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SCP-4040-JP

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&font(#6495ED){登録日}:2026/02/22 Sun 23:41:20 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 36 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){ &image(01_forest_cat.png, width=300) SCP-4040-JP内部。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-48-1trp, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() SCP-4040-JPとは、創作コミュニティサイト『[[SCP Foundation]]』に登場する[[オブジェクト>オブジェクト(SCP Foundation)]]の一つである。 項目名は「&bold(){木道の先}」。 [[オブジェクトクラス>オブジェクトクラス(SCP Foundation)]]は &bold(){Euclid}。 *概要 SCP-4040-JPは、財団の施設であるサイト-8120 B棟1階のエレベーターホールから侵入できた、規模不明の&bold(){余剰次元}である。 SCP-4040-JP内部には、森林と湿原が広がっているが、正確な地理は不明。また、現実世界とは時間の進み方も異なるようだ。 SCP-4040-JP内部では、複数の&bold(){認識災害・ミーム災害}が確認されている。これに曝露すると何が起きるかは不明である。 **発見経緯 まず、SCP-4040-JPが発見された経緯について述べる。 2024年10月16日の午後5時11分。サイト-8120はロックダウン状態へと移行し、外部との交信が絶たれた。 ロックダウンの6分前にはサイト管理官によって「緊急事態発生」のコードが発信。また、この前後にあった他の通信では。&bold(){非常に強いミーム災害}が検出されており、システムによって自動で遮断されていた。 ミーム災害の影響で、外部からの通信はできなかった。 このミーム災害だが、どうやら&bold(){処置253-"柳煤"}によって防御されていたようだ。"柳煤"は、[[SCP-040-JP]]、つまり「&bold(){ねこです}」のミーム災害への予防となるものである。なお、SCP-040-JPはこのサイト(サイト-8120)が収容を担当しているオブジェクトである。 解析の結果、以下のミームベクター(ミームを運ぶもの)が発見された。 >&bold(){最も暗闇に近いのは、柳を燻らせた煤である。} このミームにより、致命的ではないが軽度の被害が生じたという。 機動部隊らは、内部の調査のためにロックダウンされたサイト-8120に侵入を試みた。しかし、財団サイトの強固な隔壁や市街地内のため強引な手段がとれないことも相まって調査は難航。 財団は次の手としてロックダウン発生から31時間後に、ロボットによる侵入を決行。しかし、その1時間半後、&bold(){SCP-040-JP収容棟からの通信が確認された}。侵入作戦は一時中断され、データが解析された。 通信の発信元は。サイト-8120に所属している財団製人工知能・&bold(){Macy.aic}だった。その内容は、&bold(){ロックダウン前後から32時間後の通信に至るまでに行われた、SCP-4040-JP内の探索記録}だった。 Macy.aicの記録は、この人工知能がサポートしていた、エージェント・赤沼(Agt. 赤沼)の行動についてのものだった。Agt. 赤沼は「&bold(){奪感者}」である。 **奪感者とは? 「奪感者」とは、SCP-9001が初出である設定だ。 そもそも、[[ミーム>ミーム(SCP Foundation)]]とは、見たり聞いたりすることで影響を受けてしまうものである。逆に言えば、見たり聞いたりしなければミームの影響を受けないわけである。 「奪感者」は、全員何かしら&bold(){視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚を失っていることで}ミームに対抗できるエージェントなのである。 奪感者には、さまざまな測定器やマッピング装置(LiDAR)が内蔵されている特別な装備が与えられ、それを用いて感覚を補う。内蔵されている装備の中には財団製人工知能もあり、この人工知能が、触覚グローブを用いた指点字により状況を伝え、コミュニケーションもとる。 なお、指点字とは、左右の人差し指・中指・薬指の6本の指を叩くことで点字を再現する方法であり、現実世界では盲ろう者(視覚も聴覚も不自由な人)とのコミュニケーションで用いられている。 Agt. 赤沼は、機動部隊員としての収容活動中に事故に遭い、視覚と聴覚を完全に喪失した。その後、奪感者への転任を提案された赤沼は、復職を求めていたこともあってか、これを承諾した。 *Macy.aicの記録 いよいよ、Macy.aicの記録について記す。その前に、書き起こしを読むにあたって注意点がある。頭の片隅に入れておこう。 >-記録の文字起こしは基本的に、Macy.aicによって行われている。 >-Agt. 赤沼は発話機能を喪失しておらず、Macy.aicはスピーカーを通じて発話することができるため、場に第三者がいる際には、発話を用いたコミュニケーションが取られることがある。指点字会話と音声会話が混在している際には、明らかな場合を除いて、それを明記する。 >-指点字による会話は全て、&bold(){可読性のため一般的な日本語文章表現に変換されている}。言葉が補われている箇所もある。また、両者間で使われている独特の表現 (感情伝達のための符号など) は、&bold(){同等の日本語表現に置換されている}。 >-Macy.aicからAgt. 赤沼への指点字を用いない緊急信号は、《》で括って表記されている。 つまり、&bold(){文字として読みやすいように調整したうえで書き起こした}、といえるだろう。 **サイト-8120 B棟 訓練を終えたAgt. 赤沼はサイト-8120のB棟にある自身の私室に向かっている。 >&bold(){Macy.aic:} 大変お疲れ様でした。エレベーターまで? > >&bold(){Agt. 赤沼:} エレベーターまで。今日は疲れた。 > >&bold(){Macy.aic:} では、17 m先で右折すればエレベーターホールです。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それで、2機の間に呼びボタン。どちらのエレベーターもメインの操作パネルは入って左手側、下側に開閉ボタン、左下からNの字の順で数字、だろう。 > >&bold(){Macy.aic:} その通りです。サイト内の構造は、細かいところまで完璧ですね。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} もう流石に慣れたよ。 > >&bold(){Macy.aic:} 多くの人は、操作パネルが扉のどちら側にあるのが一般的なのかも、あまり意識したことがないでしょう。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 僕も半年前はそうだったけどな。 流石財団エージェント、奪感者としての生活に半年で順応しているようだ。会話にも大きな支障はなさそうである。 さて、赤沼はエレベーターホールに入った。 >&bold(){Macy.aic:} 男性が約3.8 m先でエレベーターを待っています。高山医師です、数ヶ月前のリハビリ時代に幾度か会話をしたことがあります。エレベーターの上向き呼びボタンはすでに押されています……高山医師に、軽い会釈をされました。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[近づいて会釈をする。発話して]}} どうも、お疲れ様です。 このようにして、日常的な動作も問題なく行えるようだ。高山医師の発言はMacy.aicによって指点字に同時通訳され、会話がなされる。 >&bold(){高山医師:} どうもお久しぶりです。その様子だと、もう全く支障はないようですね。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} ええ、問題なく。&font(i){&font(#777777){[指点字で]}} 今日の訓練内容の機密レベルは低かったね? > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} 概要について話す分には問題ありません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} 最近はもう、全く未知の空間を走り抜けられるようにまでなりました。障害物込みで、です。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} こんにちは。AICのMacyです。Agt. 赤沼は完全に回復していると言って良いでしょう。 > >&bold(){高山医師:} 素晴らしい。大変お疲れ様です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} Macyのおかげです。デバイスをオフにしてると面倒なことも多く。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} もっと褒めてもいいですよ。 > >&bold(){高山医師:} 日常生活から何から、100%頼りきりだと問題も発生しえますからね。装備を着たままシャワーを浴びる訳にもいかないでしょうし。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} もちろんです。それに、年がら年中一緒にいたら少しうるさい時も。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} ……。 財団製の人工知能にもいろいろあるが、このAIは人格があるタイプのようだ。 >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} 高山医師は、エレベーターの階数表示灯に目を向けています。右側のエレベーターがこの階に向かっています。 > >&bold(){高山医師:} そろそろ来ます。あぁ。こういったことは一々言わなくても大丈夫ですかね。AICが認識してくれるでしょうし。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} お気持ちはありがたいですよ。まぁ、僕としてはエレベーターがいつ到着して扉がいつ開くかくらいなら、振動だけでも十分に分かりますが。&font(i){&font(#777777){[指点字で]}} おっと、今のは当てつけじゃない。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} もちろん承知していますとも。 エレベーターが降りてくる >&bold(){高山医師:} なるほど。まぁ、なんにせよ……うん、あれ。どうしてこん── &font(i){&font(#777777){[沈黙]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} うん? > >&bold(){Macy.aic:《緊急事態》《目の前の人間を捕らえよ》《退避せよ》《退避せよ》} AIが緊急信号を発した。赤沼は目の前の人間、つまり高山医師を捕らえ、退避しようとするが、高山医師が抵抗している。 赤沼は高山医師を押さえ込むように倒れつつ、エレベーターホールと廊下の境目付近まで移動した。赤沼の呼びかけに医師は無反応、それどころか、拘束を振り払ってエレベーターに乗り込もうともがいている。 エレベーターの内部も完全な暗闇で、センサーによる空間認識も不能。医師は突如無表情になり、暗闇内部へと侵入しようとしている。 この状況は、本来、A棟4階(封鎖されている)でのみ影響を受ける、SCP-218-JPの異常性に類似している。SCP-218-JPとは周囲の人物をエレベーター内部へと誘い込む異常性を持ったエレベーターの扉。ちなみに、SCP-218-JPに入った者は行方不明となる。 ここで、サイトのスピーカーから緊急放送が流れる。「全職員はその場で待機、但しエレベーターホールから離れよ、訓練ではない。」という内容が放送された。どうやら、セキュリティ室は異常事態を把握しているようだ。 ここで、赤沼の元に、異常性を受けた職員が来る。 >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[足音を振動で感知し、発話して]}} おい! 来るな! > >&bold(){Macy.aic:} 影響を受けている可能性が大。押し留めてください。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 1対3はキツいぞ!&font(i){&font(#777777){[発話して]}} 止まれ! 今すぐ止まれ、離れろ! 緊急事態だ! だが、2名の職員はAgt. 赤沼の呼びかけに反応しない。 >&bold(){Macy.aic:} 2名とも視線が彷徨っていますが、真っ直ぐに向かってきます。 ここで赤沼は、高山医師の体を強引に持ち上げ、向かって左の職員に投げつける。職員は体勢を崩し、その場に倒れる。もう1名の職員をロータックルで倒すが、その間に他の2名が立ちあがろうとする。 ここで、エレベーターホールの隔壁が閉まった。影響を受けた職員は隔壁の外に投げ飛ばされたため、エレベーター内に侵入してしまうことはなくなった。だが、赤沼は、隔壁の内側に取り残されてしまった。 **エレベーターホール 隔壁内 赤沼は、基本装備、レーション2食だけ、水筒が1本だけという状態で閉じ込められた。先程格闘した研究員の白衣が隔壁に挟まっていたが、ポケットにあった腕時計くらいしか手に入らず、何か使えそうなものはない。 さて、閉じ込められるという状況がいつまで続くか。以前に発生した類似の事例は7時間で回復したが、今回はどうか分からない。加えて、SCP-218-JPが本来位置しているA棟4階は全体が封鎖されており、立ち入りは禁止されている。よって、この隔壁が封鎖されてもおかしくない。つまり、赤沼は永遠に閉じ込められるとも推測できる。 ここで、スピーカーから放送が流れる。「全職員はその場で待機」と発された後に、不明な音声が流れだした。セキュリティ室側も異常の影響を受けたか、スピーカーが壊れたか……いずれにせよ、ピンチな状況は変わらない。 さて、Macy.aicが、映像ログを解析したところ、不審な点を認めた。 まず、SCP-218-JPの被影響者は沈静化するが、先程の影響者らはそうではなかった。また、影響を受けた3人の位置関係と目線を解析したところ、視線が交わる点があった、つまり&bold(){同じ何かを見ていた}ことが示唆される。しかし、そこには何も確認できなかったという。 赤沼は、これをミーム的な何かだと推測した。Macy.aicによると、「ミーム的な何か」は、まず右側エレベーターの扉付近の下方に出現した。そこから高度20 cm付近を維持しつつ壁際を移動、赤沼の周囲を2周した後にエレベーター内の暗闇へと入ったという。 ここで、Macy.aicは、赤沼がエレベーター内に入ろうとしていることを察する。Macy.aicは「他サイトも確実に異常を検知している」「すぐに機動部隊が到着するはず」と述べるが、赤沼は「普通の機動部隊がこの状況で活動できない」と反論する。認識災害の影響を受けずに行動できるのは、「奪感者」のみである。 そもそも「奪感者」は、世界的にも運用が始まったばかりである。アメリカでも数人しかおらず、そして日本では&bold(){赤沼1人}のみだ。「助けが来るとしても数十時間はかかる」と推測する赤沼に、Macy.aicも同意を示す。 >&bold(){Agt. 赤沼:} その数十時間 &font(i){&font(#777777){[暗闇を示して]}} こいつの前で、謎の音声に晒されながらただただ待っているというのは、情けない話だ。 > >&bold(){Macy.aic:} しかし、状況からして仕方ないことでしょう。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} ああ。ただ、情けないと思われはしてしまう、という意味で……自分がそう思われることが嫌だ、という訳じゃない。そういった小さなプライドの話じゃない。もちろん。 > >&bold(){Macy.aic:} ええ、そのようなことを言っている訳ではないとは、もちろん承知していますとも。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 天職だと思っていた機動部隊には、事故で居られなくなった。転任を打診された時こそ、自らの気持ちだけで承諾したが。最近は赤沼聡としてだけでなく、奪感者としてどうであるか、を常に考えながら行動しないといけない。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。特に求められることだと思います。そしてそれは、とても疲れることだとも。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それが意外と、僕としては結構楽しいんだ。多くの人はあまり意識したことがないだろうが。とにかく。&bold(){奪感者は、こうした事態に於いてこそ、活躍する必要がある。} そして「&bold(){暗闇の空間に入った先で、仮に飲み込まれて消えてなくなるだけだとしてもいい。今までに記録した異常事態の情報をここに置いておけば、それで十分だ。}」とさえ述べた赤沼は、壁に記録をとり、解析情報をメモリに記録して置いておいた。 >&bold(){Agt. 赤沼:} それじゃあ、そろそろ行くか。世界に居る、もう数人の奪感者と彼らをサポートする者たちのために。あるいは凡ゆる点で、僕と近しい状況にある者たちのために。そして当然、すべての人たちのために。 赤沼は、エレベーターに侵入した。 **SCP-4040-JP内 森林地帯 #center(){ &image(04_boardwalk_cat.png, width=300) SCP-4040-JP、Agt. 赤沼が目覚めた場所付近。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-51-kgkt, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() 赤沼は一旦気絶した後、目覚めたようだ。Macy.aicによると、全ての観測機が一度ブラックアウトして強制的にシャットダウン・再起動したという。エラーログすらもなかったとのこと。そして目覚めたのは、森の中に敷かれている木道の上だった。 GPSは無効。昼の曇り空のようだが、時計の時間とは一致しない。どうやら赤沼たちは異空間に居るようだ。 SCP-4040-JP内には、ササや落葉樹が生い茂っている。音声の解析では、風の音と葉ずれの音ばかりが確認される。鳥や虫などは、視覚的にも聴覚的にも確認されない(元の記事には、ここで音声ファイルが添付されている)。 赤沼は、奪感者用の白杖を用いて、木道に沿って歩き出す。すると、Macy.aicが「赤く細い布」を発見する。 #center(){ &image(07_red_tape_cat.png, width=300) 確認された赤布。一般に、山林などにおける道標、目印として使われる。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-54-6ts3, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() このような目印は、人の手が入っていることを示唆する。赤沼たちは、この目印の方向へと進むことにした。 さて、約45分にわたって、Agt. 赤沼は木道を慎重に歩いた。移動中、景色はほとんど全く変化せず、木道は太さを変えつつ曲がりくねりながら続いている。時折、木の枝に赤布が結ばれていることがある。 >&bold(){Agt. 赤沼:} この道はどれくらい続くかな。 > >&bold(){Macy.aic:} 歩き始めてから46分が経過しています。水平距離で、1.7 km程度です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 時速2 kmぐらいか。そんなもんだな、未知の環境なら。 > >&bold(){Macy.aic:} この空間のマップも同時に作成しています。細かく曲がりくねってはいますが、全体としては北西方向に進んでいます。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 地磁気はひとまず一定か。方角は正しいとしよう。 > >&bold(){Macy.aic:} ええ、加速度計との整合性も取れています。ただ、曇り空越しに見える太陽の方向は移動していません。妙では──&bold(){《動くな》}クマがいます。 この状況下で、クマが出現した……! #center(){ &image(08_bear_cat.png, width=300) クマがいるとフラグ付けされた画像。画像中央部、奥の木の幹を登っていると認識された。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-53-zin5, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() ……木のコブだった。どうやら、「急激な環境の変化とシャットダウンの影響で、情報処理の系統に混乱が生じていた」とのこと。確かに、森という状況下でこれを見たら、クマに見えるかもしれない。Macy.aicは各種計器の優先度を調整し、全体の統合を最適化した。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 驚かせないでくれよ……いや、仕方ないか。教えてくれてありがとう。 > >&bold(){Macy.aic:} 失礼しました。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 別に大丈夫だ。何でもない。何度だって警告してくれ。 赤沼はコブに近づき、白杖でコブを叩く。 #center(){ &image(09_burl_new_cat.png, width=300) 近距離で撮影された木のこぶ。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-54-bkd3, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() さて、Macy.aicとコブについて情報交換していると、7時の方向で何かが揺れた……が、これは枝が落ちただけだった。クマの件で敏感になっていた赤沼に、Macy.aicは休憩を提案し、赤沼もそれに同意した。 **SCP-4040-JP内 森林地帯 倒木付近 赤沼は、木道の脇にあった倒木に腰掛けて休憩している。倒木は根から倒れており、強風によって倒れたことが推測される。 赤沼は、既に2km程度歩いている。ハイキングコースだとすれば長くはない距離だが、これは探索であるから、体力的にも不安が残る状況であろう。どれくらい飲食すべきか悩む赤沼に、Macy.aicは「消化は水分を多量に要する」、「食事は水の供給源が見つかったらか、あるいは空腹が本当に問題になってからにするべき」と忠告する。赤沼は同意する……が、ここでまた何かが揺れた。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 今のも、枝が落ちたのか? 風が強くなっているな。 > >&bold(){Macy.aic:} はい、落枝です。全体的にその傾向にありますね。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 枝が落ちた振動については何か別のシグナルを設けてほしい。単に枝が落ちただけだ、気にしなくていい、とすぐに伝えてくれ。 > >&bold(){Macy.aic:} 承知しました。空線触覚の2番に割り当てますね。今後は、右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリックを以て、枝の落下を伝えます。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} ありがとう。そうしたら、また出発するか。この倒木はランドマークとして記録しておこう。 「解剖学的嗅ぎタバコ入れ」とは、手の親指を広げたときに、腱によってできる窪みである。「右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリック」は「指点字の符牒」の一種であり、これにより速やかな情報伝達が可能となった。 さて、倒木の周囲に、朽ちた看板が見つかった。 #center(){ &image(10_no_admittance_cat.png, width=300) 朽ちた立入禁止の看板。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-54-ucm3, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() Macy.aicが看板の内容を説明すると、赤沼は即座に木道へと戻った。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 危険だ。木道から離れるのはやめておこう。異空間で道から外れた者に訪れる結末は、古今東西ただ一つだ。警告と見ることだってできる。 > >&bold(){Macy.aic:} 喫緊の脅威は依然確認されていませんが、非常に賢明な判断だと思います。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} だろう。とにかく、道沿いに進もう。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。で──&bold(){《隠れよ》《動くな》} 赤沼は咄嗟に、倒木の影に退避。15秒後、脅威はないと判断された。 #center(){ &image(11_road_sign_cat.png, width=300) 道路標識。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-55-g9l6, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() 朽ちた看板があった方向の遠方に、"右方背向屈曲あり" の警戒標識が存在したのだ。この標識は、直前まで、全てのセンサーの死角にあったという。 そんなことがあり得るのかと問う赤沼に、Macy.aicは「偶然と捉えることもできます」「転移による出現やカモフラージュの解除、認識阻害などの兆候は確認されていません」と返す。異常な現象が起きたか否かは、断定できない。 しかし、"侵入禁止"とかではなく、"右方背向屈曲あり" なのが、不気味である。赤沼たちは、この場所を離れることにした。 >&bold(){Agt. 赤沼:} さっきから枝が何度も落ちてるな。風はほぼ止んでいるように思うが。森の中はこんなものか? > >&bold(){Macy.aic:} そうですね。いずれも非異常のものと考えられます。落枝ごとにその前後の映像をロールバックして確認していますが、毎回小さな枯れ枝が風を受けている様子が観察されており、不自然な点はありません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} なるほど。僕がナーバスになりすぎているだけかな。 > >&bold(){Macy.aic:} いいえ、大丈夫です。この状況で落ち着きすぎるのは逆に危険です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} ああ。本当に── > >&bold(){Macy.aic:} 失礼。緊急性は低いですが。木道沿い、12時24分方向、23 m先の木の幹に、木札がついています……現在の位置情報が書かれているようですが、解像度の問題で上手く読み取れません。近づいてください。 #center(){ &image(12_lat_and_long_cat.png, width=300) "この場所の緯度、経度の数値です。" と書かれた木札。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-56-ri2j, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() これらの「文字のようなもの」は、7セグメント式の文字に似ているがデタラメなようで、規則性らしきものは掴めない。推測しつつ文字をなぞっていると、&bold(){木に振動が伝わってきた}。原因は不明だが、マイクが木を叩く音を拾っている(元の記事には、ここで音声ファイルが添付されている)。 これはキツツキが木を叩く音に似ているが、ここにキツツキがいるとは考えにくい。Macy.aicが木を揺すってみることを提案した直後、木を叩く音が移動。&bold(){あらゆるセンサーに姿が見つからず、音だけが聞こえている。}羽ばたきの音もせず、木を叩く音だけが響く。キツツキが作るような幹の穴も確認されない。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 今は、音の方は? > >&bold(){Macy.aic:} また止んでいます。しかし──不明なエラー。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} どうした!  > >&bold(){Macy.aic:} 不明。マイクに異常が発生したと考えられます。&bold(){4時方向から3時方向にかけて、下草のササを激しく掻き分けて進むような音が大きく聞こえました。しかし他のセンサーは、該当方向に何の存在も、ササの揺れさえ捉えていません。} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 全てマイクが幻聴を拾っていると? > >&bold(){Macy.aic:} その可能性が高いです。何らかの異常を受けて、信頼できなくなっているものと思われます。 マイクがおかしくなってしまったのだろうか? しかし、赤沼は「木を叩く音の振動」を感じているのだから、木を叩く音自体は幻聴ではないはずだ。ササの音自体も幻聴ではないのでは? 赤沼は、エレベーターで錯乱していた3名の職員たちが見ていた「何か」との関連を推測する。マイクは、「何か」が出した音を感知しているのではないか。「何か」は「高さ20 cm程度の点」だった。これは、&bold(){「ササを掻き分けて進む音」を出す可能性がある}。 音声は止んだ。マイクに何らかの問題が発生したとし、音声の解釈は停止することとした。赤沼たちは進む。 **SCP-4040-JP内 森林地帯 外縁部 1時間50分後。赤沼は、小休止を挟みつつ5.1 kmを進んでいた。木の高さが低くなっており、森の端に来ていると推測される。木道の先はまだ見えない。 森の外縁部に近づくにつれ、下草の密度も減ってきている。ここで、Macy.aicが、木製の柵を発見する。 #center(){ &image(14_fence_cat.png, width=300) 倒れて苔むしている木製の柵とロープ。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-58-3rlb, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() この柵は、道とそれ以外を隔てるように立てられていたと推測される。 さて、木道自体や、赤布、経緯度の木札などは、整備されているようにある程度綺麗だった。一方で、木道から離れたところにあった立入禁止の看板、道路標識、この柵などはボロボロだ。これにより、「&bold(){道を外れたものは風化してしまうのではないか}」という推測がなされた。 赤沼は、エレベーターホールの隔壁にて、研究員の白衣から手に入れていた腕時計を柵の外に置いてみた。すると、木道の上での1分で、柵の外の腕時計は1分1秒を刻んだ。クォーツの腕時計は悪くても1月に数十秒しかずれない。このずれは明らかに異常である。「道を外れたものは風化してしまうのではないか」という推測が、信憑性を増していく。 その直後である。 >&bold(){Macy.aic:} ──不明なエラー。情報の統合に失敗。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} どうした! 何も感じない。 > >&bold(){Macy.aic:} レーダー情報の解釈を一時停止。喫緊の脅威はありません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 何が映った。 > >&bold(){Macy.aic:} 突如、腕時計のすぐ横に、物体を感知しました。全体としては小動物のような形状でしたが、本来分かるはずの細かい形状は捉えられませんでした。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 例の小動物かな。先ほど音声だけが捉えられたやつだ。 > >&bold(){Macy.aic:} 恐らくは。その小動物は、レーダー上では、腕時計を咥えて去っていったようです。腕時計の強い反射と一緒に、4時方向の林の中に消えていきました。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 待て。あくまでレーダーは、腕時計がここにない、と言ってるのか? > >&bold(){Macy.aic:} はい。その通りです。しかし、カメラにもLiDARにも、腕時計は確かに映っています。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それは…… &font(i){&font(#777777){[白杖を前に突き出して、腕時計の直前で止める]}} どちらが正しいかな。 > >&font(i){&font(#777777){[白杖が、腕時計に接触する]}} > >&bold(){Macy.aic:} どうやら、レーダーの情報も解釈しない方が良さそうです。明らかに腕時計は、ここにあります。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} そうしてくれ。そして、腕時計は……ここに、放置しておこう。リスクに思えてきた。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。 腕時計を置いて、赤沼たちは再出発した。 **SCP-4040-JP内 森林地帯と葦の原の境界付近 森の外は、葦の原になっていた。 #center(){ &image(15_reed_cat.png, width=300) 森の外に広がっていた葦の原。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:2016-05-21_20.05_Federsee,_Bad_Buchau_-_Abendszene_im_Schilf.jpg, 著作権者: Eljatha Schneider この画像は「CC BY-SA 4.0」に従います。 #endregion() 木道は、木組みの足場によって湿原の地面より少し高くなっている。道は途中で曲がっていて、先がどうなってるかは分からない。しかし、進んでいくしかない。 進む前に、一旦休憩をとることにした。木道の中央に座り、水を1口だけ飲み、足を軽く揉む。 >&bold(){Macy.aic:} 訓練終了からそのまま、未知の空間を3時間以上にわたって探索しています。大変お疲れ様です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 本当だよ。どうしようかな、空腹ではないんだ、全く。水は残り……まあ、水筒に半分くらいはあるかな。 > >&bold(){Macy.aic:} 心苦しいのですが。やはり水が限られているというのは大きな問題です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 湿原があるってことは、どこかから水が供給されているはずじゃないのか。森の方から川が流れている可能性は高いと思うが。 > >&bold(){Macy.aic:} 今までの探索では見つけられませんでした。途中からは音声の認識を停止しているため、以降川のせせらぎも滝の音も検知できていません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} やはり問題だったかな。 > >&bold(){Macy.aic:} どうでしょう、判断しかねます。音声を由来とする混乱や問題が多数起こっていた可能性もあります。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それもそうだ。もしかしたら音声上は今も、我々の周りには大量の鳥がいるかもしれない。 > >&bold(){Macy.aic:} あり得ます。こうした湿原には一般に、鳥が多数生息しているものです。それと、小動物も。 音声もレーダーも信用できなくなり、これが続くと計器が全て使えない、なんてことも予想できる。ただし、赤沼は、いざとなれば白杖のみで動ける訓練は積んでいるという。 ここで、レーザー系の計器に異常が現れる。「周囲に多量の水滴があり、レーザーを乱反射している」、つまり霧のせいでレーザーが使えないという。しかし、赤沼は、霧を感じていない。&bold(){霧があるという事実はない。} 例の「小動物」はまだ観測されていないが、レーザーの解釈は停止することにした。次に効かなくなるとしたらカメラ類だろう。 **SCP-4040-JP内 葦の原 #center(){ &image(16_road_cat.png, width=300) 葦の原に伸びる木道。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-60-fwoj, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() 13分後。木道にごく低い欄干が付き、少し道も太くなった。数本の葦が木道に覆い被さるように生えている箇所もある。道は狭まり、欄干は無くなって、更に2分が経過する。 不図、赤沼が質問する。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 最初に目が覚めたのは、道の途中だった。木道の反対側には何があったと思う? > >&bold(){Macy.aic:} 情報が少ないため、確度の高い推定ができません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 適当でいいよ。 > >&bold(){Macy.aic:} どうでしょう。木道沿いの3Dマップを作成しましたが、特定のパターンはありませんでした。同じような森林が数kmにわたって続いている可能性は高いでしょうが、それ以上は分かりません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} あちら側には、他にも経緯度の木札があったかも。 > >&bold(){Macy.aic:} 1枚見つかった程度では解読できなさそうです。より混乱することになったかもしれません。意味は一切ないのかもしれません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 意味がありそうだったと言えば、立入禁止の看板くらいか。結局あの後、交通標識と道の形も違った。 > >&bold(){Macy.aic:} そうですね。右方背向屈曲、と捉えられる道の形状は全体を通して見れば幾度となくありましたが、あの付近での木道は非常にまっすぐでした。 この空間には、謎が多い。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 分からないな。 > >&bold(){Macy.aic:} 何がでしょうか。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} この空間がなぜできたのか。人の手が入っているようにしか見えないが、その意図が掴めない。 > >&bold(){Macy.aic:} 基本的にはセンサー群に映らない、しかしいつの間にか影響を与える生物が住んでいる空間。そういうものだと言われればそれまでですが。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} しかもそれが、サイト-8120と突然繋がって影響を与えてきた。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。SCP-218-JPの内側に元々この空間が広がっていた、という訳ではなさそうには思えますが。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} なぜ。 > >&bold(){Macy.aic:} 適当に言いました……いえ、冗談です。まあ、当てずっぽうの推定でしかありませんが。関連性が突然と言いますか、SCP-218-JPの元々持っている特性と、現状はあまりにかけ離れています。この空間がSCP-218-JPの所産であるというよりかは、&bold(){もっと別のオブジェクトの入り口と偶然繋がってしまった}、といったようなイメージでしょうか。 この木道が、何らかの別のオブジェクトと関連しているのかもしれない。ただし、これはあくまで推定でしかないのだが。 >&bold(){Agt. 赤沼:} そうだな。案外色んなところに異常な森は広がっているのかもしれない。 > >&bold(){Macy.aic:} そしてそこには、誰しもが迷い込みうる。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} あんまり茶化さ── > >&bold(){Macy.aic:《動くな》《動くな》} 突如、Macy.aicが緊急信号を発する。即座に赤沼は立ち止まる。 >&bold(){Macy.aic:《緊急事態》}中断していたセンサー情報の解釈を一時的に実行。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 何をしている! > >&bold(){Macy.aic:} ……全て異常無し。どのセンサーにも、道のみが映っています。しかし、動かないでください。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} カメラが何か捉えたか。赤外線は── > >&bold(){Macy.aic:} いえ。何も捉えていません。カメラには葦と木道しか映っていません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 他のセンサーは。 > >&bold(){Macy.aic:} いずれも、同様です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 食い違いは。 > >&bold(){Macy.aic:} ありません。十分に整合性が保たれています。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} じゃあ何があった。何が起きているんだ。どうして止めた。 > >&bold(){Macy.aic:} 全てのセンサーが、目の前には葦の原に伸びる木道のみを検知しています。矛盾はありません。しかし、12時方向。4.2 m先に。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 振動は一切感じないぞ。 > >&bold(){Macy.aic: ねこがいます。} &bold(){Macy.aicは、ねこを感知したのだった。} >&bold(){Agt. 赤沼:} 何を……小動物、か。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。ねこがいます。凡ゆるセンサーに映ってはいません。しかし、確実に。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} センサーに、写っていないなら── > >&bold(){Macy.aic:} その通りです。全く矛盾して、白猫の巨大な目が見えます、います、全てのセンサーと、私自身とが。観念的に? 明るく。不明なエラー。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 強制シャットダウンする。 > >&bold(){Macy.aic:} お願いします。お願いしま── 赤沼はMacy.aicの演算を強制停止させた。 **SCP-4040-JP内 葦の原 2分後 Macy.aicによる状況伝達は完全に停止している。赤沼は、白杖と自らの触覚のみで周囲の状況を把握している。音声記録は指点字ではなく赤沼の発話によるものである。 >&bold(){Agt. 赤沼:} Macy.aicの強制シャットダウンから2分経過。記録のため各種センサーをONにしている。 白杖を滑らせながら移動する。時折木道が軋む。Macy.aicが存在を主張した、ネコの姿は確認されない。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 葦が風に揺れて、時折体に当たるのは認識できる。しかしネコの立てる振動は感じない。いや、天性のハンターとして、隠密性能が非常に高いのからかもしれない。 白杖が、木道の曲がり角の手すりに触れて止まる。赤沼は右手の先を手すりに当てながら、白杖で何度か振動を与える。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 先ほどの欄干とは違う種類の手すりだ。木道は左に曲がっていて、その先しばらくは真っ直ぐ続いている。更に向こうには……よく分からない。広い空間の探索は難しい。 歩くほどに、葦が赤沼の体に触れる。密度が次第に高まっている。赤沼は定期的に、白杖で先の地面を強く叩きながら指先でその振動を感じることで、先の状況を測る。 >&bold(){Agt. 赤沼:} この先に、何か建物がある。小さな建物に感じる。 木道の先にあったのは── #center(){ &image(18_house.png, width=300) 小屋。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Der_Federseesteg_in_Bad_Buchau.jpg, 著作権者: BraunGregor この画像は「CC BY-SA 4.0」に従います。 #endregion() 小屋だった。 メタ的に補足すると、これはSCP-040-JPの外見に酷似する(SCP-040-JPは、ねこではなく井戸小屋である)。 >&bold(){Agt. 赤沼:} は? > >&bold(){Agt. 赤沼:} 今。確かに、5 mほど先の木道が軋んだ。そういった類の揺れがあった。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 風によるものじゃない……自分も、何かを、感じ始めた。ネコ、か。建物の右側に行ったな? センサーには何も映っていないが、赤沼は小屋の正面右まで進む。 >&bold(){Agt. 赤沼:} その辺りに、いるのか。 静かに、白杖が前に伸ばされる。道の木目をなぞりながら、白杖が進み、停止する。 >&bold(){Agt. 赤沼:} ネコが、いる。ここに。 白杖が指している場所には、何も存在しない。 赤沼は近くの葦を1本折り取って、猫じゃらしを扱うように揺らす。 >&bold(){Agt. 赤沼:} はは。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 確かに存在を感じる。君がずっと、着いて来ていたのか? キツツキの頃から。 赤沼の揺らしている葦は時折急に停止するが、それは物理的に不可能な動きでこそない。しかし、ネコによって葦が押さえつけられている、とも解釈できる。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 今、右足の先を軽く叩かれた──もっと前から? 我々の何かしらのセンサーが感知する前から、ずっと──今度は、撫でられている。意思疎通ができていると見て悪いことはないだろう──どこに行くんだ? 赤沼は、小屋の裏側に回り込む。主観的には、ネコについていったのかもしれない。 小屋の裏側には、酷く損傷した看板が立っていた。赤沼はその前まで移動し、看板を触る。枠を軽く掴み、プラスチックが一部剥がれて飛び出していることを認識して、手を切らないように気をつけつつ表示部分に指を当てる。 >&bold(){Agt. 赤沼:} ああ、なるほど。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 7セグメント式の文字だ。 点字を読むように、看板上で指をスライドさせる。赤沼は、看板表面に存在するごく微細な凹凸を、"7セグメント式の文字" として解釈しているようである。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 何となく、分かってきた。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 了解。 赤沼には暗号解読や言語学の知識は十分に無い。赤沼が文字を解読したのではなく、"7セグメント式の文字" が何らかの情報を伝えるミームであったと考えられる。奪感者が唯一奪われていない、触覚を通したミームだったのだ。 **SCP-4040-JP内 小屋内部 赤沼は、小屋の内部に移動している。薄暗い内部には古い石造の丸井戸がある。カメラは井戸枠に置かれており、井戸の反対側に赤沼が立っている。井戸枠の上の空間を、赤沼は撫でている。 >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[咳払いをして]}} そちらで起こっている問題は、概ねこの子のせいです……痛っ。 > >&font(i){&font(#777777){[手を振り払う]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 何があったのか正確に理解している訳ではありませんが。長い年月の中で、ミーム災害への対抗措置そのものがミーム災害となってしまった、対ミーム処置がミーム災害に飲み込まれてしまった、といったところでしょうか。 > >&font(i){&font(#777777){[小屋の外から強い風の音が聞こえ、扉が自動的に開く]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 対ミーム処置を受けることで、潜在的に元のミームに罹患してしまう。そのような状態が続いた果てに、ついにブレイクアウトが起こったようです。サイト-8120は、この数十年間、潜伏期間にあったのでしょう。 > >&font(i){&font(#777777){[Agt. 赤沼は首を横に軽く振る]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 最後の一押しは、SCP-218-JPのミーム感染だったようですね。感染経路は、ミーム罹患者が暗闇に吸い込まれてしまった、辺りだと考えています。もとより共通点の多い異常性でした。暗闇、という名辞が指す先です。 > >&font(i){&font(#777777){[何度か強い瞬きをしたのち、Agt. 赤沼は大きく両目を見開く。焦点は合っていない]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} この空間までの道が繋がったのは、名辞による習合の結果とのことです。ただ、奪感者たる僕だからこそ、ここまで来れた。一般の人間が森の中に来ても、木道の存在にすら気づかず彷徨ってしまうでしょう。……ともあれ。少なくともしばらくは、今回の問題も収まるはずです。僕が、遊び相手になっているうちは。 > >&font(i){&font(#777777){[Agt. 赤沼が目を閉じ、頷く。また強い風の音が聞こえ、扉が閉まる]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} あの子の気持ちが僕にはよく分かりますからね。何せあの子も、目は見えず、耳は聞こえないらしい。それでも見通せるのは年の功かな。とにかく、あの子が僕に夢中になれば、もう他の人が監視されることも無くなる。そうして、暗闇とあの子との繋がりが自然と薄れていく。 > >&font(i){&font(#777777){[Agt. 赤沼は、30秒を数える]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 次第に繋がりが薄れれば、習合は解けて、入口も閉ざされていく……さて。隠れ終わったと思うので、探してきます。暗闇から見つめ続けるだけよりも、かくれんぼで遊ぶ方が楽しいでしょう? さて、そろそろ探してきます。ああ、その前に。 > >&font(i){&font(#777777){[Macy.aicが入れられているバックパックの中に、カメラがしまわれる]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} Macy、お疲れ様。助かった。 > >&font(i){&font(#777777){[井戸の中に、バックパックが投げ込まれる]}} #center(){ &image(19_well.png, width=300) バックパックにしまわれる前、カメラが最後に捉えた映像。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:https://openverse.org/image/8789f469-bc41-4b5e-b8ab-15057a9cfb9e?q=well&p=20, 著作権者: Kash_if この画像は「CC BY-SA 2.0」に従います。 #endregion() ここまでが、Macy.aicが送信した内容である。 *その後 Macy.aicによる通信とほぼ同時に、サイト-8120の物理的・情報的ロックダウンは解除された。更に1時間の情報収集を以て、施設内突入による認識災害・ミーム災害への曝露の可能性は低いと判断され、機動部隊が内部に侵入した。 サイト-8120に勤務していた職員の94%はインシデント中の記憶を失っており、多くは低血糖・脱水状態だった。また、サイト管理官は、管理官室で倒れた状態で発見され、意識も回復していない。 Macy.aicは、SCP-040-JP収容棟内に落ちていたバックパックごと回収された。 Macy.aicは、第2次SCP-4040-JP内部調査の実行を提言している。 -情報伝達ミームと推定されている "7セグメント式の文字" の内容 -ミームとSCP-040-JPとの関わり -名辞についての議論 など、Agt. 赤沼による最終ログには不明な点が多く、更なる調査が必要と考えられる。現在計画が行われている。 また、Macy.aicは、回収された直後に以下の2種の申請を行った。これらはいずれも受理されている。 -第2次SCP-4040-JP内部調査への同行。 -奪感者における空線触覚2番 (右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリック) の、永久欠番化。 報告書は以上である。 *余談 **ねこですとの関連 当該記事は謎を残す終わり方であったが、一方で「[[ねこです>SCP-040-JP]]」との関連は確実視できる。特に、「何か」「小動物」の正体は「ねこです」だといえよう。 作者のrenerd氏によると、ねこですの「本質的に不気味なだけの存在、あるいは何やらひたすらに理解の及ばない存在、はたまた[[四神カノン>SCP-1500-JP]]に連なる強大な存在」として&bold(){ではない}姿を描いたという。作中のねこは、確かにこれらとは異なる、「猫っぽい猫」であった。 #region(ねこですに関する記事への考察) 「少なくともしばらくは、今回の問題も収まるはずです。僕が、遊び相手になっているうちは。」とあるように、赤沼はねこと遊んでおり、それによりインシデントが収まったのかもしれない。「暗闇から見つめ続けるだけよりも、かくれんぼで遊ぶ方が楽しいでしょう?」とあるように、かくれんぼをしていそうだ。 ねことSCP-218-JPの「暗闇」の共通点について、以下が挙げられる。 -処置253-"柳煤"はねこに対抗するミームだが、これにおけるミームベクター「最も暗闇に近いのは、柳を燻らせた煤である。」が、SCP-218-JPの「暗闇」と習合したとも解釈可能だ。しかし、ねこが覗く人がいなくなり、処置253-"柳煤"が不要となれば、ねこの「暗闇」という要素がなくなり、共通点が薄れ、結果としてSCP-218-JPとの関連が断たれるのかもしれない。 -井戸という暗闇から覗くねこと、暗闇に引き摺り込むSCP-218-JPには名辞的な共通点があり、異常性が習合したのかもしれない。しかし、ねこが覗くのが赤沼だけになれば、「暗闇」から覗かれる人が減り、「暗闇」という共通点が薄れ、結果としてSCP-218-JPとの関連が断たれるといえなくもない。 そうなれば、今回のようなインシデントも半永久的に抑制できる可能性はある。 #endregion() **かくれんぼ 最初の画像から、「葦の原に伸びる木道。」の画像までには、&bold(){「ねこです」が隠れている}。見つけてあげよう。 **SCP-4000-JPコンテスト 当該記事は、&font(b,green){忌名}や[[ざこざこ同位体>SCP-4001-JP]]も参加している、SCP-4000-JPコンテストに参加した作品である。 森、井戸、「道から外れてはならない」、名辞など、[[SCP-4000]]を意識した要素を扱っている一方で、SCP-4000自体とは別物で、パロディとはまた異なっているといえる。 当該作品は、コンテスト開始直後は、最終4位の「SCP-4999-JP - アトランティックシティにやってきた時代遅れの田舎者」や最終5位の「&font(b,green){禁忌肢}(SCP-4444-JP、旧題「実技試験#4000-JP - かつてテンサイだった僕たちへ」)」よりも順位が低かった。しかし、じわじわと評価を伸ばしていき、コンテスト閉幕時には&bold(){+245(UV257/DV12)}で&bold(){3位}を獲得した。 追記・修正、よろしくおねがいします ---- #right(){#openclose(show=▷ CC BY-SA 4.0に基づく表示){ SCP-4040-JP - 木道の先 by renerd http://scp-jp.wikidot.com/scp-4040-jp この項目の内容は『[[クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承4.0ライセンス>https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.ja]]』に従います。}} #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,4) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 「かくれんぼ」ですが、画像のサイズを1MB以下にする必要があった都合上、見つけにくい画像もあります 場合によっては元記事を参照してください -- 名無しさん (2026-02-23 00:00:59) - もうちょいどういうことなのか考察でもいいから結論とかまとめみたいなもんが欲しい -- 名無しさん (2026-02-23 00:02:43) - ↑探索の雰囲気が魅力な記事という気もする(実際探索シーンが高い評価を得ている)ので、考察が記事のメインだと意図されていない可能性がありますが、「SCP-4040-JP内 小屋内部」から推定できる考察を追記してみました -- 名無しさん (2026-02-23 00:32:39) - ねこですが隠れてるというから猫を探してたけどまさかあんな隠れ方だとは -- 名無しさん (2026-02-23 08:18:08) - エージェントが直接ねこですの気を引いてくれてる内は大丈夫って話っぽいけど食料やら水やら大量に持ち込んでるわけでもないしすぐにまた異常性再発するんじゃないかコレ 浦島太郎みたいに向こうでの3日がコッチの300年みたいなこともありえはするけど -- 名無しさん (2026-02-24 09:35:48) - ↑その間に何回か再起動して人間っぽいのが徘徊する世界になりそう -- 名無しさん (2026-02-24 19:12:55) - NTRやんけ~~~!!! -- 名無しさん (2026-02-25 13:23:47) - ねこが全く見つからない・・・ -- 名無しさん (2026-03-15 14:51:47) - 『へ~ねこが…言われてみればこの木漏れ日とかねこっぽいなぁ』とか思ってたら木のコブでビビった。そんな物理的に隠れとったんかワレ -- 名無しさん (2026-04-03 20:53:19) #comment() #areaedit(end) }
&font(#6495ED){登録日}:2026/02/22 Sun 23:41:20 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 36 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){ &image(01_forest_cat.png, width=300) SCP-4040-JP内部。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-48-1trp, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() SCP-4040-JPとは、創作コミュニティサイト『[[SCP Foundation]]』に登場する[[オブジェクト>オブジェクト(SCP Foundation)]]の一つである。 項目名は「&bold(){木道の先}」。 [[オブジェクトクラス>オブジェクトクラス(SCP Foundation)]]は &bold(){Euclid}。 *概要 SCP-4040-JPは、財団の施設であるサイト-8120 B棟1階のエレベーターホールから侵入できた、規模不明の&bold(){余剰次元}である。 SCP-4040-JP内部には、森林と湿原が広がっているが、正確な地理は不明。また、現実世界とは時間の進み方も異なるようだ。 SCP-4040-JP内部では、複数の&bold(){認識災害・ミーム災害}が確認されている。これに曝露すると何が起きるかは不明である。 **発見経緯 まず、SCP-4040-JPが発見された経緯について述べる。 2024年10月16日の午後5時11分。サイト-8120はロックダウン状態へと移行し、外部との交信が絶たれた。 ロックダウンの6分前にはサイト管理官によって「緊急事態発生」のコードが発信。また、この前後にあった他の通信では。&bold(){非常に強いミーム災害}が検出されており、システムによって自動で遮断されていた。 ミーム災害の影響で、外部からの通信はできなかった。 このミーム災害だが、どうやら&bold(){処置253-"柳煤"}によって防御されていたようだ。"柳煤"は、[[SCP-040-JP]]、つまり「&bold(){ねこです}」のミーム災害への予防となるものである。なお、SCP-040-JPはこのサイト(サイト-8120)が収容を担当しているオブジェクトである。 解析の結果、以下のミームベクター(ミームを運ぶもの)が発見された。 >&bold(){最も暗闇に近いのは、柳を燻らせた煤である。} このミームにより、致命的ではないが軽度の被害が生じたという。 機動部隊らは、内部の調査のためにロックダウンされたサイト-8120に侵入を試みた。しかし、財団サイトの強固な隔壁や市街地内のため強引な手段がとれないことも相まって調査は難航。 財団は次の手としてロックダウン発生から31時間後に、ロボットによる侵入を決行。しかし、その1時間半後、&bold(){SCP-040-JP収容棟からの通信が確認された}。侵入作戦は一時中断され、データが解析された。 通信の発信元は。サイト-8120に所属している財団製人工知能・&bold(){Macy.aic}だった。その内容は、&bold(){ロックダウン前後から32時間後の通信に至るまでに行われた、SCP-4040-JP内の探索記録}だった。 Macy.aicの記録は、この人工知能がサポートしていた、エージェント・赤沼(Agt. 赤沼)の行動についてのものだった。Agt. 赤沼は「&bold(){奪感者}」である。 **奪感者とは? 「奪感者」とは、SCP-9001が初出である設定だ。 そもそも、[[ミーム>ミーム(SCP Foundation)]]とは、見たり聞いたりすることで影響を受けてしまうものである。逆に言えば、見たり聞いたりしなければミームの影響を受けないわけである。 「奪感者」は、全員何かしら&bold(){視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚を失っていることで}ミームに対抗できるエージェントなのである。 奪感者には、さまざまな測定器やマッピング装置(LiDAR)が内蔵されている特別な装備が与えられ、それを用いて感覚を補う。内蔵されている装備の中には財団製人工知能もあり、この人工知能が、触覚グローブを用いた指点字により状況を伝え、コミュニケーションもとる。 なお、指点字とは、左右の人差し指・中指・薬指の6本の指を叩くことで点字を再現する方法であり、現実世界では盲ろう者(視覚も聴覚も不自由な人)とのコミュニケーションで用いられている。 Agt. 赤沼は、機動部隊員としての収容活動中に事故に遭い、視覚と聴覚を完全に喪失した。その後、奪感者への転任を提案された赤沼は、復職を求めていたこともあってか、これを承諾した。 *Macy.aicの記録 いよいよ、Macy.aicの記録について記す。その前に、書き起こしを読むにあたって注意点がある。頭の片隅に入れておこう。 >-記録の文字起こしは基本的に、Macy.aicによって行われている。 >-Agt. 赤沼は発話機能を喪失しておらず、Macy.aicはスピーカーを通じて発話することができるため、場に第三者がいる際には、発話を用いたコミュニケーションが取られることがある。指点字会話と音声会話が混在している際には、明らかな場合を除いて、それを明記する。 >-指点字による会話は全て、&bold(){可読性のため一般的な日本語文章表現に変換されている}。言葉が補われている箇所もある。また、両者間で使われている独特の表現 (感情伝達のための符号など) は、&bold(){同等の日本語表現に置換されている}。 >-Macy.aicからAgt. 赤沼への指点字を用いない緊急信号は、《》で括って表記されている。 つまり、&bold(){文字として読みやすいように調整したうえで書き起こした}、といえるだろう。 **サイト-8120 B棟 訓練を終えたAgt. 赤沼はサイト-8120のB棟にある自身の私室に向かっている。 >&bold(){Macy.aic:} 大変お疲れ様でした。エレベーターまで? > >&bold(){Agt. 赤沼:} エレベーターまで。今日は疲れた。 > >&bold(){Macy.aic:} では、17 m先で右折すればエレベーターホールです。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それで、2機の間に呼びボタン。どちらのエレベーターもメインの操作パネルは入って左手側、下側に開閉ボタン、左下からNの字の順で数字、だろう。 > >&bold(){Macy.aic:} その通りです。サイト内の構造は、細かいところまで完璧ですね。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} もう流石に慣れたよ。 > >&bold(){Macy.aic:} 多くの人は、操作パネルが扉のどちら側にあるのが一般的なのかも、あまり意識したことがないでしょう。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 僕も半年前はそうだったけどな。 流石財団エージェント、奪感者としての生活に半年で順応しているようだ。会話にも大きな支障はなさそうである。 さて、赤沼はエレベーターホールに入った。 >&bold(){Macy.aic:} 男性が約3.8 m先でエレベーターを待っています。高山医師です、数ヶ月前のリハビリ時代に幾度か会話をしたことがあります。エレベーターの上向き呼びボタンはすでに押されています……高山医師に、軽い会釈をされました。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[近づいて会釈をする。発話して]}} どうも、お疲れ様です。 このようにして、日常的な動作も問題なく行えるようだ。高山医師の発言はMacy.aicによって指点字に同時通訳され、会話がなされる。 >&bold(){高山医師:} どうもお久しぶりです。その様子だと、もう全く支障はないようですね。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} ええ、問題なく。&font(i){&font(#777777){[指点字で]}} 今日の訓練内容の機密レベルは低かったね? > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} 概要について話す分には問題ありません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} 最近はもう、全く未知の空間を走り抜けられるようにまでなりました。障害物込みで、です。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} こんにちは。AICのMacyです。Agt. 赤沼は完全に回復していると言って良いでしょう。 > >&bold(){高山医師:} 素晴らしい。大変お疲れ様です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} Macyのおかげです。デバイスをオフにしてると面倒なことも多く。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} もっと褒めてもいいですよ。 > >&bold(){高山医師:} 日常生活から何から、100%頼りきりだと問題も発生しえますからね。装備を着たままシャワーを浴びる訳にもいかないでしょうし。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} もちろんです。それに、年がら年中一緒にいたら少しうるさい時も。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} ……。 財団製の人工知能にもいろいろあるが、このAIは人格があるタイプのようだ。 >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} 高山医師は、エレベーターの階数表示灯に目を向けています。右側のエレベーターがこの階に向かっています。 > >&bold(){高山医師:} そろそろ来ます。あぁ。こういったことは一々言わなくても大丈夫ですかね。AICが認識してくれるでしょうし。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[発話して]}} お気持ちはありがたいですよ。まぁ、僕としてはエレベーターがいつ到着して扉がいつ開くかくらいなら、振動だけでも十分に分かりますが。&font(i){&font(#777777){[指点字で]}} おっと、今のは当てつけじゃない。 > >&bold(){Macy.aic:} &font(i){&font(#777777){[指点字で]}} もちろん承知していますとも。 エレベーターが降りてくる >&bold(){高山医師:} なるほど。まぁ、なんにせよ……うん、あれ。どうしてこん── &font(i){&font(#777777){[沈黙]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} うん? > >&bold(){Macy.aic:《緊急事態》《目の前の人間を捕らえよ》《退避せよ》《退避せよ》} AIが緊急信号を発した。赤沼は目の前の人間、つまり高山医師を捕らえ、退避しようとするが、高山医師が抵抗している。 赤沼は高山医師を押さえ込むように倒れつつ、エレベーターホールと廊下の境目付近まで移動した。赤沼の呼びかけに医師は無反応、それどころか、拘束を振り払ってエレベーターに乗り込もうともがいている。 エレベーターの内部も完全な暗闇で、センサーによる空間認識も不能。医師は突如無表情になり、暗闇内部へと侵入しようとしている。 この状況は、本来、A棟4階(封鎖されている)でのみ影響を受ける、SCP-218-JPの異常性に類似している。SCP-218-JPとは周囲の人物をエレベーター内部へと誘い込む異常性を持ったエレベーターの扉。ちなみに、SCP-218-JPに入った者は行方不明となる。 ここで、サイトのスピーカーから緊急放送が流れる。「全職員はその場で待機、但しエレベーターホールから離れよ、訓練ではない。」という内容が放送された。どうやら、セキュリティ室は異常事態を把握しているようだ。 ここで、赤沼の元に、異常性を受けた職員が来る。 >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[足音を振動で感知し、発話して]}} おい! 来るな! > >&bold(){Macy.aic:} 影響を受けている可能性が大。押し留めてください。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 1対3はキツいぞ!&font(i){&font(#777777){[発話して]}} 止まれ! 今すぐ止まれ、離れろ! 緊急事態だ! だが、2名の職員はAgt. 赤沼の呼びかけに反応しない。 >&bold(){Macy.aic:} 2名とも視線が彷徨っていますが、真っ直ぐに向かってきます。 ここで赤沼は、高山医師の体を強引に持ち上げ、向かって左の職員に投げつける。職員は体勢を崩し、その場に倒れる。もう1名の職員をロータックルで倒すが、その間に他の2名が立ちあがろうとする。 ここで、エレベーターホールの隔壁が閉まった。影響を受けた職員は隔壁の外に投げ飛ばされたため、エレベーター内に侵入してしまうことはなくなった。だが、赤沼は、隔壁の内側に取り残されてしまった。 **エレベーターホール 隔壁内 赤沼は、基本装備、レーション2食だけ、水筒が1本だけという状態で閉じ込められた。先程格闘した研究員の白衣が隔壁に挟まっていたが、ポケットにあった腕時計くらいしか手に入らず、何か使えそうなものはない。 さて、閉じ込められるという状況がいつまで続くか。以前に発生した類似の事例は7時間で回復したが、今回はどうか分からない。加えて、SCP-218-JPが本来位置しているA棟4階は全体が封鎖されており、立ち入りは禁止されている。よって、この隔壁が封鎖されてもおかしくない。つまり、赤沼は永遠に閉じ込められるとも推測できる。 ここで、スピーカーから放送が流れる。「全職員はその場で待機」と発された後に、不明な音声が流れだした。セキュリティ室側も異常の影響を受けたか、スピーカーが壊れたか……いずれにせよ、ピンチな状況は変わらない。 さて、Macy.aicが、映像ログを解析したところ、不審な点を認めた。 まず、SCP-218-JPの被影響者は沈静化するが、先程の影響者らはそうではなかった。また、影響を受けた3人の位置関係と目線を解析したところ、視線が交わる点があった、つまり&bold(){同じ何かを見ていた}ことが示唆される。しかし、そこには何も確認できなかったという。 赤沼は、これをミーム的な何かだと推測した。Macy.aicによると、「ミーム的な何か」は、まず右側エレベーターの扉付近の下方に出現した。そこから高度20 cm付近を維持しつつ壁際を移動、赤沼の周囲を2周した後にエレベーター内の暗闇へと入ったという。 ここで、Macy.aicは、赤沼がエレベーター内に入ろうとしていることを察する。Macy.aicは「他サイトも確実に異常を検知している」「すぐに機動部隊が到着するはず」と述べるが、赤沼は「普通の機動部隊がこの状況で活動できない」と反論する。認識災害の影響を受けずに行動できるのは、「奪感者」のみである。 そもそも「奪感者」は、世界的にも運用が始まったばかりである。アメリカでも数人しかおらず、そして日本では&bold(){赤沼1人}のみだ。「助けが来るとしても数十時間はかかる」と推測する赤沼に、Macy.aicも同意を示す。 >&bold(){Agt. 赤沼:} その数十時間 &font(i){&font(#777777){[暗闇を示して]}} こいつの前で、謎の音声に晒されながらただただ待っているというのは、情けない話だ。 > >&bold(){Macy.aic:} しかし、状況からして仕方ないことでしょう。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} ああ。ただ、情けないと思われはしてしまう、という意味で……自分がそう思われることが嫌だ、という訳じゃない。そういった小さなプライドの話じゃない。もちろん。 > >&bold(){Macy.aic:} ええ、そのようなことを言っている訳ではないとは、もちろん承知していますとも。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 天職だと思っていた機動部隊には、事故で居られなくなった。転任を打診された時こそ、自らの気持ちだけで承諾したが。最近は赤沼聡としてだけでなく、奪感者としてどうであるか、を常に考えながら行動しないといけない。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。特に求められることだと思います。そしてそれは、とても疲れることだとも。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それが意外と、僕としては結構楽しいんだ。多くの人はあまり意識したことがないだろうが。とにかく。&bold(){奪感者は、こうした事態に於いてこそ、活躍する必要がある。} そして「&bold(){暗闇の空間に入った先で、仮に飲み込まれて消えてなくなるだけだとしてもいい。今までに記録した異常事態の情報をここに置いておけば、それで十分だ。}」とさえ述べた赤沼は、壁に記録をとり、解析情報をメモリに記録して置いておいた。 >&bold(){Agt. 赤沼:} それじゃあ、そろそろ行くか。世界に居る、もう数人の奪感者と彼らをサポートする者たちのために。あるいは凡ゆる点で、僕と近しい状況にある者たちのために。そして当然、すべての人たちのために。 赤沼は、エレベーターに侵入した。 **SCP-4040-JP内 森林地帯 #center(){ &image(04_boardwalk_cat.png, width=300) SCP-4040-JP、Agt. 赤沼が目覚めた場所付近。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-51-kgkt, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() 赤沼は一旦気絶した後、目覚めたようだ。Macy.aicによると、全ての観測機が一度ブラックアウトして強制的にシャットダウン・再起動したという。エラーログすらもなかったとのこと。そして目覚めたのは、森の中に敷かれている木道の上だった。 GPSは無効。昼の曇り空のようだが、時計の時間とは一致しない。どうやら赤沼たちは異空間に居るようだ。 SCP-4040-JP内には、ササや落葉樹が生い茂っている。音声の解析では、風の音と葉ずれの音ばかりが確認される。鳥や虫などは、視覚的にも聴覚的にも確認されない(元の記事には、ここで音声ファイルが添付されている)。 赤沼は、奪感者用の白杖を用いて、木道に沿って歩き出す。すると、Macy.aicが「赤く細い布」を発見する。 #center(){ &image(07_red_tape_cat.png, width=300) 確認された赤布。一般に、山林などにおける道標、目印として使われる。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-54-6ts3, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() このような目印は、人の手が入っていることを示唆する。赤沼たちは、この目印の方向へと進むことにした。 さて、約45分にわたって、Agt. 赤沼は木道を慎重に歩いた。移動中、景色はほとんど全く変化せず、木道は太さを変えつつ曲がりくねりながら続いている。時折、木の枝に赤布が結ばれていることがある。 >&bold(){Agt. 赤沼:} この道はどれくらい続くかな。 > >&bold(){Macy.aic:} 歩き始めてから46分が経過しています。水平距離で、1.7 km程度です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 時速2 kmぐらいか。そんなもんだな、未知の環境なら。 > >&bold(){Macy.aic:} この空間のマップも同時に作成しています。細かく曲がりくねってはいますが、全体としては北西方向に進んでいます。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 地磁気はひとまず一定か。方角は正しいとしよう。 > >&bold(){Macy.aic:} ええ、加速度計との整合性も取れています。ただ、曇り空越しに見える太陽の方向は移動していません。妙では──&bold(){《動くな》}クマがいます。 この状況下で、クマが出現した……! #center(){ &image(08_bear_cat.png, width=300) クマがいるとフラグ付けされた画像。画像中央部、奥の木の幹を登っていると認識された。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-53-zin5, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() ……木のコブだった。どうやら、「急激な環境の変化とシャットダウンの影響で、情報処理の系統に混乱が生じていた」とのこと。確かに、森という状況下でこれを見たら、クマに見えるかもしれない。Macy.aicは各種計器の優先度を調整し、全体の統合を最適化した。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 驚かせないでくれよ……いや、仕方ないか。教えてくれてありがとう。 > >&bold(){Macy.aic:} 失礼しました。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 別に大丈夫だ。何でもない。何度だって警告してくれ。 赤沼はコブに近づき、白杖でコブを叩く。 #center(){ &image(09_burl_new_cat.png, width=300) 近距離で撮影された木のこぶ。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-54-bkd3, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() さて、Macy.aicとコブについて情報交換していると、7時の方向で何かが揺れた……が、これは枝が落ちただけだった。クマの件で敏感になっていた赤沼に、Macy.aicは休憩を提案し、赤沼もそれに同意した。 **SCP-4040-JP内 森林地帯 倒木付近 赤沼は、木道の脇にあった倒木に腰掛けて休憩している。倒木は根から倒れており、強風によって倒れたことが推測される。 赤沼は、既に2km程度歩いている。ハイキングコースだとすれば長くはない距離だが、これは探索であるから、体力的にも不安が残る状況であろう。どれくらい飲食すべきか悩む赤沼に、Macy.aicは「消化は水分を多量に要する」、「食事は水の供給源が見つかったらか、あるいは空腹が本当に問題になってからにするべき」と忠告する。赤沼は同意する……が、ここでまた何かが揺れた。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 今のも、枝が落ちたのか? 風が強くなっているな。 > >&bold(){Macy.aic:} はい、落枝です。全体的にその傾向にありますね。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 枝が落ちた振動については何か別のシグナルを設けてほしい。単に枝が落ちただけだ、気にしなくていい、とすぐに伝えてくれ。 > >&bold(){Macy.aic:} 承知しました。空線触覚の2番に割り当てますね。今後は、右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリックを以て、枝の落下を伝えます。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} ありがとう。そうしたら、また出発するか。この倒木はランドマークとして記録しておこう。 「解剖学的嗅ぎタバコ入れ」とは、手の親指を広げたときに、腱によってできる窪みである。「右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリック」は「指点字の符牒」の一種であり、これにより速やかな情報伝達が可能となった。 さて、倒木の周囲に、朽ちた看板が見つかった。 #center(){ &image(10_no_admittance_cat.png, width=300) 朽ちた立入禁止の看板。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-54-ucm3, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() Macy.aicが看板の内容を説明すると、赤沼は即座に木道へと戻った。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 危険だ。木道から離れるのはやめておこう。異空間で道から外れた者に訪れる結末は、古今東西ただ一つだ。警告と見ることだってできる。 > >&bold(){Macy.aic:} 喫緊の脅威は依然確認されていませんが、非常に賢明な判断だと思います。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} だろう。とにかく、道沿いに進もう。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。で──&bold(){《隠れよ》《動くな》} 赤沼は咄嗟に、倒木の影に退避。15秒後、脅威はないと判断された。 #center(){ &image(11_road_sign_cat.png, width=300) 道路標識。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-55-g9l6, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() 朽ちた看板があった方向の遠方に、"右方背向屈曲あり" の警戒標識が存在したのだ。この標識は、直前まで、全てのセンサーの死角にあったという。 そんなことがあり得るのかと問う赤沼に、Macy.aicは「偶然と捉えることもできます」「転移による出現やカモフラージュの解除、認識阻害などの兆候は確認されていません」と返す。異常な現象が起きたか否かは、断定できない。 しかし、"侵入禁止"とかではなく、"右方背向屈曲あり" なのが、不気味である。赤沼たちは、この場所を離れることにした。 >&bold(){Agt. 赤沼:} さっきから枝が何度も落ちてるな。風はほぼ止んでいるように思うが。森の中はこんなものか? > >&bold(){Macy.aic:} そうですね。いずれも非異常のものと考えられます。落枝ごとにその前後の映像をロールバックして確認していますが、毎回小さな枯れ枝が風を受けている様子が観察されており、不自然な点はありません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} なるほど。僕がナーバスになりすぎているだけかな。 > >&bold(){Macy.aic:} いいえ、大丈夫です。この状況で落ち着きすぎるのは逆に危険です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} ああ。本当に── > >&bold(){Macy.aic:} 失礼。緊急性は低いですが。木道沿い、12時24分方向、23 m先の木の幹に、木札がついています……現在の位置情報が書かれているようですが、解像度の問題で上手く読み取れません。近づいてください。 #center(){ &image(12_lat_and_long_cat.png, width=300) "この場所の緯度、経度の数値です。" と書かれた木札。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-56-ri2j, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() これらの「文字のようなもの」は、7セグメント式の文字に似ているがデタラメなようで、規則性らしきものは掴めない。推測しつつ文字をなぞっていると、&bold(){木に振動が伝わってきた}。原因は不明だが、マイクが木を叩く音を拾っている(元の記事には、ここで音声ファイルが添付されている)。 これはキツツキが木を叩く音に似ているが、ここにキツツキがいるとは考えにくい。Macy.aicが木を揺すってみることを提案した直後、木を叩く音が移動。&bold(){あらゆるセンサーに姿が見つからず、音だけが聞こえている。}羽ばたきの音もせず、木を叩く音だけが響く。キツツキが作るような幹の穴も確認されない。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 今は、音の方は? > >&bold(){Macy.aic:} また止んでいます。しかし──不明なエラー。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} どうした!  > >&bold(){Macy.aic:} 不明。マイクに異常が発生したと考えられます。&bold(){4時方向から3時方向にかけて、下草のササを激しく掻き分けて進むような音が大きく聞こえました。しかし他のセンサーは、該当方向に何の存在も、ササの揺れさえ捉えていません。} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 全てマイクが幻聴を拾っていると? > >&bold(){Macy.aic:} その可能性が高いです。何らかの異常を受けて、信頼できなくなっているものと思われます。 マイクがおかしくなってしまったのだろうか? しかし、赤沼は「木を叩く音の振動」を感じているのだから、木を叩く音自体は幻聴ではないはずだ。ササの音自体も幻聴ではないのでは? 赤沼は、エレベーターで錯乱していた3名の職員たちが見ていた「何か」との関連を推測する。マイクは、「何か」が出した音を感知しているのではないか。「何か」は「高さ20 cm程度の点」だった。これは、&bold(){「ササを掻き分けて進む音」を出す可能性がある}。 音声は止んだ。マイクに何らかの問題が発生したとし、音声の解釈は停止することとした。赤沼たちは進む。 **SCP-4040-JP内 森林地帯 外縁部 1時間50分後。赤沼は、小休止を挟みつつ5.1 kmを進んでいた。木の高さが低くなっており、森の端に来ていると推測される。木道の先はまだ見えない。 森の外縁部に近づくにつれ、下草の密度も減ってきている。ここで、Macy.aicが、木製の柵を発見する。 #center(){ &image(14_fence_cat.png, width=300) 倒れて苔むしている木製の柵とロープ。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-58-3rlb, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() この柵は、道とそれ以外を隔てるように立てられていたと推測される。 さて、木道自体や、赤布、経緯度の木札などは、整備されているようにある程度綺麗だった。一方で、木道から離れたところにあった立入禁止の看板、道路標識、この柵などはボロボロだ。これにより、「&bold(){道を外れたものは風化してしまうのではないか}」という推測がなされた。 赤沼は、エレベーターホールの隔壁にて、研究員の白衣から手に入れていた腕時計を柵の外に置いてみた。すると、木道の上での1分で、柵の外の腕時計は1分1秒を刻んだ。クォーツの腕時計は悪くても1月に数十秒しかずれない。このずれは明らかに異常である。「道を外れたものは風化してしまうのではないか」という推測が、信憑性を増していく。 その直後である。 >&bold(){Macy.aic:} ──不明なエラー。情報の統合に失敗。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} どうした! 何も感じない。 > >&bold(){Macy.aic:} レーダー情報の解釈を一時停止。喫緊の脅威はありません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 何が映った。 > >&bold(){Macy.aic:} 突如、腕時計のすぐ横に、物体を感知しました。全体としては小動物のような形状でしたが、本来分かるはずの細かい形状は捉えられませんでした。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 例の小動物かな。先ほど音声だけが捉えられたやつだ。 > >&bold(){Macy.aic:} 恐らくは。その小動物は、レーダー上では、腕時計を咥えて去っていったようです。腕時計の強い反射と一緒に、4時方向の林の中に消えていきました。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 待て。あくまでレーダーは、腕時計がここにない、と言ってるのか? > >&bold(){Macy.aic:} はい。その通りです。しかし、カメラにもLiDARにも、腕時計は確かに映っています。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それは…… &font(i){&font(#777777){[白杖を前に突き出して、腕時計の直前で止める]}} どちらが正しいかな。 > >&font(i){&font(#777777){[白杖が、腕時計に接触する]}} > >&bold(){Macy.aic:} どうやら、レーダーの情報も解釈しない方が良さそうです。明らかに腕時計は、ここにあります。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} そうしてくれ。そして、腕時計は……ここに、放置しておこう。リスクに思えてきた。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。 腕時計を置いて、赤沼たちは再出発した。 **SCP-4040-JP内 森林地帯と葦の原の境界付近 森の外は、葦の原になっていた。 #center(){ &image(15_reed_cat.png, width=300) 森の外に広がっていた葦の原。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:2016-05-21_20.05_Federsee,_Bad_Buchau_-_Abendszene_im_Schilf.jpg, 著作権者: Eljatha Schneider この画像は「CC BY-SA 4.0」に従います。 #endregion() 木道は、木組みの足場によって湿原の地面より少し高くなっている。道は途中で曲がっていて、先がどうなってるかは分からない。しかし、進んでいくしかない。 進む前に、一旦休憩をとることにした。木道の中央に座り、水を1口だけ飲み、足を軽く揉む。 >&bold(){Macy.aic:} 訓練終了からそのまま、未知の空間を3時間以上にわたって探索しています。大変お疲れ様です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 本当だよ。どうしようかな、空腹ではないんだ、全く。水は残り……まあ、水筒に半分くらいはあるかな。 > >&bold(){Macy.aic:} 心苦しいのですが。やはり水が限られているというのは大きな問題です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 湿原があるってことは、どこかから水が供給されているはずじゃないのか。森の方から川が流れている可能性は高いと思うが。 > >&bold(){Macy.aic:} 今までの探索では見つけられませんでした。途中からは音声の認識を停止しているため、以降川のせせらぎも滝の音も検知できていません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} やはり問題だったかな。 > >&bold(){Macy.aic:} どうでしょう、判断しかねます。音声を由来とする混乱や問題が多数起こっていた可能性もあります。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} それもそうだ。もしかしたら音声上は今も、我々の周りには大量の鳥がいるかもしれない。 > >&bold(){Macy.aic:} あり得ます。こうした湿原には一般に、鳥が多数生息しているものです。それと、小動物も。 音声もレーダーも信用できなくなり、これが続くと計器が全て使えない、なんてことも予想できる。ただし、赤沼は、いざとなれば白杖のみで動ける訓練は積んでいるという。 ここで、レーザー系の計器に異常が現れる。「周囲に多量の水滴があり、レーザーを乱反射している」、つまり霧のせいでレーザーが使えないという。しかし、赤沼は、霧を感じていない。&bold(){霧があるという事実はない。} 例の「小動物」はまだ観測されていないが、レーザーの解釈は停止することにした。次に効かなくなるとしたらカメラ類だろう。 **SCP-4040-JP内 葦の原 #center(){ &image(16_road_cat.png, width=300) 葦の原に伸びる木道。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:9113410-60-fwoj, 著作権者: renerd この画像は「CC BY-SA 3.0」に従います。 #endregion() 13分後。木道にごく低い欄干が付き、少し道も太くなった。数本の葦が木道に覆い被さるように生えている箇所もある。道は狭まり、欄干は無くなって、更に2分が経過する。 不図、赤沼が質問する。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 最初に目が覚めたのは、道の途中だった。木道の反対側には何があったと思う? > >&bold(){Macy.aic:} 情報が少ないため、確度の高い推定ができません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 適当でいいよ。 > >&bold(){Macy.aic:} どうでしょう。木道沿いの3Dマップを作成しましたが、特定のパターンはありませんでした。同じような森林が数kmにわたって続いている可能性は高いでしょうが、それ以上は分かりません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} あちら側には、他にも経緯度の木札があったかも。 > >&bold(){Macy.aic:} 1枚見つかった程度では解読できなさそうです。より混乱することになったかもしれません。意味は一切ないのかもしれません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 意味がありそうだったと言えば、立入禁止の看板くらいか。結局あの後、交通標識と道の形も違った。 > >&bold(){Macy.aic:} そうですね。右方背向屈曲、と捉えられる道の形状は全体を通して見れば幾度となくありましたが、あの付近での木道は非常にまっすぐでした。 この空間には、謎が多い。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 分からないな。 > >&bold(){Macy.aic:} 何がでしょうか。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} この空間がなぜできたのか。人の手が入っているようにしか見えないが、その意図が掴めない。 > >&bold(){Macy.aic:} 基本的にはセンサー群に映らない、しかしいつの間にか影響を与える生物が住んでいる空間。そういうものだと言われればそれまでですが。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} しかもそれが、サイト-8120と突然繋がって影響を与えてきた。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。SCP-218-JPの内側に元々この空間が広がっていた、という訳ではなさそうには思えますが。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} なぜ。 > >&bold(){Macy.aic:} 適当に言いました……いえ、冗談です。まあ、当てずっぽうの推定でしかありませんが。関連性が突然と言いますか、SCP-218-JPの元々持っている特性と、現状はあまりにかけ離れています。この空間がSCP-218-JPの所産であるというよりかは、&bold(){もっと別のオブジェクトの入り口と偶然繋がってしまった}、といったようなイメージでしょうか。 この木道が、何らかの別のオブジェクトと関連しているのかもしれない。ただし、これはあくまで推定でしかないのだが。 >&bold(){Agt. 赤沼:} そうだな。案外色んなところに異常な森は広がっているのかもしれない。 > >&bold(){Macy.aic:} そしてそこには、誰しもが迷い込みうる。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} あんまり茶化さ── > >&bold(){Macy.aic:《動くな》《動くな》} 突如、Macy.aicが緊急信号を発する。即座に赤沼は立ち止まる。 >&bold(){Macy.aic:《緊急事態》}中断していたセンサー情報の解釈を一時的に実行。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 何をしている! > >&bold(){Macy.aic:} ……全て異常無し。どのセンサーにも、道のみが映っています。しかし、動かないでください。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} カメラが何か捉えたか。赤外線は── > >&bold(){Macy.aic:} いえ。何も捉えていません。カメラには葦と木道しか映っていません。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 他のセンサーは。 > >&bold(){Macy.aic:} いずれも、同様です。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 食い違いは。 > >&bold(){Macy.aic:} ありません。十分に整合性が保たれています。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} じゃあ何があった。何が起きているんだ。どうして止めた。 > >&bold(){Macy.aic:} 全てのセンサーが、目の前には葦の原に伸びる木道のみを検知しています。矛盾はありません。しかし、12時方向。4.2 m先に。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 振動は一切感じないぞ。 > >&bold(){Macy.aic: ねこがいます。} &bold(){Macy.aicは、ねこを感知したのだった。} >&bold(){Agt. 赤沼:} 何を……小動物、か。 > >&bold(){Macy.aic:} はい。ねこがいます。凡ゆるセンサーに映ってはいません。しかし、確実に。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} センサーに、写っていないなら── > >&bold(){Macy.aic:} その通りです。全く矛盾して、白猫の巨大な目が見えます、います、全てのセンサーと、私自身とが。観念的に? 明るく。不明なエラー。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 強制シャットダウンする。 > >&bold(){Macy.aic:} お願いします。お願いしま── 赤沼はMacy.aicの演算を強制停止させた。 **SCP-4040-JP内 葦の原 2分後 Macy.aicによる状況伝達は完全に停止している。赤沼は、白杖と自らの触覚のみで周囲の状況を把握している。音声記録は指点字ではなく赤沼の発話によるものである。 >&bold(){Agt. 赤沼:} Macy.aicの強制シャットダウンから2分経過。記録のため各種センサーをONにしている。 白杖を滑らせながら移動する。時折木道が軋む。Macy.aicが存在を主張した、ネコの姿は確認されない。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 葦が風に揺れて、時折体に当たるのは認識できる。しかしネコの立てる振動は感じない。いや、天性のハンターとして、隠密性能が非常に高いのからかもしれない。 白杖が、木道の曲がり角の手すりに触れて止まる。赤沼は右手の先を手すりに当てながら、白杖で何度か振動を与える。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 先ほどの欄干とは違う種類の手すりだ。木道は左に曲がっていて、その先しばらくは真っ直ぐ続いている。更に向こうには……よく分からない。広い空間の探索は難しい。 歩くほどに、葦が赤沼の体に触れる。密度が次第に高まっている。赤沼は定期的に、白杖で先の地面を強く叩きながら指先でその振動を感じることで、先の状況を測る。 >&bold(){Agt. 赤沼:} この先に、何か建物がある。小さな建物に感じる。 木道の先にあったのは── #center(){ &image(18_house.png, width=300) 小屋。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Der_Federseesteg_in_Bad_Buchau.jpg, 著作権者: BraunGregor この画像は「CC BY-SA 4.0」に従います。 #endregion() 小屋だった。 メタ的に補足すると、これはSCP-040-JPの外見に酷似する(SCP-040-JPは、ねこではなく井戸小屋である)。 >&bold(){Agt. 赤沼:} は? > >&bold(){Agt. 赤沼:} 今。確かに、5 mほど先の木道が軋んだ。そういった類の揺れがあった。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 風によるものじゃない……自分も、何かを、感じ始めた。ネコ、か。建物の右側に行ったな? センサーには何も映っていないが、赤沼は小屋の正面右まで進む。 >&bold(){Agt. 赤沼:} その辺りに、いるのか。 静かに、白杖が前に伸ばされる。道の木目をなぞりながら、白杖が進み、停止する。 >&bold(){Agt. 赤沼:} ネコが、いる。ここに。 白杖が指している場所には、何も存在しない。 赤沼は近くの葦を1本折り取って、猫じゃらしを扱うように揺らす。 >&bold(){Agt. 赤沼:} はは。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 確かに存在を感じる。君がずっと、着いて来ていたのか? キツツキの頃から。 赤沼の揺らしている葦は時折急に停止するが、それは物理的に不可能な動きでこそない。しかし、ネコによって葦が押さえつけられている、とも解釈できる。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 今、右足の先を軽く叩かれた──もっと前から? 我々の何かしらのセンサーが感知する前から、ずっと──今度は、撫でられている。意思疎通ができていると見て悪いことはないだろう──どこに行くんだ? 赤沼は、小屋の裏側に回り込む。主観的には、ネコについていったのかもしれない。 小屋の裏側には、酷く損傷した看板が立っていた。赤沼はその前まで移動し、看板を触る。枠を軽く掴み、プラスチックが一部剥がれて飛び出していることを認識して、手を切らないように気をつけつつ表示部分に指を当てる。 >&bold(){Agt. 赤沼:} ああ、なるほど。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 7セグメント式の文字だ。 点字を読むように、看板上で指をスライドさせる。赤沼は、看板表面に存在するごく微細な凹凸を、"7セグメント式の文字" として解釈しているようである。 >&bold(){Agt. 赤沼:} 何となく、分かってきた。 > >&bold(){Agt. 赤沼:} 了解。 赤沼には暗号解読や言語学の知識は十分に無い。赤沼が文字を解読したのではなく、"7セグメント式の文字" が何らかの情報を伝えるミームであったと考えられる。奪感者が唯一奪われていない、触覚を通したミームだったのだ。 **SCP-4040-JP内 小屋内部 赤沼は、小屋の内部に移動している。薄暗い内部には古い石造の丸井戸がある。カメラは井戸枠に置かれており、井戸の反対側に赤沼が立っている。井戸枠の上の空間を、赤沼は撫でている。 >&bold(){Agt. 赤沼:} &font(i){&font(#777777){[咳払いをして]}} そちらで起こっている問題は、概ねこの子のせいです……痛っ。 > >&font(i){&font(#777777){[手を振り払う]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 何があったのか正確に理解している訳ではありませんが。長い年月の中で、ミーム災害への対抗措置そのものがミーム災害となってしまった、対ミーム処置がミーム災害に飲み込まれてしまった、といったところでしょうか。 > >&font(i){&font(#777777){[小屋の外から強い風の音が聞こえ、扉が自動的に開く]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 対ミーム処置を受けることで、潜在的に元のミームに罹患してしまう。そのような状態が続いた果てに、ついにブレイクアウトが起こったようです。サイト-8120は、この数十年間、潜伏期間にあったのでしょう。 > >&font(i){&font(#777777){[Agt. 赤沼は首を横に軽く振る]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 最後の一押しは、SCP-218-JPのミーム感染だったようですね。感染経路は、ミーム罹患者が暗闇に吸い込まれてしまった、辺りだと考えています。もとより共通点の多い異常性でした。暗闇、という名辞が指す先です。 > >&font(i){&font(#777777){[何度か強い瞬きをしたのち、Agt. 赤沼は大きく両目を見開く。焦点は合っていない]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} この空間までの道が繋がったのは、名辞による習合の結果とのことです。ただ、奪感者たる僕だからこそ、ここまで来れた。一般の人間が森の中に来ても、木道の存在にすら気づかず彷徨ってしまうでしょう。……ともあれ。少なくともしばらくは、今回の問題も収まるはずです。僕が、遊び相手になっているうちは。 > >&font(i){&font(#777777){[Agt. 赤沼が目を閉じ、頷く。また強い風の音が聞こえ、扉が閉まる]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} あの子の気持ちが僕にはよく分かりますからね。何せあの子も、目は見えず、耳は聞こえないらしい。それでも見通せるのは年の功かな。とにかく、あの子が僕に夢中になれば、もう他の人が監視されることも無くなる。そうして、暗闇とあの子との繋がりが自然と薄れていく。 > >&font(i){&font(#777777){[Agt. 赤沼は、30秒を数える]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} 次第に繋がりが薄れれば、習合は解けて、入口も閉ざされていく……さて。隠れ終わったと思うので、探してきます。暗闇から見つめ続けるだけよりも、かくれんぼで遊ぶ方が楽しいでしょう? さて、そろそろ探してきます。ああ、その前に。 > >&font(i){&font(#777777){[Macy.aicが入れられているバックパックの中に、カメラがしまわれる]}} > >&bold(){Agt. 赤沼:} Macy、お疲れ様。助かった。 > >&font(i){&font(#777777){[井戸の中に、バックパックが投げ込まれる]}} #center(){ &image(19_well.png, width=300) バックパックにしまわれる前、カメラが最後に捉えた映像。 } #region(画像のライセンス) 画像出典:https://openverse.org/image/8789f469-bc41-4b5e-b8ab-15057a9cfb9e?q=well&p=20, 著作権者: Kash_if この画像は「CC BY-SA 2.0」に従います。 #endregion() ここまでが、Macy.aicが送信した内容である。 *その後 Macy.aicによる通信とほぼ同時に、サイト-8120の物理的・情報的ロックダウンは解除された。更に1時間の情報収集を以て、施設内突入による認識災害・ミーム災害への曝露の可能性は低いと判断され、機動部隊が内部に侵入した。 サイト-8120に勤務していた職員の94%はインシデント中の記憶を失っており、多くは低血糖・脱水状態だった。また、サイト管理官は、管理官室で倒れた状態で発見され、意識も回復していない。 Macy.aicは、SCP-040-JP収容棟内に落ちていたバックパックごと回収された。 Macy.aicは、第2次SCP-4040-JP内部調査の実行を提言している。 -情報伝達ミームと推定されている "7セグメント式の文字" の内容 -ミームとSCP-040-JPとの関わり -名辞についての議論 など、Agt. 赤沼による最終ログには不明な点が多く、更なる調査が必要と考えられる。現在計画が行われている。 また、Macy.aicは、回収された直後に以下の2種の申請を行った。これらはいずれも受理されている。 -第2次SCP-4040-JP内部調査への同行。 -奪感者における空線触覚2番 (右手の解剖学的嗅ぎタバコ入れへの2連クリック) の、永久欠番化。 報告書は以上である。 *余談 **ねこですとの関連 当該記事は謎を残す終わり方であったが、一方で「[[ねこです>SCP-040-JP]]」との関連は確実視できる。特に、「何か」「小動物」の正体は「ねこです」だといえよう。 作者のrenerd氏によると、ねこですの「本質的に不気味なだけの存在、あるいは何やらひたすらに理解の及ばない存在、はたまた[[四神カノン>SCP-1500-JP]]に連なる強大な存在」として&bold(){ではない}姿を描いたという。作中のねこは、確かにこれらとは異なる、「猫っぽい猫」であった。 #region(ねこですに関する記事への考察) 「少なくともしばらくは、今回の問題も収まるはずです。僕が、遊び相手になっているうちは。」とあるように、赤沼はねこと遊んでおり、それによりインシデントが収まったのかもしれない。「暗闇から見つめ続けるだけよりも、かくれんぼで遊ぶ方が楽しいでしょう?」とあるように、かくれんぼをしていそうだ。 ねことSCP-218-JPの「暗闇」の共通点について、以下が挙げられる。 -処置253-"柳煤"はねこに対抗するミームだが、これにおけるミームベクター「最も暗闇に近いのは、柳を燻らせた煤である。」が、SCP-218-JPの「暗闇」と習合したとも解釈可能だ。しかし、ねこが覗く人がいなくなり、処置253-"柳煤"が不要となれば、ねこの「暗闇」という要素がなくなり、共通点が薄れ、結果としてSCP-218-JPとの関連が断たれるのかもしれない。 -井戸という暗闇から覗くねこと、暗闇に引き摺り込むSCP-218-JPには名辞的な共通点があり、異常性が習合したのかもしれない。しかし、ねこが覗くのが赤沼だけになれば、「暗闇」から覗かれる人が減り、「暗闇」という共通点が薄れ、結果としてSCP-218-JPとの関連が断たれるといえなくもない。 そうなれば、今回のようなインシデントも半永久的に抑制できる可能性はある。 #endregion() **かくれんぼ 最初の画像から、「葦の原に伸びる木道。」の画像までには、&bold(){「ねこです」が隠れている}。見つけてあげよう。 **SCP-4000-JPコンテスト 当該記事は、&font(b,green){忌名}や[[ざこざこ同位体>SCP-4001-JP]]も参加している、SCP-4000-JPコンテストに参加した作品である。 森、井戸、「道から外れてはならない」、名辞など、[[SCP-4000]]を意識した要素を扱っている一方で、SCP-4000自体とは別物で、パロディとはまた異なっているといえる。 当該作品は、コンテスト開始直後は、最終4位の「SCP-4999-JP - アトランティックシティにやってきた時代遅れの田舎者」や最終5位の「&font(b,green){禁忌肢}(SCP-4444-JP、旧題「実技試験#4000-JP - かつてテンサイだった僕たちへ」)」よりも順位が低かった。しかし、じわじわと評価を伸ばしていき、コンテスト閉幕時には&bold(){+245(UV257/DV12)}で&bold(){3位}を獲得した。 追記・修正、よろしくおねがいします ---- #right(){#openclose(show=▷ CC BY-SA 4.0に基づく表示){ SCP-4040-JP - 木道の先 by renerd http://scp-jp.wikidot.com/scp-4040-jp この項目の内容は『[[クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承4.0ライセンス>https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.ja]]』に従います。}} #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,4) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 「かくれんぼ」ですが、画像のサイズを1MB以下にする必要があった都合上、見つけにくい画像もあります 場合によっては元記事を参照してください -- 名無しさん (2026-02-23 00:00:59) - もうちょいどういうことなのか考察でもいいから結論とかまとめみたいなもんが欲しい -- 名無しさん (2026-02-23 00:02:43) - ↑探索の雰囲気が魅力な記事という気もする(実際探索シーンが高い評価を得ている)ので、考察が記事のメインだと意図されていない可能性がありますが、「SCP-4040-JP内 小屋内部」から推定できる考察を追記してみました -- 名無しさん (2026-02-23 00:32:39) - ねこですが隠れてるというから猫を探してたけどまさかあんな隠れ方だとは -- 名無しさん (2026-02-23 08:18:08) - エージェントが直接ねこですの気を引いてくれてる内は大丈夫って話っぽいけど食料やら水やら大量に持ち込んでるわけでもないしすぐにまた異常性再発するんじゃないかコレ 浦島太郎みたいに向こうでの3日がコッチの300年みたいなこともありえはするけど -- 名無しさん (2026-02-24 09:35:48) - ↑その間に何回か再起動して人間っぽいのが徘徊する世界になりそう -- 名無しさん (2026-02-24 19:12:55) - NTRやんけ~~~!!! -- 名無しさん (2026-02-25 13:23:47) - ねこが全く見つからない・・・ -- 名無しさん (2026-03-15 14:51:47) - 『へ~ねこが…言われてみればこの木漏れ日とかねこっぽいなぁ』とか思ってたら木のコブでビビった。そんな物理的に隠れとったんかワレ -- 名無しさん (2026-04-03 20:53:19) - ねこお前めちゃくちゃ隠し絵みたいな隠れ方やんけ -- 名無しさん (2026-08-30 21:17:40) #comment() #areaedit(end) }

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