わすれなぐさ(吉屋信子の小説)

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&font(#6495ED){登録日}:2025/06/11 Wed 23:28:34 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 20分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){ &bold(){&color(purple){&ruby(まきこ){牧子}さん、&ruby(わたしひと){私人}にものを&ruby(いただ){戴}くのに、こんな&ruby(お){押}しつけがましい&ruby(しつれい){失禧}なことを&ruby(もう){申}し&ruby(あ){上}げて&ruby(れいぎ){禧儀}を&ruby(し){知}らないとお&ruby(おも){思}ひになるでせう。}} &bold(){&color(purple){でも、いつでも&ruby(わたしあなた){私貴女}に&ruby(むか){向}ふとこんな&ruby(ひじょうしき){非常識}になつてしまうのよ。でもそれがどうしてだかおわかりになる?}} &bold(){&ruby(わたし){私}わかりません。} &bold(){&color(purple){それはね、たゞ&ruby(あなた){貴女}が&ruby(だいす){大好}きだからなのよ、&ruby(わたしす){私好}きな&ruby(かた){方}には&ruby(ひじょうしき){非常識}に&ruby(ふるま){振舞}うことにきめたんですもの。}} } &sizex(6){&bold(){新作長篇少女小説}} &sizex(7){&bold(){わすれなぐさ}} &sizex(6){&bold(){𠮷屋信子作}} &sizex(6){&bold(){高畠蕐宵画}} &bold(){『わすれなぐさ』}は1932年に雑誌『少女の友』で連載された少女小説。 作者は&bold(){吉屋信子}。イラストは高畠華宵。 吉屋信子は日本の百合の原点とされる「エス」の第一人者と言われる人。 おねロリに心中未遂まで様々な形で女性同士の関係性を描いた小説家として知られる。 『わすれなぐさ』は吉屋信子作品の中でもコメディチックな小説。 物語は女学校の少女3人による三角関係モノ。 お嬢さまの陽子、人とは群れない牧子、勉強第一の一枝の奇妙な関係が描かれる。 百合かはぼやかされているが、陽子様が牧子さんに対しおそろしく巨大な矢印を向けている。 主人公は&bold(){天上天下唯我独尊に定評のあるお嬢さまこと相庭陽子様}。 物語は陽子様がクラスメイトの牧子さんを好きになってしまったことから始まる。 陽子様は彼女を自分のものにするべくあの手この手を使うが強引すぎるためうまく行かない。 そんな中偶然が重なり2人の関係に一枝さんも巻き込まれてしまう。 本作の魅力は、&bold(){牧子さんを手にれるためなら本人にいくらドン引きされようとめげずくじけず強靭な精神力で立ち向かう陽子様}と言っても過言ではない。 *【あらすじ】 舞台は昭和初期の女学校。この学校では生徒が3つの派閥に分かれていた。 勉強よりも遊ぶことを好む&bold(){『軟派』}。 ひたすら勉強にだけ取り組む&bold(){『硬派』}。 場合によって主義を変える&bold(){『中立派}』。 派閥ではないがほんの少数どこにも属さない&bold(){『個人主義者』}が存在していた。 とある3年A組では、3名の生徒が話題になっていた。 父が実業家でありその美しさから「クレオの君」と称えられる軟派の女王&color(purple){&bold(){相庭陽子}}。 学校一の模範生であり無感情さから「ロボット」と揶揄される硬派の大将&bold(){&color(green){佐伯一枝}}。 そして個人主義者である少年のような出で立ちの&bold(){弓削牧子}。 物語は陽子が愛する牧子を完全に征服するため、彼女を自分の誕生会に誘ったことから始まる。 最初は出席する気はなかったが父の命令で牧子はしぶしぶ参加することになる。 誕生会では陽子は取り巻きを無視し牧子だけに異様な執着を見せていた。 そんな陽子の妖しい魅力に怖れながらも惹かれてしまい、牧子は最後は逃げるように帰宅するのだった。 だが誕生会に誘われたのにプレゼントひとつ買わなかったことは流石に恥じた牧子。 後日、プレゼントとして高価なキャンディー入れを購入する。 また数日前にノートを貸してくれた一枝へのお礼として実用的なインクスタンドも併せて買うのだった。 そうしてプレゼントを渡すが、思ったものと違う品に不機嫌になった陽子はインクスタンドを取り上げてしまう。 牧子は仕方がなく一枝にキャンディー入れを贈ることに。 ノート一冊のために高価なキャンディー入れを買ってきた牧子に対し一枝は当然困惑。 人づきあいが得意ではなく初心な性格から&bold(){「&color(green){もしかして牧子さんは私のことが好きなのでは?}」}という素っ頓狂な勘違いをしてしまう。 また、「牧子さんが贈り物をするほどの相手」として、陽子は一枝に目をつけていた。 こうして3人は知らず知らずのうちに奇妙な三角関係を築いていたのであった。 *【登場人物】 **◇メインキャラクター ***&bold(){◆相庭陽子} 本作の主人公である軟派の女王。 「ですわ」口調に反してやることなすこと一々過激なギャング系お嬢様。 &bold(){財界の大立物である実業家の娘}。 そんな立場なので性格はだいぶ傲慢で自分勝手。軟派の女王というだけありオシャレも遊びもお金を使い豪華に楽しむことを好む。 その性格からいつも軟派の女子生徒たちに囲まれている。一種のカリスマのような妖しい魅力を抱いておりそんな彼女に惹かれる者も多い。 勿忘草の香水が好きであり作中でもよく使っている。 その本性は&bold(){牧子さんが好きすぎる人}。なお惚れた理由は不明。気が付いたら好きになっていあた。 牧子さんのためなら法律も倫理観も度外視。いくらでも体を張るゴーイングマイウェイっぷりを見せつけている。 彼女の本質は、序盤で牧子さんに語った「好きな人の前では非常識に振る舞うと決めている」がよく表している。 このシーンでは乙女のように頬を赤らめる陽子様とは対照的に牧子さんは&bold(){「いい迷惑だ……」}みたいな顔になっていた。 ~以下、陽子様の非常識な行動~ ・日記に&bold(){「&color(purple){あの人を完全に征服してしまうのが、今の私の生活の一番楽しい大きな興味だ}」}と書き込む ・誕生会で「似合いそうだから」と牧子さんを宝塚風の男装させる(無理やり衣服を脱がせた) ・誕生会で牧子さんに何が欲しいかといわれ&bold(){「&color(purple){貴女が身に着けていたものならなんでもいいですわ}」}と言い出す ・後日キャンディー入れという常識的なプレゼントを持ってきた牧子さんを見て露骨に不機嫌になる ・「せめて机におけるインクスタンドの方が常に貴女のことを思い出せる」とか言って牧子さんが一枝さんのために買っていたインクスタンドを強奪(そのせいで牧子さんは一枝さんにキャンディー入れを渡すことになりそれがまた事件に発展する) ・夏休みに愛しの牧子さんを軽井沢の別荘に誘うも「臨海合宿に行くから」と避けられたので陽子様もそちらに向かう(陽子様が臨海合宿に行くのは初であり取り巻きを驚かせた) ・牧子さんが急用で合宿途中で帰ることになったので&bold(){「&color(purple){牧子さんのいない場所にいる価値がない」}}と一緒に帰ろうとする ・牧子さんが母の葬式から初の登校後、&bold(){「&color(purple){もうお乳が必要な歳でもないし母が亡くなっても問題ない」}}と力説(※本人は慰めているつもりです) ・一枝さんが牧子さんの母を弔うために買ってきた花束を&color(#F54738){六郷の川に投げ捨てる} などなど、非常識な行動はいくらでもある人。 「&color(purple){貴女が好きすぎて非常識になっちゃうんですわ♡}」などとほざいているがその実&bold(){牧子さん関係なく非常識}。 自己中心的なお嬢様気質、それを実現できてしまう金とバイタリティ、心臓に毛が生えたようなメンタルから突拍子もない行動が多い。 実際タクシーで帰宅中警察が検問をやっているのを見かけたときには、帰りが遅くなると思い「金は積むからあの検問を振り切りなさい」と運転手に言いだした。 その後は自分たちを追ってきた警察とのカーチェイスを無邪気に楽しんでいる。 その場に同席%%もしくは拉致%%されていた牧子さんは結構本気で陽子様と縁を切るべきか悩んでいた。 ***&bold(){◆弓削牧子} 主人公その2で個人主義者。浅黒い肌のボーイッシュな外見の少女。 非常識なくせに金と行動力は余り余っている変態に目をつけられたかわいそうな人。 彼女が陽子様に誕生日回に誘われたことが物語の始まりとなった。 &bold(){個人主義者というだけあり芯の通った性格}。 口数は少ないものの周囲の意見に流されることなく行動できる強さを持つ。 クラスの中では派閥が分かれていることもあり僅かにギスギスした雰囲気がある。しかし彼女だけは誰とでも分け隔てなく接している(だが無口なので用がない限り自分からは話さない)。 クラスメイト達からは畏れられており畏敬の念を込めて「弓削さん」と呼ばれる。 誰とは言わないものの「牧子さん」と親しげに呼ぶ奴もいるが。 &bold(){家族関係は冷え切っている}。父、母、弟の亙の4人暮らし。 父である弓削博士は大学教授。分かりやすく出世欲が強く横暴な性格であり男尊女卑の考えからいつも牧子さんに冷たい。 そもそも彼女が陽子様の誕生会に出席することになったのは、父に相庭家とのコネクションを作るよう命じられたからである。 母の喜久子夫人は常に牧子さんの味方……ではあるものの、病気がちなうえに時代性もあって夫に強く出られていないことが多い。 弟の亙との仲は良好。ただ父が亙を長男として厳しく育てようとしており、牧子さんはそれに思うところはあるものの口を出せていない。 このように大体父のせいで家族関係が冷え切っている。 &bold(){陽子様には恐れながらも惹かれている}。 ぶっちゃけ&bold(){彼女が最も陽子様の妖しい魅力におぼれている人}。そのため彼女に命令されると逆らえなくなってしまう。 自分を個人主義者で芯の強い性格だと思っていただけに陽子様に従ってしまうことに困惑している。 陽子様に本能的に心酔している反面、彼女と出会ってから自分が自分らしくいられなくなることをひどく怖がっている。 ただ振り回されながらもなんだかんだで「この子といると明るくなれるなぁ……」とは考えているらしい。%%ただしそのことに言及した回のサブタイトルが「麻薬」と「禁断の木実」である。%% 家族のことを忘れていなければ、牧子さんは陽子様に完全に征服されていた可能性が高い。 ***&bold(){◆佐伯一枝} 主人公その3。「ロボット」とあだ名される硬派の大将。 陽子様と牧子さんのいざこざに巻き込まれてしまったこれまたかわいそうな人。 &bold(){人間離れしていると思うほどに冷静沈着な少女}。 滅多に感情を表に出すことなくいつでも教師の言うことを聞いて淡々と勉強している。 まるで機械か何かのように寸分狂わぬ正確な動きをしている。そのことから暖かい血が通っていないのではないかと噂されているらしい。 だが実は感情を表に出すのが苦手なだけで、根は生真面目で心優しい子。 &bold(){こんな性格になったのは家庭が原因}。母と弟、妹の3人暮らし。 父は歩兵大尉であったが満州守備の際に病気を患い亡くなってしまった。 一枝さんは長女であり、また父からの遺言状で家族を守ってほしいと頼まれたことで、自分を律するようになっていった。 父に先立たれたため佐伯家はあまり裕福ではなく彼女は家族を支えるため奔走している。 家族間での結束は固く、弓削家とは対照的に家族仲は非常に良好。 そんなこともあり家での一枝さんは学校とは違い優しいお姉ちゃんである。 &bold(){作中ではあまり出番が多くない}。まあ美味しいところは持って行ったが。 序盤ではそれなりに活躍がある。牧子さんからノートのお礼として何故か高価なキャンディー入れを貰ってしまい、&bold(){「&color(green){あの人は私のことが好きなのでは}」}と生真面目ゆえの勘違いをしていた。 ちなみにその後は牧子さんに会釈されると勘違いして顔を真っ赤にして逃げるようになったらしい。かわいい。 ただ中盤でいったんフェードアウト。臨海合宿編では家が貧乏で参加できないという理由で登場しなかった。ついでにその間に牧子さんと陽子様の話がややこしくなっていった。 そして夏休みの終わった終盤で再登場し意外な活躍をすることになる。 **◇弓削家 &bold(){◆弓削博士} 牧子さんの父。大学教授を務めている。 性格は傲慢で出世欲が強い。大学教授という地位では飽き足らず更なる栄華を求めている。 そのため弓削家はいつも父に振り回されどこか暗い影を落としている。 自身の跡取り候補である亙には優しいものの、牧子さんにはあまり興味がない。牧子さんにも嫌われている。 &bold(){◆喜久子夫人} 牧子さんの母。病気がちの身。 いつも優しく子供たちの味方であるものの父に対してはあまり強く出られていない。 肺病を患っておりひと月の大半を寝たきりで過ごしている。 そうして終盤では病が悪化し亡くなってしまい……。 &bold(){◆弓削亙(わたる)} 牧子さんの弟。まだ幼い小学生。 甘えん坊で姉のことが大好き。しかし牧子さんを疎む父のせいであまり一緒に居られず不満に思っている。 オルガンが大好きでその腕はかなり優秀。跡取りになってほしいためオルガンを禁じようとしている父とは対立気味。 &bold(){◆小川さん} 弓削博士の助手。 基本的に博士のヨイショ持ちであるため牧子さんはあまりよく思っていない。 **◇佐伯家 &bold(){◆一枝の父} 故人。歩兵大尉だったが満州守備の際に病にかかり亡くなってしまった。 残された家族に遺言状を残しており、佐伯家では命日の度にこれを読んでいる。 &bold(){◆一枝の母} 未亡人でありながら子供たちになるべく楽をさせようと尽力している。 夫の遺言状に「息子に跡を継いで軍人になってほしい」と書かれていたため、娘たちより息子を優先してしまっている。 &bold(){◆佐伯光夫} 一枝さんの弟である尋常小学校5年生。 わんぱく気質の少年だが家族仲は良好。 &bold(){◆佐伯雪江} 一枝さんの妹である尋常小学校2年生。 まだ幼く甘えたい盛りだが母が兄を優先するため少し不満気味。 **◇その他 &bold(){◆先生} 臨海合宿編にて「あの旗より遠くは波が強いから行かないこと」と注意していた。 「生徒が波にさらわれたら助けたくないが助けるしかない。それで自分が亡くなったら残された妻子がかわいそうだ」と痛切に語りかけていた。 だが陽子さんは「波に身体を打たれないなら風呂に入った方がマシ」と考え秒で破った。 牧子さんも一緒に連れていかれ、仲良く2人で罰を受けることとなった。 &bold(){◆マダム・ブルュンヌ} 終盤で牧子さんが陽子様に連れられた洋服屋の店主。 陽子様のお得意先であり彼女と仲がいい。 *【エピローグ】 物語が大きく動き出すのは牧子さんの両親が亡くなってから。 陽子に惑わされるようになった牧子は家族を後回しにし亙に冷たく接する。 そんな時亙は大好きだったピアノを父に取り上げられてしまう。 &bold(){家族に絶望した亙は家出をし姿を消してしまった}。 夜になっても帰らない亙の姿にようやく牧子と父は自分の行いを反省する。 特に父は強く反省し、息子に自由に生きてほしいと考えるようになるのだった。 家出をし迷子になった亙を連れて帰ったのは一枝たちだった。 牧子は自分とは対照的に良い姉で居続ける一枝の姿に感銘を受けるのであった。 牧子は家族を守るためにも自分らしくいなければならないと考え、&color(#F54738){陽子との決別}を決意する。 翌日絶交の意を記した手紙を陽子に送る。陽子は手紙を破り捨てたがそれ以上は何も言わなかった。 &bold(){&color(#F54738){こうして2人の交流は終わったのだった}}。 そうして少し経ち&bold(){陽子は重い気管支炎を患い療養のためクラスから姿を消す}。 陽子のことが忘れられかけたころ、一枝のもとに陽子から手紙が届く。 それは今までの行いに対する懺悔を記したものであった。&bold(){病が陽子を改心させたのだった}。 それから少しして、牧子は冬の海辺へ陽子を訪ねる。 牧子は今度こそ、3人の友情を築ける気配を感じるのであった。 めでたしめでたし。 *【解説】 **◆吉屋信子について &bold(){吉屋信子は大正から昭和にかけて活躍した少女小説家}。 エス文化や少女文化を文学の形で表現した第一人者とされる。 言ってしまえば現代の少女漫画や百合文化の原型はこの人にあると言ってもいい偉大なお方。 作風としては『わすれなぐさ』のように少女を主人公に少女心理を描いたものが多い。 同性愛者とも言われており実際、門馬千代という女性と50年以上にわたり生活を共にしている。 当時は同性愛のタブー視が強くかつ未婚の女性は白い目で見られがちだった。 そんな中吉屋信子の行動は注目を集めるものであった。 生まれは1896年の新潟。男兄弟であり男尊女卑の強い家風だったという。 小説に興味を持ったのは1908年栃木の女学校に入学してからのこと。 来校した新渡戸稲造の「良妻賢母になる前に一人の良い人間にならなければならない」という言葉に感動。 それを機に文学を親しみ作家を夢見て少女小説雑誌への投稿を行うように。 そうして小説家として活動していた吉屋信子。1916年に&bold(){『少女画報』}に投稿した短編集&bold(){『花物語』}の一遍が採用されることに。 『花物語』は当時の女学生の間で大ブレイクしそれを機に人気作家となっていった。この作品は吉屋信子の最も有名なあ作品とされる。 これを契機として大衆小説や少女小説を多く執筆するようになった。 生涯現役みたいな作家であり晩年まで小説執筆をつづけた。 **◆女学校について よく言われる昭和の女学校とは正式には&bold(){「高等女学校」}のことである。 前提として&bold(){当時の学校制度は現在と大きく違った}。 まず義務教育は6年間のみ。尋常小学校と言われる施設に7歳から12歳まで6年通うだけだった。 その後、成績優秀な男児は中学校に通うことになる。 中学校と言っても現在のものと違い、飽くまで将来のエリート候補だけが通える学校である。 それ以外の道としては実用的なことを学ぶ実業学校や学費の安い高等小学校などがあった。 &color(#F54738){ここからは女学校の話}。当時の女児は中学校に通うことが出来ず、通えるのは女学校だけであった。 女学校は家庭科など実用的なことを学ぶ実科高等女学校と教養的なことを学ぶ高等女学校に分かれる。 創作によく出てくるのは高等女学校の方である。なのでここからはそちらを中心に紹介。 高等女学校は1899年の&bold(){「高等女学校令」}により中学校と対になる形で設立された女児向けの学校制度である。 それまで尋常小学校後に女児が通えるのは私立の女学校だけであったがこの制度により国の学校に通えることとなる。 良妻賢母教育のための一般教養を掲げており、教科は国語・数学・理科など。 年限は四年制または五年制であった。最初は四年制だけだったが1920年に五年制が認められたことで2種類の学校が混在することになったのである。 高等女学校というのは&bold(){ブルジョワ向け学校}という扱いであった。通うのが相当困難だったのである。 当時は月謝の高さや男尊女卑などがあり女児が学校に通うことに懐疑的な考えが多かった。 身もふたもないことを言うと「卒業したら家事中心の妻になるのに教養学んでどうするの?」と言われていたとか。 データで見ると、制度が出来てすぐの1905年が進学率5%未満、『わすれなぐさ』執筆当時の1930年代が15%前後となっている。 なので&bold(){女学校に進学できるのは家庭が裕福でかつ親が女性の勉学に理解がある}という条件だったことになる。 余談だが女学生向け雑誌『女学生の友』では読者紹介グラビアが頻繁に行われていた。 やはり女学生はお嬢様が多いのかそのプロフィールには「○○男爵の娘」や「○○博士の娘」などと当然のように書かれている。 そんな女学校の生徒たちの特徴としては、&bold(){とにかく毎日を楽しんでいる}というものがある。 時代柄、卒業すればすぐに結婚し自由がなくなってしまう身である。 そのため最後の青春として一日も無駄にせず楽しもうという女学生が多かった((正確には高等女学校卒業後の進路として女子高等師範学校があった。しかし進学率は1%と極めて低かった))。 勉強に読書、スポーツに芸術に習い事と様々な領域の分野を楽しんでいたようである。 その中でも特に読書人気が高く女学生には文学少女が多かった。 このことは当時の人気科目首位が国語だったことや女学生向け小説雑誌がいくつも刊行されたことからも言える。 ……ちなみに当時最も不人気だった科目が、卒業後最も使うものであった裁縫という微妙に笑えない話がある。 話をまとめると、&bold(){陽子様はあのキャラで15歳}ということである。 **◆エス文化 &bold(){エス文化とは女学生文化の一つ}。平たく言えば女学生版の百合のこと。 上級生と下級生が一対一の姉妹のような親密な関係を築くことが特徴。「お姉さま」というヤツである。 手紙を交換したり同じ髪型にしたりと&color(#F54738){ふたりだけの世界}を楽しむことが多かった。 名前の由来は「sister」の頭文字である「S」。 なお今でこそ「エス」と言われているが当時は学校ごとの名前がついていた。 ・おめ ・オカチン ・バウ ・ハンドイン ・シス ・ご親友 ・おハイカラ ・オネツ などなど。名称が「エス」に統一されたのは少女雑誌の影響とされる。 エスは手紙から始まる。上級生が下級生に向けて手紙を書き、相手がそれに了承すれば関係が始まる。 一般的にエスの関係で大切なのは清らかさや美意識であった。えっちなことは以ての外。 上述の通り当時の女学生は卒業すれば結婚する者が大半。故に自由がなくなる結婚に忌避感を持つものも多かった。 そのため&bold(){「&color(pink){婚姻や肉体関係などの形がなくとも強い想いだけで成り立つ清らかな関係}」}という考えがエスを形作ったらしい。 エス文化は女学生文化として代表的なものであるが、一時期社会問題になった文化でもあった。 批判の発端となったのは1911年の心中事件。&color(#F54738){新潟の女学生2名が心中してしまった}のである。 この事件は注目を集め当時新聞やニュースでいくつも報道されたという。 最悪の場合尊い命が失われるということもあり、エス文化についての議論は白熱した。 一時期は異常な文化とされることもあった。そのため上級生と下級生の交流を制限する学校もあったようである。 &bold(){ただ時間が経つにつれて危険視する風潮はなくなっていく}。 正確な年代は不明だが、小梅さんたちが野球を始めるころには収まっていたらしい。 良くも悪くも「少女しかいない特殊な環境で起きる思春期病」「卒業すれば色あせる」と考えられたのである。 それらのことがあってか「肉体関係がなければ大目に見る」という暗黙の了解が生まれる。 当時の日本は良妻賢母の風潮、もっと言うと嫁入り前の娘の清らかな肉体への意識がかなり強かった。 そのため「肉体関係にない=清純=セーフ」という考えが成り立つのである。 実際『少女の友』などで掲載されるエス小説でも一線を越えないことが重視された。 まあ、裏を返せば肉体関係が一切なければ陽子様みたいなキャラがセーフということになるが。 そんなこともあってかエスは女学生文化の代表となり、女学生雑誌ではエスがよく特集として組まれた。 **◆少女の友 &bold(){当時の女学生にとって一番の娯楽は少女雑誌であった}。 テレビやインターネットがない当時の学生にとっては生活に欠かせないものになっていたのである。 『わすれなぐさ』が連載された&bold(){『少女の友』}は少女雑誌の中でも特に人気が高かった。 1908年に実業之日本社から刊行され1955年に休刊となるまで48年間現役であり続けた。 この年数は日本の少女雑誌トップとなっている。雑誌の構成としてはグラビア、小説、読者文通など。 余談だが『赤毛のアン』で有名な村岡花子も書評を連載していた(「少女ブック・レヴュー」)。 『少女の友』最大の特徴は読者間の交流を重視したこと。なお雑誌において読者は雑誌名からとって「友ちゃん」と呼ばれていた。 写真グラビアで読者の生活が紹介され、文通欄で全国の読者が交流した。さらに大規模なオフ会こと「友ちゃんの回」も開かれたとか。 投書欄では読者から人気の高いスター投書学生が現れるなど、読者間交流では少女雑誌屈指の盛り上がりを見せた。 %%ただし盛り上がりすぎて、「他の雑誌への投書は裏切り」という考えもあったらしい。%% もうひとつ雑誌で人気が高かったのは連載小説。当時の少女雑誌の紙面の大半は少女小説であった。 代表的な作家としては『わすれなぐさ』の吉屋信子、『乙女の港』の川端康成など。 連載小説の作風は幅広く、エス小説に活劇ものに海外文学の翻訳などさまざまであった。 小説家としては人気が高いのはやはり吉屋信子。 そのため友ちゃんたちが吉屋信子宅に訪れインタビューをするという特集もあった。 当時吉屋信子は大衆向け小説を書いていたが、出版社からの強い要請で少女小説を執筆することもあった。 『少女の友』では『紅雀』『桜貝』に続く3作目としての連載が『わすれなぐさ』である。 そうして人気を博し明治・大正・昭和の時代を渡り歩いたのだった。 *【書誌】 吉屋信子の代表作だけあってか、何度もバージョン違いが発売されている。 &bold(){◆少女の友版} 1932年4月号から12月号まで連載。すべてはここから始まった。 独特の色気を持つ少女に定評がある高畠華宵がイラストを担当した。 妙に悪役っぽい陽子様、男装がやたら似合う牧子さん、ロングヘアの一枝さんなどがイラストの特徴。 &bold(){◆麗日社版} 1935年1月に出版された初の単行本。何故かタイトルが&bold(){『勿忘草』}と漢字表記である。 本編開始前に一枚だけイラストがあるのだが、陽子様でも牧子さんでもなく一枝さんになっている(ショートヘア)。 イラストレーターは中原淳一(吉屋信子の代表作『花物語』のイラストを担当した人)。 &bold(){◆実業之日本社版} 1940年に発売されたらしい。資料がないので持っている人は追記・修正をお願いします。 &bold(){◆東和社版} 1948年1月に発売された吉屋信子少女小説選集のひとつ。イラストは原典通り高畠華宵。 &bold(){◆ポプラ社版} 1960年1月に少年少女名作全集4として発売された。イラストは花房英樹。 児童文学ということが強調されているバージョン。忘れそうになるが本作は十代前半の女児がターゲットである。 そんなこともあってかキャラデザは全体的に頬のふっくらとした子供っぽいものになっている。 そのためか陽子様がそこまで性格悪そうに見えない。 &bold(){◆ポプラ社文庫版} 1977年4月に発売された。イラストは増村達昭。 表紙はラストシーンを再現したのか海辺が背景になっている。 挿絵では牧子さんがまさかの三つ編みに。それ以外は陽子様が金髪で一枝さんがおかっぱ頭。 解説は当時『少女の友』で主筆(編集長のこと)を務めた内山基が執筆している。 「40年以上前とはいえ読み返しても全く記憶にない」と記していた。 あと陽子様のような女学生は当時いなかったともコメントしている。&bold(){いてたまるか}。 &bold(){◆国書刊行会版} 2003年2月に吉屋信子乙女小説コレクションのひとつとして発売された。イラストは中原純一。 1940年の実業之日本社版を底本にしている。解説は岳本野ばら。 &bold(){◆河出文庫版} 2010年3月に発売された。イラストはさやか。他の河出文庫の吉屋信子作品も手掛けている。解説は内田静枝。 2023年8月に新装版が発売。こちらのイラストは朝際イコ。陽子様がものすごく妖しい魅力を放っている。 *【余談】 戦後の現代少女小説の祖こと&bold(){氷室冴子}は吉屋信子ファンだが、影響を受けた作品として『わすれなぐさ』を挙げている。 小学生時代に偶然読んで内容にインパクトを受けたらしい。 デビュー作の『白い少女たち』がタイプの違う少女3人の群像劇であることからも伺える。 その後氷室冴子は女子中学生のウンコから始まる少女小説こと『クララ白書』を執筆。 それよにり「こんな少女小説があっていいんだ」という風潮が広まり、少女小説は多様化していった。 それが巡り巡って現代の百合の火付け役である『マリア様がみてる』につながったことを考えると、やはり吉屋信子は偉大である。 追記・修正をお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,8) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - こんな作品がこの時代にあったとは。今と違って風当たりも強かっただろうにすごいな -- 名無しさん (2025-06-12 16:25:39) - 今の時代は逆に百合厨が市民権を得てNL好きや腐女子相手にブイブイ言わせてるからな -- 名無しさん (2025-06-12 18:39:48) - 1932年時点であだ名が「ロボット」というのも凄い。チャペックの「R.U.R」発表から12年しか経っていないのにね。 -- 名無しさん (2025-06-13 11:54:19) - 作者は好角家でもあったらしくエッセイに付き合いのあった力士について書かれたエピソードを読んだことあるけど取り上げられているのが双葉山に玉錦なんでびっくりした。相当前の時代の人なんだな。 -- 名無しさん (2025-06-13 21:43:50) #comment() #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2025/06/11 Wed 23:28:34 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 20分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){ &bold(){&color(purple){&ruby(まきこ){牧子}さん、&ruby(わたしひと){私人}にものを&ruby(いただ){戴}くのに、こんな&ruby(お){押}しつけがましい&ruby(しつれい){失禧}なことを&ruby(もう){申}し&ruby(あ){上}げて&ruby(れいぎ){禧儀}を&ruby(し){知}らないとお&ruby(おも){思}ひになるでせう。}} &bold(){&color(purple){でも、いつでも&ruby(わたしあなた){私貴女}に&ruby(むか){向}ふとこんな&ruby(ひじょうしき){非常識}になつてしまうのよ。でもそれがどうしてだかおわかりになる?}} &bold(){&ruby(わたし){私}わかりません。} &bold(){&color(purple){それはね、たゞ&ruby(あなた){貴女}が&ruby(だいす){大好}きだからなのよ、&ruby(わたしす){私好}きな&ruby(かた){方}には&ruby(ひじょうしき){非常識}に&ruby(ふるま){振舞}うことにきめたんですもの。}} } &sizex(6){&bold(){新作長篇少女小説}} &sizex(7){&bold(){わすれなぐさ}} &sizex(6){&bold(){𠮷屋信子作}} &sizex(6){&bold(){高畠蕐宵画}} &bold(){『わすれなぐさ』}は1932年に雑誌『少女の友』で連載された少女小説。 作者は&bold(){吉屋信子}。イラストは高畠華宵。 吉屋信子は日本の百合の原点とされる「エス」の第一人者と言われる人。 おねロリに心中未遂まで様々な形で女性同士の関係性を描いた小説家として知られる。 『わすれなぐさ』は吉屋信子作品の中でもコメディチックな小説。 物語は女学校の少女3人による三角関係モノ。 お嬢さまの陽子、人とは群れない牧子、勉強第一の一枝の奇妙な関係が描かれる。 百合かはぼやかされているが、陽子様が牧子さんに対しおそろしく巨大な矢印を向けている。 主人公は&bold(){天上天下唯我独尊に定評のあるお嬢さまこと相庭陽子様}。 物語は陽子様がクラスメイトの牧子さんを好きになってしまったことから始まる。 陽子様は彼女を自分のものにするべくあの手この手を使うが強引すぎるためうまく行かない。 そんな中偶然が重なり2人の関係に一枝さんも巻き込まれてしまう。 本作の魅力は、&bold(){牧子さんを手にれるためなら本人にいくらドン引きされようとめげずくじけず強靭な精神力で立ち向かう陽子様}と言っても過言ではない。 *【あらすじ】 舞台は昭和初期の女学校。この学校では生徒が3つの派閥に分かれていた。 勉強よりも遊ぶことを好む&bold(){『軟派』}。 ひたすら勉強にだけ取り組む&bold(){『硬派』}。 場合によって主義を変える&bold(){『中立派}』。 派閥ではないがほんの少数どこにも属さない&bold(){『個人主義者』}が存在していた。 とある3年A組では、3名の生徒が話題になっていた。 父が実業家でありその美しさから「クレオの君」と称えられる軟派の女王&color(purple){&bold(){相庭陽子}}。 学校一の模範生であり無感情さから「ロボット」と揶揄される硬派の大将&bold(){&color(green){佐伯一枝}}。 そして個人主義者である少年のような出で立ちの&bold(){弓削牧子}。 物語は陽子が愛する牧子を完全に征服するため、彼女を自分の誕生会に誘ったことから始まる。 最初は出席する気はなかったが父の命令で牧子はしぶしぶ参加することになる。 誕生会では陽子は取り巻きを無視し牧子だけに異様な執着を見せていた。 そんな陽子の妖しい魅力に怖れながらも惹かれてしまい、牧子は最後は逃げるように帰宅するのだった。 だが誕生会に誘われたのにプレゼントひとつ買わなかったことは流石に恥じた牧子。 後日、プレゼントとして高価なキャンディー入れを購入する。 また数日前にノートを貸してくれた一枝へのお礼として実用的なインクスタンドも併せて買うのだった。 そうしてプレゼントを渡すが、思ったものと違う品に不機嫌になった陽子はインクスタンドを取り上げてしまう。 牧子は仕方がなく一枝にキャンディー入れを贈ることに。 ノート一冊のために高価なキャンディー入れを買ってきた牧子に対し一枝は当然困惑。 人づきあいが得意ではなく初心な性格から&bold(){「&color(green){もしかして牧子さんは私のことが好きなのでは?}」}という素っ頓狂な勘違いをしてしまう。 また、「牧子さんが贈り物をするほどの相手」として、陽子は一枝に目をつけていた。 こうして3人は知らず知らずのうちに奇妙な三角関係を築いていたのであった。 *【登場人物】 **◇メインキャラクター ***&bold(){◆相庭陽子} 本作の主人公である軟派の女王。 「ですわ」口調に反してやることなすこと一々過激なギャング系お嬢様。 &bold(){財界の大立物である実業家の娘}。 そんな立場なので性格はだいぶ傲慢で自分勝手。軟派の女王というだけありオシャレも遊びもお金を使い豪華に楽しむことを好む。 その性格からいつも軟派の女子生徒たちに囲まれている。一種のカリスマのような妖しい魅力を抱いておりそんな彼女に惹かれる者も多い。 勿忘草の香水が好きであり作中でもよく使っている。 その本性は&bold(){牧子さんが好きすぎる人}。なお惚れた理由は不明。気が付いたら好きになっていあた。 牧子さんのためなら法律も倫理観も度外視。いくらでも体を張るゴーイングマイウェイっぷりを見せつけている。 彼女の本質は、序盤で牧子さんに語った「好きな人の前では非常識に振る舞うと決めている」がよく表している。 このシーンでは乙女のように頬を赤らめる陽子様とは対照的に牧子さんは&bold(){「いい迷惑だ……」}みたいな顔になっていた。 ~以下、陽子様の非常識な行動~ ・日記に&bold(){「&color(purple){あの人を完全に征服してしまうのが、今の私の生活の一番楽しい大きな興味だ}」}と書き込む ・誕生会で「似合いそうだから」と牧子さんを宝塚風の男装させる(無理やり衣服を脱がせた) ・誕生会で牧子さんに何が欲しいかといわれ&bold(){「&color(purple){貴女が身に着けていたものならなんでもいいですわ}」}と言い出す ・後日キャンディー入れという常識的なプレゼントを持ってきた牧子さんを見て露骨に不機嫌になる ・「せめて机におけるインクスタンドの方が常に貴女のことを思い出せる」とか言って牧子さんが一枝さんのために買っていたインクスタンドを強奪(そのせいで牧子さんは一枝さんにキャンディー入れを渡すことになりそれがまた事件に発展する) ・夏休みに愛しの牧子さんを軽井沢の別荘に誘うも「臨海合宿に行くから」と避けられたので陽子様もそちらに向かう(陽子様が臨海合宿に行くのは初であり取り巻きを驚かせた) ・牧子さんが急用で合宿途中で帰ることになったので&bold(){「&color(purple){牧子さんのいない場所にいる価値がない」}}と一緒に帰ろうとする ・牧子さんが母の葬式から初の登校後、&bold(){「&color(purple){もうお乳が必要な歳でもないし母が亡くなっても問題ない」}}と力説(※本人は慰めているつもりです) ・一枝さんが牧子さんの母を弔うために買ってきた花束を&color(#F54738){六郷の川に投げ捨てる} などなど、非常識な行動はいくらでもある人。 「&color(purple){貴女が好きすぎて非常識になっちゃうんですわ♡}」などとほざいているがその実&bold(){牧子さん関係なく非常識}。 自己中心的なお嬢様気質、それを実現できてしまう金とバイタリティ、心臓に毛が生えたようなメンタルから突拍子もない行動が多い。 実際タクシーで帰宅中警察が検問をやっているのを見かけたときには、帰りが遅くなると思い「金は積むからあの検問を振り切りなさい」と運転手に言いだした。 その後は自分たちを追ってきた警察とのカーチェイスを無邪気に楽しんでいる。 その場に同席%%もしくは拉致%%されていた牧子さんは結構本気で陽子様と縁を切るべきか悩んでいた。 ***&bold(){◆弓削牧子} 主人公その2で個人主義者。浅黒い肌のボーイッシュな外見の少女。 非常識なくせに金と行動力は余り余っている変態に目をつけられたかわいそうな人。 彼女が陽子様に誕生日回に誘われたことが物語の始まりとなった。 &bold(){個人主義者というだけあり芯の通った性格}。 口数は少ないものの周囲の意見に流されることなく行動できる強さを持つ。 クラスの中では派閥が分かれていることもあり僅かにギスギスした雰囲気がある。しかし彼女だけは誰とでも分け隔てなく接している(だが無口なので用がない限り自分からは話さない)。 クラスメイト達からは畏れられており畏敬の念を込めて「弓削さん」と呼ばれる。 誰とは言わないものの「牧子さん」と親しげに呼ぶ奴もいるが。 &bold(){家族関係は冷え切っている}。父、母、弟の亙の4人暮らし。 父である弓削博士は大学教授。分かりやすく出世欲が強く横暴な性格であり男尊女卑の考えからいつも牧子さんに冷たい。 そもそも彼女が陽子様の誕生会に出席することになったのは、父に相庭家とのコネクションを作るよう命じられたからである。 母の喜久子夫人は常に牧子さんの味方……ではあるものの、病気がちなうえに時代性もあって夫に強く出られていないことが多い。 弟の亙との仲は良好。ただ父が亙を長男として厳しく育てようとしており、牧子さんはそれに思うところはあるものの口を出せていない。 このように大体父のせいで家族関係が冷え切っている。 &bold(){陽子様には恐れながらも惹かれている}。 ぶっちゃけ&bold(){彼女が最も陽子様の妖しい魅力におぼれている人}。そのため彼女に命令されると逆らえなくなってしまう。 自分を個人主義者で芯の強い性格だと思っていただけに陽子様に従ってしまうことに困惑している。 陽子様に本能的に心酔している反面、彼女と出会ってから自分が自分らしくいられなくなることをひどく怖がっている。 ただ振り回されながらもなんだかんだで「この子といると明るくなれるなぁ……」とは考えているらしい。%%ただしそのことに言及した回のサブタイトルが「麻薬」と「禁断の木実」である。%% 家族のことを忘れていなければ、牧子さんは陽子様に完全に征服されていた可能性が高い。 ***&bold(){◆佐伯一枝} 主人公その3。「ロボット」とあだ名される硬派の大将。 陽子様と牧子さんのいざこざに巻き込まれてしまったこれまたかわいそうな人。 &bold(){人間離れしていると思うほどに冷静沈着な少女}。 滅多に感情を表に出すことなくいつでも教師の言うことを聞いて淡々と勉強している。 まるで機械か何かのように寸分狂わぬ正確な動きをしている。そのことから暖かい血が通っていないのではないかと噂されているらしい。 だが実は感情を表に出すのが苦手なだけで、根は生真面目で心優しい子。 &bold(){こんな性格になったのは家庭が原因}。母と弟、妹の3人暮らし。 父は歩兵大尉であったが満州守備の際に病気を患い亡くなってしまった。 一枝さんは長女であり、また父からの遺言状で家族を守ってほしいと頼まれたことで、自分を律するようになっていった。 父に先立たれたため佐伯家はあまり裕福ではなく彼女は家族を支えるため奔走している。 家族間での結束は固く、弓削家とは対照的に家族仲は非常に良好。 そんなこともあり家での一枝さんは学校とは違い優しいお姉ちゃんである。 &bold(){作中ではあまり出番が多くない}。まあ美味しいところは持って行ったが。 序盤ではそれなりに活躍がある。牧子さんからノートのお礼として何故か高価なキャンディー入れを貰ってしまい、&bold(){「&color(green){あの人は私のことが好きなのでは}」}と生真面目ゆえの勘違いをしていた。 ちなみにその後は牧子さんに会釈されると勘違いして顔を真っ赤にして逃げるようになったらしい。かわいい。 ただ中盤でいったんフェードアウト。臨海合宿編では家が貧乏で参加できないという理由で登場しなかった。ついでにその間に牧子さんと陽子様の話がややこしくなっていった。 そして夏休みの終わった終盤で再登場し意外な活躍をすることになる。 **◇弓削家 &bold(){◆弓削博士} 牧子さんの父。大学教授を務めている。 性格は傲慢で出世欲が強い。大学教授という地位では飽き足らず更なる栄華を求めている。 そのため弓削家はいつも父に振り回されどこか暗い影を落としている。 自身の跡取り候補である亙には優しいものの、牧子さんにはあまり興味がない。牧子さんにも嫌われている。 &bold(){◆喜久子夫人} 牧子さんの母。病気がちの身。 いつも優しく子供たちの味方であるものの父に対してはあまり強く出られていない。 肺病を患っておりひと月の大半を寝たきりで過ごしている。 そうして終盤では病が悪化し亡くなってしまい……。 &bold(){◆弓削亙(わたる)} 牧子さんの弟。まだ幼い小学生。 甘えん坊で姉のことが大好き。しかし牧子さんを疎む父のせいであまり一緒に居られず不満に思っている。 オルガンが大好きでその腕はかなり優秀。跡取りになってほしいためオルガンを禁じようとしている父とは対立気味。 &bold(){◆小川さん} 弓削博士の助手。 基本的に博士のヨイショ持ちであるため牧子さんはあまりよく思っていない。 **◇佐伯家 &bold(){◆一枝の父} 故人。歩兵大尉だったが満州守備の際に病にかかり亡くなってしまった。 残された家族に遺言状を残しており、佐伯家では命日の度にこれを読んでいる。 &bold(){◆一枝の母} 未亡人でありながら子供たちになるべく楽をさせようと尽力している。 夫の遺言状に「息子に跡を継いで軍人になってほしい」と書かれていたため、娘たちより息子を優先してしまっている。 &bold(){◆佐伯光夫} 一枝さんの弟である尋常小学校5年生。 わんぱく気質の少年だが家族仲は良好。 &bold(){◆佐伯雪江} 一枝さんの妹である尋常小学校2年生。 まだ幼く甘えたい盛りだが母が兄を優先するため少し不満気味。 **◇その他 &bold(){◆先生} 臨海合宿編にて「あの旗より遠くは波が強いから行かないこと」と注意していた。 「生徒が波にさらわれたら助けたくないが助けるしかない。それで自分が亡くなったら残された妻子がかわいそうだ」と痛切に語りかけていた。 だが陽子さんは「波に身体を打たれないなら風呂に入った方がマシ」と考え秒で破った。 牧子さんも一緒に連れていかれ、仲良く2人で罰を受けることとなった。 &bold(){◆マダム・ブルュンヌ} 終盤で牧子さんが陽子様に連れられた洋服屋の店主。 陽子様のお得意先であり彼女と仲がいい。 *【エピローグ】 物語が大きく動き出すのは牧子さんの両親が亡くなってから。 陽子に惑わされるようになった牧子は家族を後回しにし亙に冷たく接する。 そんな時亙は大好きだったピアノを父に取り上げられてしまう。 &bold(){家族に絶望した亙は家出をし姿を消してしまった}。 夜になっても帰らない亙の姿にようやく牧子と父は自分の行いを反省する。 特に父は強く反省し、息子に自由に生きてほしいと考えるようになるのだった。 家出をし迷子になった亙を連れて帰ったのは一枝たちだった。 牧子は自分とは対照的に良い姉で居続ける一枝の姿に感銘を受けるのであった。 牧子は家族を守るためにも自分らしくいなければならないと考え、&color(#F54738){陽子との決別}を決意する。 翌日絶交の意を記した手紙を陽子に送る。陽子は手紙を破り捨てたがそれ以上は何も言わなかった。 &bold(){&color(#F54738){こうして2人の交流は終わったのだった}}。 そうして少し経ち&bold(){陽子は重い気管支炎を患い療養のためクラスから姿を消す}。 陽子のことが忘れられかけたころ、一枝のもとに陽子から手紙が届く。 それは今までの行いに対する懺悔を記したものであった。&bold(){病が陽子を改心させたのだった}。 それから少しして、牧子は冬の海辺へ陽子を訪ねる。 牧子は今度こそ、3人の友情を築ける気配を感じるのであった。 めでたしめでたし。 *【解説】 **◆吉屋信子について &bold(){吉屋信子は大正から昭和にかけて活躍した少女小説家}。 エス文化や少女文化を文学の形で表現した第一人者とされる。 言ってしまえば現代の少女漫画や百合文化の原型はこの人にあると言ってもいい偉大なお方。 作風としては『わすれなぐさ』のように少女を主人公に少女心理を描いたものが多い。 同性愛者とも言われており実際、門馬千代という女性と50年以上にわたり生活を共にしている。 当時は同性愛のタブー視が強くかつ未婚の女性は白い目で見られがちだった。 そんな中吉屋信子の行動は注目を集めるものであった。 生まれは1896年の新潟。男兄弟であり男尊女卑の強い家風だったという。 小説に興味を持ったのは1908年栃木の女学校に入学してからのこと。 来校した新渡戸稲造の「良妻賢母になる前に一人の良い人間にならなければならない」という言葉に感動。 それを機に文学を親しみ作家を夢見て少女小説雑誌への投稿を行うように。 そうして小説家として活動していた吉屋信子。1916年に&bold(){『少女画報』}に投稿した短編集&bold(){『花物語』}の一遍が採用されることに。 『花物語』は当時の女学生の間で大ブレイクしそれを機に人気作家となっていった。この作品は吉屋信子の最も有名なあ作品とされる。 これを契機として大衆小説や少女小説を多く執筆するようになった。 生涯現役みたいな作家であり晩年まで小説執筆をつづけた。 **◆女学校について よく言われる昭和の女学校とは正式には&bold(){「高等女学校」}のことである。 前提として&bold(){当時の学校制度は現在と大きく違った}。 まず義務教育は6年間のみ。尋常小学校と言われる施設に7歳から12歳まで6年通うだけだった。 その後、成績優秀な男児は中学校に通うことになる。 中学校と言っても現在のものと違い、飽くまで将来のエリート候補だけが通える学校である。 それ以外の道としては実用的なことを学ぶ実業学校や学費の安い高等小学校などがあった。 &color(#F54738){ここからは女学校の話}。当時の女児は中学校に通うことが出来ず、通えるのは女学校だけであった。 女学校は家庭科など実用的なことを学ぶ実科高等女学校と教養的なことを学ぶ高等女学校に分かれる。 創作によく出てくるのは高等女学校の方である。なのでここからはそちらを中心に紹介。 高等女学校は1899年の&bold(){「高等女学校令」}により中学校と対になる形で設立された女児向けの学校制度である。 それまで尋常小学校後に女児が通えるのは私立の女学校だけであったがこの制度により国の学校に通えることとなる。 良妻賢母教育のための一般教養を掲げており、教科は国語・数学・理科など。 年限は四年制または五年制であった。最初は四年制だけだったが1920年に五年制が認められたことで2種類の学校が混在することになったのである。 高等女学校というのは&bold(){ブルジョワ向け学校}という扱いであった。通うのが相当困難だったのである。 当時は月謝の高さや男尊女卑などがあり女児が学校に通うことに懐疑的な考えが多かった。 身もふたもないことを言うと「卒業したら家事中心の妻になるのに教養学んでどうするの?」と言われていたとか。 データで見ると、制度が出来てすぐの1905年が進学率5%未満、『わすれなぐさ』執筆当時の1930年代が15%前後となっている。 なので&bold(){女学校に進学できるのは家庭が裕福でかつ親が女性の勉学に理解がある}という条件だったことになる。 余談だが女学生向け雑誌『女学生の友』では読者紹介グラビアが頻繁に行われていた。 やはり女学生はお嬢様が多いのかそのプロフィールには「○○男爵の娘」や「○○博士の娘」などと当然のように書かれている。 そんな女学校の生徒たちの特徴としては、&bold(){とにかく毎日を楽しんでいる}というものがある。 時代柄、卒業すればすぐに結婚し自由がなくなってしまう身である。 そのため最後の青春として一日も無駄にせず楽しもうという女学生が多かった((正確には高等女学校卒業後の進路として女子高等師範学校があった。しかし進学率は1%と極めて低かった))。 勉強に読書、スポーツに芸術に習い事と様々な領域の分野を楽しんでいたようである。 その中でも特に読書人気が高く女学生には文学少女が多かった。 このことは当時の人気科目首位が国語だったことや女学生向け小説雑誌がいくつも刊行されたことからも言える。 ……ちなみに当時最も不人気だった科目が、卒業後最も使うものであった裁縫という微妙に笑えない話がある。 話をまとめると、&bold(){陽子様はあのキャラで15歳}ということである。 **◆エス文化 &bold(){エス文化とは女学生文化の一つ}。平たく言えば女学生版の百合のこと。 上級生と下級生が一対一の姉妹のような親密な関係を築くことが特徴。「お姉さま」というヤツである。 手紙を交換したり同じ髪型にしたりと&color(#F54738){ふたりだけの世界}を楽しむことが多かった。 名前の由来は「sister」の頭文字である「S」。 なお今でこそ「エス」と言われているが当時は学校ごとの名前がついていた。 ・おめ ・オカチン ・バウ ・ハンドイン ・シス ・ご親友 ・おハイカラ ・オネツ などなど。名称が「エス」に統一されたのは少女雑誌の影響とされる。 エスは手紙から始まる。上級生が下級生に向けて手紙を書き、相手がそれに了承すれば関係が始まる。 一般的にエスの関係で大切なのは清らかさや美意識であった。えっちなことは以ての外。 上述の通り当時の女学生は卒業すれば結婚する者が大半。故に自由がなくなる結婚に忌避感を持つものも多かった。 そのため&bold(){「&color(pink){婚姻や肉体関係などの形がなくとも強い想いだけで成り立つ清らかな関係}」}という考えがエスを形作ったらしい。 エス文化は女学生文化として代表的なものであるが、一時期社会問題になった文化でもあった。 批判の発端となったのは1911年の心中事件。&color(#F54738){新潟の女学生2名が心中してしまった}のである。 この事件は注目を集め当時新聞やニュースでいくつも報道されたという。 最悪の場合尊い命が失われるということもあり、エス文化についての議論は白熱した。 一時期は異常な文化とされることもあった。そのため上級生と下級生の交流を制限する学校もあったようである。 &bold(){ただ時間が経つにつれて危険視する風潮はなくなっていく}。 正確な年代は不明だが、小梅さんたちが野球を始めるころには収まっていたらしい。 良くも悪くも「少女しかいない特殊な環境で起きる思春期病」「卒業すれば色あせる」と考えられたのである。 それらのことがあってか「肉体関係がなければ大目に見る」という暗黙の了解が生まれる。 当時の日本は良妻賢母の風潮、もっと言うと嫁入り前の娘の清らかな肉体への意識がかなり強かった。 そのため「肉体関係にない=清純=セーフ」という考えが成り立つのである。 実際『少女の友』などで掲載されるエス小説でも一線を越えないことが重視された。 まあ、裏を返せば肉体関係が一切なければ陽子様みたいなキャラがセーフということになるが。 そんなこともあってかエスは女学生文化の代表となり、女学生雑誌ではエスがよく特集として組まれた。 **◆少女の友 &bold(){当時の女学生にとって一番の娯楽は少女雑誌であった}。 テレビやインターネットがない当時の学生にとっては生活に欠かせないものになっていたのである。 『わすれなぐさ』が連載された&bold(){『少女の友』}は少女雑誌の中でも特に人気が高かった。 1908年に実業之日本社から刊行され1955年に休刊となるまで48年間現役であり続けた。 この年数は日本の少女雑誌トップとなっている。雑誌の構成としてはグラビア、小説、読者文通など。 余談だが『赤毛のアン』で有名な村岡花子も書評を連載していた(「少女ブック・レヴュー」)。 『少女の友』最大の特徴は読者間の交流を重視したこと。なお雑誌において読者は雑誌名からとって「友ちゃん」と呼ばれていた。 写真グラビアで読者の生活が紹介され、文通欄で全国の読者が交流した。さらに大規模なオフ会こと「友ちゃんの回」も開かれたとか。 投書欄では読者から人気の高いスター投書学生が現れるなど、読者間交流では少女雑誌屈指の盛り上がりを見せた。 %%ただし盛り上がりすぎて、「他の雑誌への投書は裏切り」という考えもあったらしい。%% もうひとつ雑誌で人気が高かったのは連載小説。当時の少女雑誌の紙面の大半は少女小説であった。 代表的な作家としては『わすれなぐさ』の吉屋信子、『乙女の港』の川端康成など。 連載小説の作風は幅広く、エス小説に活劇ものに海外文学の翻訳などさまざまであった。 小説家としては人気が高いのはやはり吉屋信子。 そのため友ちゃんたちが吉屋信子宅に訪れインタビューをするという特集もあった。 当時吉屋信子は大衆向け小説を書いていたが、出版社からの強い要請で少女小説を執筆することもあった。 『少女の友』では『紅雀』『桜貝』に続く3作目としての連載が『わすれなぐさ』である。 そうして人気を博し明治・大正・昭和の時代を渡り歩いたのだった。 *【書誌】 吉屋信子の代表作だけあってか、何度もバージョン違いが発売されている。 &bold(){◆少女の友版} 1932年4月号から12月号まで連載。すべてはここから始まった。 独特の色気を持つ少女に定評がある高畠華宵がイラストを担当した。 妙に悪役っぽい陽子様、男装がやたら似合う牧子さん、ロングヘアの一枝さんなどがイラストの特徴。 &bold(){◆麗日社版} 1935年1月に出版された初の単行本。何故かタイトルが&bold(){『勿忘草』}と漢字表記である。 本編開始前に一枚だけイラストがあるのだが、陽子様でも牧子さんでもなく一枝さんになっている(ショートヘア)。 イラストレーターは中原淳一(吉屋信子の代表作『花物語』のイラストを担当した人)。 &bold(){◆実業之日本社版} 1940年に発売されたらしい。資料がないので持っている人は追記・修正をお願いします。 &bold(){◆東和社版} 1948年1月に発売された吉屋信子少女小説選集のひとつ。イラストは原典通り高畠華宵。 &bold(){◆ポプラ社版} 1960年1月に少年少女名作全集4として発売された。イラストは花房英樹。 児童文学ということが強調されているバージョン。忘れそうになるが本作は十代前半の女児がターゲットである。 そんなこともあってかキャラデザは全体的に頬のふっくらとした子供っぽいものになっている。 そのためか陽子様がそこまで性格悪そうに見えない。 &bold(){◆ポプラ社文庫版} 1977年4月に発売された。イラストは増村達昭。 表紙はラストシーンを再現したのか海辺が背景になっている。 挿絵では牧子さんがまさかの三つ編みに。それ以外は陽子様が金髪で一枝さんがおかっぱ頭。 解説は当時『少女の友』で主筆(編集長のこと)を務めた内山基が執筆している。 「40年以上前とはいえ読み返しても全く記憶にない」と記していた。 あと陽子様のような女学生は当時いなかったともコメントしている。&bold(){いてたまるか}。 &bold(){◆国書刊行会版} 2003年2月に吉屋信子乙女小説コレクションのひとつとして発売された。イラストは中原純一。 1940年の実業之日本社版を底本にしている。解説は岳本野ばら。 &bold(){◆河出文庫版} 2010年3月に発売された。イラストはさやか。他の河出文庫の吉屋信子作品も手掛けている。解説は内田静枝。 2023年8月に新装版が発売。こちらのイラストは朝際イコ。陽子様がものすごく妖しい魅力を放っている。 *【余談】 戦後の現代少女小説の祖こと&bold(){氷室冴子}は吉屋信子ファンだが、影響を受けた作品として『わすれなぐさ』を挙げている。 小学生時代に偶然読んで内容にインパクトを受けたらしい。 デビュー作の『白い少女たち』がタイプの違う少女3人の群像劇であることからも伺える。 その後氷室冴子は女子中学生のウンコから始まる少女小説こと『クララ白書』を執筆。 それよにり「こんな少女小説があっていいんだ」という風潮が広まり、少女小説は多様化していった。 それが巡り巡って現代の百合の火付け役である『マリア様がみてる』につながったことを考えると、やはり吉屋信子は偉大である。 追記・修正をお願いします。 #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,9) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - こんな作品がこの時代にあったとは。今と違って風当たりも強かっただろうにすごいな -- 名無しさん (2025-06-12 16:25:39) - 今の時代は逆に百合厨が市民権を得てNL好きや腐女子相手にブイブイ言わせてるからな -- 名無しさん (2025-06-12 18:39:48) - 1932年時点であだ名が「ロボット」というのも凄い。チャペックの「R.U.R」発表から12年しか経っていないのにね。 -- 名無しさん (2025-06-13 11:54:19) - 作者は好角家でもあったらしくエッセイに付き合いのあった力士について書かれたエピソードを読んだことあるけど取り上げられているのが双葉山に玉錦なんでびっくりした。相当前の時代の人なんだな。 -- 名無しさん (2025-06-13 21:43:50) #comment() #areaedit(end) }

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