登録日:2011/05/18 Wed 04:23:36
更新日:2024/12/23 Mon 16:17:16
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●絡新婦
十六七なるさも美しき女の、
身には錦の羅に五色に織りたる綾をまとひ、
髪はながくて膝をたれ、
いとたをやかに只一人歩み来たる。
■絡新婦の理
京極夏彦の小説作品。
「妖怪シリーズ」の第五作にして、シリーズ最高傑作の呼び声も高い、氏の代表作である。
デビュー作『
姑獲鳥の夏』で見せた怪しくも美しい猟奇譚異の世界観と、
前作『
鉄鼠の檻』で一つの完成を見た京極夏彦“流”の「ミステリーの理」が融合した完成度の高い作品で、
更に物語の構成は『
魍魎の匣』『
狂骨の夢』と同様の多層構造により構築されている……。
と云う、デビュー以来休む事なく「物語」を紡ぎ続けて来た氏のこの時点での集大成とも呼べる作品となっている。
96年に「講談社ノベルズ」より新書版が、現在は文庫版も発売されている。
……どちらも分厚いのは言うまでも無い。
【概要】
昭和二十八年春……。
木場修太郎が『連続目潰し魔』事件の捜査の途上に、友人の川島新造の姿を見咎め僅かに乱れていたその頃……。
房総半島の基督教系のはぐれた名門「聖ベルナール女学院」に通う呉美由紀は、
心に傷を抱える親友・渡辺小夜子が彼女が憎んでも憎み足らない教師・本田幸三の殺害を「黒い聖母」の祈り(呪い)として捧げるのを見届ける。
……資産家子女の通う「学院」で噂される「売春組織」の影……。
「目潰し魔」に殺された女教師に続き、今度は本田幸三が呪い通り「絞殺魔」により殺害されてしまう。
「目潰し魔」を追う警察。
「絞殺魔」の出現に狂乱に陥る学院……。
……更にその頃、元漁師・呉仁吉の許に身を寄せていた伊佐間は友人の古物商・今川と共に向かった、
土地の素封家「織作家」の屋敷内で娘婿の織作是亮が「絞殺魔」により殺害されるのを目撃するのだった。
浮かんでは消える事実……結びついていた様で立ち切れる「事件」同士の関連。
京極堂をして「自分の動きすら読まれている」と語る真犯人……「蜘蛛」の仕掛けの「理(ことわり)」とは?
【事件関係者:学院編】
「聖ベルナール女学院」2年生徒。
聡明でひょろひょろと背が高い。
「学院編」の語り部。
美由紀の親友。
教師である本田幸三に凌辱されており、彼を「呪い」により殺害する。
美由紀の目前で投身自殺をした筈だが……?
「売春」の噂があった少女。
「蜘蛛の僕」の存在を美由紀らに明かす。
学院の教師。
「黒い聖母」の呪いにより、美由紀らの前で殺害される。
「目潰し魔」に殺害された学院の教師。
「蜘蛛の僕」の呪いを受けていた。
柴田財閥の若き総帥。
以前は学院の理事長を務めていた。
事態の収拾を計るべく自ら学院に乗り込んで来る。
【織作家の人々】
刀自。
織作家の母。
伊佐間曰く「絶世」の人。
長女。
……一年前に故人。
次女。
貞女の鑑。
三女。
「女権拡張論者」の旗手。
「完璧な美しさ」を持つ。
四女。
「聖ベルナール女学院」では“織姫”と呼ばれる。
「天使」の様な美少女。
織作家の当主。
……先達て他界。
茜の婿。
粗野な人物。
「聖ベルナール女学院」の現在の代表だったが「絞殺魔」により「織作家」の屋敷内で殺害される。
使用人。
……是亮の実父。
メイド。
可愛らしいがお喋り。
■「蜘蛛の巣」館
「織作家」の屋敷で、海を背に断崖に立つ。
黒く塗られた外観を持つ。
内部は立体的、且つ放射状に「蜘蛛の巣」の様に拡がっている。
「聖ベルナール女学院」と同じく仏人・ベルナール・フランクの設計。
【事件関係者:その他】
通称:川新。
木場と榎木津の旧友。
「目潰し魔」事件の渦中で不可解な行動を取る。
前島八千代殺害事件の関係者と思われる人物。
「目潰し魔」平野の隣人だった。
新造とは腹違いの兄弟。
老舗呉服屋の若女将であったが、連れ込み宿で娼婦の様な姿で「目潰し魔」に殺害される。
自ら「紅蜘蛛」を名乗る娼婦。
辛い過去に反発し強く生きる女性だったが、守ろうとした川新や保護しようとした木場の行動も虚しく「目潰し魔」の犠牲となる。
興津でバーを経営していた女。
「目潰し魔」の被害者で、ある「私娼」組織の元締めをしていたとの「噂」から織作葵のグループから抗議を受けていた。
……杉浦隆夫と織作是亮との関係があった。
失踪した夫……杉浦隆夫の行方を探して貰うべく薔薇十字探偵社を訪れる。
織作葵のグループの一員。
失踪した美江の夫。
小学校の教師だったが、ある事件を契機に真っ当な人間として生きられなくなる。
ある「少女」との出会いが彼の救いであり、絶望ともなっていた。
「視るな視るな俺を視るなァッ……!!」
朴訥な細工職人であったが、「視線」に怯え隣人の矢野妙子を殺害して以降、残忍な「目潰し魔」と化してしまった。
その暗闇は担当医であった降旗弘をも引き摺り込み、彼の運命を変える契機ともなっていた。
美由紀の祖父。
偶然知り合った伊佐間と今川を宿泊させる。
かつて、暗い海で奇妙な像を拾った。
【主要登場人物】
「弟子……でいいです」
元・神奈川県警の刑事。
何を勘違いしたか榎木津の弟子(下僕)となる。
今作ではまだマトモ。
木場の後輩。
東京警視庁の小芥子みたいな若い刑事。
「目潰し魔」を追う下僕。
柴田財閥の顧問弁護士の一人で、顔の長い紳士。
前回の事件を通じて「怪しい仲間達」の知己となった。
「ズブリ、ズブズブ」
解剖マニアの外科医で観察医の嘱託は多分趣味。
「怪しい仲間達」の友人で、腕は勿論、優れた慧眼の持ち主。
「黙れって。あんた、ええと花子さんか?」
登場の無かった前回の鬱憤を晴らすべく、主人公の一人として暴れ回る木場修。
今作では彼の有能さが遺憾無く発揮されている。
「猫目洞」の女主人・潤子も本作から登場。
「まあ……大体」
またまた事件に諾々と巻き込まれた挙句に怪我までする釣り堀屋。
「織作家」を救うべく中禅寺を呼び寄せるが……。
「それだけです」
伊佐間に呼び寄せられたまま、やっぱり事件に巻き込まれた古物商。
名バイプレイヤーぶりを発揮する。
今回は裏方。
ラストのみの顔見せ。
次回の伏線担当。
「おお、可愛い女学生が居るじゃないか!」
……女子学生好きである事が判明した榎木津礼二郎探偵閣下。
今回は“かなり”“かーなーり”働くが早々に事件を看破すると共に仕事を投げ出してしまう。
「絡新婦は憑物ではないから落とせないよ」
……「蜘蛛」の存在を看破しつつも、それ故に腰を上げなかった古本屋。
今作では初めて彼が己の心情を「呪文」として語る。
「待てよ。僕も連れて行け」
シリーズでは初めて語り部の座から降りたかに見えた関口先生だが、やはり“ある”重要な場面は彼の視点で描かれていた。
次作では……。
【余談】
本作のラストを読み終えた読者は“必ず”と言って良い程、冒頭に戻る事が必至である。
今作で最高潮を迎えた「妖怪シリーズ」は作者の計算の内なのか、次作『
塗仏の宴』で“一旦”反故にされる事になる。
次作は今作とは別の意味での集大成的作品である。
当初のタイトルは『絡新婦の鑑』であったが、編集部からの発案に倣い『絡新婦の理』に変更された。
内容も「鑑」から「理」を意識した展開に変更されている。
漫画『
【推しの子】』では幼児期のアクアがこの小説の文庫版を読んでいるシーンがある。
アニメでも講談社の許諾を得て再現された。
※以下、若干のネタバレ。
「高く……買ってくださいまし私のために」
「わたしはもう一生泣きませぬ。泣いては己が立ち行かぬ。こうなった以上はもう一度、己の居場所を探します。負けません。負けてなるものですか。貴方よりも誰よりも、強く生きてみせましょう。石長比亮の裔として、私は悲しくとも辛くとも、笑っていなければならぬのでしょう。それが……」
「それが……絡新婦の理ですもの」
せをはやみ岩にせかるる瀧川の、追記する男は……おまへならでは。
「あなたの部屋には八枚の扉がある」
●木魅
- 某織作さん
あれこそチートだと思う -- 松永さん (2013-10-03 12:55:09)
- 塗り仏の宴で… -- 名無しさん (2014-04-07 19:53:25)
- 織作さん大好きだったからあの展開はちょっと沈んだわ。姑獲鳥といい魍魎といいコレといい京極堂シリーズの美女(美少女)はどうしてこう…… -- 名無しさん (2014-04-07 22:48:28)
- 美人故の薄命薄幸って意味なんだろう。 -- 名無しさん (2014-04-07 22:58:07)
- 塗仏でなぁ……。「マジカヨ……」ってなったわ -- 名無しさん (2014-04-07 23:35:20)
- ヤリスギデス夏彦サマ。 -- 名無しさん (2014-08-30 09:39:04)
- ファンイベントでの京極さんと奈々さんの朗読がやばかった。 -- 名無しさん (2014-10-31 15:19:15)
- 榎木津・京極と知り合いになり、敦子と友達になり多々良と知り合いになり美弥子お嬢と友達になり、謎の人脈が着々と築かれていく美由紀ちゃんの明日はどっちだ -- 名無しさん (2019-06-27 10:57:23)
- ↑榎木津の嫁だと予想してるんだ。当たるの祈ってくれ。 -- 名無しさん (2019-06-27 13:56:12)
- これに興味を持った理由がスパロボだったり。なんであのセリフをもってきたw -- 名無しさん (2019-06-27 15:40:17)
- 「私は女権拡張論者であって女性崇拝者ではない」というセリフ大好き。ここんとこ混同しちゃ駄目だよなぁと再確認する。 -- 名無しさん (2021-03-08 16:36:01)
- おしゃべりドジっ子メイド(それなりに観察眼が鋭く頭の回転も早い)セッちゃん、こんなキャラが1996年に発表されていただなんて -- 名無しさん (2021-06-28 16:48:53)
- 宮崎駿は逆に「女性崇拝者であって女権拡張論者ではない」ってイメージだなと思った。少女からお婆ちゃんから魔女まで -- 名無しさん (2023-02-06 23:06:26)
- 「視点が変わればカタチも変わる」を教えてくれた。 -- 名無しさん (2024-03-14 15:35:58)
- この犯人の情報網、ヤバすぎだろ -- 名無しさん (2024-12-11 15:17:12)
最終更新:2024年12月23日 16:17