登録日:2010/10/06 Wed 18:16:52
更新日:2024/04/22 Mon 13:12:51
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9.18事件とは、TGS(東京ゲームショウ)2010における
IDOLM@STER関連の騒動。もしくはそれを発端とした出来事の一部始終である。
まず、IDOLM@STER(以下、アイマス)についての概要であるが、
- プロデューサーとなってアイドルを育成する「育成シミュレーションゲーム」
- アイドル以外のキャラの没個性化により、アイドルに焦点の当たる作りに
- ゲームのユーザーは男性が殆ど
- ソフトの売上自体は特筆すべきものではないが、ユーザーのDLC課金によって莫大な利益を生みだし一躍キラータイトルとなった(なんとその売り上げは当時世界3位)
特にニコニコ動画では、
東方・
VOCALOIDに並んで「御三家」と呼ばれ、爆発的な人気を得ている。
また多数のアニメ化やゲーム作品が出ている現在とは違い、事件当時は、
- アーケードゲームが元であった為にストーリーが希薄であり、その影響で二次創作が隆盛を誇っていた。
- この事件以前にアニメ化はされてはいるが完全に別物。
- 一部の固定ファンから愛されている地下アイドル的な人気。
- ゲームの開発のスピードは比較的遅い方で新作はとても貴重。
といった特徴も挙げられていた。
事件は2010年9月18日、東京ゲームショウで起きた。
「プロデューサー決起集会」と銘打たれたアイマスイベントでは、
アイマスガールズ(所謂キャラの中の人)と坂上プロデューサーが壇上に上がり、新作アイドルマスター2の情報を告げる等、かなりの盛り上がりを見せていた。
しかし、時が進むごとに告げられる新情報は観客の度肝を抜く余りにも衝撃的なものだった。
以下、箇条書きで示すと、
もともとライバルとして新キャラが登場することは事前に告知されていたが、
従来のアイマスにはなかった男性アイドル(もちろんイケメン)「ジュピター」の登場に会場は騒然…
これまでの盛り上がりが嘘のように観客は何ら一言も声を発さなかった。
涼ちんのような「男の娘」という前例もあるにはあるのだが、こちらは女装でもなんでもなくガチ男であるため、抵抗も大きかったようである。
ただこの時は会場の一部ではサイリウムを振るなどのまだ余裕のあるものもいた。しかし次の発表により多くのものがその余裕を無くした。
既存のアイドルキャラ(伊織、あずさ、亜美、律子P)4人が、アイマス2でまさかのNPC化。つまりプロデュース(攻略)不可ということである。
このことは前情報で告知されていたものの、「どうせDLCでプロデュース可能になるだろう」と思われていた。しかしプロデューサーから直々に、何のフォローもなく告げられたことで、観客に大きなダメージを与えた。
プロデューサーから淡々と読み上げる言葉は「死刑宣告」に見えた。
この点に関しては問題点しかなく
- 4人のファンはもとより、他のアイドルのファンにとっても、マイナスには成り得ても決してプラスには成り得ない誰得展開
- PVでは普通に登場していた為「PV詐欺」だと揶揄されることになる
- 亜美、伊織が使えなくなったことでロリトリオは解散、亜美/真美の同時プロデュース、姉妹デュオも不可能になった
- 先に男性キャラの追加という情報が出ているため、容量の問題で仕方ないというような無理な納得も不可能(仮に容量の問題なら入れる方を間違っていると言われるだろう)
- この重大な問題がついでのように出された事への反発。
- 決定的な言葉は退場直前に置き逃げのようにさらっと言っている事(彼もまた表舞台に立たされてしまった一人ではあるが)
といった点が挙げられる。
一気に沈んだ観客のテンションも、来年度に行われるライブの告知等で息を吹き返しつつあった…
しかし、
- 9人のメンバーを3×3のユニットに分け投票を行い、一番人気の高いユニットがライブで新曲を歌えるといういわばサバイバル方式
- 結果、テーマの「団結」とはほど遠い事態に
- そして当然のように省かれる竜宮小町
等、観客に追い討ちをかけるものとなった。(後日、投票はネットで行うと発表され、さらに投票先に「ユニット全員で歌う」という強力な選択肢が登場した。あまりの不評に慌てて付け足したのではという憶測をよんだ)
これらの情報が伝えられた後、ライブのため声優陣を残し坂上プロデューサーはステージを去ってしまった。
本来新情報発表により会場の熱気が上げるはずだったのだが、残されたのは凍りついたプレイヤーと声優たち。
その後アイマスガールズによるライブで一定の盛り上がりはあったものの、アンコールもなく失意のまま観客は退場していった。
(当時のアイマスライブでは史上初のアンコールなし)
これはさすがにスタッフにも予想外だったようで、公式の動画放映サイトがアンコール枠としてとっていた6分ほどの撮影枠が、
全て観客の退場とスタッフの撤収作業で埋められるという凄まじい絵面となった。
何の盛り上がりもなくさっさと退場していく様子は氷点下を突き破った現場の様子を表していた。
アンコールに関しては
- 単独イベントと異なり、ゲームショウのメインステージなのでアンコールをし辛い要素がある
- アンコール開始前に、参加者退席のアナウンスが流れた
などという考察もあるが、公式動画サイトの時間が、アンコールを想定内していた事が伺える。
ちなみにNHKの番組『
MAG・ネット』のニュースコーナーでTGSの模様が特集された際、
わずかながら決起集会の発表の瞬間も放送されており、カメラは呆然とする観客の姿を映し出していた…
ナレーション小野D「(特集のBGMまで止まり)Oh, サプラーイズ…」
また、事態は18日のみに留まらなかった。
翌日のラジオにおけるミニドラマで既存キャラと新加入の男性キャラが共演。
取りようによってはフラグにも見えるやり取りをし、ファンを不安の渦に巻き込んだ。
まあ、収録はTGS以前の為タイミングが悪かったとしかいいようがない。
余談だが、このラジオで男性キャラの中の人が「男性キャラがアイマスに出ていいのだろうか?」というユーザーに近い視点での発言をした為、彼に支持が集まった。
また、後日発売されたCDにおいても一騒動あった。
このCDの楽曲は以前歌われた曲のリミックスなのだが、変更された歌詞が……
等の……うん、なんというか、これまた本当にタイミングの悪い状況での歌詞だった。
本来なら雪歩が緊張のあまり噛んだという解釈で、笑ってスルーかちょっと一騒動起こるくらいのものだったが、本当にタイミングが悪かった……。
そして発売が近づくにつれ徐々にそれ以外の新要素も公開されていったが、その内容も
- アイドル同士の不仲や対立が行われるシステム
- 芸能界特有の圧力
- 生々しい描写を暗喩するテキストや暗いシナリオ
- 好評だったオンラインシステムの廃止
など、これまでの作品と比べ印象が暗いものや悪いものが多かったため火に油を注ぐ形となってしまった。
勿論、新曲や新システムなど評価すべきものもあったのだが…。
また、批判は当然開発スタッフにも集まった。
- なぜ今回のことが騒動になると分からなかったのか。見立てが甘すぎる。マーケティングがおかしい。
- お通夜ムードのTGS会場で、声優を残して去る坂上P(「声優を盾にした」との批判)
- ナンバリングタイトルでなぜこんな冒険を……
そういった批判が噴出する中、公式スタッフの対応でまた対立が起きた。
今回の一連の変更に対し、公式のインタビューで石原Dは「保守的なオタクには受けない(笑)」といった冗談を言い炎上、大いに批判を浴びることとなった。
他にも石原Dへの脅迫や殺害予告がなされたりもしたがこれは流石にやりすぎである。
現在でも石原章弘とGoogle検索するとサジェストに「石原章弘◯ね」と出てくるのはこの余波である。
またインタビュー内で「(リストラを)こっそり言うのは嫌だった」というコメントを残しているが、
動画を見ると、どう見ても去り際にさらっとこっそり言っている。
ステージで発言したのは坂上Pの方であったため多少の食い違いは仕方ないが、これをこっそりではないというのは少々無理があった。
さらに公式から「声優に対する誹謗中傷はやめて」との通達。
自分達に対する批判は無視という態度に、ファンは怒りを露わにした。
ただ実際、声優への誹謗中傷も存在しており、通達事態は正論ではあるのだが、
批判をされる様な物を作るのが悪いという意見も出て泥沼化した。
なお、この事件をきっかけに「署名騒動」に発展し10/7に署名が受け取られたが、結局反応は無かったようである(2018年1月現在)。
他にニコニコ動画内でもP達が投稿したアイマス動画にも荒らしがはびこる事態や、
動画のカテゴリタグである「アイドルマスター」を登録した動画自体の減少(2010/9/19には123,873件あった動画も、2010/9/24には122,960件にまで減少)という影響が見られ、
「御三家崩壊」すら噂になったほど。
基本的に動画の削除は運営に削除されるか、up主が削除しない限り減らない。
舞台外でもファン同士の苛烈な衝突が見られた。「2を認めるか否か」「プロデュース(ゲームプレイ)を続けるか否か」などで衝突が起こり、コミュニティが崩壊した事例もあったようだ。
さらに当時全盛期であった某アフィブログどものおもちゃにされて内輪揉めが拡大するなど阿鼻叫喚といった風情であった。
余談だが、この騒動が影響してか開発元のバンダイナムコホールディングスの株価が800円を割る下落を見せる。
そして2010年10月1日、終値が765(ナムコ)円になるというちょっとした奇跡が起こった。
その後の展開
2011年2月24日にアイマス2が発売されたが、その内容は事前情報よりも更にファンの期待を裏切るものだった為、ファンの怒りが収まることはなかった。
遂には初回版の売り上げ不振で通常版が販売前に廃盤という事態に陥ってしまう。
ただ、これはアイマス2のゲームとしての完成度の低さ(前作から引き継ぎなのに小町組がNPCになった事を差し引いても割とアレ)に由来するというのも否めない。
CGモデルは木星含めても出来が良かったのだが、ネット対戦を消去するなどゲーム性を悪化させたのも響いた。
まあ、無印家庭版からしてゲームよりモデルが重点されていたと言われればそこまでだが…
実際にアイマス2発表~アニメ放送までの間を冬の時代と評するプロデューサーもいる。
また同時期にアニメ化も発表され、アニメとの連携狙いの念願?のPS3でも後に発売。
この際PS3版限定で一部DLCが同梱され、短時間ではあるが竜宮小町のメンバーと触れ合えるモードも追加された。
またG4Uというモデルの撮影に特化したPS3専用ゲームをアニメBDに付けるなどもし割合好評であった。
この際、一部で切望されていたDS組のHDモデルも作られこれも大好評であった。涼ちんにアレがないっぽいのはなんでなんですかね…
しかしこれらは箱○ではプレイ出来ず、一部の箱○ユーザーからは批判を浴びた。
G4Uに関してはアニメ制作会社がA-1Picturesやアニプレックスなどソニー系列だから仕方ないが。
さらに、ゲームと両輪であったCDの売上もDS組辺りから本隊も初動一万を切るのが珍しくなかったが、2絡みのCDは一万切り常連となってしまった。
この傾向はアニメのOPであるREADY!!の発売まで続いた。もっとも、MA2リリースの頃からは立ち直りの気配があったが。
ちなみに、竜宮小町組のMA2もしれっと発売されている。ここはコロンビアいい判断した。
余談になるが、千早のMA2は初動売上約7200枚を記録した。くっ
その後、アニメOPのREADY!!が過去最高の初動売上を記録し、アニメのMAとも言うべき生っすか!?SPECIALシリーズはレコード大賞で企画賞を受賞。
シンデレラやミリオンのCDも(おまけ付きの上シンデレラのシリーズは安めの設定になっているとはいえ)軒並み初動1万超えする優良コンテンツに戻った。
全体としてもアニメのヒットを起点にアニメ終了に揃えてリリースされたシンデレラ、
シンデレラの大成功を受けてグリーがアニメスタッフと始めたミリオンらソシャゲ勢の台頭などにより、
以前より勢いを増した快進撃で本隊・DS・シンデレラ・ミリオンついでに木星が完全合体した
XENOGLOSSIA?知らない子ですね…。まあ2017年になって色々回収されはじめたけど、
最大規模のSSA2Daysライブを成功に導き、
直後に次々と中の人が結婚し、シンデレラとミリオンもそれぞれ単独ライブイベントを打つなど大きく発展した。
そして遂には10周年に到達し念願のリアルライブでの「ドームですよ!ドーム!」も達成出来た。
今回の事件はブランド展開の仕方などに教訓を与えた件であるのは間違いない…と思う。
現に2014年には765プロメンバー全員がプロデュースできる『アイドルマスターワンフォーオール』や、
男アイドルだけのアイマス『アイドルマスターSideM』の展開が決まったため、見方によってはこの事件の影響でナムコ(その後のバンナムも)もだいぶ反省したともとれる。
ちなみに、ワンフォーオールは前述の通り物議を醸したプロデュース不能アイドルがいるという点はなくなり、
更に映画のラストを思わせるような13人同時ステージの実装を施し、
新規のライバルキャラも女性アイドル(CVはドラマCDで魔王エンジェルメンバーを演じた経験のある茅原実里)、
ギスギスするシステムの廃止と、2で不評であった要素を極力廃止するように進化。
売上はコミュの難易度緩和などによる難易度低下(千早あたりはアケとは難易度がダンチ)、
DLCで2でゲストで出てきたDS組以外のもシンデレラ・ミリオンのアイドルが参戦するというアニメ以降のファンを狙った事もあって2に比べて大幅に改善。
発売週だけで8.3万本を売り、本隊たるゲームも勢いを取り戻しつつある。
この全員プロデュースの概念は受け継がれ、
シリーズ最新作である2016年発売のPS4専用ソフト『アイドルマスタープラチナスターズ』も765プロメンバー全員がプロデュースできるようになっている。
また今回の事件の中心となったジュピターの扱いは2発売後はまちまちなものであった。
一応ゲーム内で歌われた曲のフルバージョンが入ったCDが発売されたり、続編のゲームでも僅かに登場するなど出番はあったが日に日に出番が少なくなっていた。
アイマス声優であればほぼ全員が体験しているライブも彼らのライブについては彼らの曲を女性声優たちがカバーしたり休憩時間に会場内で流したりするだけで、
今回の騒動や男と女のファン層の違いなど様々な問題があり参加する事はなかった。
だが、男性アイドルだけのSideMが発表され同時にそこで彼らをプロデュースする事も可能となった。
そして2015年12月に行われたSideMの1stライブにて、ジュピター発表から約5年念願の初ステージとなった。
ライブではSideMでの楽曲しか歌わなかったもののライブ内のミニドラマやキャラ紹介に元961プロと示された。
声優陣のコメントでは5年間待ち続けてくれたことについてファンに感謝の意を捧げ、
御手洗翔太役の松岡禎丞や伊集院北斗役の神原大地は嬉しさと感動のあまり男泣きをした。
また天ヶ瀬冬馬役の寺島拓篤もブログでこの5年間について深く語っている。
今後の彼らの夢はライブでいつか961時代の曲を歌う事、そして事件当時叶わなかった765と同じステージに立つ事とのこと。
ライブでの961時代楽曲の披露については2018年の3rdライブツアー幕張公演にて「Alice or Guilty」を披露して達成。
765プロとの同じステージについては2019年、
アイマスシリーズが初めて東京ドームに立ったバンダイナムコエンターテインメントフェスティバル(以下バンナムフェス)の1日目にそれぞれ見事に実現している。
バンナムフェス1日目での765プロ側は『765ミリオンスターズ』名義で、
ASから春香、千早、響、真がミリオンの後輩アイドルたちを率いる形で出演。
一方のジュピター側も315プロの仲間たちと共に出演し、『SideM』がオープニングとエンディングの両方を担当。
ジュピターは「BRAND NEW FIELD」にてエンディングで披露されたユニット曲のトリを務める大役を見事に果たした。
ラストは『SideM』の全体楽曲である「DRIVE A LIVE」を全出演者で熱唱し、
ついにジュピターと765ASが同じステージで同じ曲を共に歌う日が来たのであった。
最後に長らく出されなかった謝罪の言葉だがアイマス10周年のインタビューで石原Dが10周年の節目ということでこの事に振り返り謝罪した。
氏曰く2でやろうとした事の難しさや言葉足らずだったことに反省し、
この時の出来事は「制作サイド」と「応援するファンサイド」の関係性についても、いろいろと考えるきっかけとなったという。
ただ一つ当時の騒ぎの中心となった設定である竜宮小町・ジュピターに関しては当時も今も心底納得しているという。
この2つの設定は当時2と同時に動いていたアニメにも無くてはならなかった存在だったらしい。
また竜宮小町のメンバーのNPC化については上層部からの時間や予算の制約によってなってしまったもので、
そこでライバルアイドルとして彼女達を登場させて少しでもカバーしようとしたがカバーしきれなかったとのこと。
そして今回の件で中心となった石原Dは制作スタッフが誰に変わろうと永遠に作品が続く「自分の理想のIPの姿を見たい」という理由から、
2016年1月31日バンダイナムコを円満退職した。
このようにアイドルマスターは9.18後も様々な展開をし続け遂には10周年、更に15周年にも到達した。
そして15周年に到達してもなお勢いは衰えることはなく今度は20年、25年に向けて走り続けている。
追記・修正はこの事件後も活動し続けたプロデューサーの皆さんのみお願いします。
この事件のせいで今のアイマス(バンナム)と昔のアイマス(ナムコレーベル)は別物だと言ってもいいと思うが、その事件を引き合いに出すと醜い争いにしかならない。なかった事にしてはいけないが、その事件のことを触れたら駄目だ。ナムコレベール時代に綺麗に終わらすことができなかったのは正直痛い。(アニマスは出来は良いが……)