いちごジャムが好き。(令丈ヒロ子)

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&font(#6495ED){登録日}:2021/09/29 Thu 00:15:11 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 22分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- &bold(){『いちごジャムが好き。』}は&bold(){『好きって、こわい?』}に収録された短編小説。 作者は「[[若おかみは小学生!]]」で有名な&bold(){令丈ヒロ子}。 『好きって、こわい?』は2012年に発売された児童向けホラーアンソロジー。 令丈ヒロ子本人が編集を務めた短編集でありタイトル通り「好き」がテーマになっている。 それぞれが違った角度で「好き」から生じる怖さを描いていく。 最後に収録されたのが令丈ヒロ子による「いちごジャムが好き。」である。 それはトリを飾るのにふさわしく(ふさわしいのか?)、本作の中でも&bold(){かなり異彩を放つもの}となっていた……。 他人に強い影響を与えることが出来る「エッヂング力」を持つ主人公まゆらと同じ力を持つ美少女ミゼの物語。 知名度こそ低いが、ファンの間では&bold(){&color(#F54738){伝説の}&color(#3B4EF0){ホラー}}として知れ渡っている(多分)。 ……いろいろな意味で令丈ヒロ子の%%性癖%%作家観を知るためには重要な短編である。 ストレートに言うと[[ヤンデレ]][[百合]]もの。 #contents() *【あらすじ】 普通なまゆらと[[完璧超人]]なミゼは、タイプは違うが気の合う大親友。 いつも通り仲良く話していた二人だが、ふとミゼが不思議な話を始める。 それは他人に強い影響を与える力である「エッヂング」力を、まゆらが持っているということだった。 *【登場人物】 &bold(){&color(#3B4EF0){◆井ノ原まゆら}} 本作の主人公である中学一年生。 &bold(){平凡でどこにでもいるような女の子}。本人はそれがコンプレックスになっている。あんまりかわいくないし、勉強も出来る方ではないらしい。そんなこともあって完璧超人なミゼのことが大好きで憧れている。 そんな彼女の変わっているところが&bold(){妄想好きなところ}。「自分がもしこうだったら」という妄想をするのが大好き。きれいな保健の先生を見れば自分がそうなっている妄想をするし、ドラマを見ると主人公になっている妄想をする。だが周りにはそんな話題を共有できる友人はほぼいないため寂しく思っている。ドラマを見る友人はいるのだがまゆらほどのめり込む子はいないとか。唯一話題がよく合うのはミゼだけで、彼女と話すのが一番の楽しみ。 このように&color(#3B4EF0){あらゆる面でミゼのことが大好き}な女の子。それだけにミゼに本当に好かれているのか不安になる時がある。 ちなみに「好きって、こわい?」の表紙に写っている少女は&color(#F54738){赤い傘}(後述)を持っている。多分この子がまゆらなのだと思われる。何故か目に光がないため&bold(){ちょっと怖い}。こっちをじっと見ているが、見ているのは読者ではなく大好きなミゼなんだろう。 &bold(){&color(#F54738){◆崎山ミゼ}} もう一人の主人公でまゆらの親友。漢字表記で「美是」だが作中ではほぼカタカナ表記。 まゆらとは対照的に&bold(){どこにもいなさそうな完璧超人の美少女}。大人っぽい美人で勉強が出来てさらに帰国子女なので英語も話せる。クラスでは父親がフランス人とか家がお屋敷のお姫様とか様々なうわさが立てられている。まゆら曰く入学式の時彼女の周りだけ輝いていたらしい。それくらい完璧超人。ただあんまりにも完璧超人で近寄りがたいため親しい友人はまゆら以外あまりいないようである。 正反対な上にクラスも違う二人が仲良くなったのは6月の雨の日のこと。 まゆらは折りたたみ傘が壊れて悪戦苦闘している中ミゼに&color(#F54738){赤い傘}をさしかけてもらったのが始まり。二人はふと赤い傘がテーマになるドラマの「赤い雨がぼくだけにふる」を話題に出し互いに大ファンであることを知る。意気投合する中でお互い趣味が恐ろしく会うことが分かり親友になった。まゆらにとってミゼは自分の妄想を楽しんで聞いてくれるただひとりの相手。 *【用語】 &bold(){◆ジブンスキー族} ミゼが提唱した一族。まゆらもミゼもこれであるらしい。 &bold(){自分のことが大好きな生まれついての妄想家}。その妄想をエネルギーにすることが出来るため、アーティストとしての類まれな才能を持つ。 ジブンスキー族にとって血縁は関係なく、生まれついて力があるかどうかだけ。 この一族にとって大切なのは自分を愛すること。そのためお風呂、全身が写る鏡、大好きなもののみっつが[[三種の神器]]。 コンプレックスが強いまゆらは自らがジブンスキー族と言われ強く否定した。だが妄想して「もしも自分がこうだったら」と考えるのは、ステキな自分のことばかり想像したいことの裏返しのよう。 &bold(){◆エッヂング力} ジブンスキー族が持つ力のこと。 イメージを周囲に強く焼き付け影響を与えることが出来る。世に強い影響を与えるヒット作はエッヂング力によるものらしい。ミゼ曰くエッヂング力を持つものでなければそこまで強く影響を与えられない。そうやって世の中に良い影響を与えるのがこの一族の使命。 まゆらは強い力を持つが、ミゼはあまり強くない。妄想力がそのまま力になるようだ。 &bold(){&color(#F54738){世界を滅ぼすだ}&color(pink){けの力がある}}。……いや、マジで。 名前の由来は銅版画のエッヂング。 *【ストーリー】 とある金曜日の放課後のこと。まゆらとミゼはいつも通り話し込んでいた。 そんな時ミゼがふと&bold(){「ジブンスキー族」}について話し始める。それについて話すミゼはいつものクールな印象と違い嬉しそうで熱っぽい。まゆらもにわかにはその話が信じられないながらも聞くことに。 話しているうちにまゆらは不安になってきた。ミゼがジブンスキー族について、冗談でも妄想でもなく本気で話しているように見えたのだ。思わずそれを言ってしまうが、自分は本気で話しているのだと返されてしまう。信じられないのは今まで自分以外のジブンスキー族にあったことがないから、と言われ納得させられてしまう。 ミゼが言うにはまゆらは強いエッヂング力を持つ反面、自身は力がかなり弱いらしい。 ミゼはせっかくの力が活かせずずっと悔しい想いをしてきた。 だからこそまゆらが力を伸ばすためのサポートをしたいという。 まゆらがためしに思いついた妄想を話してみると、ミゼは感激して抱き締めてくれた。まゆらは思わず胸がどきどきしてしまう。 正直まゆらはミゼの言葉を全ては信じ切れていない。&bold(){それでもミゼが自分のことをもっともっと好きになってくれるならやってもいいと彼女の話に乗ることにしたのだった}。 次の日の朝、ミゼから電話がかかってきた。まゆらの能力向上のためのプログラムを考えてくれたらしい。 ジブンスキー族[[三種の神器]]を使うのが今回のプログラム。まゆらは[[お母さん]]がつくったいちごジャムが好きであり、瓶を持ってお風呂に入ることに。 そうしてお風呂に入っている中でふと思いついたことがあった。それは&color(#F54738){ミゼといちごジャムが似ている}ということ。 真っ赤な色はあの日ミゼがさしてくれた傘と同じ色。それにいちごジャムの甘酸っぱい味はかわいいだけじゃなくてかすかな大人っぽさがあるところに似ている。 &bold(){&color(#F54738){いちごジャムはミゼみたいだから好きだ}}、と気が付いた時瓶をお風呂の中に落としてしまう。 お湯の中に広がっていくいちごジャム。それを見てまゆらは妄想を広げた。 それは……。 #center(){ &bold(){&color(#3B4EF0){ミゼがかけらになって、お湯に広がっていくみたいだ。}} &bold(){&color(#3B4EF0){大好きなミゼが、お湯にとけて、あたしを温めてくれる}} } ……この辺りから話の雲行きが怪しくなってくる。 その妄想がおなかの底がじんとあつくなるほどに気に入ったまゆら。 ドキドキしながらお湯に入ってみることに。 #center(){ &bold(){&color(#3B4EF0){あたしは目をとじて、ずぶずぶっとお湯の中にしずんでみた}} &bold(){&color(#3B4EF0){そうしたら、お湯がまるであたしを抱きしめてくれるようにやさしく、あたしの体にまとわりついてきた}} &bold(){&color(#3B4EF0){ミゼが教室であたしに抱きついてきた、その体のしなやかさや、あたたかさ、そしてあまい香りがよみがえってきた}} &bold(){&color(#3B4EF0){ミゼがお湯になって、あたしを包みこんでくれている}} &bold(){&color(#3B4EF0){大好きなだれかに、こんなふうに髪の先から爪の間まで、ゆるくあたたかくすっぽり包みこんでもらえるのって、とてもいい気持ちだ}} &bold(){&color(#3B4EF0){あたしは息を少しずつはきながら、ひざをかかえてなおも深く、お湯の底にしずみこんだ}} &bold(){&color(#3B4EF0){こうしているとミゼとあたしの境目がきえて、一つにまじりあい、とけあったようだ}} } 妄想の方向性が斜め上に行き始めたまゆらは、この&color(#3B4EF0){お湯を飲んだらさらにミゼととけあえるんじゃないか}と思いつく。 この辺りで&bold(){「&color(#3B4EF0){これをのみこめば、おなかの中にもミゼのお湯が入ってくる}」}など怖いことを言いだす。 シレっと言っているけど「&color(#F54738){ミゼのお湯}」とは……。 ……だがそれはうまくいかなかった。&bold(){口の中にいちごジャムのかたまりが入りこみ、溺れてしまう}。 パニックに陥ったまゆらはそのまま意識を失った……。 気が付くとまゆらは、眠る自分とその横で大声をあげて泣くミゼという光景を見ていた。 なんとまゆらは&bold(){死んでしまった}らしい。あの時いちごをのどに詰まらせ、おぼれ死んでしまったのだ。 まゆらは幽霊となって死んだ自分を上から見つめていた。 これでまゆらは、アーティストになる将来も、ずっと一緒にミゼといる未来も閉ざされてしまった……。 泣き続けていたミゼだが、とんでもないことを言い始めた。 それはジブンスキー族もエッヂング力も&bold(){全てミゼがでっち上げた嘘}だということだった。 そんなことのために自分は死んだのか、と当然怒るまゆら。思わず殴りかかろうとするがすり抜けてしまう。その代わりにミゼの体の中に入り込んでしまい、&bold(){彼女に取り憑いてしまった}。 お風呂のシーンでは単なるイメージだったが、このシーンでは正真正銘ミゼに包まれている。 そうして聞こえてきたのはミゼの深い悲しみだった。 #center(){ &bold(){&color(#F54738){まゆら。まゆら}} &bold(){&color(#F54738){ごめんなさい。ごめんなさい}} &bold(){&color(#F54738){まゆらみたいな人、初めてだった}} &bold(){&color(#F54738){まゆらに、本当に好かれているか、ずっと不安だったの}} &bold(){&color(#F54738){だからあんな嘘をついたの}} &bold(){&color(#F54738){まゆらとずっといっしょにいたかったの}} } &bold(){ミゼにとってまゆらしかいなかった}。 実はミゼは[[小学校]]の時いじめられていた。中学校に入っても近寄りがたさからいつも孤独。そんな彼女と一緒に居てくれるのはまゆらだけだし、だからこそミゼはまゆらが大好きだった。 だが心のどこかで本当にまゆらに好かれているか不安になってしまう。 だから自分のことが好きならどんな話でも信じてくれると思い、まゆらを試すような真似をしたのだった。 しかしその嘘の果てにあるのは&color(#F54738){大好きなまゆらの死}であった……。 そのことを知りまゆらの怒りは静まっていった。代わりにこみあげてきたのは嬉しさだった。 まゆらも同じようにミゼに本当に好かれているのか不安になることがあった。 けどミゼはまゆらが思うよりもずっと強い気持ちでまゆらのことが好きだったのである。 &bold(){それがまゆらにはたまらなく嬉しかったのだ}。 まゆらはこれから先ずっとミゼと一緒にいることを決める。 けれどもそんなまゆらの慰めが聞こえるはずもなく、ミゼはいっそうせつない声で泣き始めた……。 &bold(){&color(#F54738){めでたし}&color(#3B4EF0){めでたし?}} *【余談とどうしてこうなったか】 作者はあとがきにて&bold(){「できるだけ奇妙な、でもどこか笑える空気を心がけ、こわおかしい話をめざしました」}と語っている。マジかよ……。 本作のイラストを手掛けたのは結布。&bold(){『メニメニハート』『なりたい二人』『かえたい二人』}などの令丈ヒロ子作品でもイラストを担当している。 ちなみに結布は本作がお気に入りらしい。Twitterでも&bold(){「女の子の甘美で苦しくて幸せな関係にとても感銘を受けたのでした。今でも一番大好きな女の子同士のお話です!」}と言っている。 令丈ヒロ子は某エッセイにて本作を&bold(){「&color(#F54738){恋する相手の気持ちに死んでから気が付いて}&color(#3B4EF0){相手にとりつき一体化する病み百合ストーリー}」}と評した。 ファンの間では割と有名な話だが、令丈ヒロ子は&bold(){結構な百合好き}である(厳密にはちょっと違うけど)。 そもそも「某エッセイ」とはSFマガジン2019年2月号百合特集に寄稿した&bold(){「百合と異界は児童小説の……」}。何回見てもすごいタイトルだ。 時は遡り2019年。令状ヒロ子は中高生に「[[裏世界ピクニック]]」を推していた。 だがTwitterにてハヤカワの百合担当の編集者に「(児童小説家が百合を推して)それは大丈夫でしょうか……」と心配されてしまう。対して&bold(){「百合と異界は児童小説の伝統、(とわたしは思っている)大丈夫だと思います!」}と力強い言葉を残した。 元々友情が百合っぽいといわれていたが、この発言で百合好きが広まることになった。 なおこの名言が縁となりエッセイを寄稿することになったらしい。 『[[裏世界ピクニック]]』の原作者である宮澤伊織は大御所に推されて恐れおののいていた。ちなみに令丈ヒロ子作品で好きなのは『かえたい二人』。あれも女子中学生同士の深い愛の物語である。 そんな感じで令丈ヒロ子作品には女の子同士の%%重い%%強い友情を描いたものが多い(少年同士の友情とかボーイミーツガールも書くけど)。 エッセイの中で例として挙げられたのは ・全くタイプの違う小学五年の女の子同士のハートが、呪いの鏡のせいで少しずつ中身が入れ替わってしまい、だんだん身も心も自分じゃなくなってしまう、生理的なホラーファンタジー要素を入れた成長友情物語&bold(){『メニメニハート』} ・学校カースト底辺の女子中学生二人が厳しい学校生活を協力して乗り越えようとする。友情ナシの割り切った利害関係だけのつもりが、いつのまにかだれよりも大事な相手になる&bold(){『かえたい二人』}((『なりたい二人』という作品の続編。ただ世界観が繋がっているだけなのでこちらからでも読める)) ・漫才師を目指す中学生女子が天才ボケ少女を相方にスカウトする。その相手には複雑な生活背景があり、万華鏡のように変化する彼女「ボケ姫」に魅了されていく&bold(){『あたしの、ボケのお姫様』} ・恋する相手の気持ちに死んでから気が付いて相手に取り付き一体化する病み百合ストーリー&bold(){『いちごジャムが好き。』} などなど……。それ以外にも挙げると ・真面目な女子中学生のハートがちぎれ、彼女の前に性格は正反対だが瓜二つの少女が現れる。否定しながらも彼女も自分の一部であると徐々に受け入れていく&bold(){『ダブル・ハート』} ・価値観は真逆であるが共に「アイドルになりたい」という強い想いを持つ二人の小学生女子が、ケンカをしながらもコンビでアイドルを目指し少しずつ認め合っていく&bold(){『温泉アイドルは小学生!』}と続編の&bold(){『アイドルことまり!』}((『若おかみは小学生!』のスピンオフ)) ・入院中の小学生が本の中の世界に入る不思議な力を持つ少女と出会う。交流の中で少女が現実から逃げ本の世界に居場所を求めていると知り、自分が彼女の居場所になろうとする『&bold(){病院図書館の青と空』} みたいな感じである。 この中で友情関係が重いのが&bold(){『あたしの、ボケのお姫様』}。 愛が深いのが&bold(){『かえたい二人』}。 女の子同士のキスシーンがあるのが&bold(){『ダブル・ハート』}(百合展開的な意味でのキスではないが)。 上で「厳密にはちょっと違うが」と書いた通り令丈ヒロ子は百合が書きたいというより&bold(){少女同士の強い友情を描きたい}という考え。 令丈ヒロ子にとっての百合の定義は&bold(){「女の子同士の、それぞれの成長に繋がる深い関わり」}。これは女の子が成長するための通過儀礼のようなものであるらしい。 女の子同士というのは相手と同化する感覚がとても強い。そのため反発したり喧嘩したりしながらも徐々に相手の価値観を受け入れ、&bold(){それを自分の一部として成長していく}。 令丈ヒロ子は児童小説家として、ターゲットの女児にとって成長の支えになるものを書きたいと考えている。そのため女の子同士の友情をテーマにするとその相手に同化し成長していく部分を丁寧に書いていくことになる。 このように強い相互理解が作家観の根底のひとつにある。 そのため令丈ヒロ子の少女同士の友情ものは、友情が友情と言うより恋に見えるような強い愛になりがち。&bold(){早い話同化する部分が丁寧すぎるため百合に見えてくる}。 ストーリーは間違いなく友情ものであるのに、&bold(){&color(#F54738){端々の表現や友情の関係性がやたらと重い}}ものが多い。 例を挙げると&bold(){『あたしの、ボケのお姫様』}。 漫才師が夢のすいすい((これは芸名で本名は水口まどか))が転校生の天然ボケ少女るりりと共に漫才スターを目指す物語。 ストーリー自体は女の子同士が互いに影響を与え成長していく友情ものである。 そのはずなんだが、何故か話の端々ですいすいとるりりの関係がカップルとか恋に例えられていく。クライマックスではるりりと悲しい別れを遂げたことについてすいすいが&bold(){「ほぼ失恋」}とか言い出す。 >(そうか。これって、ほぼ失恋なんや) > あたしは急に気が付いた。 > るりりに相方になってくれと申し込んだとき、恋の告白のようにどきどきした。 >いろんなアクシデントもあったけど、みんな乗り越えて、いくつもの決心をして、すっといっしょにがんばっていこうと決めた。なのに、どうにもならない事情ではなれてしまった。 > その相手を、いつまでも思って、怒ったり泣いたりしている。それが今のあたしだ。 >(……これって、本当にカップルだとしたら、あたしって未練がましくてしつこい男って感じなのかな? はー、恋愛ソングがしみるはずやわ) るりりは複雑な生活背景ゆえに鬱屈した経験が多く、すいすいと出会って漫才をやって「人生で初めて晴れたって感じ」になれた。そのためすいすいが大好きで依存しているところがある(すいすいのことになると感情のコントロールが難しくなると言われるレベル)。 すいすいはそんなるりりの人生をずっと晴れさせるためにも漫才をやり続けたいと考えている。 ……なんとも重い二人である。 飽くまでも「女の子同士の、同化してしまうほどの深い相互理解」を描きたいというスタンス。百合を書きたいという強い意識があったわけでもないそう。そのためエッセイでも&bold(){「こういう部分を強めに書くのが『百合』ジャンルになるなら、私は相当百合成分の高い作家だと思います」}と述べている。 というように女の子同士の強い友情が令丈ヒロ子の書きたいもののひとつ。 その中でも&bold(){相手と同化する話や相手になってしまう話}が時折書かれる。 上述の「相手の価値観や感覚が自分のものになり女の子は成長する」という作家観のためだが。 > 同性でも異性でも、もしかしたら相手が人間以外でも、生き物同士のかかわりというのは、基本同じなのかもしれないのですが、女の子同士のというのは、相手と同化する感覚がとても強く、始めは拒否していても、一度相手を受け入れると、相手との共感共苦が細胞レベルまで及ぶのではないかと思うときがあります。 &bold(){『メニメニハート』}はマジ子とサギノという正反対の小学生が徐々に入れ替わる物語。最初は表面的な性格だけが入れ替わるが、徐々に価値観や体質までもが入れ替わり少しずつ相手になり自分ではなくなっていく。 &bold(){『アイドルことまり!』}の最終巻では、相棒の魅力を誰よりも知り尽くした主人公二人が、相手の魅力をトレースできるようになり「ふたごのプリンセス」を目指す。 手を変え品を変え同化する女の子たちを描いている。 同化するような部分を書いてはいるが、それが作中で全肯定されるわけではない。 &bold(){『メニメニハート』}は最終的に入れ替わりの呪いが解ける。解けた理由は明確には明かされない。ただサギノとマジ子はあまり好きではなかった自分を認められるようになっている。 あと&bold(){『アイドルことまり!』}。「ふたごのプリンセス」になろうとする中でお互いの決定的な違いを見つけ、それを親友の大切な価値観として受け入れ合い二人とも真逆の道を向かう。 こんな感じで&bold(){「相手を好きになることは大切だけど同じくらい自分を好きになろう!」}みたいなことが結論になる話が多い。 ……そうすると&bold(){「大好きな人とひとつになれて幸せ!」}をやり切った&bold(){『いちごジャムが好き。』}が本当にすごい話だったということになるが。 そもそも大体の作品で描かれているのは「恋のような友情」。&bold(){ベースは友情であり恋ではない}。 &bold(){そんな中「&color(#3B4EF0){恋する相手の気持ちに死んでから気が付いて相手に取り付き一体化する}」とまで作者に言われたのははまゆらだけ}。 まゆらは平凡なことがコンプレックスであるが、&bold(){ハッキリ言って令丈ヒロ子作品トップクラスにすごい子}である。 このように令丈ヒロ子は女の子同士の深い愛をよく描く作家。 しかし描きたいテーマによってはそれを抑えることもある。例えば代表作である『[[若おかみは小学生!]]』はそれなりに抑えたようだ。%%時折抑えきれていないが。%%((おっことグローリーさんの関係は天然らしい)) &bold(){逆に言えばそこの部分にブーストをかけた結果出来上がったのが『いちごジャムが好き。』なのかもしれない……}。 とまあこのように。 「いちごジャムが好き。」自体はぶっ飛んでいる。 だが令丈ヒロ子の作家観を紐解いていくと&bold(){「まああの作者ならこういうの書いてもおかしくないよな……」}と妙に納得してしまう。 それはそれとして&bold(){「作者頑張りすぎだろ……」}とも思う。 そんな不思議な作品である。 *【永遠にラブラブな世界】 &bold(){時は流れ2021年『いちごジャムが好き。』がセルフリメイクされた}。 それは&bold(){『人類滅亡フラグがたちました!』}の第三章&bold(){『アミ・永遠にラブラブな世界』}にて。 本作はザックリ言うと人類滅亡を止めるためにシミュレーションしていくというもの。 「カンノン」という上位存在に集められた主人公たち。彼ら彼女らは滅亡を止めるため理想となる未来世界を考え、そうなった場合の未来のシミュレーション映像を見る。 &bold(){だが「カンノン」はものすごく意地が悪い}(無自覚だが)。そのためオーダーされた部分以外は最悪の状況となる未来がシミュレーションされ、&bold(){結局世界が滅んでしまう}。 たとえば「安心して誰かを好きになれる世界」なら「誰か」が「人間以外でもOK」と解釈されてしまう。その結果「AI婚が進みゆるやかに出生率が下がり滅亡する」という未来が出来上がった。 そんな本作で真っ先にオーダーしたのが&color(pink){アミ}という少女。美少女でどこか甘えん坊なところのある女の子である。 彼女は両親や姉とその彼氏の恋愛を例に挙げて「愛し合う人同士が、永遠にラブラブな世界」をオーダーする。 その結果シミュレーションされたのは、&bold(){なぜか『いちごジャムが好き。』に酷似した未来だった……}。 ……男女恋愛を例に挙げたはずなのに、よりによってミゼが登場したかは永遠の謎。 ちなみにアミのシミュレーションだけ他と毛色が違う。他が「オーダーした未来が成立した後の物語」でアミだけ「オーダーした未来が成立するまでの物語」。 ページ数が3分の1程度になったこともあり多少改変が加えられている。 ・話の都合で主人公がまゆらからアミに(ミゼはそのまま登場する) ・&bold(){エッヂング力が実在する} ・&bold(){最後に滅亡するため&color(#F54738){最高で最悪}&color(pink){の後日談}が加えられた}。 本作のミゼは美少女同士アミとは仲の良い友人らしい。 ページ数が減り話を早く展開しなければならない都合で原作より言動がややぶっ飛んでいる。 「&color(#F54738){アミの人生を素晴らしいものにするために生きるの! 一生の、ううん永遠のパートナーになる}」とか言い出すし。 %%まゆらには「生涯のパートナー」と言っていたのに対し、アミには「永遠のパートナー」……%%((『永遠にラブラブの世界』という副題に合わせてのこういう表現になっただけのはず……)) なお問題のシーンであるミゼのお湯につかり恍惚とするシーンはかなり短くなった。 「&color(pink){いちごジャムのお湯……あったかくてあまずっぱい……ミゼに包まれてるみたい}」と「&color(pink){ミゼ、髪の先から爪の先まで、包まれたい……}」の2行のみ。 中盤までの話は大体同じ。大きく変わるのはアミが死んだ後から。 悲しんでいたミゼの前に魂となったアミが現れる。なおアミの魂は「&color(pink){お湯に溶けかかったいちごジャム}」のような形。 そうして互いに理解し合ったうえでアミとミゼはひとつになる。&bold(){自分の中に愛する人がいるとミゼが自覚している}のがポイント。 「あったかいよ。ミゼに包まれている」とか言い出すアミに、自分を抱きしめ涙を流しながら微笑むミゼ。のっけからラブラブである。 その後二人はSNSに自分たちの動画を上げていた。 #center(){ &color(#F54738){&bold(){愛する人は今、わたしの中に棲んでいます}} &color(#F54738){&bold(){彼女が死んじゃったときは、つらくて死にそうだったけど、今はとても幸せ}} &color(#F54738){&bold(){だって、わたしたちは今、二人で一人だから、離れる心配も、お互いの気持ちが分からなくて苦しむこともないんだもの}} &color(#F54738){&bold(){むしろ、こうなってよかったって思ってます}} &color(pink){&bold(){はーい、アミだよ! みんな元気?}} &color(pink){&bold(){アミ、すっごくハッピー!}} &color(pink){&bold(){ずっとミゼといっしょだから、死んでもぜんぜん寂しくない}} &color(pink){&bold(){ミゼのことがぜんぶわかって、前よりもっと、愛が深くなっちゃった!}} &color(pink){&bold(){一人が魂になって、もう一人の中に入っちゃうの、カップルのみなさんにおススメかもでーす!}} &color(#F54738){&bold(){そうだよね。これってラブラブの完成形かもね。わたしたちとっても幸せです}} } この動画はアミたちの学校を起点として、徐々に世界で流行り始めていた……。 「&color(#F54738){愛する人}」だの「&color(pink){カップル}」だの表現が取り返しのつかないところまで来ている気がする。 シミュレーション自体はここで終わったが、カンノンによると&bold(){この後世界は滅んだ}とのこと。 その後も二人はラブラブな毎日をネットにアップしていく。だがアミたちが本当にエッヂング力を持っていたため動画は爆発的に世界中に拡散されてく。 その結果全世界で感動を呼びドラマ化映画化。それだけならよかったが&bold(){ミゼとアミは世界中で愛の形の理想となり、後を追うものが増えていく}。 そうして&bold(){カップルの片方がいちごジャムを持って死を臨むのが大流行}。 その結果ゆるやかに人口が減り世界は滅亡した。 早い話、&bold(){&color(#F54738){二人の愛はついに世界}&color(pink){を滅ぼしたのである}}。 付け加えるとカンノン側が&bold(){「生きている人間同士が永遠に愛し合うのは不可能」}と解釈したためこんなシミュレーションになった。 このシミュレーションを見た現実のアミは&bold(){「&color(pink){この世界じゃアミ、死んでるじゃん!}」}と至極真っ当な不満を口にした。 残念だが彼女は&bold(){「&color(#3B4EF0){ひとつになれるなら死んでもOK}」}というまゆらの境地には立てなかったらしい。 このシミュレーション映像は集められた子どもたち全員で見ている。 男女恋愛をイメージしたはずなのに&bold(){親友とラブラブになっている映像を衆人環視にさらされたアミの心境は如何に}。 余談だが本作は「井ノ原マユカ」というまゆらと名字含め一文字違いの女の子が登場する。 アミともミゼとも関わらないため偶然っぽいが。 おそらくだが、『いちごジャムが好き。』の世界はこっちのように滅んだりしないと思われる。 そもそもミゼが大好きな人と一つになったことを自覚している&エッジング力が実在すると差異が大きすぎる。 &bold(){&color(#F54738){でもあの二人が永遠にラブラブで}&color(#3B4EF0){あるのは同じような気がする}}。 &bold(){好きって、こわい。} 追記・修正は大好きな人とひとつになってからお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,5) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 好きなのは分かるが、後半部分は作者の項目立ててそこに書けば? -- 名無しさん (2022-09-30 17:08:53) - 余談がめちゃくちゃ厚くて笑った -- 名無しさん (2022-09-30 17:13:02) #comment(striction) #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2021/09/29 Thu 00:15:11 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 22分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- &bold(){『いちごジャムが好き。』}は&bold(){『好きって、こわい?』}に収録された短編小説。 作者は「[[若おかみは小学生!]]」で有名な&bold(){令丈ヒロ子}。 『好きって、こわい?』は2012年に発売された児童向けホラーアンソロジー。 令丈ヒロ子本人が編集を務めた短編集でありタイトル通り「好き」がテーマになっている。 それぞれが違った角度で「好き」から生じる怖さを描いていく。 最後に収録されたのが令丈ヒロ子による「いちごジャムが好き。」である。 それはトリを飾るのにふさわしく(ふさわしいのか?)、本作の中でも&bold(){かなり異彩を放つもの}となっていた……。 他人に強い影響を与えることが出来る「エッヂング力」を持つ主人公まゆらと同じ力を持つ美少女ミゼの物語。 知名度こそ低いが、ファンの間では&bold(){&color(#F54738){伝説の}&color(#3B4EF0){ホラー}}として知れ渡っている(多分)。 ……いろいろな意味で令丈ヒロ子の%%性癖%%作家観を知るためには重要な短編である。 ストレートに言うと[[ヤンデレ]][[百合]]もの。 #contents() *【あらすじ】 普通なまゆらと[[完璧超人]]なミゼは、タイプは違うが気の合う大親友。 いつも通り仲良く話していた二人だが、ふとミゼが不思議な話を始める。 それは他人に強い影響を与える力である「エッヂング」力を、まゆらが持っているということだった。 *【登場人物】 &bold(){&color(#3B4EF0){◆井ノ原まゆら}} 本作の主人公である中学一年生。 &bold(){平凡でどこにでもいるような女の子}。本人はそれがコンプレックスになっている。あんまりかわいくないし、勉強も出来る方ではないらしい。そんなこともあって完璧超人なミゼのことが大好きで憧れている。 そんな彼女の変わっているところが&bold(){妄想好きなところ}。「自分がもしこうだったら」という妄想をするのが大好き。きれいな保健の先生を見れば自分がそうなっている妄想をするし、ドラマを見ると主人公になっている妄想をする。だが周りにはそんな話題を共有できる友人はほぼいないため寂しく思っている。ドラマを見る友人はいるのだがまゆらほどのめり込む子はいないとか。唯一話題がよく合うのはミゼだけで、彼女と話すのが一番の楽しみ。 このように&color(#3B4EF0){あらゆる面でミゼのことが大好き}な女の子。それだけにミゼに本当に好かれているのか不安になる時がある。 ちなみに「好きって、こわい?」の表紙に写っている少女は&color(#F54738){赤い傘}(後述)を持っている。多分この子がまゆらなのだと思われる。何故か目に光がないため&bold(){ちょっと怖い}。こっちをじっと見ているが、見ているのは読者ではなく大好きなミゼなんだろう。 &bold(){&color(#F54738){◆崎山ミゼ}} もう一人の主人公でまゆらの親友。漢字表記で「美是」だが作中ではほぼカタカナ表記。 まゆらとは対照的に&bold(){どこにもいなさそうな完璧超人の美少女}。大人っぽい美人で勉強が出来てさらに帰国子女なので英語も話せる。クラスでは父親がフランス人とか家がお屋敷のお姫様とか様々なうわさが立てられている。まゆら曰く入学式の時彼女の周りだけ輝いていたらしい。それくらい完璧超人。ただあんまりにも完璧超人で近寄りがたいため親しい友人はまゆら以外あまりいないようである。 正反対な上にクラスも違う二人が仲良くなったのは6月の雨の日のこと。 まゆらは折りたたみ傘が壊れて悪戦苦闘している中ミゼに&color(#F54738){赤い傘}をさしかけてもらったのが始まり。二人はふと赤い傘がテーマになるドラマの「赤い雨がぼくだけにふる」を話題に出し互いに大ファンであることを知る。意気投合する中でお互い趣味が恐ろしく会うことが分かり親友になった。まゆらにとってミゼは自分の妄想を楽しんで聞いてくれるただひとりの相手。 *【用語】 &bold(){◆ジブンスキー族} ミゼが提唱した一族。まゆらもミゼもこれであるらしい。 &bold(){自分のことが大好きな生まれついての妄想家}。その妄想をエネルギーにすることが出来るため、アーティストとしての類まれな才能を持つ。 ジブンスキー族にとって血縁は関係なく、生まれついて力があるかどうかだけ。 この一族にとって大切なのは自分を愛すること。そのためお風呂、全身が写る鏡、大好きなもののみっつが[[三種の神器]]。 コンプレックスが強いまゆらは自らがジブンスキー族と言われ強く否定した。だが妄想して「もしも自分がこうだったら」と考えるのは、ステキな自分のことばかり想像したいことの裏返しのよう。 &bold(){◆エッヂング力} ジブンスキー族が持つ力のこと。 イメージを周囲に強く焼き付け影響を与えることが出来る。世に強い影響を与えるヒット作はエッヂング力によるものらしい。ミゼ曰くエッヂング力を持つものでなければそこまで強く影響を与えられない。そうやって世の中に良い影響を与えるのがこの一族の使命。 まゆらは強い力を持つが、ミゼはあまり強くない。妄想力がそのまま力になるようだ。 &bold(){&color(#F54738){世界を滅ぼすだ}&color(pink){けの力がある}}。……いや、マジで。 名前の由来は銅版画のエッヂング。 *【ストーリー】 とある金曜日の放課後のこと。まゆらとミゼはいつも通り話し込んでいた。 そんな時ミゼがふと&bold(){「ジブンスキー族」}について話し始める。それについて話すミゼはいつものクールな印象と違い嬉しそうで熱っぽい。まゆらもにわかにはその話が信じられないながらも聞くことに。 話しているうちにまゆらは不安になってきた。ミゼがジブンスキー族について、冗談でも妄想でもなく本気で話しているように見えたのだ。思わずそれを言ってしまうが、自分は本気で話しているのだと返されてしまう。信じられないのは今まで自分以外のジブンスキー族にあったことがないから、と言われ納得させられてしまう。 ミゼが言うにはまゆらは強いエッヂング力を持つ反面、自身は力がかなり弱いらしい。 ミゼはせっかくの力が活かせずずっと悔しい想いをしてきた。 だからこそまゆらが力を伸ばすためのサポートをしたいという。 まゆらがためしに思いついた妄想を話してみると、ミゼは感激して抱き締めてくれた。まゆらは思わず胸がどきどきしてしまう。 正直まゆらはミゼの言葉を全ては信じ切れていない。&bold(){それでもミゼが自分のことをもっともっと好きになってくれるならやってもいいと彼女の話に乗ることにしたのだった}。 次の日の朝、ミゼから電話がかかってきた。まゆらの能力向上のためのプログラムを考えてくれたらしい。 ジブンスキー族[[三種の神器]]を使うのが今回のプログラム。まゆらは[[お母さん]]がつくったいちごジャムが好きであり、瓶を持ってお風呂に入ることに。 そうしてお風呂に入っている中でふと思いついたことがあった。それは&color(#F54738){ミゼといちごジャムが似ている}ということ。 真っ赤な色はあの日ミゼがさしてくれた傘と同じ色。それにいちごジャムの甘酸っぱい味はかわいいだけじゃなくてかすかな大人っぽさがあるところに似ている。 &bold(){&color(#F54738){いちごジャムはミゼみたいだから好きだ}}、と気が付いた時瓶をお風呂の中に落としてしまう。 お湯の中に広がっていくいちごジャム。それを見てまゆらは妄想を広げた。 それは……。 #center(){ &bold(){&color(#3B4EF0){ミゼがかけらになって、お湯に広がっていくみたいだ。}} &bold(){&color(#3B4EF0){大好きなミゼが、お湯にとけて、あたしを温めてくれる}} } ……この辺りから話の雲行きが怪しくなってくる。 その妄想がおなかの底がじんとあつくなるほどに気に入ったまゆら。 ドキドキしながらお湯に入ってみることに。 #center(){ &bold(){&color(#3B4EF0){あたしは目をとじて、ずぶずぶっとお湯の中にしずんでみた}} &bold(){&color(#3B4EF0){そうしたら、お湯がまるであたしを抱きしめてくれるようにやさしく、あたしの体にまとわりついてきた}} &bold(){&color(#3B4EF0){ミゼが教室であたしに抱きついてきた、その体のしなやかさや、あたたかさ、そしてあまい香りがよみがえってきた}} &bold(){&color(#3B4EF0){ミゼがお湯になって、あたしを包みこんでくれている}} &bold(){&color(#3B4EF0){大好きなだれかに、こんなふうに髪の先から爪の間まで、ゆるくあたたかくすっぽり包みこんでもらえるのって、とてもいい気持ちだ}} &bold(){&color(#3B4EF0){あたしは息を少しずつはきながら、ひざをかかえてなおも深く、お湯の底にしずみこんだ}} &bold(){&color(#3B4EF0){こうしているとミゼとあたしの境目がきえて、一つにまじりあい、とけあったようだ}} } 妄想の方向性が斜め上に行き始めたまゆらは、この&color(#3B4EF0){お湯を飲んだらさらにミゼととけあえるんじゃないか}と思いつく。 この辺りで&bold(){「&color(#3B4EF0){これをのみこめば、おなかの中にもミゼのお湯が入ってくる}」}など怖いことを言いだす。 シレっと言っているけど「&color(#F54738){ミゼのお湯}」とは……。 ……だがそれはうまくいかなかった。&bold(){口の中にいちごジャムのかたまりが入りこみ、溺れてしまう}。 パニックに陥ったまゆらはそのまま意識を失った……。 気が付くとまゆらは、眠る自分とその横で大声をあげて泣くミゼという光景を見ていた。 なんとまゆらは&bold(){死んでしまった}らしい。あの時いちごをのどに詰まらせ、おぼれ死んでしまったのだ。 まゆらは幽霊となって死んだ自分を上から見つめていた。 これでまゆらは、アーティストになる将来も、ずっと一緒にミゼといる未来も閉ざされてしまった……。 泣き続けていたミゼだが、とんでもないことを言い始めた。 それはジブンスキー族もエッヂング力も&bold(){全てミゼがでっち上げた嘘}だということだった。 そんなことのために自分は死んだのか、と当然怒るまゆら。思わず殴りかかろうとするがすり抜けてしまう。その代わりにミゼの体の中に入り込んでしまい、&bold(){彼女に取り憑いてしまった}。 お風呂のシーンでは単なるイメージだったが、このシーンでは正真正銘ミゼに包まれている。 そうして聞こえてきたのはミゼの深い悲しみだった。 #center(){ &bold(){&color(#F54738){まゆら。まゆら}} &bold(){&color(#F54738){ごめんなさい。ごめんなさい}} &bold(){&color(#F54738){まゆらみたいな人、初めてだった}} &bold(){&color(#F54738){まゆらに、本当に好かれているか、ずっと不安だったの}} &bold(){&color(#F54738){だからあんな嘘をついたの}} &bold(){&color(#F54738){まゆらとずっといっしょにいたかったの}} } &bold(){ミゼにとってまゆらしかいなかった}。 実はミゼは[[小学校]]の時いじめられていた。中学校に入っても近寄りがたさからいつも孤独。そんな彼女と一緒に居てくれるのはまゆらだけだし、だからこそミゼはまゆらが大好きだった。 だが心のどこかで本当にまゆらに好かれているか不安になってしまう。 だから自分のことが好きならどんな話でも信じてくれると思い、まゆらを試すような真似をしたのだった。 しかしその嘘の果てにあるのは&color(#F54738){大好きなまゆらの死}であった……。 そのことを知りまゆらの怒りは静まっていった。代わりにこみあげてきたのは嬉しさだった。 まゆらも同じようにミゼに本当に好かれているのか不安になることがあった。 けどミゼはまゆらが思うよりもずっと強い気持ちでまゆらのことが好きだったのである。 &bold(){それがまゆらにはたまらなく嬉しかったのだ}。 まゆらはこれから先ずっとミゼと一緒にいることを決める。 けれどもそんなまゆらの慰めが聞こえるはずもなく、ミゼはいっそうせつない声で泣き始めた……。 &bold(){&color(#F54738){めでたし}&color(#3B4EF0){めでたし?}} *【余談とどうしてこうなったか】 作者はあとがきにて&bold(){「できるだけ奇妙な、でもどこか笑える空気を心がけ、こわおかしい話をめざしました」}と語っている。マジかよ……。 本作のイラストを手掛けたのは結布。&bold(){『メニメニハート』『なりたい二人』『かえたい二人』}などの令丈ヒロ子作品でもイラストを担当している。 ちなみに結布は本作がお気に入りらしい。Twitterでも&bold(){「女の子の甘美で苦しくて幸せな関係にとても感銘を受けたのでした。今でも一番大好きな女の子同士のお話です!」}と言っている。 令丈ヒロ子は某エッセイにて本作を&bold(){「&color(#F54738){恋する相手の気持ちに死んでから気が付いて}&color(#3B4EF0){相手にとりつき一体化する病み百合ストーリー}」}と評した。 ファンの間では割と有名な話だが、令丈ヒロ子は&bold(){結構な百合好き}である(厳密にはちょっと違うけど)。 そもそも「某エッセイ」とはSFマガジン2019年2月号百合特集に寄稿した&bold(){「百合と異界は児童小説の……」}。何回見てもすごいタイトルだ。 時は遡り2019年。令状ヒロ子は中高生に「[[裏世界ピクニック]]」を推していた。 だがTwitterにてハヤカワの百合担当の編集者に「(児童小説家が百合を推して)それは大丈夫でしょうか……」と心配されてしまう。対して&bold(){「百合と異界は児童小説の伝統、(とわたしは思っている)大丈夫だと思います!」}と力強い言葉を残した。 元々友情が百合っぽいといわれていたが、この発言で百合好きが広まることになった。 なおこの名言が縁となりエッセイを寄稿することになったらしい。 『[[裏世界ピクニック]]』の原作者である宮澤伊織は大御所に推されて恐れおののいていた。ちなみに令丈ヒロ子作品で好きなのは『かえたい二人』。あれも女子中学生同士の深い愛の物語である。 そんな感じで令丈ヒロ子作品には女の子同士の%%重い%%強い友情を描いたものが多い(少年同士の友情とかボーイミーツガールも書くけど)。 エッセイの中で例として挙げられたのは ・全くタイプの違う小学五年の女の子同士のハートが、呪いの鏡のせいで少しずつ中身が入れ替わってしまい、だんだん身も心も自分じゃなくなってしまう、生理的なホラーファンタジー要素を入れた成長友情物語&bold(){『メニメニハート』} ・学校カースト底辺の女子中学生二人が厳しい学校生活を協力して乗り越えようとする。友情ナシの割り切った利害関係だけのつもりが、いつのまにかだれよりも大事な相手になる&bold(){『かえたい二人』}((『なりたい二人』という作品の続編。ただ世界観が繋がっているだけなのでこちらからでも読める)) ・漫才師を目指す中学生女子が天才ボケ少女を相方にスカウトする。その相手には複雑な生活背景があり、万華鏡のように変化する彼女「ボケ姫」に魅了されていく&bold(){『あたしの、ボケのお姫様』} ・恋する相手の気持ちに死んでから気が付いて相手に取り付き一体化する病み百合ストーリー&bold(){『いちごジャムが好き。』} などなど……。それ以外にも挙げると ・真面目な女子中学生のハートがちぎれ、彼女の前に性格は正反対だが瓜二つの少女が現れる。否定しながらも彼女も自分の一部であると徐々に受け入れていく&bold(){『ダブル・ハート』} ・価値観は真逆であるが共に「アイドルになりたい」という強い想いを持つ二人の小学生女子が、ケンカをしながらもコンビでアイドルを目指し少しずつ認め合っていく&bold(){『温泉アイドルは小学生!』}と続編の&bold(){『アイドルことまり!』}((『若おかみは小学生!』のスピンオフ)) ・入院中の小学生が本の中の世界に入る不思議な力を持つ少女と出会う。交流の中で少女が現実から逃げ本の世界に居場所を求めていると知り、自分が彼女の居場所になろうとする『&bold(){病院図書館の青と空』} みたいな感じである。 この中で友情関係が重いのが&bold(){『あたしの、ボケのお姫様』}。 愛が深いのが&bold(){『かえたい二人』}。 女の子同士のキスシーンがあるのが&bold(){『ダブル・ハート』}(百合展開的な意味でのキスではないが)。 上で「厳密にはちょっと違うが」と書いた通り令丈ヒロ子は百合が書きたいというより&bold(){少女同士の強い友情を描きたい}という考え。 令丈ヒロ子にとっての百合の定義は&bold(){「女の子同士の、それぞれの成長に繋がる深い関わり」}。これは女の子が成長するための通過儀礼のようなものであるらしい。 女の子同士というのは相手と同化する感覚がとても強い。そのため反発したり喧嘩したりしながらも徐々に相手の価値観を受け入れ、&bold(){それを自分の一部として成長していく}。 令丈ヒロ子は児童小説家として、ターゲットの女児にとって成長の支えになるものを書きたいと考えている。そのため女の子同士の友情をテーマにするとその相手に同化し成長していく部分を丁寧に書いていくことになる。 このように強い相互理解が作家観の根底のひとつにある。 そのため令丈ヒロ子の少女同士の友情ものは、友情が友情と言うより恋に見えるような強い愛になりがち。&bold(){早い話同化する部分が丁寧すぎるため百合に見えてくる}。 ストーリーは間違いなく友情ものであるのに、&bold(){&color(#F54738){端々の表現や友情の関係性がやたらと重い}}ものが多い。 例を挙げると&bold(){『あたしの、ボケのお姫様』}。 漫才師が夢のすいすい((これは芸名で本名は水口まどか))が転校生の天然ボケ少女るりりと共に漫才スターを目指す物語。 ストーリー自体は女の子同士が互いに影響を与え成長していく友情ものである。 そのはずなんだが、何故か話の端々ですいすいとるりりの関係がカップルとか恋に例えられていく。クライマックスではるりりと悲しい別れを遂げたことについてすいすいが&bold(){「ほぼ失恋」}とか言い出す。 >(そうか。これって、ほぼ失恋なんや) > あたしは急に気が付いた。 > るりりに相方になってくれと申し込んだとき、恋の告白のようにどきどきした。 >いろんなアクシデントもあったけど、みんな乗り越えて、いくつもの決心をして、すっといっしょにがんばっていこうと決めた。なのに、どうにもならない事情ではなれてしまった。 > その相手を、いつまでも思って、怒ったり泣いたりしている。それが今のあたしだ。 >(……これって、本当にカップルだとしたら、あたしって未練がましくてしつこい男って感じなのかな? はー、恋愛ソングがしみるはずやわ) るりりは複雑な生活背景ゆえに鬱屈した経験が多く、すいすいと出会って漫才をやって「人生で初めて晴れたって感じ」になれた。そのためすいすいが大好きで依存しているところがある(すいすいのことになると感情のコントロールが難しくなると言われるレベル)。 すいすいはそんなるりりの人生をずっと晴れさせるためにも漫才をやり続けたいと考えている。 ……なんとも重い二人である。 飽くまでも「女の子同士の、同化してしまうほどの深い相互理解」を描きたいというスタンス。百合を書きたいという強い意識があったわけでもないそう。そのためエッセイでも&bold(){「こういう部分を強めに書くのが『百合』ジャンルになるなら、私は相当百合成分の高い作家だと思います」}と述べている。 というように女の子同士の強い友情が令丈ヒロ子の書きたいもののひとつ。 その中でも&bold(){相手と同化する話や相手になってしまう話}が時折書かれる。 上述の「相手の価値観や感覚が自分のものになり女の子は成長する」という作家観のためだが。 > 同性でも異性でも、もしかしたら相手が人間以外でも、生き物同士のかかわりというのは、基本同じなのかもしれないのですが、女の子同士のというのは、相手と同化する感覚がとても強く、始めは拒否していても、一度相手を受け入れると、相手との共感共苦が細胞レベルまで及ぶのではないかと思うときがあります。 &bold(){『メニメニハート』}はマジ子とサギノという正反対の小学生が徐々に入れ替わる物語。最初は表面的な性格だけが入れ替わるが、徐々に価値観や体質までもが入れ替わり少しずつ相手になり自分ではなくなっていく。 &bold(){『アイドルことまり!』}の最終巻では、相棒の魅力を誰よりも知り尽くした主人公二人が、相手の魅力をトレースできるようになり「ふたごのプリンセス」を目指す。 手を変え品を変え同化する女の子たちを描いている。 同化するような部分を書いてはいるが、それが作中で全肯定されるわけではない。 &bold(){『メニメニハート』}は最終的に入れ替わりの呪いが解ける。解けた理由は明確には明かされない。ただサギノとマジ子はあまり好きではなかった自分を認められるようになっている。 あと&bold(){『アイドルことまり!』}。「ふたごのプリンセス」になろうとする中でお互いの決定的な違いを見つけ、それを親友の大切な価値観として受け入れ合い二人とも真逆の道を向かう。 こんな感じで&bold(){「相手を好きになることは大切だけど同じくらい自分を好きになろう!」}みたいなことが結論になる話が多い。 ……そうすると&bold(){「大好きな人とひとつになれて幸せ!」}をやり切った&bold(){『いちごジャムが好き。』}が本当にすごい話だったということになるが。 そもそも大体の作品で描かれているのは「恋のような友情」。&bold(){ベースは友情であり恋ではない}。 &bold(){そんな中「&color(#3B4EF0){恋する相手の気持ちに死んでから気が付いて相手に取り付き一体化する}」とまで作者に言われたのははまゆらだけ}。 まゆらは平凡なことがコンプレックスであるが、&bold(){ハッキリ言って令丈ヒロ子作品トップクラスにすごい子}である。 このように令丈ヒロ子は女の子同士の深い愛をよく描く作家。 しかし描きたいテーマによってはそれを抑えることもある。例えば代表作である『[[若おかみは小学生!]]』はそれなりに抑えたようだ。%%時折抑えきれていないが。%%((おっことグローリーさんの関係は天然らしい)) &bold(){逆に言えばそこの部分にブーストをかけた結果出来上がったのが『いちごジャムが好き。』なのかもしれない……}。 とまあこのように。 「いちごジャムが好き。」自体はぶっ飛んでいる。 だが令丈ヒロ子の作家観を紐解いていくと&bold(){「まああの作者ならこういうの書いてもおかしくないよな……」}と妙に納得してしまう。 それはそれとして&bold(){「作者頑張りすぎだろ……」}とも思う。 そんな不思議な作品である。 *【永遠にラブラブな世界】 &bold(){時は流れ2021年『いちごジャムが好き。』がセルフリメイクされた}。 それは&bold(){『人類滅亡フラグがたちました!』}の第三章&bold(){『アミ・永遠にラブラブな世界』}にて。 本作はザックリ言うと人類滅亡を止めるためにシミュレーションしていくというもの。 「カンノン」という上位存在に集められた主人公たち。彼ら彼女らは滅亡を止めるため理想となる未来世界を考え、そうなった場合の未来のシミュレーション映像を見る。 &bold(){だが「カンノン」はものすごく意地が悪い}(無自覚だが)。そのためオーダーされた部分以外は最悪の状況となる未来がシミュレーションされ、&bold(){結局世界が滅んでしまう}。 たとえば「安心して誰かを好きになれる世界」なら「誰か」が「人間以外でもOK」と解釈されてしまう。その結果「AI婚が進みゆるやかに出生率が下がり滅亡する」という未来が出来上がった。 そんな本作で真っ先にオーダーしたのが&color(pink){アミ}という少女。美少女でどこか甘えん坊なところのある女の子である。 彼女は両親や姉とその彼氏の恋愛を例に挙げて「愛し合う人同士が、永遠にラブラブな世界」をオーダーする。 その結果シミュレーションされたのは、&bold(){なぜか『いちごジャムが好き。』に酷似した未来だった……}。 ……男女恋愛を例に挙げたはずなのに、よりによってミゼが登場したかは永遠の謎。 ちなみにアミのシミュレーションだけ他と毛色が違う。他が「オーダーした未来が成立した後の物語」でアミだけ「オーダーした未来が成立するまでの物語」。 ページ数が3分の1程度になったこともあり多少改変が加えられている。 ・話の都合で主人公がまゆらからアミに(ミゼはそのまま登場する) ・&bold(){エッヂング力が実在する} ・&bold(){最後に滅亡するため&color(#F54738){最高で最悪}&color(pink){の後日談}が加えられた}。 本作のミゼは美少女同士アミとは仲の良い友人らしい。 ページ数が減り話を早く展開しなければならない都合で原作より言動がややぶっ飛んでいる。 「&color(#F54738){アミの人生を素晴らしいものにするために生きるの! 一生の、ううん永遠のパートナーになる}」とか言い出すし。 %%まゆらには「生涯のパートナー」と言っていたのに対し、アミには「永遠のパートナー」……%%((『永遠にラブラブの世界』という副題に合わせてのこういう表現になっただけのはず……)) なお問題のシーンであるミゼのお湯につかり恍惚とするシーンはかなり短くなった。 「&color(pink){いちごジャムのお湯……あったかくてあまずっぱい……ミゼに包まれてるみたい}」と「&color(pink){ミゼ、髪の先から爪の先まで、包まれたい……}」の2行のみ。 中盤までの話は大体同じ。大きく変わるのはアミが死んだ後から。 悲しんでいたミゼの前に魂となったアミが現れる。なおアミの魂は「&color(pink){お湯に溶けかかったいちごジャム}」のような形。 そうして互いに理解し合ったうえでアミとミゼはひとつになる。&bold(){自分の中に愛する人がいるとミゼが自覚している}のがポイント。 「あったかいよ。ミゼに包まれている」とか言い出すアミに、自分を抱きしめ涙を流しながら微笑むミゼ。のっけからラブラブである。 その後二人はSNSに自分たちの動画を上げていた。 #center(){ &color(#F54738){&bold(){愛する人は今、わたしの中に棲んでいます}} &color(#F54738){&bold(){彼女が死んじゃったときは、つらくて死にそうだったけど、今はとても幸せ}} &color(#F54738){&bold(){だって、わたしたちは今、二人で一人だから、離れる心配も、お互いの気持ちが分からなくて苦しむこともないんだもの}} &color(#F54738){&bold(){むしろ、こうなってよかったって思ってます}} &color(pink){&bold(){はーい、アミだよ! みんな元気?}} &color(pink){&bold(){アミ、すっごくハッピー!}} &color(pink){&bold(){ずっとミゼといっしょだから、死んでもぜんぜん寂しくない}} &color(pink){&bold(){ミゼのことがぜんぶわかって、前よりもっと、愛が深くなっちゃった!}} &color(pink){&bold(){一人が魂になって、もう一人の中に入っちゃうの、カップルのみなさんにおススメかもでーす!}} &color(#F54738){&bold(){そうだよね。これってラブラブの完成形かもね。わたしたちとっても幸せです}} } この動画はアミたちの学校を起点として、徐々に世界で流行り始めていた……。 「&color(#F54738){愛する人}」だの「&color(pink){カップル}」だの表現が取り返しのつかないところまで来ている気がする。 シミュレーション自体はここで終わったが、カンノンによると&bold(){この後世界は滅んだ}とのこと。 その後も二人はラブラブな毎日をネットにアップしていく。だがアミたちが本当にエッヂング力を持っていたため動画は爆発的に世界中に拡散されてく。 その結果全世界で感動を呼びドラマ化映画化。それだけならよかったが&bold(){ミゼとアミは世界中で愛の形の理想となり、後を追うものが増えていく}。 そうして&bold(){カップルの片方がいちごジャムを持って死を臨むのが大流行}。 その結果ゆるやかに人口が減り世界は滅亡した。 早い話、&bold(){&color(#F54738){二人の愛はついに世界}&color(pink){を滅ぼしたのである}}。 付け加えるとカンノン側が&bold(){「生きている人間同士が永遠に愛し合うのは不可能」}と解釈したためこんなシミュレーションになった。 このシミュレーションを見た現実のアミは&bold(){「&color(pink){この世界じゃアミ、死んでるじゃん!}」}と至極真っ当な不満を口にした。 残念だが彼女は&bold(){「&color(#3B4EF0){ひとつになれるなら死んでもOK}」}というまゆらの境地には立てなかったらしい。 このシミュレーション映像は集められた子どもたち全員で見ている。 男女恋愛をイメージしたはずなのに&bold(){親友とラブラブになっている映像を衆人環視にさらされたアミの心境は如何に}。 余談だが本作は「井ノ原マユカ」というまゆらと名字含め一文字違いの女の子が登場する。 アミともミゼとも関わらないため偶然っぽいが。 おそらくだが、『いちごジャムが好き。』の世界はこっちのように滅んだりしないと思われる。 そもそもミゼが大好きな人と一つになったことを自覚している&エッジング力が実在すると差異が大きすぎる。 &bold(){&color(#F54738){でもあの二人が永遠にラブラブで}&color(#3B4EF0){あるのは同じような気がする}}。 &bold(){好きって、こわい。} 追記・修正は大好きな人とひとつになってからお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,6) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 好きなのは分かるが、後半部分は作者の項目立ててそこに書けば? -- 名無しさん (2022-09-30 17:08:53) - 余談がめちゃくちゃ厚くて笑った -- 名無しさん (2022-09-30 17:13:02) #comment(striction) #areaedit(end) }

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