&font(#6495ED){登録日}:2011/05/10 Tue 00:20:27 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 6 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){「拙僧が殺めたのだ」} ●鉄鼠 &font(b,i){頼豪の霊、鼠と化と、} &font(b,i){世に知るところ也。} *■&ruby(てっそ){鉄鼠}の&ruby(おり){檻} [[京極夏彦]]の小説作品。 キャッチコピーはズバリ“小説”……。 『妖怪シリーズ』の第四作目にして、ある意味での京極ミステリーの完成型とも呼ぶべき超大作である(内容的にもページ数的にも)。 96年に「講談社ノベルズ」から刊行後、現在は複数の文庫版も存在する。 「不立文字(伝えるべきものは言葉(文字)では顕せない)」を以て顕される「禅」を話題の中心に捉えた山中異界にて巻き起こる連続殺人にお馴染みの面々が挑む。 「問い」はあっても「答え」は無い「公案」や大陸から本邦に至る「禅宗」の講釈……と云った全てが脱線せずに「物語」に帰結している。 尚、新書版の時点で八二六頁(※文庫版では物語部分のみでも一三四二頁)にも及ぶ大長編だが、その長さに反して扱われる事件の数は一つ。 物語自体も基本的に一本道の所為か前作までと比べると(意外にも)スッキリとした構成となっている。 *【概要】 昭和二十八年初春。 「世に出ることはあるまじき神品」を買って欲しい……。 謎の古刹「明慧寺」の僧・小坂了稔より箱根山中「仙石楼」に呼び出された古物商・今川雅澄は食客として逗留していた老医師・久遠寺嘉親と出会う。 偶然にも明慧寺での「座禅中の脳波測定実験」前に取材に向かおうとしていた中禅寺敦子、鳥口守彦らも加えた彼らの目前で、 忽然と出現した座禅をした僧侶の死体から“その”事件は始まった。 時同じくして箱根入りした中禅寺秋彦と関口巽。 更に久遠寺嘉親が“呼び寄せてしまった”探偵・榎木津礼二郎を巻き込み、誰も展開が予想出来ないままに「箱根山連続僧侶殺人事件」は続いて行く。 「埋没した経蔵」 「成長しない唄う振り袖の娘」 雑誌記者・飯窪季世恵が心の檻に閉じ込めた十三年前の「秘密」とは? そして、京極堂により遂に拓かれる「明慧寺」の闇に潜むものは……。 #center(){{{ ●青坊主 ●野寺坊 }}} *【事件関係者】 ・飯窪季世恵 「……残酷な方ですのね。関口先生」 稀譚者書籍部の編集者。 部署違いにもかかわらず“ある目的”の為に明慧寺と交渉……敦子らの取材に同行する。 同地の出身であり、十三年前の「火事」の記憶を意識の奥底に押し止めていた。 ・久遠寺嘉親 「確りやり給え」 『[[姑獲鳥の夏>姑獲鳥の夏(小説)]]』に登場した老医師。 事件の後に家族も病院も喪い縁のある仙石楼に迎え入れられていた。 茶目っ気のある姿や気骨を見せつける元気な爺さんだが、運命は彼に意外な邂逅をもたらす。 ・松宮仁如 鳥口と敦子が遭遇した青年僧。 ……過去に大きな秘密を抱える。 ・山内銃児 中禅寺に古本を指南した「倫敦堂」の主人で、黒づくめの洋装をしている。 中禅寺に埋没した書庫の調査を仲介した。 モデルは作家の山口雅也氏と予想される。 ・益田龍一 神奈川県警の若手刑事。 調子は良いが、常識と判断力に優れた有能な刑事で、上司の山下らに睨まれた関口らの味方になる。 今作では好青年風だが、レギュラー化した次作以降で本領発揮。 ・菅原 所轄の刑事。 山男みたいな風貌で自白が趣味。 ・山下徳一郎 「帰って貰え。帰って貰えよ」 神奈川県警の若い警部補で事件の指揮を執る。 歌舞伎の役者みたいな面。 出世欲に取り付かれたいけ好かない人物で、自らの常識が通じない世界で挫折する事になる。 ・石井寛爾 『[[魍魎の匣>魍魎の匣(小説)]]』にて初登場した神奈川県警の警部で蒙古系の面。 山下の失態を受けて乗り込んで来る。 今度、鎌倉かどこかの所轄の署長になる予定。 ・今川雅澄 「あれはあなた……だったのですか」 古物商「待古庵」主人。 特徴的な顔立ちで水気のある喋り方をする人物。 戦時中は“あの”榎木津礼二郎の部下であり、衝撃的な再会を果たした後に「怪しい仲間達」入りを果たした。 実家は代々続く蒔絵絵師の家系であったが、世襲のみでは言い顕せない今川自身にも表現し切れない理由により筆を折った。 今作の語り部の一人。 *【明慧寺関係者】 ・小坂了稔 今川にある神品の買い取りを打診した直歳(しっすい)の地位にある僧侶。 今川との約束を果たせぬままに“座禅したままの姿で仙石楼の庭に死体として”出現する。 ・桑田常信 食事を司る典座(てんぞ)の地位にある僧侶。 中盤で自らの保護を警察に訴えるが……。 &font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){※}}} #center(){&font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){鉄鼠が憑いてました。}}}} #right(){&font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){※}}} } ・中島祐賢 風紀を司る維那(いな)の地位にある僧侶。 ・和田滋行 人事を司る監院の地位にある若き美僧。 「明慧寺」の生え抜き。 ・大西泰全 「明慧寺」最古参の老師。 ・牧村拓雄 桑田常信の従者を務める若い僧侶。 ・加賀英生 中島祐賢の従者を務める若い僧侶。 ・菅野博行 先代の典座。 薬草と、その処方に高い知識を持つ。 “ある”理由から存在を秘匿されていた。 ・円覚丹 「明慧寺」寛首。 威厳を体現する様な人物。 ・哲童 関東大震災の折に仁秀に拾われた大男。 現在は「明慧寺」で修行している。 やや知恵が足りないと思われているが……。 ・鈴 仁秀の下で暮らす昏い眸(め)をした振り袖の娘。 十二~三歳位と思われる。 「成長しない娘」の怪異の正体……だが。 ・仁秀 「明慧寺」の裏手に住み着く檻褸(ぼろ)を纏った老人。 齢を知らず。 #center(){●払子守} #center(){●木魚達磨} *【主要登場人物】 ・中禅寺敦子 「稀譚月報」記者。 謎の古刹「明慧寺」の取材の過程で、半ば望む形で事件に巻き込まれる。 ・鳥口守彦 カストリ雑誌「實録犯罪」の編集者。 自分とこの雑誌は出ない替わりに敦子に写真家(志望の見習い)として同行する事を依頼される。 ・[[関口巽]] 「此岸にいるばかりが……いい訳じゃないよ」 今回は余り迷わないが不遇ではある語り部。 友人の中禅寺に誘われ箱根旅行にやって来た矢先に見る間に事件に巻き込まれる。 久遠寺嘉親との邂逅にあの「夏」を思い出す。 ・[[榎木津礼二郎]] 「ふん。第六天魔王榎木津礼二郎がお供の猿を連れて葬式を見物に来たんだ!無礼なのはお前だッ」 久遠寺嘉親が“呼んでしまった”史上最悪の探偵……だが、今回は“かなり”の活躍を見せる。 登場場面は抱腹絶倒。 ・[[中禅寺秋彦>中禅寺秋彦(京極堂)]] 「発見なんかされなきゃ良かったんだ」 今回は“心底”事件に関わる事を由としない古本屋。 ……が、終盤の自ら「憑物落とし」の装束に身を包み出陣する姿はシリーズ中でも屈指の名場面。 #center(){●大禿} *【余談】 本作の重要人物である飯窪季世恵の名はオークションで勝ち取った、雑誌『別冊パフ活字倶楽部』の女性編集者から取られたもの。 ※以下、若干のネタバレ。 #center(){{{ &font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){「彼の者はそう、牛だ」}}} &font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){「左様。そして彼の者が牛なら……」}}} &font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){「……拙僧は鼠だ」}}} &font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){「修証一等と云うが、未だ至らぬ」}}} &font(#0000ff){&u(){&font(#ffffff){「所詮漸修で悟入するは難儀なことなのだ」}}} }}} “追記、修正は魔境を抜け出し人天を悩乱せぬ様になった後にお願い致します” #center(){{{ 釈迦どの教えを間違えて 数千(ちぢ)の仏が湧いたとな 数千(ちぢ)の仏が湧いたとな…… ●隠里 }}} #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,12) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - 文庫版を見た時は「サイコロかよ」と思った。・・・動機が常人には想像つかんよな -- 名無しさん (2015-01-27 15:42:09) - シリーズの中でなぜかこれだけ妙に読みにくかったんだよなあ…たぶん描写の仕方が肌が合わなかったんだろうけど、ちょこちょこ不明瞭な部分を残したまま読み進めさせられてもにょもにょしたというか -- 名無しさん (2015-01-27 16:01:16) - ↑いきなり妙に色んな物ぶっこんで来たからね。描写がちと複雑で難解になったのかも。 -- 名無しさん (2015-01-27 16:36:53) - ↑↑つーか「 -- 名無しさん (2015-01-27 23:25:10) - ↑↑つーか「禅」が馴染みが無さ過ぎるんだよね・・・すごく複雑だし -- 名無しさん (2015-01-27 23:26:14) - 世間じゃ魍魎の匣が最高傑作という評価だけど、個人的にはこの作品の方が評価高いな。謎、動機、余韻、どれも素晴らしい。 -- 名無しさん (2017-02-17 09:52:09) - ↑2でも、この本を読まなけりゃ坊主はみんな座禅するものと思っていたよ…すごく勉強になった -- 名無しさん (2017-02-17 11:03:03) - 禅の特集本よりこの本のが読みやすい。そして、これ読んでから禅やら仏教の本読むと翻訳済みなので理解しやすい。 -- 名無しさん (2018-05-20 11:11:54) - 無常観というか、終わってなんだかなぁという -- 名無しさん (2023-09-10 05:52:56) - ↑失礼いたしました。 感覚が一番強かった、でもこの話は大好きなんだよ -- 名無しさん (2023-09-10 05:55:02) - 禅の解説本としても割と優秀 -- 名無しさん (2023-11-25 08:45:42) - そうなった過程が今までと違って書かれなかったから未だに得体の知れない感あるはこの犯人 -- 名無しさん (2023-11-25 08:47:15) - ↑読み込めばいつか理解出来るかも知れないが最初から異物なんだよ。そして悟りというものの着地点を何となくでも理解すると気持ちがわかるかもしれない。殺意よりは興味に近く、しかしその興味が己の嫉妬だったことを認めたから罪を受け入れた感じ。 -- 名無しさん (2023-11-25 11:28:34) - タイトルになってる鉄鼠が物語において本筋の憑き物ではないことも他と違うかもしれない。京極堂をして太刀打ち出来ないと言わしめる不立文字の禅の世界において、複数に分かれた流派のぶつかりから生じた悲劇が本体で、鉄鼠も大禿も巨大な檻という結界に引っかかって生じた二次的な憑き物でしかなかった。数千の仏が湧いたとな…… -- 名無しさん (2025-02-03 15:42:12) #comment #areaedit(end) }