(秘)スパイ大作戦(ドラえもん)

登録日:2023/02/04 Sat 18:38:00
更新日:2023/02/06 Mon 20:51:25
所要時間:約 15 分で読めます






「(秘)スパイ大作戦」は、漫画『ドラえもん』のエピソード。
「小学四年生」1970年5月号に掲載され、てんとう虫コミックス1巻および藤子・F・不二雄大全集1巻に収録されている。

雑誌掲載時は無題だったが、てんとう虫コミックス収録時に項目名のタイトルが付けられた。




【概要】

てんコミ版における骨川スネ夫の初登場回*1

今でこそ「ジャイアンの腰巾着」というポジションのスネ夫だが、初期の彼はジャイアン以上に威張っており、ジャイアンの威を借らずとも持ち前の悪知恵によってのび太をとことん追い詰めることが多かった。
この回もまた、そんなスネ夫の悪辣さが濃厚に描かれると同時に、表には出さない意外な素顔も窺い知ることができる。
そして、のび太を散々苦しめた彼に鉄槌を下す兄貴肌なドラえもんと終盤で徐々に追い込まれていくスネ夫の対比には、思わず溜飲が下がることだろう。




【あらすじ】

ある日の学校にて。のび太はうっかり手を滑らせ先生のカビンを落としてしまう。


ああっ、やったあ。

そこへ、まるで「待ってました」と言いたげなテンションでスネ夫が登場。カビンを割ってしまい呆然としているのび太を調子よく詰り始める。

不注意で割ってしまったのは事実なので、潔く先生へ謝りに行こうとするのび太。そんな彼にスネ夫はさらなる追い打ちをかける。


夕方まで立たされるぞ。
そのうち先生は忘れちゃって。
きみを立たせたまま帰るんだ。

恐怖心を煽られたのび太はすっかり謝罪する勇気も失くしてしまい、どうすれば助かるかスネ夫に縋り付く。
そこでスネ夫は、のび太の過失を黙っておいてやる代わりに、ある交換条件を持ちかける…。


掃除をさぼるスネ夫に文句を言うしずかをはじめ当番のメンバー。対しスネ夫は、残りの掃除をすべて引き受けたうえで、彼らを先に帰らせようとする。
「人の嫌がることを進んで引き受ける」というスネ夫を「神さまみたい」と褒め称えつつクラスメートたちは喜んで帰って行く。

…そして、そのスネ夫ものび太一人に掃除を任せ、すぐに下校するのだった。


掃除も終わり家へ帰るのび太。だが、その途中のび太を待っていたスネ夫とすれ違い、今度は買い物を頼まれてしまう。
さすがののび太も反抗しようとするが、スネ夫はこうつぶやく。


カビンのこと…。

そう、「カビン」の件を口外されてはたまらない。弱みを握られたのび太は、スネ夫の命令に従わざるを得なかった。

かたや口止めの代償でますます増長したスネ夫は、その後もドブに落ちた野球ボールをのび太に探すよう命じる。
お使いの次はドブさらいとなればのび太も今度こそ我慢ならなかったが…。


カ、ビ、ン。

結局、のび太は手足を泥だらけにしてボールを探すことに。
さらにスネ夫は、ジャイアンら仲間たちに「のび太に『カ、ビ、ン。』と唱えれば何でも言うことを聞く」と吹き込んでしまう。
これを面白がったジャイアンたちはのび太に小遣いを要求。こぞって勝手なことを言う連中にのび太は怒り出すも…。



カビン。

…の大合唱。パニック状態となったのび太は逃げ出した。少なくとも真意を知らないジャイアンたちはただ便乗しているだけなのだが、一種の条件反射だろう。


うちの庭、そうじしておいてくれ。





なんという悪いやつだ!!

のび太から話を聞いたドラえもんはスネ夫のあまりにもひどい仕打ちに大激怒。この事態を解決しようと立ち上がる。

とりあえずのび太の弱みを握られたままでは仕方がないため、まずは学校へ向かう2人。
問題の割れたカビンも『復原光線』を当てればたちまち元通り。

弱みも消え思い悩む必要がなくなったのび太は昼寝を始める。
ドラえもんは「ほかになにかすることあるだろ」と言うが、それで思い出したかと思えばスネ夫の庭掃除をしに行こうとした。底抜けのお人好しっぷりにドラえもんも呆れてしまう。

人の弱みにつけ込んだ挙句、散々扱き使ったあのスネ夫を許せるはずがない。のび太の怒りにようやく火が点いたところで復讐が始まる。カッカするのび太となぜかそれを真顔で見るドラの構図がなんともシュール。

ドラえもんが出したのは『スパイセット』。これでスネ夫の動きを観察し彼の弱みを探り出すという。

空を飛ぶカメラとマイクが野球帰りの標的・スネ夫を発見。2人はモニターで彼を観察する。

帰宅したスネ夫はママと雑談しながらティータイム。


教室のそうじをひとりでやりました。

スネ夫さん、感心ざます。


のび太にやらせておきながら親には大嘘をつくスネ夫。ドラえもんもこの発言をしっかり記録しておく。

おやつを済ませたスネ夫は「勉強をする」と言ってリビングを出る。
感心ざます。

ところが別室のドレッサーが目に留まり、そのまま鏡を眺め始めてしまう。
かれこれ30分、自分の顔に終始見入っていたスネ夫は、やがてうわごとのように独りごちる。


ホーッ いつ見ても………。

いつまで見てもあきないなあ、ぼくの顔は……。

美しいということばは、
ぼくのためにあるんだなあ。(ウットリ)

だけど、どうしてみんなはみとめてくれないのかな。


スネ夫の口からは歯が浮くような噴飯物のワードが次々に飛び出した。のび太とドラえもんも「けっさく」と笑い転げる。

自分磨きも終えたスネ夫。今度こそ勉強机に向かったかと思いきや、どうも宿題をやる気が起きないらしい。
だが、今夜のび太を呼びつけてやらせようと言って余裕綽々の表情でソファに寝転び、そのまま寝てしまった。

実に虫のいいことを宣うスネ夫だが、のび太たちは既に彼の弱みとなる数々の言動を取りまとめていた。


このメモを公開するぞとおどかしたら、きっとあわてるよ。

まだまだそれだけじゃ。

ドラえもんに言わせればこの程度のネタでは仕返しには不十分。もっと決定的な弱みを握るべく、引き続き監視を続ける。
すっかり眠ってしまったスネ夫を見張るうちに、ドラえもんとのび太もつられて居眠りしてしまう。
しばらくして、モニターから「やったァ」という叫び声が響き、ドラのびは飛び起きる。


なんだ、なにをやったんだ!

モニターを見ると…。



いつもいってるざましょ!
おむつを忘れないでって。

なんとスネ夫がおねしょをしているではないか!駆けつけたママに叱られたスネ夫は恥ずかしそうにズボンとパンツを履き替える。
「勤勉」な息子を誇りに思うママも、なかなか治らないこの癖にだけは手を焼いているらしい。

ここへきて決定的な極上ネタを入手したドラのびは大歓喜。
こんなことが周囲に知られれば、スネ夫は表を歩けなくなること間違いなしである。





ええい、ムシャクシャする!

おねしょをした上にママに叱られご機嫌斜めのスネ夫は、腹癒せに(未だ手懐けたつもりでいる)のび太をいじめようと電話をかける。


のび太!すぐうちへこい!

エッヘッヘ~、ごじょうだんでしょう。
おまえこそうちへこいといってやれ。

代わりに電話に出たドラえもんはヘラヘラと応答。


おい忘れたのか、カビンだぞ!

カ、ビ、ン。

ますます苛立ったスネ夫はすかさず例の呪文を唱えるが…。


カビン?なんのこと?わかんないなあ。

全く話が通じないのび太に痺れを切らし電話をガチャ切りしたスネ夫。先生にのび太が割ったカビンを見せようと学校へ戻るが…。



ギャヒョーン。


素っ頓狂な叫び声を上げるスネ夫の目前には、いつの間にか元通りになったカビンが。

状況が全く把握できず混乱したスネ夫は、カビンを抱えたまま手を滑らせ…。


ガチャ

見いちゃった、見いちゃった。


さらなる決定的瞬間をこの目でしかと確かめたのび太とドラえもん。
なおも「これはのび太が割った」と主張を押し通す往生際の悪いスネ夫に、無慈悲にもとどめの一撃が下される。


美しいということばは……。

ねるときはおむつを……。


この秘密だけは他言無用。完全に尻尾を掴まれたスネ夫は、ついに白旗を揚げる。
萎縮した様子で誰にも言わないよう懇願するスネ夫は、その口止めとして(自分がやらせる予定だった)のび太の宿題をする羽目に…。


カ、ビ、ン。お、む、つ。

こうして立場は一気に逆転。次は何を頼もうかと上機嫌に考えるのび太とドラえもんだった。


その頃、「カ、ビ、ン。」と言うだけでのび太が言いなりになると知ったジャイアンたちは、静香ら女子たちにこの話をしていた。
そこへ項垂れたスネ夫とドラのびがやって来る。

ジャイアンたちは実演してみせようと「はだかでさか立ちしてワンワンといってみな」とのび太に命令する。


なんでぼくがそんなことを?

カビンだぞ。カ、ビ、ン。


これを耳にして「ギク」となったのはのび太……ではなくスネ夫。
その場で上半身裸になり、逆立ちをしたまま…。


ワン ワン ワン

…と情けなく吠えるのだった。




【登場したひみつ道具】

〇スパイセット
第三者の行動を探ることができる道具。人の頭を模した本体(モニター)と一つだけ付いた眼球型のカメラ、耳型のスピーカーからなる。カメラとスピーカーが自在に飛び回りながら対象者を盗撮・盗聴しモニターがその情報をリアルタイムで映し出す。

後に登場する「スパイ衛星」と用途・性能が似ているが、こちらはカメラとマイクに声で指示を出すだけで後は全自動で探ってくれるので手間が省ける*2)。

かなり見た目が不気味なためか、わさドラ版ではトランクケース型のモニター、頭部がそれぞれカメラとマイクになっているスパイの格好をしたミニロボットの「スパイ人形」が2体というデザインに大きくリメイクされた。
原作のカメラとマイクのように空を飛べないため移動は徒歩。また、犬などに襲われやすい、(ドラのびと同様)スネ夫につられて眠ってしまうなど結構ドジも目立つ。ピストルを持っているが水鉄砲なので殺傷力はない。

〇復原光線*3
懐中電灯型の道具。この光を当てれば壊れてしまった品物も壊れる前の状態に復元できる優れもの。
何かしら物が壊れるor壊されるシチュエーションの多い「ドラえもん」においては『タイムふろしき』などと並んで非常に重宝される道具のひとつであるが、役立ち過ぎて話が成立しなくなるためか他の回では滅多に登場しない。



【アニメ版】

これまでに計3回(日テレ版・大山版・わさドラ版で1回ずつ)アニメ化されている。

◇日テレ版「弱味をにぎれの巻」
1973年4月15日に放送された。

◇大山版「(秘)スパイ大作戦」
帯番組時代の1979年5月1日に放送された。

◇わさドラ版「(秘)スパイ大作戦」
2005年5月20日に放送された。

ストーリーの流れは原作準拠だが、先述した通り『スパイセット』のデザインが変更。スネ夫を尾行するスパイ人形たちの動き自体にもスポットが当てられている。
また、スネ夫の恥ずかしい癖についても「おねしょ癖があるので普段寝る時にはおむつをしている」から「トイレのドアを開けたままにする」「大の方をする時にズボンもパンツも全て脱ぎ捨ててしまう」というものに差し替えられた。
理由は「夜尿症を持つ子供への配慮」「お食事時におもらしネタを流しにくくなったから」など諸説ある。
これによりラストでのび太とドラえもんが仕返しに言った呪文も「カビン」のみとなった。
スネ夫との電話はのび太が全て答えており、その間ドラえもんは『どこでもドア』で役目を終えたスパイ人形を帰還させていた。

スパイ人形の2体は、後に2006年5月5日以降に放送された「ドラえもん キャラクター 大分析シリーズ!」の本編前後にも案内役として登場した。本編では一切喋らなかったがこの時は台詞付きで、マイク人形は真殿光昭*4、カメラ人形はあかいとまと*5が声を演じた。




【余談】

  • 終盤におけるドラえもんとのび太の「カ、ビ、ン。お、む、つ。」「つぎはなにをたのもうかなあ。」の2つの台詞だが、てんコミ1巻の一部版では順番が入れ替わってしまっている。ストーリーの流れ的にはどちらでも支障はなさそうだが、今作における「カビン」というキーワードの効力を考えればやはり違和感が生じてしまう。なお、大全集版では正しい順に修正されている。

  • タイトルにある「(秘)」は本来○の中に秘と書かれていて「まるひ」と読むのだが、機種依存文字のためサイトではこのように代用されることが多い。





いつまで見てもあきないなあ、この項目は……。

美しいということばは、この項目のためにあるんだなあ。

だけど、どうしてみんなは追記・修正してくれないのかな。


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最終更新:2023年02月06日 20:51

*1 大全集で読むことのできる未収録回を含めればさらに前から登場していることがわかる。

*2 「スパイ衛星」は1つの衛星で映像・音声の両方を受信できる他、一度に12人まで監視できるメリットがあるが、使用者が対象者に直接衛星を投げて軌道に乗せないといけない。

*3 表記は「復元光線」が正しいが、この回の単行本版および大全集版では「復原光線」とされている。この回以外のエピソードでは「復元」表記で統一されている。

*4 本編ではパワえもんなどを演じている。

*5 わさドラ版における初代ミニドラ役。