殺しのファックス(古畑任三郎)

登録日:2022/01/28 (金) 14:23:18
更新日:2022/04/14 Thu 23:00:56
所要時間:約12分で読めます





FAXで手紙を送る時はワープロを使わない方がいいです。
FAXは原稿が手元に残ります。
消しゴムで消せば1枚の原稿用紙が何回も使えます。

ワープロを使わない方がいい理由は他にもあって…


『殺しのファックス』は『古畑任三郎』のエピソードの1つである。
初回放送は1994年5月4日。1stシーズン第4話である。
文庫版でのタイトルは、「幡随院大、走る」。

※以下ネタバレが含まれますのでご注意ください。

ストーリー

推理小説家の幡随院大は秘書との浮気をしていたが、その事に気づいた妻を殺害し山中に埋める。
その後、パソコンとFAXの自動送信を使い「妻の誘拐事件」に見せかけアリバイを作ろうとする。
が、その捜査本部には何故か古畑もいた…

登場人物

【ゲスト】
  • 幡随院大(ばんずいん だい)
演: 笑福亭鶴瓶
推理小説家。
代表作に「虚栄の航跡」などがある。が、タイトルは適当に辞書を引いて作っているらしい。本の中には「鯨鳥警部」が登場しており、鮫島警部を主人公とする大沢在昌作「新宿鮫シリーズ」からインスパイアを受けた作品の模様。

一方、秘書の河村ノリ子と浮気をしており、大変な事態だというのにエレベーター内で抱き合っているのを古畑に感づかれていた。

浮気に気づいた妻を別荘で絞殺し、遺体を山中に埋め、その後パソコンとFAXを使いタイマーで自動送信するようセット。その後、都内の仕事場としているホテルに戻り「妻が身代金誘拐された」という形で「身代金の受け渡し」のシナリオを遂行しようとするが…

名前はヴァン・ダインの二十則でも知られる推理作家 ヴァン・ダインより。

  • 蟹丸義太夫
演: 峰岸徹
警視庁刑事部捜査一課特殊犯捜査係警部。
今回の誘拐事件の捜査指揮を担当。
職務に対して実直だが喜怒哀楽が激しく、マイペースな古畑と今泉にも次第にイラついていく。

名前は「アルセーヌ・ルパン」シリーズに登場するジュスタン・ガニマール警部より。


【レギュラー陣】
ご存知和製コロンボ。
本来捜査一課の殺人犯捜査を担当しているため、第一特殊犯捜査が担当する誘拐事件に対しては関わらないはずなのだが、「念のため呼ばれた」らしく幡随院の部屋でくつろぎつつ蟹丸警部に意見を聞かれるが、次第にマイペースに振り回していく。そして口の中も大変なことに…

ご存知史上最低のワトソン。幡随院に対しては古畑から「腰は低いが頼りにならない」と紹介されている。
今回も誘拐事件にとって最悪のミスをしてしまう…が…?


誘拐事件の顛末

事件前の夕刻に1件のFAXが届いた。文章はワープロで打たれている。


三千万用意しろ。
追って指示する。

そこには手形もあり、鑑識の結果幡随院の妻の物と判明。身代金目的の誘拐事件として捜査を行う一方、指定された通り1000円札3万枚で3000万円が用意された。
別荘からホテルに戻った幡随院が食事の為ラウンジに向かおうとしたところで新たなFAXが。


金は千五百万ずつ二つに分
けて、紙の手提げ袋に入れ
ろ。          
携帯電話を用意して待機し
ろ。          

警察が準備をする間に古畑と幡随院はホテルのレストランで食事。「刑事と喋っているところを犯人が見ていたら…」と心配する幡随院だが、古畑は「犯人も既に警察と接触している」と察知。何故ならこの1994年当時まだ普及率が低かった(同年末で3.8%)携帯電話を夜遅くに用意できるのは警察ぐらいしかない。犯人は警察のことも見越して言っていると古畑は推理する。
注文した料理が届く中、幡随院の妻は昨日買い物から帰る途中を近所の人が見ており、その後自宅に帰ってから何者かに連れ出されたとされる。
一方、古畑は幡随院が「あんかけとんかつ御膳」というかなりガッツリした料理を頼んでいることを指摘。この後身代金の受け渡しもあり、妻の命もかかっている極限の状況下。ご飯ものどを通らなさそうなときにヘビーな料理を食べていることに疑問を抱くが、幡随院は「考えるのが面倒でつい『いつもの』って言ってしまった」と弁解する。
幡随院は長らくホテルの一室で仕事をしており、ホテルに頼んで専用のFAXも付けてもらった。もちろん番号は関係者ならだれでも知っている。
そんな中古畑は幡随院に「プロの推理作家としての意見」を聞く。脅迫状をFAXで送ってくるというのは中々ないこと。犯人の狙いを幡随院に聞くが「逆探知しにくい」「声で身元がバレない」と意見。つまり相手は「幡随院のことをよく知っている人」そして「かなり身近な人物」と古畑は推理する。

パフェを食べ進める中、今泉から古畑に新たなFAXが来たことが伝えられる。


金と携帯電話を持って、九
時半までに次の場所へ。 

指定された場所は環八沿いのファミリーレストラン。幡随院も行ったことがあるらしく、すぐにFAXから出た地図を取り身代金と携帯電話を持って急いで向かう。
一方、古畑は今泉に幡随院の昼の行動や秘書との関係を調べるよう指示。というのも先ほどのFAXでは幡随院が送信完了の音が鳴る前に受け渡し場所の地図を持って出て行ってしまった。普通ならその後に指示や何かがあるかもしれないため待つだろう。3枚目があるかもしれないのに何故2枚で終わると分かっていたのか?それは当然何枚送ってくるのかを知っていたからできる事。既に古畑は幡随院をロックオンしていた。

受け渡し場所のファミレスに来た幡随院。警察も隠れてその様子を見守る。が、幡随院は店に入らず外の公衆電話で電話をかけるなどもたもた。蟹丸警部が焦る中、結果3分遅れで店内に入る。店内にはいかにも怪しげな人物だらけの中、蟹丸警部から携帯電話で先ほどの行動を咎められる。幡随院によれば明日の取材をキャンセルするための連絡だったらしい。
妻の命がかかっているのに図太い神経の幡随院に半ば呆れる蟹丸警部だが、再びFAXが届いた。到着時刻は21時34分。


三分遅れだ。      
時間にルーズな奴は俺は信
じない。        
今度遅れたら人質の命はな
い。          

犯人は3分遅れに大分怒っているようだ。本部にも緊張が走る。蟹丸警部は犯人が近くにいると感じ監視の刑事に警戒を指示するが、古畑は「何故携帯電話を持っているのに公衆電話を使ったのか?」という不可解な行動を指摘。これが「単純な誘拐事件」でない事を感じつつ、先ほどのパフェが甘すぎた事から「明太子スパゲッティ(明太子多め)」をルームサービスで希望するなど余裕の表情。

21時40分。新たなFAXが来た。


五分後に向かいのレストラ
ン、ママズ・ショップへ行
け。          

道路を挟んだ向かい側のレストランに行くよう指示され「今度は遅れないように」と幡随院に念を押す蟹丸警部。
幡随院は道路を突っ切って渡ろうとするが、あいにく道路はかなりの長さに渡って工事中。場所場所で強行突破を図ろうとするもその度に工事の人に止められ失敗。結局遠くの歩道橋を使わざるを得ない事に。またしても遅れたことに動揺する蟹丸警部。結局7分遅れの21時52分に到着した。
と、次のFAXが来た。時刻は21時53分。万事窮すと頭を抱える蟹丸警部だが


六十分後に芝公園へ行け。

どうやら犯人は怒っていないようだ。蟹丸警部も一安心し次の指示を伝える。
いよいよ決着を考え芝公園での警官の配置を画策する中、通り道だったことから幡随院も一旦帰還。配置を確認する中、芝公園近くの歩道橋にも警官を配置した方がいいと進言する幡随院。「配置の事は任せてほしい」と言う蟹丸警部だが、妻の命がかかってることに怒る幡随院。とりあえず近くにいた今泉を指名し歩道橋の上に配置する。

東京タワーをバックに幡随院が待機。その周りには30人の警官が配置についた。
一方、古畑は今泉と車内で待機。先ほど食べた明太子スパゲッティが辛すぎた事から甘い物を求め、今泉は「昨日あった友達の結婚式の引き出物」で貰ったというバウムクーヘンを差し出す。
2人で食べながら古畑は今泉に幡随院の言動の疑問点を指摘する。
何故今泉を指名したのか?何故歩道橋に拘っていたのか?
だが今泉は「脅迫状を受け取った時は自分達もいた」とアリバイを指摘するが、古畑は「タイマーを使った」と考え、「今泉の指名」と「歩道橋の指摘」にも何か意味があると考える。が、お口の方は「親の仇みたいに甘い」バウムクーヘンでまたしてもしょっぱい物を食べたくなるという悪循環。とりあえず配置につこうとする今泉を引き留め、古畑は「ゆうべお家に帰ってない?」という謎の質問をする…

約束の時間が過ぎた中、最後のFAXが送られた。その内容を伝えようとする携帯電話が鳴ったことに、幡随院は笑みを浮かべた…



最後のFAXの内容。それは



歩道橋の上にいる黒いコー
トの男は刑事だ。    
人をなめるのもいい加減に
しろ。         
交渉決裂。       
人質は二度と戻らないだろ
う。          



「総動員して付近一帯を捜索している」という蟹丸警部だが、当然幡随院は「警察の手落ちや!」と激怒。その矛先は歩道橋に配置した今泉の上司でもある古畑にも。だが、古畑は冷静にあることを指摘する。
犯人は幡随院が警察と接触していることは知っていたはずだ。でなければ携帯電話は用意できない。なのに今更歩道橋の上に刑事がいたからと言って目くじらを立てたのか? 
その古畑の反論が幡随院の怒りをさらに逆なでにする。

「あんた、自分のミス棚に上げて…僕はあんたら訴えるよ。家内殺したのあんたらや!」

だがその言葉に古畑は「もう亡くなったかのような言い方ですね。」と指摘。
幡随院の怒りは頂点となり「1人になりたい」と部屋から追い出される。



東京の夜景を見ながら「誘拐計画の失敗」にビールを飲む幡随院。
一方、古畑はまたしてもお口直しで明太子スパゲッティを食べていた。そんな中、ある一本の電話が入る…



やはり幡随院先生、あの女秘書にゾッコンで奥さんにバレて結構モメてたようです。
これはですね、FAXを使った一種の狂言誘拐。
推理作家らしい手の込んだ犯罪です。
しかし、彼は大きなミスを犯しました。
全てのヒントは今夜送られてきたこのFAXの中にあります。
解決編はこの後で。
古畑任三郎でした。

なんか甘いものない?




※以下さらなる真相に至るまでのネタバレが含まれますのでご注意ください。



誘拐の真の結末

くつろぐ幡随院の元に新たなFAXが送られてきた。


あなた、助けて。


驚く幡随院に背後から「どこからですか?」と声をかける古畑。
「いたずら」と断定する幡随院に何故死んでいると断定するのか詰める古畑。
というのも今のFAXは古畑がロビーから送ってもらった物だった。
「悪趣味極まりないなぁ君は!」と当然怒る幡随院。休みたいという声を無視し古畑は今回送られてきたFAXの疑問点について整理する。

まず2枚目のFAX。


金と携帯電話を持って、九
時半までに次の場所へ。 

本来ならば「次の場所へ『行け』。」といった言葉が入るはずなのに、何故か「次の場所へ。」で止められている。いわばセリフのような言い方だ。
1.今回の脅迫文は全て1行12文字のワープロで打たれていた。「行け」の単語を入れてしまうと句点が次の行の頭に入ってしまう。しかし、そうなったところで、警察が「文章がなってない」などと怒るわけでもない。なのにそこまできちっとした文を作るということは、犯人はかなり文章にこだわるタイプ、例えば「幡随院のような文筆業の人間」である可能性が高い。

2.何故今回犯人はFAXを使ってきたのか?幡随院が語った「逆探知しにくい」「声で身元がバレない」の他にももう1つ、幡随院がわざと語っていない理由があった。「アリバイ作り」である。FAXを受け取る時に警察の人間といれば犯人だと疑われることはない。
「私を疑ってるのか?」と問いただす幡随院に古畑は「はい」と真正面から対決する。

次の謎は3枚目と5枚目のFAX。
3枚目のFAXでは、ファミレスに到着したのが3分遅れただけで、犯人は怒りのFAXを送ってきた。これにより犯人が短気であることが伺え、本部にも緊張が走った。
が、5枚目のFAXではレストランに先ほどの倍以上の7分遅れたにもかかわらず、淡々と次の指示を送っていた。まるで、遅れたことを知らなかったかのように…
そこで古畑は気づいた。
最初のファミレスでは、幡随院はわざと電話ボックスに入り遅刻した。しかし、2回目は道路工事という計算外の事態によって、本当に遅刻してしまった。だが既に別荘でセットしてある文章を変えることはできない。そのため「さっきより遅かったのに遅刻に触れない」という不可解な状況を作り出してしまった。
幡随院は全てのFAXを把握しており、それに沿うように行動していた。

「推測だ」という幡随院に古畑はある根拠を提示する。
3枚目のFAXは幡随院が遅刻してから1分後に送られてきた。
たった1分で「幡随院が遅刻したのを確認し」「ワープロで文章を打ち」「それを印刷し」「FAXで送信する」というのは不可能に近い。
つまり事前に文章は印刷されていたことになる。となると3枚目の「三分遅刻する」というのを何故前もって知っていたのだろうか?
犯人が超能力者でないとしたら、可能性は1つ。遅れた張本人の幡随院自身が犯人であるとしか考えられない。

だが幡随院は「決め手に欠ける」と指摘する。
「古畑君、その程度で犯人が自白するような本書いてたら僕は読者に石投げられるよ。」
しかし、古畑は決め手は最後のFAXにあると続ける。


歩道橋の上にいる黒いコー
トの男は刑事だ。    

幡随院は、何故自身が重点的なポイントとした歩道橋に、大して切れ者そうにも見えない今泉を指名したのか?
それは最後のシナリオに合うように、コートの色で指名していたから。幡随院が部屋にいた時、一番黒っぽいのコートを着ていたのは今泉だけだったからだ。

だが、直前でそれに勘付いた古畑は、ある「罠」を仕掛けていた。
確かにあの時今泉は歩道橋の上に立っていた。それは、代わりを呼ぶ時間も無かったため。
しかし…

「服は着替えさせました。コートも脱がせました。全然違う格好をしていたんです。」

古畑に呼ばれ現れた今泉は全身白のタキシードを着ていた。前日の友人の結婚式で着ていた物らしい。
仮に犯人が彼を目撃したとしても、これを見て「黒のコート」には見えないし、まして「刑事」には絶対に見えない。
なのになぜ犯人は目撃できたのか?それは犯人である幡随院の頭の中にその姿が作り出されていたからだ…

「これならば、読者の方にも納得してもらえると思うんですが。」

完全に敗北し笑ったまま固まる幡随院を置いて新たなFAXが届いた。

「いい時間だ。便利な世の中になったもんです。今じゃどんなものもFAXで送れる。」

そう言いながら古畑は送られてきたFAXを取り出し、幡随院に見せつけた。

幡随院先生、逮捕状です。

備考

  • 放送後、一部からは「FAXモデム(パソコンから直接FAXに文字を出力する装置)を使用すれば1分という時間でも打ち込めるのではないか?」という指摘があり、これを受けた三谷幸喜氏は「ミステリファンを辞めようかと思った」というほど反省。その後刊行された文庫本ではトリックの決め手が一部変更されている。

  • 事件後、古畑と今泉は恐らく遺棄された死体を確認するために長野県に向かっており帰京後は幡随院の取り調べを行う予定だったが、嵐の中車が立ち往生してしまい近くにあった別荘に避難する事になる。そこでまた新たな事件が待っているとも知らずに…






追記・修正は遅刻せずにファミレスに到着してからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2022年04月14日 23:00