登録日:2017/01/29 (日曜日) 00:23:00
更新日:2023/05/31 Wed 22:37:39
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SCP-1989-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「
The SCP Foundation」の日本支部によって生み出されたオブジェクトの一つである。
項目名は『この愉快な世界を食おうとしたら、登場人物に逆襲された僕の顛末についてと今後の展望』。
オブジェクトクラスは「Euclid」に指定されている。
SCP-1989-JPは、密接な繋がりのある三つのオブジェクトを総称したものだ。
まず一つ目、財団によって《
SCP-1989-JP-1》と指定されたオブジェクトは、
ライトノベルの文庫本である。
この文庫本は現実改変能力を有しており、本から半径5メートル以内に12時間以上放置された文章の内容を自動的にラノベ調に改変してしまう。
そして、このラノベ調に改変された本もまた《SCP-1989-JP-1》と同じ能力を発揮し、やはり半径5メートル以内に12時間放置されていた本の内容をラノベ調に改変してしまうのである。
更に、このラノベ調に改変された本もまた…といった具合に、元凶である《SCP-1989-JP-1》からあらゆる媒体の文章を隔離しない限り、無限にラノベ調の文章が増殖する、ある意味では無間地獄が完成してしまうのだ。
変異したラノベが、続編の出る余地のない一巻ものにしかならないのが唯一の救いだろうか。
なお、ラノベ調に変換されてしまった文章を読んでみると、その内容からは文章が本来主題としていた概念は消滅し、いかにもラノベらしいテーマに上書きされてしまっているのが確認されている。
つまり、その本に元々何が書いてあったのかを知るためには、その本が元々は何であったかを突き止め、比較対象を探し出して持って来なければならないという、非常に面倒な手段が必須となってしまうのである。
…比較するものがなくなったら、その書物はいったいどうなってしまうのだろうか?
話を続けよう。
二つ目、財団によって《SCP-1989-JP-2》と指定されているのは一人の女性型の実体である。
この女性は、大まかな容姿こそ日本人と酷似しているが、ピンク色の髪にやたらとキラキラした大きな瞳という、アニメか漫画のキャラの様な現実離れした容姿をしており、しかも魔法が使えるのだ。
彼女が主に用いるのは、何もない空間から刃物を取り出したり、手から炎の渦を発生してターゲットを焼き焦がす術などである。
…うーん、似たようなキャラクターが多すぎて絞れない。
追記・修正お願いします。
因みに、彼女に身分を尋ねてみたところ、『自分は財団極東支部理事、千凶』であるという返事が返って来ている。
…日本支部じゃなく、極東支部?
ウルトラマンに出てくる『
科学特別捜査隊』ですか?
この二つだけでもかなり頭の痛くなるこのオブジェクトであるが、実はこれらはまだ序の口に過ぎない。
これから紹介する、三つ目のオブジェクトこそこのSCiPの真打なのである。
財団によって《SCP-1989-JP-3》と指定されたオブジェクトは、青木ヶ原樹海の中に位置する半径100メートルにも及ぶ異常空間である。
《SCP-1989-JP-2》の供述によると、この空間は彼女が元いたパラレルワールドとそっくりそのまま入れ替わっているようであり、財団の有しているアイテムの一つ、『スクラントン現実錨』と類似するシステムによって維持されているらしい。
※「スクラントン現実錨」
『現実改変能力の保持者』や、『現実を書き換える異常性を保持したアイテム』の周りに展開して無力化するための装置。
パラレルワールドと入れ替わっているというだけでもかなり面倒臭いこの《SCP-1989-JP-3》であるが、この空間が持つ異常性はそれだけではない。
なんと、この空間内には1日から最長でも173日の間隔でパラレルワールドに由来すると思われるモンスターが出現するのである。
このモンスターは、生物・無生物問わず攻撃的であり、しかも財団が保持するありとあらゆる火器が通用しない。
唯一、モンスターを撃破することができるのは、同じ理の元に生きていると推察される《SCP-1989-JP-2》のみなのである。
今の所、この空間から出現した全てのモンスターは《SCP-1989-JP-2》にしか敵意を示しておらず、《SCP-1989-JP-2》に排除してもらっている状態である。
また、《SCP-1989-JP-3》内に出現するモンスター及び《SCP-1989-JP-2》自身はこの空間から外に出ることはできないものの、此方側から空間内に入ることは可能となっている。
空間内を調査中にモンスターが出てきたら合掌しましょう。
唯一、《SCP-1989-JP-1》のみこの空間から外へ持ち出すことが可能なのであるが、それをやろうとすると《SCP-1989-JP-2》が全力で抵抗してくる上、予想外の異常性が発生する危険性があるため禁止されている。
因みに、《SCP-1989-JP-1》の持つ異常性はSCP-1989-JP-3内においては停止していることが確認されている。
財団との関わり
財団がこのオブジェクトを認知したきっかけは、青木ヶ原樹海で異常なヒューム値の変動が観測されたのが原因であった。
※「ヒューム値」
ある範囲における、現実性の強度や量を示す値の事。低ければ低いほど、現実改変能力の影響を受けやすくなる性質がある。
ヒューム値の変動は、新たなSCiPの出現を意味している場合が多い。
慌てた財団の日本支部が探索部隊を送り込んだところ、樹海の中に佇む《SCP-1989-JP-2》を発見したのである。
《SCP-1989-JP-2》にインタビューを敢行したところ、前述した様に自分は『財団極東支部理事、千凶』という人間であるという返事が返ってきた。
SCP-1989-JP-2「やあ、…どうやらライプニッツ現実圧縮壁は無事に成功し、この本はボクたちの予想通り動いたというようだね。
初めまして、君たちはもしかするとこの世界の財団、かな?」
探索部隊隊長「全員、警戒態勢を解くな。…我々の存在を知っているのか?」
SCP-1989-JP-2「もちろん、だってボクは…、やれやれ、こんなのまで改変するのか。
…はぁ、まぁ、落ち込んでいても仕方がない。さっきの質問に答えよう。だってボクは財団理事、だからね」
我らが財団に、こんなアニメキャラみたいな理事が居る訳がない。
怪しんだ探索部隊の隊長が尋問を開始しようとしたその時…空間内にモンスターが出現したのである。
出現したのは、西洋のファンタジーでおなじみの
ドラゴンを模した存在であった。
ドラゴンは、15分にも渡る《SCP-1989-JP-2》との激闘に敗れ、消滅。
目が点になった探索部隊の隊長は、《SCP-1989-JP-2》に対して事情を説明するように要請した。
探索部隊隊長「…アレは何だったんだ。漫画やアニメじゃあるまいし」
SCP-1989-JP-2「言いえて妙だね、すまないがセキュリティクリアランス上位の人物を呼んでくれないかい? ボクは逃げも隠れもしないからさ」
この後、探索部隊の要請を受けた財団職員が《SCP-1989-JP-2》と会談を行ったことにより、財団による収容体制が確立されたのであった。
とある元財団理事の告白
SCP-1989-JPの収容が完了した直後に《SCP-1989-JP-2》に対して行われた計3回のインタビューにより、何故こうなってしまったかが大体明らかとなっている。
■インタビュアー・佐藤博士
佐藤博士「説明をお願いします」
SCP-1989-JP-2「ボクはね、失敗したセカイの観測者さ。これまでを受け継ぎ、これを続け、これからを信じるための」
佐藤博士「つまり貴女は別世界の財団の人間である、と?」
SCP-1989-JP-2「そう言えばそうなるのかな。正確にはこの半径100mほどの財団職員だ。…ボクのセカイは、既に完結したここにしかないんだ」
実は、《SCP-1989-JP-2》の暮らしていたパラレルワールドの財団は、《SCP-1989-JP-1》を物語を改変してしまうオブジェクトとして収容していたのである。
しかし…或る日突然、《SCP-1989-JP-1》がトンデモナイ形で収容違反を犯してしまったのである。
架空の物語をラノベ調に改変するだけでは飽き足らず、遂にはありとあらゆる文章を媒介として彼女が暮らしていた世界の『現実』そのものをラノベ調に改変し始めたのだ。
彼女の世界の財団は、《SCP-1989-JP-1》の悪行を止めることができなかった。
その結果‐‐
世界はラノベ調に塗り替えられてしまった。
『CK-クラス:再構築シナリオ』と『NK-クラス:世界終焉シナリオ』を足して二で割ったような、最悪の事態が発生してしまったのである。
実は、《SCP-1989-JP-2》の現実離れした容姿も、現実離れした能力も全ては《SCP-1989-JP-1》のラノベ改変を受けた結果だったのだ。
しかし、彼女の思考そのものは、辛うじて《SCP-1989-JP-1》の改変を受けることをま逃れた。
そして、彼女はラノベに一元化された世界に残された最後の自意識を持った人間として、彼女の世界で使われていた現実改変に干渉する道具であると推定される『ライプニッツ現実圧縮壁』と『ウィルクスバリ楔』を起動した。
そうして世界そのものを圧縮し、パラレルワールドの壁をぶち破って別の次元…即ち、我らが財団のある基底世界へと転移してきたのだ。
…世界をラノベに作り変える怪物ごと、である。
これだけ聞くとはた迷惑な話に聞こえる。
勿論、彼女はただ逃亡したわけではなかった。
この世界に転移してくる前、彼女と、彼女の所属していたパラレルワールドの財団はラノベ調に改変を受け続けながらも《SCP-1989-JP-1》を研究し、封じ込めるための策を練り続けていたのである。
そして、彼女たちは見出していた。
SCP-1989-JP-2「この本は世界を食い尽くせば共食いをいずれ起こすだろうと。
そして、この本が共食いを起こした先、つまり全てを食い終り一冊のみになったとき、おそらく他世界に移動するというのではないか」
案の定、世界をラノベという形で自らの存在と一本化した《SCP-1989-JP-1》は、次なる物語を求めて次元の壁をぶち破るそぶりを見せ始めた。
その瞬間を、《SCP-1989-JP-2》を待っていたのだ。
《SCP-1989-JP-2》は『ウィルクスバリ楔』を起動し、世界から《SCP-1989-JP-1》が逃げ出せないよう釘付けにしてしまった。
登場人物が物語そのものに叛逆する…そんなミラクルを彼女は実現してしまったのだ。
間髪入れず彼女は次なる装置を、『ライプニッツ現実圧縮壁』を起動させた。
こうして、世界を食い尽くした怪物は、半径100メートルに圧縮された世界に閉じ込められてしまったのだ。
そして、《SCP-1989-JP-2》の予想通り、怪物が残した置き土産である時空間転移現象が発生したのである。
佐藤博士「…《SCP-1989-JP-1》は自らの改変した貴女の世界、《SCP-1989-JP-3》に閉じ込められ、そして《SCP-1989-JP-3》ごとこの世界へ移動した、ということでしょうか」
SCP-1989-JP-2「そうだね、そしてその楔はボク自身だ。君たちの世界に空間ごと留める存在、それがボク。この化け物とボクの世界と共に完結した存在さ」
一元化されたはずの世界に残された異物、自らを小さな檻の中へ釘付けにしてくれた存在である憎っくき《SCP-1989-JP-2》を抹殺すれば、自分は再び自由になれるのだ。
そう、《SCP-1989-JP-1》は確信していた。
そう考える間も、自分が全てを喰らい尽くしてしまった事で、新たな物語が生まれる機会が消滅して空っぽになってしまった世界で《SCP-1989-JP-1》は空腹に苛まれる事になってしまった。
《SCP-1989-JP-3》の中に出現し、《SCP-1989-JP-2》を度々襲撃していたモンスターの正体は《SCP-1989-JP-1》がヤケクソになって送り込んできた刺客だったのである。
しかし、《SCP-1989-JP-1》はどう足掻こうとも《SCP-1989-JP-2》を殺せない。
何故なら、《SCP-1989-JP-2》の世界を飲み込み、物語そのものと化した《SCP-1989-JP-1》には《SCP-1989-JP-2》の死というストーリーは存在していないからである。
SCP-1989-JP-2「完結した物語はその登場人物を殺すことはできない。…だから、君たちができることは一つだ。
君たちの世界にこれ以上ボクを近づかせないでくれ、これ以上コイツに食わせないでくれ」
怪物からの賛辞
『 模倣に、創造に幸あれ、僕を封じた彼女たちへ、僕を託された君たちへ、僕を解き放つ誰かへ 』
そんな文章が、SCP-1989-JP-1に特殊な塗料で記入されているのが発見された。
類似するオブジェクト
SCP-964-JP(通称・セカイ系ハンター)
『既に完結してしまった物語の残滓』という意味で、SCP-964-JPと《SCP-1989-JP-2》は非常に似通った存在である。
しかし、《SCP-1989-JP-2》は体を張って他の物語を守ろうとしたのに対し、SCP-964-JPは積極的に他の物語を終焉させようとしている点が異なっている。
もし、この二つのオブジェクトが出会ってしまったら何が起こってしまうのか…?
とある元財団理事の呟き
「…ボクの知っているSCP-1989-JP-1は全てがハッピーエンドなんだ。みんなが幸せで、全ての難題が解決して、誰も恐れるものが無くなって…。
それは、ボク達が求めた世界じゃないのかな、ボク達が望んだ世界じゃないのかな。
ボクが留めた世界は、君たちが守り、担っている世界は、古臭いカビの生えた、手垢のついた、強制された世界じゃないのかな。
それならいっそ…、そう思うときだって、あるんだよ」
余談
このオブジェクトは、SCP財団日本支部の『1000JPコンテスト』応募作品として制作されたものの一つである。
また、2017年1月現在、このオブジェクトの項目名はSCP財団日本支部に投稿されている全オブジェクトの中で最長の項目名となっている。
財団本部より通達
現在、SCP-1989-JP-3の範囲が増加する兆候が見られます。
この兆候に対し財団内の研究チームがSCP-1989-JP-2に協力を仰ぐ是非が議論されています。
また、これに比例する形で、財団日本支部内において異常性を保持する職員の増加が確認されています。
両者の因果関係については現在調査中です。
アレ、もしかして…『特殊能力を持ってしまっている財団職員』が続々と増えている理由って?
追記・修正は終わりのない物語の中でもがき、何かを見つけながらお願いします。
- おーい、1989-JP-2の告白の序盤で向こうの改変の原因が1989-JP-2になってるぞー -- 名無しさん (2017-01-29 00:49:28)
- 修正しました。指摘ありがとうございます -- 筆者 (2017-01-29 00:55:06)
- 日本支部の記事がラノベっぽい?ならガチでラノベモチーフのSCP書いてやんよ!の精神で誕生したSCP -- 名無しさん (2017-01-29 01:10:45)
- 財団日本支部はSCPと混ざりあってどんどんわけわからん存在になっていってるイメージ -- 名無しさん (2017-01-29 01:17:53)
- だってあの世界はホラー作家の集まりみたいな連中の遊び場だしね -- 名無しさん (2017-01-29 02:42:38)