機器流用車

登録日:2025/07/12 Sat 23:30:01
更新日:2025/07/15 Tue 00:27:34
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「あれ?歩呂田線にいつの間にか新車が入ったのか。なんか銀色でカッコいいじゃん、これでもう『ボロだらけの歩呂田線』なんて言われなくて済むな!」
鉄ちゃん(…あの冥電鉄が歩呂田線にいきなり新車を入れた?どこにそんな金が…って、このパンタグラフPS13?まさか…)
「なんか車内がめっちゃ明るくなったな、今どきの電車って感じになったな」
鉄ちゃん(見た目最新型の8000系なのになんてSIVじゃなくてMGの音がする…やっぱこいつ新車なんかじゃない!)
構内放送「1番線、兄尾田市行き、発車いたします。閉まるドアにご注意ください」
シュー、ガラガラガラ…

グォォォォォォン…

「何だこの古い電車の音…しかもなんかめちゃくちゃガタガタする」
鉄ちゃん(やっぱこいつ5000系だった…車体だけ新しくした吊り掛けボロと悪名高いアレだった)


と、茶番はここまでにして。

機器流用車とは、旧型車の部品を再利用して製造された鉄道車両である。
本項目では旧型車の車体を新型車同様のものに交換した「車体更新車」にも触れる。

概要

旧型車の中でも使用可能なパーツを再利用し、新型車両と同等の車体(≒接客設備)を持たせた鉄道車両。
沿線人口が急激に増加し大量の乗客を捌く必要に迫られた高度経済成長期に少なからず製造された事があるが、現代でも諸事情で誕生する事がある。

何故旧型車のパーツを使い回すのか

鉄道車両を含めた機械類は昔も今も日進月歩で進化しており、当然のことながら「メンテナンス性」や「省エネルギー性」も日夜進化を続けている。
言い方を変えれば、「最新の機器を使って車両をゼロから作ったほうが、実際は製造・運用・廃車すべてを含めたトータルコストの面で有利になる」ことも珍しくない。
そんな中で、敢えて旧型車のパーツを流用する、或いは旧型車の車体だけを新調して「曲がりなりにも新車です」などという一見すると非効率なことをやる必要があるのか。

1)沿線人口の増加などで早急に車両を増やす必要がある
鉄道車両はれっきとした工業製品、それも各社や路線の事情に合わせて作る「オーダーメイド」や「カスタムメイド」の製品である。車両メーカーに発注してもその日のうちに納車…なんていう都合の良いことはよほどの例外でも無い限り無理である。
基本的には早くて数ヶ月、下手をすれば年単位の納期がかかる。具体的には必要になってから2ヶ月で運用開始の阪神電鉄9000系で「メチャクチャ早い」「異例中の異例」扱いされるくらい(かつこの時は非常に特殊な事情があった*1)。
しかし、例えば高度経済成長期のように沿線人口が爆発的に増えるような状況に置かれた場合、そんな悠長なことはやってられない、となることもある。
じゃあどうするか。
「なら、部品は旧型車のものを使いまわして、車体だけ作れば安く早く数を増やせるんじゃね?」
という選択肢が出てくる。
車体だけを作るなら車両一式を丸ごと作るよりは納期は早く、初期費用も安くつく。手っ取り早く車両を増やすには現実的な選択肢の一つである。

2)置き換えるべき車両があまりにも大量にいる
戦前~戦後から使っている旧型車が数百両単位で在籍しているなど、旧型車の数が単純に多すぎる際にも、「車両の規格統一をする」という切り口からすれば機器流用車・車体更新車は有力な選択肢となる。
(1)でも触れたように、工業製品たる鉄道車両には納期というものが発生するし、しかも膨大な数の旧型車を置き換えられるだけの数を発注すると、よほど特殊なケースでもない限り年単位の時間がかかる。
ならば、例えば「20m4ドアで10両編成の普通電車」に統一するだけなら、最悪本格的な新車が出るまでのつなぎと割り切って、機器流用車や車体更新車という形で物理的な寸法だけでも統一してしまえ…という話。

3)現場の運用能力の問題
JRや一部の大手私鉄のように、広域に多数の路線を展開している鉄道事業者の場合、線区や検車区(整備場)によって技術面に差が出る場合もある。
VVVFもチョッパも抵抗制御もなんだって扱える路線があれば、VVVF統一で抵抗制御車の運用・整備がロストテクノロジー化してしまった検車区、逆に抵抗制御以外入ったことのない検車区…というように。
そのような場合、「扱い慣れてない完全な新型車」ではなく敢えて「車体だけ新しいが、メカニズム自体は旧型車」の車両を入れることで堅実な運用を期待することができる。
また、「変電所が電力回生ブレーキに対応しておらず回生ブレーキ車が使えない」、「誘導障害*2の懸念がありこれらの車両が走れない」というハンデを抱える路線の場合も、旧型車の機器流用が最適解となることもある。

4)少数製造のために高価になることが予想される
ジョイフルトレインのようなイベント向け車両、観光用に数本だけ製造するような車両など「少数派」の場合、量産効果が期待できず製造費用が高く付く事が多い。
そのような場合でも、パーツ類を流用してコスト削減を行うために機器流用車として製造する場合もある。
この意味では、大半が既存車(というか古いために運用が少なくなった車種・車両)の車籍と利用可能なパーツのみ流用して後は新造であることが多かった80~90年代までのジョイフルトレインは大半が該当するともいえる。
改造範囲が狭いため下の実例では紹介していないが、14系「サロンカーなにわ」に至っては種車が1969年~1971年製造・1983年デビューで2025年7月まで車籍および本線走行実績*3があったと「なにわ」としてのほうが長いと、この利点をフル活用したケースとも紹介できるだろう。

5)車体と電装品で経年数が異なり、減価償却が完全に終わっていない
「戦前製の車体に戦後に製造した電装品を新調した」とか、「1960年代にデビューし、1980年代後半に機器類を更新した」などで、車体と電装品で経年に著しい差異がある場合、「車体はもう限界なのに電装品は新しくて減価償却が済んでない、つまり元が取れてない」というケースが発生することがある。
ならば限界が来た車体だけ新しくして、まだ元を取ってない電装品はこれからも使っていこう、ということである。

6) 車両譲渡時の都合
地方私鉄などが車両譲渡を受ける時、車両を機器類や台車含め丸々譲渡されることが多いが、中には譲渡元が自社内で流用するために車体しか譲渡されなかったというケースや、そのままでは台車や機器類が自社線に適合しないために適合する部品を別途用意しなければならいことがある。
そのため、また別の車両や会社から機器類を探してくるしかない。その性質上、本来無関係な形式の部品が集まったキメラのような車両が出来上がることも。

7) 金がない
身も蓋もないが切実な理由。地方私鉄はもちろん、JRや大手私鉄でもローカル線を抱えているといきおい赤字体質になる。それでも、容赦なく車両の老朽化はやってくる。
ところが、鉄道車両というのは安くても1億は下らない超高級品で、2億円に迫ることも何ら珍しいことではない。お金がないから新車を作るのは不可能。かといって、極端にボロによるサービスの低下を乗客が許してはくれない。
そのため、鉄道会社の懐事情と乗客からの要求の綱引きにより、機器類はそのままに車体だけ新車にするという手でサービスレベルだけでも維持しようという判断が下されるのもよくあることである。
このあたりは5)も「産廃やスクラップとして捨てる方が金銭的には高コストだし、そもそももったいない」としてこれと共通する部分もある。

機器流用車の利点と欠点

利点

  • 安上がり
機器流用車最大の強みの一つ。
高価な電装品や台車は使いまわし、車体のみを新造するため完全新製よりも安上がりとなる。

  • すぐ出来る
これも新造するのが車体(と、場合によっては一部の電装品)のみであるため、完全新製よりも納期が早くなる。

  • とりあえず見た目だけでもごまかせる
「ごまかす」というと言い方は悪いが、少なくとも車体そのものは新車と同等なため、乗客視点からすれば新型とほぼ同等のサービスを提供することは可能となる。

  • 扱いやすさ
見た目は新しいが、機構的には旧型車そのものであるため、現場からすれば「慣れ親しんだ、整備技術の確立した車両」とも言えるため整備しやすい。

欠点

  • 寿命は基本的に短い
車体は新しくても、その下の機器は長年の使用で相応のダメージが蓄積されている。
このため機器流用車・車体更新車は概して寿命が短い場合が多い。
名鉄1030系・1850系のように車体は新しいのに機器流用車故に更新から漏れて編成ごと廃車となるケースもある。

  • 性能や乗り心地は劣る場合が多い
車体こそ新しいものの、内部的には旧型車であることには変わりないため、特に台車などの走りに直接関わる部分が流用品の場合、性能的には旧型車そのものであることが多い。
アニオタ的に言うなら「ザクのパーツを使って簡易版ゲルググを作ってみたけど、核融合エンジンのパワーが足りなくてビーム兵器が使えない『ゲルググ風のザク』にしかならなかった」みたいな話である。

  • 他形式と併結できない
地味に厄介な問題。
特に旧型車と新型車で制御方式はおろか、ブレーキシステムや制御シーケンスまでも異なる場合、併結することは不可能~極端に難しくなるため、運用面で著しい制約を生んでしまう。

機器流用車・車体更新車の例

72系970番台(旧国鉄)

国鉄(現JR東日本)の仙石線に在籍した、72系の車体更新車。
旧型国電の72系に、103系相当の車体を載せた「新車っぽい旧型国電」である。
但し車体を103系「相当」にしたとはいっても、台枠、クルマでいうシャーシは72系のものであったため、微妙に車高が高くなっている。
後年機器類も103系相当に交換され、103系3000番台に生まれ変わった。

73系クハ66・モハ62(旧国鉄)

こちらは73系に身延線用に115系のような車体を載せたもの。
しかも種車は上記の72系のより古い63系からの改造車である73系。
見た目はほぼ115系だが吊り掛け音がする紛うことなき旧型国電。
新車投入までの繋ぎだったようで、72系970番台とは異なり機器更新を受けることなく1986年までに全廃されている。

キハ38形(旧国鉄)

外吊りドアが特徴的なキハ30系列から機器類を流用し、一般的な戸袋付き・冷房装備の3ドア新造車体を組み合わせたもの。なおエンジンは新品に取り換えられている。
ただし製造が国鉄末期だったためにたった7両に留まった。JRに引き継がれJRで引退後は水島臨海鉄道に1両、ミャンマーへ5両が譲渡された他、1両が保存されている。

107系(JR東日本)

急行運用がなくなりローカル線の普通列車として使われていた165系の機器類を流用して、3ドア車の新造車体を載せたもの。
詳しくは該当項目参照。

東武5000系

東武鉄道である意味有名だった車両。
吊り掛け駆動の7800系の車体を8000系相当に更新した車両である。
後年に電動方向幕搭載や冷房化、コンプレッサーの交換などを行い、吊り掛け駆動とは思えないハイスペックな車両へと進化を遂げている。

東武6050系

日光・鬼怒川方面の快速列車として使用されていた6000系の後継。
新造された車体に6000系の主電動機や台車など多くの機器が流用されている。
主制御器など新製されたものもあったが、制御シーケンスやブレーキシステムは6000系とほぼ同一仕様で更新途中期には両車の併結運転も行われていた。
6050系自体は6000系から改造された22編成の他、完全新造車*4も登場している。
また、完全新造車の中には特急用の634型「スカイツリートレイン」に改造された編成がある。

東武200系

伊勢崎線急行「りょうもう」で運用されていた1800系の後継。
日光線特急「けごん」「きぬ」用である100系スペーシアの導入に伴って退役した1720系デラックスロマンスカーの主電動機・台車・座席(※203F~206F限定)などを転用している。
204F・205Fの前身は1720系1711F・1701Fで、1700系(1956~1957年)から車歴も引き継いでいるが、1978~1979年に機器更新・台車換装などが施されたので前々身の部位は殆ど残ってない。
250型の251FはVVVFインバータ制御車として新造されていたが、200系の就役で運用を離脱した1800系の車体更新も検討されていたという。
なお車体長が18m級と短い220型(2両編成)の投入も構想されていたが、1720系の廃車発生品は54両分しか無いため、機器類や台車は200型と異なっていた筈である。

東京都交通局7000形電車

ある世代は「路面電車と言ったらコレ」となるような都電の顔。
実はこの車両も車体更新車である。
初期の「1つ目」の丸っこい車体から、現在の直線基調の近代的な車体に更新され…
そして21世紀に入りあろうことかVVVF・カルダン駆動化した「7700形」として二度目の生まれ変わりをしてしまった。

相鉄3000系

神奈川の変態私鉄・相模鉄道にかつて在籍した車両。
元々払下げの旧型国電だったものを車体を6000系(前期型)と同等の車体に交換、そして後年にはVVVF化改造も行われたという、上記の都電7000(7700)形張りの経歴の持ち主。

富山地方鉄道16010形

富山地鉄…というか中部地方の非大手私鉄は「軌間などの規格違いに対応させる」「移籍元の路線側で流用を希望したため、そのパーツのみ別途譲渡を受けた」によるキメラ型機器流用車が多いため、1例のみ紹介。
西武鉄道5000系『レッドアロー』の譲渡車。
西武鉄道が機器類を10000系『ニューレッドアロー』に流用する関係上車体のみの譲渡となり、機器類や台車はJR九州485系から、運転台のマスコンやブレーキハンドルは京浜急行電鉄旧1000形と様々な車両の寄せ集めとなった。
ちなみにそのニューレッドアローも20020系として富山地鉄に移籍しており、27年ぶりに下ろされた機器とその機器の提供元となった車体が再会することとなった。

名鉄5000系(二代目)

名古屋鉄道の通勤電車。
車体は2008年製のステンレス製なのだが機器類はその頃全車特別車特急がミュースカイ以外廃止されたため廃車となった1000系からの流用。
そのため見た目はかなり新しいのに中身は1988〜97年製チョッパ制御車という状態。
機器の性質上他の通勤型と共通運用が組めないので5000系専用の運用が設定されている反面*5、なんと特急運用も存在する。これは河和線特急は一般車4両のみの列車も多数設定されているため。

名鉄6750系

名古屋鉄道の通勤電車。
車体こそ1980年代末から90年代初頭製だが、機器類は戦後生まれの吊り掛け駆動車両からの流用。
そのため見た目はまあまあ新しいのに、走行音は吊り掛けの轟音。
引退まで瀬戸線で活躍し続け、これが結果として大手私鉄最後の吊り掛け駆動の大型電車となった。

京成3400形

走行機器のほとんどすべてが初代AE形*6からの流用というある意味恐るべきケース。大手では有料特急専用車種の機器を通勤型に流用するのは珍しい。
これはAE100形の投入により旧AE形が余ってしまったうえ、上述した「機器はまだ十分使えるため、減価償却の観点でなんらかの新形式に流用した方が望ましい」という事情が挟まったため。この理由から当時の京成ではほぼスカイライナー用車両限定の機能だった定速走行モード*7が使用できる。
一応は機器流用ではなく「AE形の改造および車番変更」扱いではあるが。
ちなみにこっちのAE形デビューが1973年、3400形への移行開始が1993年で2025年夏現在も(廃車こそ始まっているが)定期運用があるため、機器流用車種たる3400形のほうが在籍期間としては長くなっているし、なんなら旧AE形を置き換えるための車種だったはずのAE100形の方が先に全面引退した。
京成パンダ*8といいまったくもってロックな会社である。


旧車のパーツでどんな車両が作れるか想像しながら追記・修正をお願いします。


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最終更新:2025年07月15日 00:27

*1 阪神・淡路大震災で車両基地ごと甚大なダメージを受けたため大至急で「線路側の復旧が出来しだい投入できる代車」が必要だったのと、距離的にすぐ近くの川崎重工兵庫工場にたまたまかなり製造ラインの余裕があったため、生産機能のほとんどをこの被災代替車種である9000系・5500系に回すことができた。この理由もあって9000系は当時の阪神優等列車用車種としては異例な部分も多い

*2 VVVFインバータやチョッパ装置のノイズで信号システムが誤作動を起こす

*3 さすがに2010~2020年代に入ると大半は機関車の免許を取った運転士の公道研修のための「牽引されるやつ」だったが、晩年でもイベント列車に登板することは毎年のようにあった。

*4 直通する野岩鉄道・会津鉄道所属車は完全新造車である。

*5 マニュアル掲載上は1800系との併結のみ可能だが、所定通りの運用では回送列車含めても行うことはない

*6 宗吾の車両基地で保存されてたり、ゲーム『Train Simulator 京成・都営浅草・京急線』で最後の最後に解放されるやつの方

*7 要するにオートパイロット。

*8 マスコットキャラなのだが、詳しく言及するには「アンチ・ネガキャン行為禁止」のアニヲタwikiの不文律を守れないレベルでかわいくない。