の能力者。
絹旗と共に冷凍保存されていた『暗闇の5月計画』の被験者の一人。
防御特化の追加人員が欲しくて絹旗を奪取した麦野だが「『盾役』はともかく『攻撃役』」は要らないという事で、こちらは解放されたあとデコイとして放置され、濡れ衣を着せられてしまう。哀れ。


  • 藍花悦
未だに謎に包まれている学年都市第6位の超能力者。
本作によると、暗部の面々からは「天敵」と呼ばれて恐れられている。



用語

その他の用語はこちらを参照

統括理事会*8直属の暗部組織。

学園都市に対する不穏分子の抹殺が主な業務だが、場合によっては統括理事会を通さずに出稼ぎに赴いたり、護衛任務を引き受ける事もある。

基本的に麦野のワンマンであり、メンバーは機嫌によっては仲間にも牙を剥く彼女を恐れているが、それでも普段は共に食卓を囲んだり麦野のプライベートプールで涼むなど、暗部としては珍しくメンバー同士の仲のいい組織であった。

後のグループスクールといった組織は、この『アイテム』をモデルケースに作られたという経緯がある。
また、これらカタカナ4文字のチームは暗部組織の中でもトップエリートであるらしい。


  • 麦野本家
本作で初めて明かされた麦野沈利の実家。
その正体は穀物生産企業のガワを被った巨大犯罪組織
始まりは明治維新での文明開化により、西洋文明の様々な影響を受けた日本。そこで西洋の黒社会の知識を受け継いで、代紋を掲げずに犯罪組織の地下化を進めた犯罪組織……つまり、マフィア化したヤクザ達。

「十四億人の胃袋を支配する」と地の文で書かれるほど社会インフラに癒着しており、仮に組織が崩壊した場合、学園都市ですらただでは済まないという非常に厄介な性質を持っている。
麦野の血を直接引く「血族」と汚れ仕事を行う執事やメイド達で構成される「幹部」という組織構造になっており、「血族」はどれだけ「幹部」を手元におけるかによって地位が決まっていく。
そのため「血族」は常に「幹部」という切り札の奪い合いをしており、本家では常に様々な陰謀が渦巻いている。

麦野沈利はその肉体そのものが超能力開発、しかも最高位のレベル5という機密情報の塊であり、帰ってくれば未曾有の功績がもたらされるため次期当主と目されている。


追記修正は暗部堕ちしてからお願いします。

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最終更新:2025年07月18日 20:58

*1 「SS」は短編集であるため除外

*2 当然こちらの方も悪人なのだが

*3 厳密に言うと「超電磁砲」担当編集のツイートが初

*4 本編15巻の垣根帝督による推測

*5 曰く、少年院で監禁してほとぼりが冷めたら消息不明にしてモルモットとして扱う予定だったとの事

*6 正規構成員の給与は下部構成員と比べて非常に高い。そのため一人増やすだけでも莫大な負担となるので基本的に麦野は正規構成員を増やす事に消極的。

*7 死体の後始末という観点からも、暗部の面々が″無闇矢鱈″に民間人を殺傷するのはご法度という掟が存在する

*8 学園都市を運営する最高機関