機器流用車

登録日:2025/07/12 Sat 23:30:01
更新日:2025/08/14 Thu 22:54:08
所要時間:約 7 分で読めます




「あれ?歩呂田線にいつの間にか新車が入ったのか。なんか銀色でカッコいいじゃん、これでもう『ボロだらけの歩呂田線』なんて言われなくて済むな!」
鉄ちゃん(…あの冥電鉄が歩呂田線にいきなり新車を入れた?どこにそんな金が…って、このパンタグラフPS13?まさか…)
「なんか車内がめっちゃ明るくなったな、今どきの電車って感じになったな」
鉄ちゃん(見た目最新型の8000系なのになんてSIVじゃなくてMGの音がする…やっぱこいつ新車なんかじゃない!)
構内放送「1番線、兄尾田市行き、発車いたします。閉まるドアにご注意ください」
シュー、ガラガラガラ…

グォォォォォォン…

「何だこの古い電車の音…しかもなんかめちゃくちゃガタガタする」
鉄ちゃん(やっぱこいつ5000系だった…車体だけ新しくした吊り掛けボロと悪名高いアレだった)


と、茶番はここまでにして。

機器流用車とは、旧型車の部品を再利用して製造された鉄道車両である。
本項目では旧型車の車体を新型車同様のものに交換した「車体更新車」にも触れる。

概要

旧型車から使用可能なパーツを再利用し、新型車両と同等の車体(≒接客設備)を持たせた鉄道車両。要は特撮でいう再生怪人
沿線人口が急激に増加し大量の乗客を捌く必要に迫られた高度経済成長期に少なからず製造された事があるが、現代でも諸事情で誕生する事がある。

何故旧型車のパーツを使い回すのか

鉄道車両を含めた機械類は昔も今も日進月歩で進化しており、当然のことながら「メンテナンス性」や「省エネルギー性」も日夜進化を続けている。
言い方を変えれば、「最新の機器を使って車両をゼロから作ったほうが、実際は製造・運用・廃車すべてを含めたトータルライフサイクルコストの面で有利になる」ことも珍しくない。
そんな中で、敢えて旧型車のパーツを流用する、或いは旧型車の車体だけを新調して「曲がりなりにも新車です」などという一見すると非効率なことをやる必要があるのか。

1)沿線人口の増加などで早急に車両を増やす必要がある
鉄道車両はれっきとした工業製品、それも各社や路線の事情に合わせて作る「オーダーメイド」や「カスタムメイド」の製品である。車両メーカーに発注してもその日のうちに納車…なんていう都合の良いことはよほどの例外でも無い限り無理である。
基本的には早くて数ヶ月、下手をすれば年単位の納期がかかる。
しかし、例えば高度経済成長期のように沿線人口が爆発的に増えるような状況に置かれた場合、そんな悠長なことはやってられない、となることもある。
じゃあどうするか。
「なら、部品は旧型車のものを使いまわして、車体だけ作れば安く早く数を増やせるんじゃね?」
という選択肢が出てくる。
車体だけを作るなら車両一式を丸ごと作るよりは納期は早く、初期費用も安くつく。手っ取り早く車両を増やすには現実的な選択肢の一つである。

2)置き換えるべき車両があまりにも大量にいる
戦前~戦後から使っている旧型車が数百両単位で在籍しているなど、旧型車の数が単純に多すぎる際にも、「車両の規格統一をする」という切り口からすれば機器流用車・車体更新車は有力な選択肢となる。
(1)でも触れたように、工業製品たる鉄道車両には納期というものが発生するし、しかも膨大な数の旧型車を置き換えられるだけの数を発注すると、よほど特殊なケースでもない限り年単位の時間がかかる。
ならば、例えば「20m4ドアで10両編成の普通電車」に統一するだけなら、最悪本格的な新車が出るまでのつなぎと割り切って、機器流用車や車体更新車という形で物理的な寸法だけでも統一してしまえ…という話。

3)現場の運用能力の問題
JRや一部の大手私鉄のように、広域に多数の路線を展開している鉄道事業者の場合、線区や検車区(整備場)によって技術面に差が出る場合もある。
VVVFもチョッパも抵抗制御もなんだって扱える路線があれば、VVVF統一で抵抗制御車の運用・整備がロストテクノロジー化してしまった検車区、逆に抵抗制御以外入ったことのない検車区…というように。
そのような場合、「扱い慣れてない完全な新型車」ではなく敢えて「車体だけ新しいが、メカニズム自体は旧型車」の車両を入れることで堅実な運用を期待することができる。
また、「変電所が電力回生ブレーキに対応しておらず回生ブレーキ車が使えない」「誘導障害*1の懸念がありこれらの車両が走れない」というハンデを抱える路線の場合も、旧型車の機器流用が最適解となることもある。

4)少数製造のために高価になることが予想される
ジョイフルトレインのようなイベント向け車両、観光用に数本だけ製造するような車両など「少数派」の場合、量産効果が期待できず製造費用が高く付く事が多い。
そのような場合でも、パーツ類を流用してコスト削減を行うために機器流用車として製造する場合もある。
この意味では、大半が既存車(というか古いために運用が少なくなった車種・車両)の車籍と利用可能なパーツのみ流用して後は新造であることが多かった80~90年代までのジョイフルトレインは大半が該当するともいえる。
改造範囲が狭いため下の実例では紹介していないが、14系「サロンカーなにわ」に至っては種車が1969年~1971年製造・1983年デビューで2025年7月まで運用されており、原型で使用されていた期間より「なにわ」として使用された期間のほうが3倍以上長いと、この利点をフル活用したケースとも紹介できるだろう。

5)車体と電装品で経年数が異なり、減価償却が完全に終わっていない
「戦前製の車体に戦後に製造した電装品を新調した」とか、「1960年代にデビューし、1980年代後半に機器類を更新した」などで、車体と電装品で経年に著しい差異がある場合、「車体はもう限界なのに電装品は新しくて減価償却が済んでない、つまり元が取れてない」というケースが発生することがある。
ならば限界が来た車体だけ新しくして、まだ元を取ってない電装品はこれからも使っていこう、ということである。

6) 車両譲渡時の都合
地方私鉄などが車両譲渡を受ける時、車両を機器類や台車含め丸々譲渡されることが多いが、中には譲渡元が自社内で流用するために車体しか譲渡されなかったというケースや、そのままでは台車(軌間)や機器類が自社線に適合しないために適合する部品を別途用意しなければならないことがある。
その場合、また別の車両や会社から機器類を探してくるしかない。その性質上、本来無関係な形式の部品が集まったキメラのような車両が出来上がることも。

7) 運用の都合
特急など優等列車用の場合、経年は浅くとも新車の登場で車内設備や性能が見劣りするため置き換えられてしまうことは珍しくない。その場合は普通列車や臨時列車に転用されるのが一般的だが、そのままでは使い勝手が悪い場合に車体を新造することがある。有料列車を持つ私鉄では時折見られるケースだが、国鉄末期からJR初期には急行列車の廃止が相次いだことで、余った大量の急行形車両が近郊形やジョイフルトレインに更新された。

8) 金がない
身も蓋もないが切実な理由。地方私鉄はもちろん、JRや大手私鉄でもローカル線を抱えているといきおい赤字体質になる。それでも、容赦なく車両の老朽化はやってくる。
ところが、鉄道車両というのは安くても一両1億は下らない超高級品で、3億円に迫ることも何ら珍しいことではない。お金がないから新車を作るのは不可能。かといって、極端にボロい車両が運用されることによるサービスの低下を乗客が許してはくれない。
そのため、鉄道会社の懐事情と乗客からの要求の綱引きにより、機器類はそのままに車体だけ新車にするという手でサービスレベルだけでも維持しようという判断が下されるのもよくあることである。
このあたりは5)も「産廃やスクラップとして捨てる方が金銭的には高コストだし、そもそももったいない」としてこれと共通する部分もある。
この辺は事例(3)と共に、概要の部分にも書いた特撮の再生怪人にも通ずるところがあるかもしれない。

なお、新造車両でもこれらの理由から部品単位で機器を流用する例が見られる(JR東日本253系200番台、南海10000系、京阪13000系1~4次車等)が、こうした車種を例に出すとキリがなくなることや、原則「機器流用車」と呼ばれていないこともあるので本項では割愛する。

機器流用車の利点と欠点

利点

  • 安上がり
機器流用車最大の強みの一つ。
高価な電装品や台車は使いまわし、車体のみを新造するため完全新製よりも安上がりとなる。

  • すぐ出来る
これも新造するのが車体(と、場合によっては一部の電装品)のみであるため、完全新製よりも納期が早くなる。

  • とりあえず見た目だけでもごまかせる
「ごまかす」というと言い方は悪いが、少なくとも車体そのものは新車と同等なため、乗客視点からすれば新型とほぼ同等のサービスを提供することは可能となる。

  • 扱いやすさ
見た目は新しいが、機構的には旧型車そのものであるため、現場からすれば「慣れ親しんだ、整備技術の確立した車両」とも言えるため整備しやすい。

欠点

  • 寿命は基本的に短い
車体は新しくても、その下の機器は長年の使用で相応のダメージが蓄積されている。
このため機器流用車・車体更新車は概して寿命が短い場合が多い。
名鉄1030系・1850系、6750系のように車体は新しいのに機器流用車故に更新から漏れて編成ごと廃車となるケースもある。

  • 性能や乗り心地は劣る場合が多い
車体こそ新しいものの、内部的には旧型車であることには変わりないため、特に台車などの走りに直接関わる部分が流用品の場合、性能的には旧型車そのものであることが多い。
ダイヤ改正などで最高速度の向上を実施する際は当然ながら足を引っ張る存在となるので、耐用年数にかかわらず廃車の一因ともなる。
アニオタ的に言うなら「ザクのパーツを使って簡易版ゲルググを作ってみたけど、核融合エンジンのパワーが足りなくてビーム兵器が使えない『ゲルググ風のザク』にしかならなかった」みたいな話である。

  • 他形式と併結できない
地味に厄介な問題。
特に旧型車と新型車で制御方式はおろか、ブレーキシステムや制御シーケンスまでも異なる場合、併結することは不可能~極端に難しくなるため、運用面で著しい制約を生んでしまう。
場合によっては残存している旧型車とも新型車とも併結できない、なんて奴が生まれることも。

新幹線では見ない気がするんだけど…

ありません、というより少なくとも営業用の電車では事実上無理といっていい。
そもそも新幹線は一日で2000キロ以上を走破してしまう運用もザラであり、一日あたりの負荷が半端ないのである。
国鉄時代の0系の時点で寿命が16年だったということからも、どれだけ負荷が大きいか察せられるだろう。
また200~300km/h、あるいはそれ以上という環境で運用される故、僅かなトラブルが大惨事に繋がりかねないので、過酷な運用でダメージが蓄積されている機器を迂闊には転用できないというのもある。
新幹線は「電車」というより「航空機」に近い考えの乗り物と思ったほうがいい。

ただ「まだ使えるのを捨てるのはもったいない」という考え方自体は新幹線においても肯定されており、0系や100系500系など東海道・山陽新幹線系の車種を中心に「同車種内で機器を並び替えたりまとめたりすることで編成を短くする」ケースはあった。
現役だと500系V編成*2が該当するほか、0系Q編成・100系P編成に至ってはなんと4両まで短縮されており(岡山~博多の「こだま」限定運用なので需給上これでもokだった)、発想としては機器流用車と類似している面もあると言えるだろう。

機器流用車・車体更新車の例

  • 国鉄72系970番台
仙石線に在籍した、72系の車体更新車。
旧型国電の72系に103系相当の車体を載せた「新車っぽい旧型国電」である。
但し車体を103系「相当」にしたとはいっても、台枠(クルマでいうシャーシ)は72系のものであったため、微妙に車高が高くなっている。
後年には本物の103系が投入されたことでそのまま廃車か…と思いきや、川越線の電化開業に合わせて転用が決定。
機器類も103系相当に交換され、103系3000番台として本物の103系に生まれ変わった成り上がり車両。

  • 国鉄62系(2代目)
1974年に登場した72系の更新車で、車体が当時増備されていた113系に準じたものとなった。
身延線向けに4両編成3本が導入されたが新車投入までの繋ぎだったようで、1984年の身延線新性能化に伴い運用終了。
その後も富士駅構内に長らく留置され、解体されたのはJRに入ってからだった(除籍は1986年)。
前述した970番台のような更新が行われなかったのは、車体鋼板が薄く老朽化が予想以上に進行していたことが理由とされている。
当時の状況*3を考えるとクハぐらいは新性能化されてもおかしくなかったが、それも断念せざるを得なかった程酷かったのだろう。
ちなみに、佐久間レールパークにはこの車両のカットモデルを使ったコインを入れたらいきなり列車が動き出す低クオリティ全開な運転シミュレーターが存在した。

  • 国鉄413系/717系
1985年に登場した急行形電車455系・475系の更新車。
交直流の413系が北陸地区、交流の717系が東北・九州地区にそれぞれ導入された。
車体を2ドアデッキ付きのクロスシートから両開き2ドアセミクロスシートに載せ替えており*4、ラッシュ時の輸送改善に貢献した。
なお、717系には1995年に登場した3ドア車の900番台が存在するが、こちらは種車の車体をそのまま流用しているので機器更新の定義からは外れる。

  • 国鉄キハ38形
一般形気動車の近代化を目的に、通勤形気動車のキハ35系を更新した車両。
エンジンは新品に交換されており、国鉄の一般形気動車では初となる車両冷房*5を搭載した。
八高線に導入され、同線の電化後は久留里線に転属。久留里線からの引退後は水島臨海鉄道に1両、ミャンマーへ5両が譲渡された他、1両がいすみ市の鉄道保存施設「ポッポの丘」で保存されている。

急行運用がなくなりローカル線の普通列車として使われていた165系の機器類を流用して、3ドア車の新造車体を載せたもの。
詳しくは該当項目参照。

  • JR東日本253系200番台
JRの特急型車両では異例となる機器流用車。
前述した微妙なラインに属する車両なので、詳細は成田エクスプレスを参照。

  • 東武5000系
東武鉄道である意味有名だった車両。
吊り掛け駆動の7800系の車体を8000系相当に更新した車両である。
後年に電動方向幕搭載や冷房化、コンプレッサーの交換などを行い、吊り掛け駆動車とは思えない接客設備を持つ車両へと進化を遂げている。

  • 東武6050系
日光・鬼怒川方面の快速列車として使用されていた6000系の後継。
新造された車体に6000系の主電動機や台車など多くの機器が流用されている。
主制御器など新製されたものもあったが、制御シーケンスやブレーキシステムは6000系とほぼ同一仕様で更新途中期には両車の併結運転も行われていた。
6050系自体は6000系から改造された22編成の他、完全新造車*6も登場している。
また、完全新造車の中には特急用の634型「スカイツリートレイン」に改造された編成がある。

  • 東武200系
伊勢崎線急行→特急「りょうもう」用の車両。
長年日光鬼怒川線特急で使用されていた1720系デラックスロマンスカーの主電動機・台車・座席(※203~206F限定*7)などを転用している。
204F・205Fの前身は1711F・1701Fで、箱型車体の1700系(1956~1957年製)から車歴も引き継いでいるが、1978~1979年に機器更新・台車換装などが施されたので当初のパーツは殆ど無い。
250型の251Fは30000系に準じた主回路システムを採用したVVVFインバータ制御車として新造されたが、200系の就役で余剰になった1800系の車体更新も検討していたという。

  • 西武4000系/9000系/10000系
関東の機器流用車と言えば東武とともにここを思い浮かべる人も多いだろう。
いずれも101系および同じ機器類を使った2代目501系・5000系の機器流用車で、4000系は秩父鉄道直通のセミクロスシート車、9000系は2000系とほぼ同じ車体の通勤車、10000系はニューレッドアローである。
10000系は特急らしからぬ爆音が最大のセールスポイントと西武側も公言している
このうち9000系は後年制御装置をVVVFインバータに更新した。
なお、これらの機器類は当初秩父鉄道に直通可能なハイデッカー式の特急列車(仮称7000系)に流用する計画だった。

ある世代は「路面電車と言ったらコレ」となるような都電の顔。
実はこの車両も車体更新車である。
初期の「1つ目」の丸っこい車体から、現在の直線基調の近代的な車体に更新され…
そして21世紀に入りあろうことかVVVF・カルダン駆動化した「7700形」として二度目の生まれ変わりをしてしまった。

  • 相鉄3000系
神奈川の変態私鉄・相模鉄道にかつて在籍した車両。
元々払下げの63系旧型国電だったものを車体を6000系(前期型)と同等のものに交換、そして後年にはVVVF化改造も行われたという、上記の都電7000(7700)形張りの経歴の持ち主。
台枠は最後まで63系由来のものが使用されていたので、史上唯一の「63系ベースのVVVFインバータ制御車」というド変態車だった。

  • 相鉄2100系
こちらも神奈川の変態私鉄(ryで、1970年に登場。
それまで使用していた旧型国電崩れの17m車・2000系を更新したものである。
軽量化のためにアルミ車体を採用し、アクセントとして側面上下と正面貫通扉に朱色を入れた。
この車体は後年登場する高性能車の機器流用車である5100系(→2代目5000系)、新造車の7000系にも引き継がれ相鉄を象徴するデザインとなった。

  • 京成3400形
走行機器のほとんどすべてが「スカイライナー」こと初代AE形からの流用。
当初AE形は原形をとどめた車体更新も検討されていたが、増発用に導入されたAE100形の評価が高くサービス上の観点から全列車の置き換えが決定。
上述した「機器はまだ十分使えるため、減価償却の観点でなんらかの新形式に流用した方が望ましい」という事情が挟まったため、通勤形への更新が行われた。
見た目は当時増備されていた3700形に準じているが、クーラーなどに面影を残す。
見方によっては同じ制御装置を持つ3600形の兄弟車と見る向きもあったりなかったり。
AE形から数えて40年以上経過したためさすがに廃車が始まっているが、2025年現在もしぶとく1編成が残っている。

  • 富山地方鉄道16010形
富山地鉄…というか中部地方の非大手私鉄は「軌間などの規格違いに対応させる」「移籍元の路線側で流用を希望したため、そのパーツのみ別途譲渡を受けた」によるキメラ型機器流用車が多いため、1例のみ紹介。
西武鉄道5000系『レッドアロー』の譲渡車。
西武鉄道が機器類を10000系『ニューレッドアロー』に流用する関係上車体のみの譲渡となり、機器類や台車はJR九州485系から、運転台のマスコンやブレーキハンドルは京浜急行電鉄旧1000形と様々な車両の寄せ集めとなった。
ちなみにそのニューレッドアローも20020系として富山地鉄に移籍しており、27年ぶりに下ろされた機器とその機器の提供元となった車体が再会することとなった。

  • 名鉄5000系(2代目)
名古屋鉄道の通勤電車。
車体は2008年製のステンレス製なのだが、機器類は同時期に全車特別車特急のミュースカイ化に伴いお役御免となった「パノラマSuper」1000系からの流用。
そのため見た目はかなり新しいのに中身は1988〜97年製チョッパ制御車という状態。
機器の性質上他の通勤型と共通運用が組めないので5000系専用の運用が設定されている反面*8、なんと特急運用も存在する。これは河和線特急は一般車4両のみの列車も多数設定されているため。
名鉄は大手私鉄にしては機器流用車が多く、このように近年でも例があるためお家芸と呼ばれることも。

  • 名鉄6750系
名鉄瀬戸線用の電車で、戦後生まれの吊り掛け駆動車両から機器を流用。
生え抜き新車の6600系に準じた車体の1次車と、6800系に似た車体と独自の前面形状を持つ2次車に分類される。
後者については将来的な高性能化も考慮した設計だった。
2011年の引退まで一貫して瀬戸線で活躍し続け、これが結果として大手私鉄では最後まで運用された吊り掛け駆動の大型電車となった。

  • 南海21201系
廃車となった旧型車両の機器を流用し、ズームカーこと21000系と同じ車体に更新したもの。
高野線で使用されたが同線の1500V昇圧後、600Vで残された貴志川線(現:和歌山電鐵貴志川線)に先頭車1両だけが増結車として転用。
塗装も21000系と同じものから南海の旧一般色である緑ツートンに変更され、1986年まで使用された。

  • 京阪700系→1000系(3代目)
700系は戦中~戦後製の特急車・1000系(2代目)の主要機器を流用して1967年に登場した。
その後1974年に京阪本線系統の架線電圧1500Vへの昇圧が決定(1983年12月に実施)したため、1977年から昇圧に対応できない旧車由来の機器や台車を近代化、同時に冷房化して完全な新性能電車として生まれ変わったのが1000系(3代目)である。

700系→1000系への改番の際に事実上の更新改造を行っているためなのか、600V時代から使用されている車両では2025年現在1両も廃車されていないが、今後は13000系の導入に伴う置き換えの対象となっている。

  • 近鉄1000系(2代目)
かつては様々な出自を持つ雑多な車両が行き交っていた近鉄名古屋線だが、1959年の改軌を機に奈良線・大阪線と同等の大型高性能車が投入されるようになる。しかし路線網の広さゆえ車両の増備が追いつかず、1972年に機器流用車である1000系を導入することとなった。
車体こそ当時の最新型1800系に準じたものを新造したが、機器類は戦前、近鉄の前身である参宮急行電鉄が導入した急行用車両・2200系から流用された。……つまりこの時点で40年物である。しかしその性能は伊達ではなく*9、1800系に混じって急行運用をこなしていたとか。
一部の車両は現在も残っているが、機器類は既に更新されている。

  • 近鉄18000系
新幹線との接続を目的に運転を開始した京都線特急の輸送力を上げるべく1965年に投入された車両。
当時は通勤需要の急増で手が回らなかったことや、昇圧と建築限界の拡大を控えていたことから機器流用車として登場した。……のだが、有料特急用なのに何と普通列車用の一般車(モ600形)から走行機器を流用して登場。観光特急でもないのに一般車から機器を流用した特急車は恐らくこの形式くらいだと思われる。当然吊り掛け駆動でさらに小型車からの流用だったため、新造の車体が重すぎて性能はかなり悪かったらしい。昇圧に合わせて改善されたものの、大型車の乗り入れが始まると性能も車内の広さも全く敵わず、登場から18年でひっそりと引退した。

  • 近江鉄道220系
1991年に登場。精悍な顔つきに冷房と両開き扉を備えた、地方私鉄らしからぬ都会的な通勤車…なのは見た目だけで、その実ゲテモノレベルの流用車。
まずモーターが戦前製。当然の如く吊掛駆動である。台枠と制御装置も戦前製で、台車は辛うじて戦後製だが西武からの流用だった。車体も新造ということになっているが、窓や扉は廃車された車両から持ってきている。さらに機器だけでは飽き足らず、車籍も流用したため書類上は大正生まれになっている車両もいたとか…なおブレーキだけは電気指令方式と当時の最新型である。
富山地鉄がマシに見える流用っぷりである。
従来車からの流用ばかりとあって保守面ではメリットがあったようだが*10、当然ながら老朽化が問題となり、2015年に旅客営業から引退。それでも1両が事業用としてしぶとく残っていたが、2024年に除籍されている。

  • 番外編:車両そのものの流用
車齢が(比較的)新しく、事例(5)の「減価償却が完全に終わっていない」などの点で生まれたケース。
これも実は歴史が古く、1966年にはすでに「余ったサロ152を小加工して113系のグリーン車に回す(サロ110形0番台・同900番台)*11」のケースが存在する。
それ以外にも枚挙に暇がないので本稿では割愛しておく。


旧車のパーツでどんな車両が作れるか想像しながら追記・修正をお願いします。


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最終更新:2025年08月14日 22:54

*1 VVVFインバータやチョッパ装置のノイズで信号や踏切が誤作動を起こすこと。

*2 8両の「こだま」編成

*3 地方線区での列車増発のために113系・115系の短編成化が実施されており、先頭車化改造も頻繁に行われていた。

*4 この構造は先に導入されていた新造車の417系・713系に準じたものとなっている。

*5 これ以前にも北九州地区に導入されたキハ66・67形が冷房装備で落成しているが、こちらは快速のほか急行列車での使用実績もあるため一般形かどうかが微妙なところ。

*6 直通する野岩鉄道・会津鉄道所属車は完全新造車である。

*7 2014~2016年に新製品の座席へ交換されている。

*8 マニュアル掲載上は1800系との併結のみ可能だが、定期運用では回送列車含めても行うことはない。

*9 前身の2200形の車両性能も戦前としてはかなりの高性能を誇っており、21世紀の電車とそん色ないレベルである。

*10 実際にモーターや制御装置に関しては「慣れているため保守しやすいから」も選定理由のひとつだった様子。

*11 ステンレス外板テスト車のサロ152-901・-902が改造対象となったための区分分け。