最後のメール(仮面ライダー555)

登録日:2023/01/30 Mon 22:16:57
更新日:2023/02/23 Thu 11:41:20
所要時間:約 10 分で読めます




※推奨BGM:「Justiφ's」


Open your eye's for the next φ's!


無駄なんだよ…僕は世界一強いんだから…!

まさか君が……!



俺、本気で思うんだ。人間もオルフェノクも、みんなが幸せになればいいって…





「最後のメール」とは、『仮面ライダー555』の第44話のサブタイトル。
正確に言うと新聞ラテ欄用のサブタイトルで、シナリオでのタイトルは「最後のメール・後編」だった。
2003年12月7日に放送。


脚本:井上敏樹
監督:石田秀範


概要


『仮面ライダー555』の終盤のターニングポイントとなる回であり、最終展開への布石が至る所に張られている。
次回予告では、銃弾を浴びそうになる巧、木場、結花の3人や、カイザとデルタがドラゴンオルフェノクと戦う場面、そして結花を啓太郎が抱きしめ、「夢」を語る場面が存在し、切なさと不穏さが同居する構成となった。



前回までのあらすじ


長田結花南雅彦率いる警察の研究機関に捕まり、研究と称した激しい拷問を受けてしまった。
結花は命からがら警察から逃げ出し、木場勇治の計らいで乾巧達のいるクリーニング屋に匿われることとなった。
啓太郎は、気になっていた結花に意を決して告白するも、半ば諦めていた。
だが結花は知ってしまう。心の支えだった「啓太郎さん」が目の前にいる菊池啓太郎であることを。
気まずさからクリーニング屋から飛び出してしまった結花を探す啓太郎もまた、彼女がメル友の「結花さん」と知ってしまった。
そこに現れた影山冴子が二人を襲う。啓太郎を守るためにクレインオルフェノクに変身する結花。
呆然とする啓太郎を拒絶する結花だったが、啓太郎はそっと彼女を抱き締める。

一方、警察の特殊部隊に襲われる巧と木場だったが、木場は人間を守る戦いに疑念を抱き始め……。



あらすじ


結花を抱き締め続けていた啓太郎。



駄目……。

駄目じゃない。

だって、迷惑がかかるよ。啓太郎さんに……。

俺の夢、知ってるよね?俺、本気で思うんだ。人間もオルフェノクも、みんなが幸せになれるって。
かければいいじゃん。迷惑くらい。


啓太郎のその言葉に、結花は涙が止まらなかった。

退散する冴子は、「このままで済むと思うな」と屈辱に震える。



先の戦いで戦闘を放棄しようとした木場を咎める巧。だが木場は「人間を守るのが嫌になった」と正直な気持ちを伝える。
それが信じられない巧だったが、木場は結花に対する人間からの惨い仕打ちが脳裏に浮かび、人間に対する嫌悪感で混乱しつつあったのだ。



何言ってんだよ?お前の理想はどうしたんだよ?人間とオルフェノクの共存が、お前の夢だろうが……!

君に俺の気持ちは、分からないのかもしれない……。


「オルフェノクであることを自覚し人間として生きてきた」巧と、「オルフェノクになったことを受け入れた」木場。
その差はあまりに大きすぎたのだ。
ここに来て自覚した二人の断絶に気まずい空気が流れる中、巧は電話で結花が帰ってきたことを知る。


クリーニング屋では、すっかり仲良しになった啓太郎と結花を、真理がからかっていた。
それが満更でもなさそうな二人。


警察の研究機関では、スマートブレインから貸し出されたオルフェノクに襲われたことを、沢村刑事が南に訴えていた。
だが南は、「そういうこともある」とまともに取り合おうともしない。



君もオルフェノクに対する認識を改めた方がいい。いらぬ同情をしても無意味だと。


そう南は冷徹に沢村に告げた。

巧は、結花がオルフェノクだったことを知っていたと啓太郎に告白した。それに対し「もう大丈夫」と語る啓太郎。



だってたっくんはたっくんだし、結花さんは結花さんだし。俺分かるんだよね、結花さんの心の傷みたいなもの。
だから俺が傍にいてあげたいというか……。


啓太郎の器の大きさに本気で嬉しくなり、彼にじゃれつく巧。


一方、結花は木場と海堂に「もう一度警察に行く」と伝えていた。「実験の次第で人間に戻れる」という警察の言い分を信じていたのだ。
だが木場はそれに懐疑的な意見を言う。彼は完全に人間に不信感を持つようになったのだ。
海堂は「もしかして恋とかしてるんじゃねえの?普通の人間に」と結花に問う。
それを木場は止める。「人間との間には深い溝がある」と悲観的な意見とともに。



どうでもいいけど木場、お前なんか変わったな。昔のお前だったら絶対そんなこと言わなかったぜ。

俺は、俺達を守りたいだけだ。


海堂の困惑に対し、木場はムキになってそれを振り切る。


変わってしまった二人に愚痴を呟きながら空き缶を蹴飛ばした海堂だが、その空き缶がチンピラの頭に当たり、男に痛めつけられる。
「俺が本気を出したらな、お前なんか……」と凄むが、よもや殺せるはずもなく、追い払うだけで終わってしまった。

そして、啓太郎は結花にメールで「ちゃんとしたデート」の誘いをする。だが結花の脳裏には木場の悲観論がよぎった。


一方、巧は草加を夜の公園に呼び出していた。
巧は草加の「人間とオルフェノクの共存は不可能」という持論に対し、啓太郎という反例を出す。
だが草加は頑なに語る。



甘すぎるんだよ、奴は。実際君だって今までオルフェノクと戦ってきたはずだ。人間としてな。
矛盾してるんだよ。君は。早く君も現実を直視した方がいい。
多分今頃、木場勇治は現実の厳しさを感じているはずだ。自分の甘さを後悔しながらな。


それに対し「あいつはそんな弱い奴じゃない」と反論する巧。
草加は「いずれ君とも戦う」と巧に吐き捨て、その場を去る。


その前に、俺は俺でやらなければならないことがある。俺自身の仇を取るために。



真理に相談を持ち掛ける結花。相談内容は啓太郎とのデートのことだった。
「このままだと啓太郎に迷惑をかけてしまう」とネガティブなことを考える結花に、真理は「啓太郎なら大丈夫。あいつはああ見えて凄く強い奴だし」と励ます。
しびれを切らした真理は、結花の代わりにメールの返事を出すのだった。



養護園では照夫が同級生にいじめられていて、それを海堂が陰ながら観察していた。
三原がそれを庇うが、やがて彼は、門の外にいる草加を見つける。
草加は三原を連れて、「仇」を取りに行こうと持ち掛けたのだ。
一方、養護園から逃げ出した照夫を、海堂が見かねて一緒に外へ連れ出す。
すると、二人を一筋の鋭い光が照らしたかと思いきや、照夫の影が伸び、異形の顔が影に映る。



巧は南に会いに行き、もう結花を狙うのはやめるよう説得していた。
だが南は「誤解がある」と述べる。「人間とオルフェノクの平和的共存」が目的なのだと断言した。



信用してください。私は、あなた方を人間だと思っている。人間同士で、争う必要はないのですから。


誤解を解くために話し合いの席を設けたいと言う南を、巧は信用することにした。


デートのために真理にヘアセットをしてもらう啓太郎。結花はどうしたのかと問う啓太郎に、真理は「巧に呼び出された」と答える。


巧は、木場と結花を公園に呼び出して、南ら警察の意向を伝える。
それに対して木場は「罠かもしれない」と不信感を抱き続けており、一方結花は「乾さんがどうしてもというのなら」と前向きな姿勢。



もう一度信じてみてもいいんじゃないか?お前の理想のために。変わってほしくないんだよ、俺はお前に。


だが、妙な気配が充満する。
気が付くと、3人の周囲の草むらから、幾多ものの銃口が彼らに向いていた。
容赦なく放たれる催涙弾と銃弾。「まさか君が……!」と巧を非難する木場と否定する巧。
3人は銃弾の雨あられを縫って必死に逃げ始めた。


バー「クローバー」に入る北崎。そこへ、草加が現れる。
余裕の北崎の背後から、三原も現れた。
そう、流星塾の同窓会を襲って塾生達を変貌させた元凶だった北崎に、仇討ちにしに来たのである。



一方、警察に追われる巧達。応戦するためにオルフェノクに変身する木場と結花だが、警察の攻撃のみならず、バットオルフェノクの銃弾も浴びる。
バットオルフェノクは警察の部隊をも始末すると、巧に変身するよう促した。
ファイズに変身した巧はバットオルフェノクに立ち向かい、ホースオルフェノクとクレインオルフェノクは援護する。
だが、クレインオルフェノクはバットオルフェノクの攻撃を食らい、深いダメージを負ってしまった。
ファイズの「逃げろ!」という声に従って、クレインオルフェノクは逃げ出した。
そして、ブラスターフォームに変身したファイズは、バットオルフェノクに立ち向かっていく。

ドラゴンオルフェノクと戦うカイザ/草加とデルタ/三原。
だが、強力すぎるドラゴンオルフェノクに太刀打ちできない。


デートの待ち合わせの場所にやって来た啓太郎だが、結花の姿はない。


何とか深手を負いながら逃げおおせた結花は、息を切らして一本の木の傍に寄りかかる。



馬鹿な女……。死になさい。今ここで。



そこで、影山冴子が待ち構えていた。冴子は冷酷な目で結花を見つめている。
激しい拷問に加えて深い傷を負った彼女には、最早オルフェノクの力も残っておらず、変身すら出来なくなっていた。



どうやらオルフェノクの力を失ったようね。可哀想に。


息が切れそうになる結花に、じりじりと詰め寄ってくるロブスターオルフェノク。


待ち合わせの相手が来ず、不安げな表情の啓太郎。



長田結花は、一本の木の下に座り込んでいた。
彼女は、うつろな表情で右手に握りしめた携帯電話で文章を打っている。



ごめんなさい。啓太郎さん、私、今日行けそうにもありません。
私も、啓太郎さんと普通のデートがしてみたかったな。みんながしてるみたいに。
お茶を飲んだり、映画を見たり、散歩したり。


……結花の表情からは、どんどん生気が失われていった。



私、幸せでした。啓太郎さんに出会えて。

どうか、啓太郎さんの夢が叶いますように。



どこからか、鐘の音が聞こえる。強い風は、木の葉を揺らし続けていた。




世界中の洗濯物を真っ白にして、そして、世界中のみんなが、幸せになりますように……。



気付くと、大量の白い羽根が宙を舞っていた。

木の下には、誰もいない。

そこに「いた」のは、ただ白い羽根だけ。



羽根は、音もなく舞い続けていた。








解説


長田結花が非業の死を遂げてしまうエピソードであり、遂にレギュラー陣の中から初の死人が出る回である。
オルフェノクの運命に翻弄され続け、決して幸福とは言えない人生を送り続けた結花であったが、同時に彼女はオルフェノクの力に溺れ、殺戮を繰り返していた少女でもあった。
そんな彼女がようやく掴めた幸せ。だが、その幸せは儚くも崩れ去る。よりにもよって人間の悪意によって。

これを機に、『仮面ライダー555』の物語は終盤へと向けて急加速していく。
初めて出会ったオルフェノクの仲間というべき結花を失った木場は人間に対して絶望し、人間を絶滅させオルフェノクのための世界を築くことを目的に据えるようになる。
更に、これによってようやく分かり合えたと思えたはずの巧と木場は完全に決裂してしまうこととなるのである。





余談


  • 長田結花は「木場勇治の絶望」に対する最大のファクターとして、『555』の全ての物語において用いられている。
    劇場版ではスマートブレインに殺されるもののそれはスマートレディが化けた真理の裏切りによるものだと木場が誤解し、小説版『異形の花々』では草加率いるカイザ部隊に嬲り殺しにされている。













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最終更新:2023年02月23日 11:41