モテないしGWを迎える(私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!)

登録日:2020/02/14 Fri 16:06:28
更新日:2020/07/13 Mon 15:44:56
所要時間:約 14 分で読めます




私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!の第137話。
数々のイベントをこなし、すっかり境遇の変わった智子の現在を象徴するエピソードである。



【ストーリー】




黒木さん、この後暇?



3年のGWを迎えた智子たち。
優ちゃんコオロギと勉強会するしか用事がないな、とぼんやり考えている智子に、加藤さんが声をかける。
岡田さん根元さんとカフェに行くことになり、智子にも声をかけたのだった。
あのもこっちに、こんなオシャレなイベントが起きるなど序盤では想像もつかないことである。
横で聞いていた清田くんも会話に入り、和やかな時間が流れる。



清田「なになに? 俺らも暇だけど」
岡田「いや今回は女子だけだから」
清田「茜には聞いてねーし」
岡田「うぜ」



いかにもリア充らしいじゃれ合いである。
ニュアンスがちゃんと通じていないとケンカになりかねない言葉のやり取りをごく自然に交わせる辺り、清田・岡田両名のコミュ力の高さと親しさが見て取れる。
「他の人にも声かけていいから」と言われ、ゆりを誘う智子。



ゆり「私行かなかったら黒木さん行かないの?」
智子「断るのは悪いしなー……そこまで乗り気じゃないが……」



気の乗らなさそうな智子の様子を見たゆりは、真子吉田さんを誘ってみる」と言って一旦別れる。
そして声をかけた真子は、遠足で盛大にやらかした南さんの介護……もとい打ち上げの埋め合わせのため欠席、吉田さんも用事で不在とわかる。
ゆりが一人で加藤・岡田・ネモのリア充グループのお茶会へ向かうと知った真子は、「大丈夫? 一人で行ける?」と心配する。
お母さんかよ……


ゆり「バカにしてるの?」
真子「でもゆりみんなで話したりするの苦手でしょ」
ゆり「黒木さんだってそうだし」
ゆり「私が行かなかったら黒木さん困るでしょ」



心配そうな真子に、友を思う言葉を告げるゆり。
その背後から後光すら差すほどに、ゆりの決意と勇気は力強いものだった。

しかし……



加藤「黒木さんはなんにする?」
ネモ「ライスでいいんじゃない?」
智子「よくねーよ」
加藤「これ一人で食べ切れないから黒木さんも食べる?」
智子「あっうん!」ヘラヘラ



ゆり(手出そう…!)



5人で行ったお洒落なカフェ「月ノ珈琲店」(モチーフはおそらく星乃珈琲店)でゆりが目にしたものは、
自分に好意を寄せる美女2人にチヤホヤされ、目も当てられないほどにやに下がっている親友の姿であった。
目からハイライトが消えてこそいないものの、ゆりの心中たるや推して知るべし。
不得手であろうリア充グループのお茶会と聞いて、いざ鎌倉の思いで援軍に向かうつもりであれば、なおのことである。

(乗り気じゃないって言ってたくせに…)と、頬杖をつきながら頰を膨らませるゆり。このコマのゆりの、見る者を悶え狂わせんばかりの愛らしさ、乙女らしさのある姿は必見である。
そんな不機嫌な乙女に、「田村はなんにする?」と残るリア充・岡田さんが声をかける。独りぼっちは、寂しいもんな
あまり関わりのない相手に声をかけられ、どぎまぎしながらカフェオレを選ぶゆり。
そんな彼女に、岡田さんが言葉を続ける。



あのさ……前に……2年の時…
誤解で田村に悪く言ったことあるじゃん



それは118話「モテないしオラつく」で、吉田さんが智子をいじめていると岡田さんが誤解した(実際には全面的に智子が悪かったのだが)時のことだった。
ゆりがいじめの場面を黙って傍観していると思った岡田さんは、「そっちのも見てるだけで、そういうの一番ムカつくんだけど」と厳しく非難したのだが、
実際にはそもそもいじめではなかったので、岡田さんはゆりに謝りたいと思っていたのだった。



岡田「その田村には、ちゃんと謝ってなかったから」
ゆり「もういいよ」
岡田「そっか」



また一つわだかまりが解け、新たな友情が生まれた瞬間だった。
ついでに、



岡田「あの時は黒木が変な奴だと知らなかったからさ」
ゆり「そうだね…」



特に理由のない流れ弾がもこっちを襲う!!
何の驚きも強調もなくごく自然に「そうだね…」と同意しているところが笑いを誘う。残当

ケーキとお茶が運ばれ、優雅なティータイムが始まる。
加藤さんにはちみつのかかったパンケーキを取り分けられてデレッデレの智子。
はちみつ豆乳ラテでキャッキャウフフするネモと岡田さん。
加藤さんにパンケーキを勧められてどぎまぎしながら辞退するゆり。
ここが天国か……



しかし まあ……
リア充なんて言葉 もうリア充以外あまり使わなくなった古い言葉だが
だからこそあえて使うが
すっかりリア充だな



――陽の差すカフェで友達に囲まれ、笑いさざめく中で穏やかな時を過ごす智子。
その光景は、かつてあれほど夢見て憧れ、嫉妬していた「リア充」の景色だった。
異性関係こそないものの、今の智子の「リアル(現実)」が充実していることは誰にも否定できないだろう。
そんな中で、最初に親しくなった「リア充」であるところのネモから志望大学は何か聞かれ、



青山学園大学かな



と答える智子。
その言葉に、ゆりは思わず「ふっ!」と吹き出し、ネモは「アハハハ」と高笑いする。
おそらくはモデルとしているであろう「青山学院大学」は、とにかくオシャレでキラキラしているイメージで有名な大学。
純然たる陰の者である智子とは、おおよそイメージの合わない学校であった。
「クロのイメージと真逆の大学じゃん!」というネモの言葉に、智子も不敵にフッと笑って「あえてね」と返す。
要するに自分のキャラを把握している智子のネタ振りである。
そんなわけで沸きかけた場に、予想外のマジレスが突き刺さる。



……ねぇ なぜ笑うの? ぴったしじゃない



声の主は、ク●スティアーノロ●ウドみたくなった加藤さん。フォントまで変わってる。
極上の笑顔から放たれる「なぜ笑うの?」に、哀れネモは「え?」と一声発したきり、ダラダラ汗を流して硬直してしまう。



ネモ「え…えーと… べ 別にバカにして笑ったわけじゃないよ」
加藤「そうなの?」
岡田(明日香、黒木のこと買い被ってるからな…)
ゆり(黒木さんのこと知ってる人なら笑えるんだけど…)



犯人を追い込む検察官のごとき「そうなの?」に、すでに智子が変人だと理解している岡田さんとゆりは呆れ顔。
智子も、すぐに冗談で言ったのだとフォローするも、加藤さんの無慈悲なマジレスは続く。



加藤「そんなことないと思うよ」
加藤「黒木さん、根元さんと茜を一瞬で仲直りさせたじゃない」
加藤「私や周りの人が、誰もできなかったことしたんだよ」
智子(いやあれにエロゲーの音声と画面見せただけなんだが……)
智子(幻滅されそうで伝えにくい……!!)



実態はそんな高潔で偉大なものではない、単なる成り行きで恥ずかしい趣味を暴露しただけだと知る智子は、何とも言えず引きつった笑いを浮かべる。
そこへ加藤さんから、青学のオープンキャンパスのお誘い。
完全に主導権を握られた智子は「うん 一緒にイク」と真っ赤になって答えさせられる。
ゆりは衝撃を受けるわ、ネモは口元は笑顔のまま眉間を逆立てて否定するわの凄い騒ぎに。
さらに、「根元さんは黒木さんのことそんなに知ってるの?」「あーまぁ 一年の時から見てるしね」と、加藤さんとネモはバチバチ火花を散らし始める。
そしてネモが智子を森永大学に誘い、ゆりは智子をトイレに連行して「私と同じ大学行くって言ったよね」と非難する。
ちなみに、ゆりの言う「同じ大学行く」とは、



智子「いや…具体的には… 行きたい所はあるけど 家から近くでそんなに勉強しないで入れる所」
ゆり「……私も同じかも」



という超絶曖昧なやり取りだけ。
とはいえ、ゆりにとっては「面倒臭くないいい加減な大学」というぼっち・陰キャラらしさを共有できる貴重な会話だったのだ。
そして智子は加藤さん、ネモに続いてゆりともキャンパス見学の約束をさせられ、そのついでに加藤さんと出かけるための服を買うのに付き合うのを頼む。



一人で行けば?



言葉の弾丸と氷の視線が智子に突き刺さる。
ゆりの瞳からはハイライトが消えていた……。
そして自宅に帰った智子は、しかし途中から軽くギスギスして空気が悪かった気もするが……ああいうの体験するとやっぱりリア充面倒くせーなって思うな……と一日を振り返る。
誰のせいでギスギスして空気が悪くなったのか、まるで自覚していない……
そしてゆりに断られたのでラインでネモに、加藤さんと出かける服を選んでほしいと頼むと、



ネモ「やだ」
智子(あれ? やっぱりリア充になってない!?)



いや、リア充だからこんな扱い受けてるんじゃねーの……?
急いで読むとわかりづらく、なぜ急に友人二人がつれなくなったか理解できない可能性もある。
(これだからネットで「国語の教科書」と呼ばれたりするのである)
しかし丁寧に読めば、二人が、自分たちを差し置いて美人と浮ついている智子に焼きもちを焼いていることは一目瞭然である。
この智子の鈍感さは、まさしくラノベ主人公のそれと言ってよいだろう。智子もげろ。

ともあれここが、しばらく続くオープンキャンパス編の始まりとなり、智子を中心とする人間関係は、さらに発展していくことになる。



■解説


吉田さんや真子など欠員もいるものの、最初に智子の人間関係の広がる端緒となったネモ、無二の親友と言っていいゆり、
そしてかつては高嶺の花であった岡田さんと加藤さんという、選び抜かれたメンバーによるお茶会話。
この話は、初期の「ぼっちあるある」のブラックジョークから完全に作風が青春群像漫画へと変化した以後を象徴する話の一つと言えるだろう。
修学旅行、打ち上げ、卒業式、遠足といった数々のイベントを経て、智子をめぐる人間関係は大きく変化し、また広がった。
この話以降も智子はさらに新たな出会いを経験し、成長していく。そのためのワンステップとなる話が、このお茶会である。

短い話ながら見どころは複数ある。

まず、ゆりと岡田さんが会話をしたこと。この二人も接点の少ない、しかも118話の一件もあって、ある意味当事者の吉田さん以上に気まずい間柄でもあったため、
ここで意志の疎通ができたことは二人の関係にとって大きな進歩と言えるだろう。
同時に、たとえわずかなわだかまりであっても放置することを潔しとしない岡田さんの正義感の強さも感じられる、爽やかさのあるやりとりだ。

そして何より、この話の目玉は、智子が、今自分がリア充と呼んでいい境遇にいることを明確に自覚している場面である。
人間、客観的に自分を見ることは難しいものだ。特に自分がどれだけ恵まれているか正確に把握することは、慢心なり思い込みに歪められやすい。
その難しいことを、初期はむしろ「悔しくねーし!」と思って自分は悪くない、世の中が悪いせいだ、と思っていた智子が実践したのである。
智子自身の言うように異性との交流こそ少ないものの、実際に人が生きていくうえでは、むしろ同性との交流こそ重要であることは言うまでもないだろう。
1巻であれほど世をすね人を呪っていた智子が「何気ない日常」という境地に辿り着いたのだと思うと、感慨深いものがあると言えるだろう。

さらに、遠足編辺りから徐々に見えだしていた智子をめぐる恋の鞘当ても、この辺りから激化していく。
それまではクラスのカーストトップとして超然とした位置にいた加藤さんが、智子争奪戦に本格参戦したのもこの辺りからだ。
また後のオープンキャンパスでも、ネモと岡田さんを仲直りさせるきっかけを智子が作ったことにふれて「私は作れなかった」と言っていたように、
ほとんど完璧を体現するかのようだった加藤さんが、二人のすれ違いに対して力になれないことに心を痛めていたことも伺える。
加藤さんもまた、ネモやうっちーと同様に、智子という個性に惹かれ、近くにいたいと望むようになってきたことがわかる。

そして智子への嫉妬の描写を通じて、ネモとゆりがどれほど智子が好きかを知ることもできる。
3年5組メンバーの掘り下げはこの話を端緒とするオープンキャンパス編でさらに深まり、
そして物語は加藤さんの友人たち、うっちーの友人たち、ゆうちゃんや平沢さんなどの新たな人間関係のステージへと進展していくことになる。



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最終更新:2020年07月13日 15:44