影からの逃亡者(CSI:マイアミ)

登録日: 2016/07/04 Mon 01:44:53
更新日:2018/04/02 Mon 04:49:23
所要時間:約 10 分で読めます






「首吊りロープからお前のDNAが出たら、お前の扱う不動産は狭い独房だけだ」




『影からの逃亡者』は、『CSI:マイアミ』のシーズン4第14話のサブタイトル。原題は『Fade Out』。
スッキリした勧善懲悪な展開の多いマイアミには珍しく、後味の悪いラストを迎えるエピソードの一つ。


【あらすじ】
強盗したと思しき現金を持って逃走するカップル。
ギリギリのところで跳ね橋が上がってしまい御用となる。
しかし、上がった跳ね橋から男の首吊り状態の遺体が発見された。

遺体は両目を撃ち抜かれ、ポケットにはトランプのジョーカーが入れられていた。
その芝居がかったやり口からマフィアの仕業を疑うトリップ刑事。

被害者の名前はジェイク・リッチモンド。
人気クラブの経営者で、首吊りに使われたロープは行列の仕切り棒に使われるベルベットロープだった。
そして銃弾はマフィアのボス、ジョセフ・サルーチが所有する9ミリ拳銃のものだった。
表向きは不動産屋を務めるサルーチを呼び出して尋問するが(冒頭のセリフはその時のホレイショの脅し文句である)、
そこは貫禄ある裏社会の大物。ホレイショ相手にも余裕のある態度を崩さない。

殺害現場を確かめるため、カリ―とデルコはジェイクの営業していたクラブに赴き、クラブの用心棒カズからも事情を聞く。
カズによれば、ジェイクはサルーチの影に怯えていたらしい。
現場に落ちていたのは飛沫血痕の付着したテストの答案用紙だった。更に不審な車のタイヤ痕を発見。

分析の結果、答案用紙は大学の映像学部で使われるマークシートであることが判明。
シナリオ専攻の教授であるマイヤーが浮上する。
マイヤーの車のトランクを開けるとそこには夥しい血溜まりと真っ赤に染まった答案用紙の束、そしてイヤホンのヘッドカバーが…

一方、ロープから検出された上皮組織から映画プロデューサーのノーマン・スタインが割り出される。
ノーマンには前科があり、事情聴取をするとカズと口論になって突き飛ばされ、その時に掴んだものだと判明する。
彼が支援していた脚本家の卵二人はマイヤー教授の生徒で、クラブものを書かせたかったノーマンは未経験の彼らに雰囲気を教えるためにカズに頼みに行ったのだ。
『クラブランド殺人事件』と名付けられた映画の宣伝ポスターには、跳ね橋で首を吊る男の姿が。
シナリオライターの学生達が描いた事件は、今回の事件に酷似していたのだ。




以下、話のネタバレ注意














パトリック・ワイルダーとベン・ウィリアムズという二人のシナリオライターは、シナリオの大筋はマイヤー教授の提案だったと主張するが、その非現実的な内容に苦言を呈していた。


「彼らは教授のシナリオを非現実的だと思ってます。その考えを改めさせるためにジェイクを殺したのでは?」

「私は大まかな提案をしただけだ。具体案は何も…」

台本には 「クラブ経営者を殺す」 「両目を撃ち抜く」 「吊るす」 「マフィアに見せかける」 と数々の具体案が赤いペンでハッキリと記されていた。
しかし、マイヤー教授は筆跡の違いを根拠に事件への関与を否定する。文字を書いた人物が誰なのかも知らないという。

デルコが、カズから「何かあったらここに連絡してくれ」と貰った手書きのメモと赤ペンの筆跡が一致することを発見。
ホレイショとトリップが早速カズの元に事情聴取に行く。
ジェイクが死んだことで人気クラブの経営を手中に収めていたカズ、動機は十分にある。
捜索の結果、キャビネットの引き出しから拳銃を見つかる。それはカズがサルーチの手下だった時に貰った9ミリ拳銃だった。
更に、ジェイクの血中から麻薬が発見された。犯人はジェイクが日常的に吸っている葉巻に麻薬を紛れ込ませて昏睡状態に陥れていたのだ。
ジェイクがいつも葉巻を吸うことを知っていて、疑われることなく近付ける人物。カズの疑いは更に濃厚になった。

分析の結果、発見された9ミリ拳銃はジェイクを殺害するのに使用された凶器と完全一致した。
しかし、残されていた指紋はカズのものでは無かった。

そんな中、ノーマンが台本を持って署に駆け込んでくる。
曰く、学生ライターのコンビから届いた脚本の中に「タレ込んだ奴を暗殺する」という筋書があった、自分は警察に色々と喋ったから命を狙われているのは自分かもしれない、保護してくれと。
パニック寸前のノーマンを宥めるホレイショ。

「本には誰が殺し屋か書かれてないんだぞ!?」

「俺が付きとめる」

拳銃に残された指紋は誰のものなのか?
指紋を採取するために呼び出したパトリックによれば、カズはサルーチの元を離れる時、いざこざを起こして脅されたらしい。
パトリックにも疑いがあるため、丸一日に渡って身柄を拘束することになった。
彼の証言から、タレ込みをしたのはカズだと判断したホレイショ。

しかし、時すでに遅し、カズは一時間ほど前に釈放されていた。



以下、更なる話のネタバレ注意





















トリップの元に カズがクラブで殺されたという通報が入る。
駆け付けたカリ―とデルコは、カズの死は計画性が無く、感情的に殴り殺されたものと分析した。

クラブの扉が開いていた。まだ誰か中にいる。
そこにいたのはベンだった。彼は自らのトランプを回収しに現場に来ていたのだ。

彼の供述が全て物語っていた。

ノーマンの紹介で、カズはパトリックとベンをクラブに誘い、ひとしきり楽しませた後にジェイクのクラブを乗っ取る筋書きを語りだした。
ジェイクが死んで自分がクラブのオーナーになれば、二人の面倒を見てやると。

カズにはアリバイが必要だったため、二人の学生をジェイクの殺害に利用したのだ。
当初は麻薬を飲ませて意識を失わせ、運河に放り込むつもりだった。
しかし、リアリティの追及に心酔したパトリックが、、脚本をそのまま実行するべくジェイクの両目に発砲。それからベルベットロープを外して跳ね橋に吊るしたのである。
その一部始終を見ていながらも、気弱なベンにはパトリックの暴走を止めるほどの勇気は無かった。


マークシート、銃の指紋、イヤホンのヘッドカバーに付いた耳垢
…全ての物的証拠がベンが犯人であることを示していた。


ホレイショはサルーチを呼び出して尋問する。彼の手には人を殴った時に出来る特有のアザが…。

「カズは過去の犯罪を喋るぞ、友人より」というメモ書きがサルーチの車に貼り付けてあった。
息子のように思っていたカズの裏切りを確信したサルーチは逆上し、可愛さ余って憎さ百倍と言わんばかりにカズを撲殺したのだ。

「恩を仇で返すとは…時代は変わったな」

「時代は変わったがも昔も今もこれからも決して変わらないものがある。善と悪だ。その違いは変わらない。」


釈放され、娑婆の空気を満喫するパトリックにデルコが歩み寄る。
事の真相を語るが、彼は容疑を否定する。
パトリックが有罪であると証明する物的証拠が何もないのだ。

「行けよ、だが用心しろよ。町で背後に影が見えたら、それは自分のものじゃないかもしれない。」

「fooo! あんたかな?」

「俺か、あるいはサルーチの真の友人かもな」

「じゃあ俺って結構ツイてるかも。ロスへ引っ越すんだ。毎日ピーカン、影は出来ない」

「まだ終わってない」

「いや、もう終わったよ。脚本もエンディングも決まった。本物のマフィアが殺す。じゃあな!」

窓から手を伸ばし、挑発するかのように厚かましく手を振るパトリックの車を、心からの軽蔑の眼差しで見送るデルコだった。


登場人物


  • パトリック・ワイルダー
本エピソードの真犯人。
カズにジェイクを殺害する計画を持ちかけられ、ノリノリでこれに応じる。
だが自分が書いていた映画の脚本のリアリティを出したいという理由で当初の計画を突如として破棄。
気絶した被害者の両目を9ミリ拳銃で撃ち抜くという残酷な所業を平然とやってのけた(この時、「殺しの心理が分かった」と卑劣な笑みを浮かべている)。
更には自分の殺人を知るカズを邪魔者とみなし、カズの裏切りを仄めかすメモを用意し、サルーチを利用してカズを始末させた。

それだけには飽き足らず、ジェイク殺しの物的証拠をベンに擦り付けた。
デルコと話している時の「よくベンを捕まえてくれた。ゾッとするよ。あんな殺人鬼がすぐそばにいたなんて」と白々しく語る様はまさに吐き気を催す邪悪。
女性や幼児だけに暴行を加える性犯罪者や、人の死ぬ様子を見て楽しむサイコキラーなどとは別のベクトルで視聴者に不快感と嫌悪感を与える人間の屑である。

その外道っぷりは視聴者に思わず
「俺は決してお前を許さない。必ずお前を塀の中へブチ込んでやる。わかったか?」
「お前を必ず、破滅させてやる」
とホレイショの名言を言いたくなること請け合いである。

殺人を犯してその濡れ衣を同級生に着せ、マフィアの師弟まで罠にハメて始末するという本当に学生なのかと疑わしくなるほどドエラいことをしでかした彼だが、原題の通り フェードアウト してしまい、その後彼がどうなったかは語られていない。
罰が下ることを切に祈りたくなるが、 サスペンス映画の殺し方を実際にやってみる というイカレた彼の性格からして、何か別の事件を起こして逮捕される、もしくはギャングやマフィアに危害を加えて命を狙われるのが現実的なところか。
もちろん、デルコが言っていたサルーチの真の友人に仇を討たれるという可能性も十二分にありうる。

  • ベン・ウィリアムズ
キ○ガイパトリックの暴走に巻き込まれ、その罪を全て擦り付けられてしまった可哀想な人。
ジェイク殺害の実行犯の1人であり、加担したのは紛れも無い有罪であるが、相方のパトリックが屑過ぎるせいで被害者としか思えない。
物的証拠だけを見れば一連の犯行は全てベンが起こしたものと見られている。
真相を知るカリーとデルコには少しでも彼の罪が軽くなるように尽力していただきたいものである。

  • シーザー・モラレス(カズ)
本エピソードの 諸悪の根源
自分がクラブを経営する座に就きたいという野心のために、親しい友人でもあった経営者のジェイクの殺害を計画。
アリバイを確保するために、ノーマンの紹介で出会ったパトリックとベンに殺人を唆した。
「カズがクラブの経営者になったらの自分達の面倒を見てくれる」とベンは言っていたが、嘘ハッタリがはびこる世界であるマフィアの出身者であるカズが、本当に約束を守る気があったかは不明。
むしろ、美女に囲まれながらの酒の席でのセリフだったために酔いから出た嘘の発言である可能性が高い。それどころか、あのまま生きていたら実行犯のパトリックとベンを邪魔者とみなして殺害していた可能性も有りうる。
だが昔のボスだったサルーチの事は畏怖しており、そこを逆にパトリックに利用されて謂れのない罪を被ることになり、ボスの怒りを買って殴殺される。
自分の欲望のために殺害計画を立て、おまけに自分の手を汚さないように他人に殺人を実行させるなど彼自身も相当なクズだが、自分の面倒を見てくれていたボスに信じてもらえなかった挙句殺されてしまったのは可哀想と言えば可哀想でもある。

  • ノーマン・スタイン
パトリック、ベンの二人をカズと引き合わせた張本人。
彼は事件にはほとんど関与しておらず、スキンヘッドに恰幅の良い体格といかつい容姿に反して警察に保護を求めるなど臆病で小物っぽい描写が目立った。

  • ジョセフ・サルーチ
元々別の殺人罪で警察から睨まれていたが、今回のカズを殴殺した罪を指摘され、その時の手の傷が動かぬ証拠となり、最終的にホレイショに逮捕される。
幾多の修羅場を潜り抜けてきたであろうマフィアの大ボスが、たかが一学生の手の内に踊らされていたと思うと、何とも空しくやるせない気持ちにさせられる。


【備考】
エピソード中ではパトリックは不敵で余裕のある態度を取り続けており、逆にベンはトリップに睨まれて目が泳ぐなど、オドオドとして性格を伺わせる描写が多い。
扱っている題材は「殺人」という非日常的な物だが、 要領の良い悪人学生が気弱な同級生に罪を擦り付け、自分は悠々と生き残る という胸糞の悪い展開は非常に生々しく、嫌でも視聴者の心に強く残る。
これだけの悪事を働いておきながらパトリックは ホレイショの取り調べを受けた時でさえも 不遜な物腰を崩さなかった。良く言えば肝が据わっていると捉えることもできるが、終始に渡って動揺したり狼狽したりするような描写が一切見られず、最後は釈放を勝ち取る悪人いうのも非常に癪に障るものである。
唯二人デルコとカリーはパトリックの犯行を見抜いていたが、物的証拠が無いために告訴することが出来ず、結果的にパトリックの勝ち逃げという何とも後味の悪い形でエピソードは幕を閉じる。
CSIでは後味の悪い終わり方はそれほど珍しくないが、それでもマイアミシリーズは勧善懲悪で〆る終わり方が多い。
だからこそ、このエピソードのような胸糞展開がより印象に残りやすくもなっていると言える。


追記・修正は他人をハメる行為に怒りを感じる方がお願いします。

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