ドラゴン(西洋の神話)

登録日:2009/05/31(日) 18:26:37
更新日:2019/10/28 Mon 14:52:26
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『古き力の象徴。隠された財宝の守護者』


基本的に巨大な爬虫類の体に、コウモリのような翼、鋭いカギ爪に、長い尾をもった姿を持つ怪獣。
名前の由来はギリシャ語の『drakon』(見張る者)からきており、このドラゴンを日本語に訳せば「竜(龍)」となる。
だが西洋のドラゴンと東洋の竜では、その性格は随分と異なる。
東洋の竜が純粋に神として神聖で超越なる存在であることに対し、西洋のドラゴンはたいてい悪の象徴となる。
一神教以前の神話伝説だけでなく、キリスト教の世界観でもドラゴンは悪とされ、聖書の黙示録には悪魔がドラゴンとして登場(後述)。

元はキリスト教に蛇の特徴で汚名化されたエジプトの瑞獣グリフォン…らしい。

楽園に住んでいたアダムとイブの故事で、イブを誘惑したのは足がないの妖獣「蛇」。
後代の伝説でも聖ゲオルギウスのドラゴン退治の伝説をはじめ、聖人がドラゴンを倒した話が幾つもある。
日本でいえば退治(=『悪』の討伐)である。


ここでは西洋のドラゴンを記述する。
ドラゴンには数多くの種類や亜種が存在するが、事細かに分類すると一冊の本になってしまう程膨大であるため、簡単な分類を以下に挙げる。

ドラゴン

もっともメジャーなドラゴンは、やはり『有翼トカゲ』だろう。中には羽毛の生えたタイプもいる。

ファンタジーでは、炎や吹雪、光線などを吐き、その血は魔法の力を持つことが多い。だいたいボス格の存在。
飛行能力も持っているが、「あの巨体を浮かすには翼が小さすぎる」という意見もあり、魔法で飛んでいるのかもしれない。

知能は人より上だったり凶暴だったり、危険な害獣だったり守護獣だったり、物語の数だけ様々な役付けがなされている。
だが一貫しているのは、一般人の手に負えるものではないことである。

キリスト教では専ら『悪』の象徴。『宝の守護者』=『欲深な存在』といったところか。
終末に現れる黙示録の獣のうち、最初の一頭が『大いなる赤き竜』である辺り徹底している。

ちなみに、キリスト教の終末観に影響を与えたゾロアスター教にも、魔王アンラ・マンユの力の結晶『アジ・ダハーカ』という魔竜が登場する。


ワイバーン

日本人のイメージするところのワイバーンは「ドラゴンより小柄で前足が翼、尻尾に無数のトゲがある」といったところか。

しかし、西洋でワイバーンが明確に登場する伝承はほぼ皆無。
実はこのワイバーン、おとぎ話ではなく紋章学の出身なのである。
紋章学においてドラゴンは『力・権力』の象徴であり特に上位の貴族以外使うことが許されなかった。
そこで下位貴族のために、ドラゴンより格下でドラゴンに似たワイバーンが生み出されたのである。
東洋の龍の爪の数みたいである。

その流れを汲んでか、現代のファンタジーでもほぼ全てのワイバーンは低級ドラゴン、あるいはドラゴンより下の生物とされる。


ワーム

手足のないドラゴン。極端にいうと『馬鹿デカい蛇』である。
一応、有翼を『リンドブルム』、無翼を『リンドドレイク』と区別するが、ワームといえばほぼリンドドレイクを指す。
代表はギリシア神話のテュポンヒュドラ、ピトン、ラドン、北欧神話のミドガルズ蛇、等。
我らが甲鱗様も、このワームである。

あまり知られてはいないが、実は古代からみるとワームの姿のドラゴンの方が多い。
ギリシア神話には、首のたくさんある蛇がやたらと多い。

南米の神ケツァルコアトル、ミドガルズ蛇(ヨルムンガンド)など、強力なものは神や神殺しと極端に強い。
ヒュドラはヘラクレスに殺されこそしたが、その毒液は彼の矢尻に使われ多くの敵(時には味方)を殺し、ヘラクレスを殺し、
トロイア戦争ではアキレウスを殺した。
まさに神殺しの毒である。

余談だが、モンゴル伝承のオルゴイコルコイ(モンゴリアンデスワーム、UMAの一種)は、本来の意味での『ワーム(脚のない虫)』で、ドラゴンとは見なさない。*1



《ドラゴンに纏わる伝説》


【黄金の羊の毛皮と魔法の指輪―宝を守るドラゴンたち】

ドラゴンの伝説で代表的なものをあげるとすれば、次のふたつであろう。

ひとつはギリシャ神話のイアソンの冒険に登場する、黄金の羊の毛皮を守る「眠らないドラゴン」である。
テッサリアの王子であったイアソンは、奪われた王位を取り戻すべく黄金の羊の毛皮という秘宝を手に入れなければならなくなる。
だがその秘宝は決して眠らないドラゴンに守られ、誰も近づけない。
そこでイアソンは魔法を使う王女メディアの力を借り、薬を使ってドラゴンを眠らせ、黄金の羊の毛皮を手に入れた。

もう一つ西洋で有名なのは、北欧神話のシグルズ伝説に登場するドラゴンである。
このドラゴンはファブニルの変身した姿であり、無限に黄金を生みだす、魔法の指輪アンドウァリナウトを隠し持っている。
その指輪を求めて、最高神オーディンの血を引く英雄シグルズは、ファブニルを退治するのだ。
ファブニルを殺したとき、シグルズは相手の血を浴びたため、背中の一ヵ所を除く不死身の体と、小鳥の言葉を理解する力を手に入れたとも言い伝えられている。
ギリシャ神話の「眠らないドラゴン」も、北欧神話のファブニルも、どちらも隠された財宝を守っている存在である。
この他にも財宝を守るドラゴンの伝説は数多く残されており、それゆえドラゴンは欲深だともいわれている。
そのことから、キリスト教では悪の象徴とされたのかもいれない。


【ヨーロッパ各地に残るドラゴンたちの伝説】

北欧神話ではファブニルの他にも、ニーズホッグと呼ばれる巨大なドラゴンがいる。
このニーズホッグは、世界全体を支えている世界樹ユグドラシルの根をかじっていると伝えられている。
一方。ロシアの民間伝承には、ゴリニチという名で呼ばれるドラゴンがいる。
邪悪な魔法使いの甥で、皇帝の娘と結婚しようとしたという言い伝えで有名である。
また紋章に見られる、とげのある蛇の尾をもつワイバーンも、ドラゴンの一種であると考えられる。(こちらは翼龍と訳されることが多い)

さらにはヨーロッパからはずれると、バビロニア神話に登場するティアマトイシュタル門を飾るシルシュ(ムシュフシュ)もドラゴンだといわれている。*2




ところで、先に西洋のドラゴンは「悪」の象徴であると述べたが、すべてのドラゴンが悪ではない。
ケルトの伝承に登場する赤いドラゴンは、イギリスのウェールズ地方では「ア・ドライグ・ゴッホ」と呼ばれ、その土地を侵略者たちから守る「守護者」だった。
ただし、キリスト教信者のうちでも少なくない層が、この守護竜とサタンの化身を混同して語る為、何かと揉め事も多い。
(ウェールズの議員が「赤い竜は悪魔だからウェールズの旗から取り除くことを検討している」と発言する等)

またドラゴンを倒した戦士・武器に与えられる称号として『ドラゴンスレイヤー(竜殺し)』というものがある。
ドラゴンの鱗は金属のように硬く、また龍の逆鱗のような決まった弱点がない(逆鱗も元々は寓話だが……)ため、
ドラゴンスレイヤーは最強の武勇の代名詞でもある。


【姫とドラゴン】

聖ゲオルギウスのドラゴン退治の伝説をはじめ、ドラゴンがお姫様を食べようとするか、拉致監禁したために退治されるという伝説もまた多い。
これは日本神話八岐大蛇にも見られるが、西洋におけるルーツはギリシャ神話でアンドロメダ姫が生贄に捧げられた海獣(ケートゥス)(cetus)やトロイのヘーシオネー姫が捧げられた名称不明の海の怪物だと思われる。
またはウガリット神話でアスタルトを妻にしようとしてバアル/ベル(神名)に退治されたヤムかもしれない。
この系譜にあるアニヲタ的代表例はりゅうおう(DQ)であろう。姫をさらう亀?さあ……
また、ディズニー映画『眠れる森の美女』では原作では中盤で出番の終わる妖精がドラゴンに姿を変えてラスボスとして立ちはだかる。
変わったところでは、王女が継母によってドラゴンに変えられ、円卓の騎士のユーウェイン卿にベルトと指輪と剣をプレゼントして3回キスしてもらうと元に戻るという物語(Kemp Owyne)もある。



【簡単なドラゴンの変遷】

もともとは強い生命力を持った蛇に対する恐怖から生まれたもの。
アステカのケツァルコアトルやインドのナーガなど、時に神として扱われるのはこの事の裏返し(蛇神信仰)。
ギリシア神話でも、アスクレピオスの蛇は医療のシンボル。
ファーフニルから、「宝の山を守る」というイメージがついた。
ユダヤ教でも、唯一神(Y・H・V・H)が燃える毒蛇と青銅の蛇で追い立てて出エジプトを導き、正教会の主教が用いる権のモチーフとなっている。
キリスト教ではヨハネの黙示録の第1の獣など、悪魔と同等の悪とされた。よって「黄金伝説」のなかでは聖ゲオルギウスをはじめドラゴン退治の伝説が多い。
初期のドラゴンは火ではなく、専ら毒を吐く。または血液に毒を持つ。

9世紀頃に成立したベーオウルフ物語で火を噴く有翼トカゲのドラゴンのイメージが大よそ完成したとされる。
近年のファンタジーのドラゴンも、このベーオウルフのドラゴンのイメージが強い。
また、知名度向上の貢献度としては、指輪物語の長虫による影響も大きいと言う意見も学者等から出ている。



追記・編集は悪いドラゴンを懲らしめられる人にお願いします。

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