キロネックス

登録日:2009/08/19(水) 20:50:54
更新日:2024/08/10 Sat 04:12:08
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Chironex(キロネックス) Fleckeri(フレッケリ)とは、立方クラゲ目ネッタイアンドンクラゲ科に属するクラゲの一種である。
和名は『オーストラリアウンバチクラゲ』。
その名の通りオーストラリア北方近海を中心とした東南アジア〜オセアニアの海に広く分布している。

日本近海でよく見られるアンドンクラゲの仲間であり、四角い傘が特徴的な見た目もよく似ている。
しかしアンドンクラゲに比べるとかなり大型で、触手を含めると全長4m近くにもなる。これは立方クラゲの仲間としては最大級。
この類いのクラゲに共通する特徴として高い遊泳力が挙げられるが、こいつもその例に漏れず秒速1.5メートルというクラゲとしては破格の速度で機敏に泳ぎ回ることができる。
その上やたら高度に発達した24個もの目を備えているため、積極的に魚などの獲物を狙うことができるという。
反面、他のクラゲと同様脳は持っていないので、これほど精巧な目から得た視覚情報をどうやって処理しているかは未だによくわからないというなかなかミステリアスなところも。


……が、それより何よりこのクラゲを語る上で絶対に避けては通れないことといえば、「殺人クラゲ」の異名を取るほどの激烈で致命的な毒性であろう。


立方クラゲ類はそもそも毒の強いクラゲが多く、例えば先に挙げたアンドンクラゲなどは刺されるとかなり痛むために海水浴客から嫌われているし、沖縄近海に棲むハブクラゲ*1などは時々死人まで出すほどの猛毒を持っているが、キロネックスの危険性はさらにその上を行く。
単純な毒の強さはもちろんのこと、恐るべきはその即効性
刺されてから死に至るまで1〜10分程度というあんまりな短さであり、下手をすれば刺されてから陸に上がる時間さえも与えてもらえない。
一応血清は存在するのだが、症状の進行が早すぎるため結局手遅れになりがち。
このやりすぎなほどの毒の強さは、触手に絡まった獲物が暴れて触手を傷つけることのないよう、速やかに殺すために身につけたものであるらしい。
……やっぱりやりすぎじゃないか、と人間視点からは文句をつけたくなるところだが、身につけてしまったものは仕方があるまい。進化とはそういうものである。

ちなみにキロネックスの毒のLD50値*2は1μg/kg程度。
数字だけ見てもピンと来ない人が多いだろうが、テトロドトキシン(フグ毒)のLD50値が8.5μg/kgと言えばその強さがわかるだろうか。
ただでさえ毒性が強い上に、先に述べた通りキロネックスは体も大きい。
性質上クラゲの触手が体に触れた面積が大きいほど注入される毒の量も多くなるため、ますます症状が重くなってしまう。

恐るべきキロネックスではあるが、幸い今のところ日本近海では確認されていない。
しかし他の多くの南方系の海洋生物と同じく、地球温暖化が進行した場合より高緯度(≒北方)まで生息域を広げてしまうのではないかとも懸念されている。
もしかするとコイツらの脅威も将来他人事ではなくなってしまうのかもしれない。

では、こんなおっかない殺人クラゲを前に我々はどう対処すべきだろう。
一応、毒をものともせずこいつらを食べてくれる天敵としてアカウミガメがいる。こいつらが妙に高い遊泳力と多数の目を持っているのも、ウミガメから逃げるためではないかという説もある。
とはいえ彼らも別に人間に対する慈善事業でクラゲを食べているわけではないし、頼りになるかというと微妙。
というかキロネックスを食い尽くしてしまうほどウミガメが増えに増えてしまったなら、それはそれで生態系的に大問題だろう。

現実的な対処法としては、ウェットスーツやラッシュガードなどを着込んでなるべく肌を晒さないようにするというのが無難。
クラゲの触手には毒針の仕込まれた刺胞というものが多数備わっており、これに肌が触れると針が飛び出して毒を注入してくるのだが、この毒針は布地を貫通することができない。
というか、そもそも布地に対しては刺胞が反応せず、毒針が飛び出してこないらしい。そのためか布地の薄いパンストなどでも防御策として機能するようだ。
また、アンドンクラゲ類に対してはが有効なのも知られている。患部に残った触手にたっぷりと酢をかけるとそれ以上刺胞が反応しなくなるため、それ以上の症状の悪化を防ぐことができるのである。
キロネックス相手だと毒性が強すぎてそんな暇もないかもしれないが、同類のハブクラゲやアンドンクラゲに刺された場合の応急処置としては知っておいて損はない。
ただし他の種類のクラゲに対しては逆効果だったりすることもあるので、何に刺されたかわからない場合はやらないこと。

そして身も蓋もない話ではあるが、生息域ではそもそも不用意に海に入らないというのも立派な対策のひとつ。
海は元々人間が泳いで遊ぶために整備されているわけではない、自然の中の水場なので、そこで何をするにしてもノーリスクというわけにはいかない。
海遊びは楽しいものだが、正しい知識がなければ当然危険が伴うということは頭に入れておこう。


追記・修正は血清とパンストと酢を用意してからお願いします。

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最終更新:2024年08月10日 04:12

*1 実はこいつもキロネックス属である

*2 半数致死量。体重1kgに対して投与された動物の50%が死に至る毒の量