登録日:2026/10/09 Fri 19:11:44
更新日:2026/10/09 Fri 20:41:49NEW!
所要時間:約 20 分で読めます
キノコといえば「秋の味覚」としておなじみだが、食べると危険な
毒キノコなど、その種類は実に様々である。
そんなキノコの中には、古くから薬として利用されてきたものも存在する。
中国をはじめとする東アジアでは、マンネンタケや冬虫夏草などが伝統的に珍重され、我が国でもマツホドといったキノコが生薬の原料として利用されてきた。
また、普段は食用として親しまれているキノコから、薬用に関係する成分が発見された例もある。
一口に「薬になるキノコ」といっても、その姿や生態、人間との関わりは実に様々なのである。
なお、本項では主に薬用利用の歴史を持つキノコを紹介する。ここで紹介するキノコが、いずれも医薬品として利用できるというわけではなく、本項も医薬品としての利用を推奨するものではない点に留意されたい。
※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください
概要
キノコは古くから食用として利用されてきたが、地域によっては薬用としても重宝されてきた。
特に中国では、マンネンタケをはじめとするキノコが伝統医学の中で珍重され、様々な伝承や文化とも結びついている。また、キノコそのものを利用するだけでなく、地下に形成される菌核を取り出して生薬とするものもあり、チョレイマイタケやマツホドがその代表例である。
一方、シイタケやマイタケのように、食用として広く親しまれているキノコについても、含有成分に関する研究が進められてきた。カワラタケのように、菌糸体から得られる成分が医薬品として利用された例も存在する。
このように、薬用利用の歴史を持つキノコといっても、その利用方法や人間との関わりは一様ではない。伝統医学の中で受け継がれてきたものから、現代の研究を通じて注目されるようになったものまで、様々な種類が存在する。
なお、伝統的に薬用とされてきたことと、現代医学において有効性や安全性が確立していることは別である。各キノコの薬用利用についても、その歴史や背景を踏まえて理解する必要がある。
薬用キノコカタログ
シイタケ(椎茸、Lentinula edodes)
ツキヨタケ科シイタケ属のキノコ。日本をはじめとする東アジアで古くから食用にされてきた。
傘は褐色で、裏側には白色のひだが並ぶ。広葉樹の枯れ木や倒木などに発生し、春と秋を中心に見られる。現在では原木栽培や菌床栽培が広く行われており、スーパーでもおなじみの存在である。
乾燥させたものは保存性に優れ、水で戻すことで独特のうま味が引き出される。煮物、鍋物、炒め物など用途も幅広く、日本の食生活に欠かせないキノコの一つとなっている。
シイタケに含まれる成分の一つに、β-グルカンの一種であるレンチナンがある。これはシイタケ由来の成分から開発された医薬品にも関係しており、食材として身近なシイタケが、医療の分野でも注目されてきた例といえる。
普段何気なく食べているキノコにも、こうした一面があるのだ。
マイタケ(舞茸、Grifola frondosa)
タコウキン科マイタケ属のキノコ。主に秋、ブナやミズナラなどの広葉樹の根元や切り株付近に発生する。
多数の扇形の傘が重なり合い、大きな株を形成するのが特徴。傘の色は灰褐色から暗褐色で、株全体が幾重にも重なる様子は、まるで花が咲いたかのようにも見える。
和名の由来については、見つけた人が舞い上がるほど喜んだためとする説などが知られている。
食用キノコとして非常に人気が高く、天然物だけでなく栽培品も広く流通している。香りや歯ごたえに優れ、天ぷら、炊き込みご飯、鍋物などに利用される。
シイタケと同様に多糖類などの成分が研究されており、マイタケ由来の成分についても薬理学的な研究が行われてきた。
なお、天然のマイタケは毎年必ず同じ場所に発生するとは限らず、山中で見つけることは容易ではない。
そのため、1970年代に栽培技術が確立されるまでは「幻のキノコ」の扱いを受けていた。
ホコリタケ(埃茸、Lycoperdon perlatum)
ハラタケ科ホコリタケ属のキノコ。丸みを帯びた球形から洋梨形の子実体を形成し、成熟すると内部に大量の胞子を作る。
若い個体は白色で、表面には細かなかさぶた状の突起が見られる。成熟すると内部が褐色の胞子で満たされ、外皮が破れたり穴が開いたりすると、そこから胞子が煙のように噴き出す。
この様子が埃を吹き出すように見えることから、「ホコリタケ」の名が付いたと考えられている。
若い個体は食用にされることもあるが、成熟したものは食用に適さない。
また、ホコリタケ類の一部は、中国の伝統医学で「馬勃」と呼ばれる生薬に関係する。
「馬勃」は、成熟したホコリタケ類の胞子を含む部分を乾燥させたものとして知られる。止血やのどの炎症などに効果があるという。
オニフスベ(鬼瘤、Calvatia nipponica)
ハラタケ科ノウタケ属に属する大型のキノコ。主に林縁や草地などに発生する。
一般的なキノコのような傘や柄は目立たず、子実体は大きなバレーボールのような白い球体のような姿をしている。大型の個体では直径50cmを超えることもあり、時には人間の頭部をはるかに上回る大きさに成長することもある。
かなりの大きさの子実態から、鬼のふすべ(瘤)を連想して「オニフスベ」という名前が付けられた。
若い個体の内部は白く、はんぺんに似た肉質で、成熟すると次第に黄褐色から褐色の胞子塊へと変化する。胞子が成熟した個体は食用に適さない。
近縁のホコリタケ類と同様、オニフスベも「馬勃」として伝統的な薬用利用に関係するキノコである。
ヤマブシタケ(山伏茸、Hericium erinaceus)
サンゴハリタケ科ヤマブシタケ属のキノコ。広葉樹の枯れ木や傷んだ幹などに発生する。
白色の球形から塊状の子実体を形成し、表面から多数の針状の突起を垂らす。一見すると、白い毛玉や獅子のたてがみを思わせる。
和名は、山伏が身に着ける装束の飾りに似ていることに由来するとされる。
中国などでは食用として親しまれ、料理に利用されるほか、乾燥させたものが「猴頭」という名称で漢方薬として利用されるなど、伝統的な薬用利用の歴史も持つ。
近年は、ヤマブシタケに含まれる成分についても研究が進められている。
特徴的な姿だけでなく、食用・薬用の両面から注目されるキノコである。
マンネンタケ(万年茸、Ganoderma lucidum)
東京都薬用植物園にてmakinomantaro撮影
マンネンタケ科マンネンタケ属のキノコ。別名を霊芝という。
広葉樹の切り株や枯れ木などに発生する木材腐朽菌で、傘は腎臓形や扇形。表面には赤褐色から暗褐色の光沢があり、まるで漆を塗ったような外見をしている。柄は側方に付くことが多く、子実体全体が硬く丈夫なのも特徴。
中国では古くから霊芝の名で珍重され、長寿や吉祥の象徴として美術工芸品や図案にも取り入れられてきた。わが国でも霊芝の名で知られ、伝統的な薬用利用や健康食品などを通じて広く認知されている。
なお、霊芝という呼称は文脈によって複数の近縁種やその加工品を指す場合もあるため、必ずしも一種類のキノコだけを意味するとは限らない。
マゴジャクシ(孫杓子、Ganoderma neo-japonicum)
東京都薬用植物園にてmakinomantaro撮影
マンネンタケ科マンネンタケ属のキノコで、木材腐朽菌で、傘は腎臓形や扇形。表面には赤褐色から暗褐色の光沢や放射状のシワがある。柄は側方に付くことが多く、子実体全体が硬くて丈夫である。
マンネンタケと非常によく似た見た目をしているが、マンネンタケが広葉樹林で生息がみられるのに対し、本種はマツやモミなどの針葉樹林で生息がみられる。
また、マンネンタケが北半球の各地域で生息が確認されているのに対し、本種はわが国の固有種である。
メシマコブ(女島瘤、Phellinus linteus)
タバコウロコタケ科キコブタケ属に属する硬質のキノコ。クワなどの広葉樹に発生することで知られ、樹木の幹や枝に、硬く丈夫な子実体を形成する。
傘は半円形から馬蹄形で、表面は黄褐色から暗褐色。成長すると大きく硬くなり、一般的な食用キノコのような柔らかい姿とは異なる。
温度、湿度、日当たりなどの環境が整わないと菌糸が育たず、栽培も培養も難しいことから「幻のキノコ」と呼ばれてきた。
和名の「メシマコブ」は、長崎県男女群島の女島で生息が確認されたことと、木にできた瘤のような見た目をしていることから。
中国では生息方法と色合いから「桑黄」と呼ばれ漢方薬としても珍重されてきた。ただし、「桑黄」と呼ばれるキノコとメシマコブは必ずしも同一でないことが遺伝子解析で明らかになっている。
抗がん作用や免疫増強作用があるという。
チョレイマイタケ(猪苓舞茸、Polyporus umbellatus)
タマチョレイタケ科タマチョレイタケ属に属するキノコ。広葉樹林の地中や根元付近に菌核を形成し、そこから地上に子実体を伸ばす。
子実体は太い柄から多数の枝が分かれ、その先に小さな傘が集まる。全体として大きな房のような姿になり、一つ一つの傘は灰褐色から褐色を帯びる。
マイタケと同様に、多数の傘が集まったような外見をしているが、分類上は別のキノコである。
薬用に利用されるのは、地上に出ている傘の部分ではなく、地下に形成される菌核で、これを乾燥させたものは、生薬の「猪苓」として知られている。
猪苓は日本薬局方にも収載されている生薬であり、漢方方剤の原料として利用されてきた。
消炎、解熱、止褐、利尿薬、抗がん剤としての効果があるといわれ、近年は抗腫瘍効果があるとする研究も公表されている。
マツホド(松塊、Wolfiporia extensa)
東京都薬用植物園にてmakinomantaro撮影
タマチョレイタケ科マツホド属に属する菌類。別名を茯苓という。
主にマツ類の根の周辺など、地中に菌核を形成する。菌核は大きな塊状で、外側は褐色から暗褐色、内部は白色を呈する。地上に傘を広げる一般的なキノコとは異なり、地中の菌核がよく知られている。
マツホドの菌核を乾燥させて外層をはがしたものは、生薬の「茯苓」として利用される。茯苓は日本薬局方にも収載されており、漢方方剤に配合される生薬の一つである。
古くから東アジアの伝統医学で利用されてきた歴史があり、現代でも栽培され、生薬として扱われている。
現在ではハウス栽培されて大量に流通するが、天然ものしかなかった時代は、松の切り株の腐り具合から見当をつけて先の尖った鉄棒を突き刺して地中に埋まっている茯苓を見つける「茯苓突き」と言う特殊な技能が必要だった。
茯苓の中央に松の根が通ったものを茯神と言い、神経安定効果が特に高いと言われる。これも栽培技術が確立されている。
地中に形成される菌核を利用するという点でも、特徴的なキノコといえる。
カバノアナタケ(樺孔茸、Inonotus obliquus)
東京都薬用植物園にてmakinomantaro撮影
タバコウロコタケ科サビアナタケ属に属するキノコ。ロシア語の「チャーガ」の名でも知られ、主にシラカンバなどのカバノキ属の樹木に寄生する。
樹皮の外側には、黒くごつごつとした塊状の部分が形成される。表面は黒色でひび割れ、内部は黄褐色から橙褐色を帯びる。一般的なキノコの傘とは大きく異なるため、初めて見ると樹木にできたコブのように感じられるだろう。
子実体は樹皮の内側などに形成され、外側から目立つ黒い塊は、菌糸が集まった部分として知られる。
ロシアなどの寒冷地域では古くから利用されてきた歴史があり、煎じて飲む習慣などでも知られる。
わが国でも「チャーガ」の名で粉末品が健康食品として出回ることがある。
シネンシストウチュウカソウ(冬虫夏草、Ophiocordyceps sinensis)
東京都薬用植物園にてmakinomantaro撮影
オフィオコルジケプス科オフィオコルジケプス属に属する昆虫寄生菌。狭義の冬虫夏草として知られる。
主にチベット高原などの高山地帯に分布し、コウモリガ科の幼虫に寄生する。菌は宿主の体内で成長し、やがて地中の幼虫の死骸から細長い棒状の子実体を地上に伸ばす。
虫の体とキノコが一体となったような独特の姿が最大の特徴である。
「冬虫夏草」という名は、冬には虫の姿をしていたものが、夏には草のような姿を現すことに由来する。ただし、これは植物の草に変化するという意味ではなく、昆虫に寄生した菌類が子実体を形成する様子を表したものである。
我が国での広い意味での「冬虫夏草」は昆虫などに寄生する様々な菌類の総称として使われることもあり、シネンシストウチュウカソウはその中の一種にあたる。なお、中国で「冬虫夏草」というと、専ら本種のみを指し、それ以外の虫に寄生するキノコは「虫草」の名称で呼ばれる。
中国では古くから伝統医学の原料として珍重されてきた。特に四川地方では下ごしらえをしたアヒルの腹に湯で戻した乾燥させた本種を詰め、ネギ、ショウガ、紹興酒などを加えてじっくり煮るスープの「虫草鴨子」という薬膳料理が知られている。こうして調理した本種は特に味らしい味はしないものだが、料理自体の見た目はかなり独特である。
天然品は採取できる地域が限られ、希少性が高いことから、高価な生薬としても知られている。
カワラタケ(瓦茸、Trametes versicolor)
タマチョレイタケ科カワラタケ属のキノコ。広葉樹の枯れ木や切り株などに発生する木材腐朽菌で、日本各地の森林などで見られる。傘は薄い扇形で、表面には灰色、褐色、黒色などの色帯が幾重にも現れる。多数の傘が重なり合って生える姿が屋根瓦に似ていることから、「カワラタケ」の名が付いた。
肉質は薄く、革のように硬い。枯れ木を分解する菌類として森林の物質循環に関わっている。
菌糸体から得られる多糖タンパク質の一種PSKは、かつて抗悪性腫瘍剤「クレスチン」の有効成分として利用された。このクレスチンという物質は、かつて抗がん剤として使用されたが、後の調査で効果に疑問があることがわかってから使われなくなり、現在は薬効がないことが判明している。更に、身体に悪い細胞毒性を示す成分も含まれていることが分かり、現在は本種を毒菌として見る向きもある。
このように、本来は薬用キノコの範疇から外れる種であるが、注意喚起のためあえて本項に記載した。
エブリコ(恵布里古、Fomitopsis officinalis)
Laricifomitaceae科エブリコ属に属するキノコで、かつてはツガサルノコシカケ科ツガサルノコシカケ属に属すとされていたが、分子系統解析により分離された。
主にカラマツなどの針葉樹の老木に発生する木材腐朽菌で、北半球の寒冷な地域を中心に分布する。日本では北海道や本州中部以北の亜高山帯などで見られるが、発生は稀である。
子実体は釣鐘形から馬蹄形で、柄はなく、樹木の幹に横から張り出すように形成される。表面は白色から灰褐色で、成長すると不規則なひび割れが生じる。下面には細かな孔が並び、年々新しい管孔の層を形成する多年生のキノコである。肉質は白色で硬く、非常に強い苦味を持つ。
和名の「エブリコ」はアイヌ語に由来し、薬用を意味するとされる。アイヌの人々による利用のほか、日本でも古くから民間薬として知られ、かつては健胃剤や制汗剤などに用いられた。成分としてはアガリシン酸が知られ、かつては結核に伴う発汗を抑える薬の原料としても扱われた。
ただし、本種に含まれるアガリシン酸は有毒成分にもなりうることが分かり、現在は薬用としては利用されない。こちらも本来は薬用キノコの範疇から外れる種であるが、古い書籍では情報が修正されていない場合もあるので、注意喚起のためあえて本項に記載した。
樺太アイヌや北海道の屈斜路湖周辺のアイヌは火打石で火を起こす際、このキノコの粉末を火口として用いた。薬用以外にも、生活の中で利用されてきたキノコの一つであるといえる。
まとめ
このように、一口に「薬になるキノコ」といっても、その姿や生態、利用の歴史は実に様々である。
普段食卓に並ぶシイタケやマイタケから、地中に菌核を形成するチョレイマイタケやマツホド、さらには昆虫に寄生する冬虫夏草まで、人間は多種多様な菌類を食用や薬用などに利用してきた。中には、伝統医学の中で珍重されてきたものや、含有成分が医薬品の開発につながったものも存在する。
一方で、古くから薬用とされてきたことが、必ずしも現代医学における有効性や安全性を保証するわけではない。利用の歴史と現在の科学的知見を区別して理解することも重要である。
身近な食材から珍しい菌類まで、キノコと人間との関わりは奥深い。森の中や食卓でキノコを見かけたときには、その姿の向こうにある多様な生態や、人々が積み重ねてきた利用の歴史にも目を向けてみてはいかがだろうか。
キノコ好きな方はぜひ追記・修正お願いします。
最終更新:2026年10月09日 20:41