人生やりなおし機(ドラえもん)

登録日:2023/03/30 Thu 23:39:00
更新日:2023/04/07 Fri 01:39:22
所要時間:約 17 分で読めます





「人生やりなおし機」は、漫画『ドラえもん』のエピソードの1つ。
てんとう虫コミックス15巻および藤子・F・不二雄大全集7巻に収録。

小学四年生1977年4月号掲載時のタイトルは「天才のび太」




【概要】

「あの時はこうすればよかった」 人生はそんな後悔の繰り返しである。

もしも過去に戻って人生をやり直すことができたなら…そんな願いを叶えてくれるひみつ道具が登場するエピソードだ。

記憶や能力は現在のままで幼少期をやり直したのび太は絶好調。だが、そこには恐るべき落とし穴が待ち受けていた…。




【あらすじ】

のび太のママは、遊びに来た4歳の子供・としおを大いに褒めていた。それを見ていたのび太は「不公平だ」といい顔をしない。
ひらがなで自分の名前を書けたり、簡単な引き算が理解できるとしおが褒められる一方、漢字で名前を書け、2桁の足し算ができる自分は全く褒めてもらえないからだ。


そりゃきみは4年生だもの。

「『4歳』と『4年』ならたった一字違い」と屁理屈をこねるのび太。「頭の中身は今のままで4歳に戻りたい」とぼやく。



できないこともないけど。

ほんと?

「わけない」といったおちょぼ口でのび太の願いに答えるドラえもん『人生やりなおし機』を出した。
これを使って昔へ戻れば、もう一度新しく人生をやり直せる。今の能力や記憶を持ち越したまま過去へ戻ることができるのだ。

のび太がヘッドバンドを取り付けたところで、機械を作動させるドラえもん。「行き先」は4歳。

たちまち全身に強い衝撃が走り、のび太は叫び声を上げた。



………気がつくと、そこはどこか見覚えのある材木置き場のど真ん中。のび太の体は4歳に戻っていた。

今でいういつもの空き地のような存在だった材木置き場の風景を懐かしむのび太。
そこへ3人の小さな子供達が木材の陰からひょっこり顔を出す。

そう、ジャイアンスネ夫静香だ。もちろん彼らも4歳の姿。
どうやらのび太は3人とかくれんぼの最中だったようだ。

この頃から乱暴者だったジャイアン。彼と一緒に弱い者いじめを楽しむスネ夫。そんな2人を咎める心優しい静香。そして、バカにされては女の子に庇われていた弱虫ののび太。
4人の関係性は4歳にして既に確立されていたらしい。


かくれんぼを中断し、次は「学校ごっこ」をすることに。先生の役を、誰が最も上手く自分の名前を書けるかで決めることになった。

静香は3人の中では最もまともに書けている一方、スネ夫は誤字がある上形が崩れており*1、ジャイアンに至っては解読不能*2
そんな中、のび太は一人だけ漢字で自分のフルネームを完璧に書き上げてみせた。いつもは「のび」と間違うパターンなのに…。


のびちゃん かんじかけるの?

かけるわけないや。
そうだい、こんなのでたらめだい。

ほんとうのかんじだよ。

漢字こそ知っていても正誤の判断まではわからない。静香は近くを通りがかった大人の男性に見てもらうことに。
4歳児が完璧に書いた字を見て男性は驚く。これでデタラメでない事が証明されたのだが…。


のび太のくせに、かんじをかけるなんて。

なまいきだい。のび太のくせに。

いじめるじょ。

悔しさのあまりのび太に殴りかかろうとするジャイアンとスネ夫。「のび太のくせに~」の常套句もまたこの時点で築かれていた模様。
のび太はちょっとした抵抗のつもりで「チョイ」と2人を突き飛ばし(というより吹っ飛ばし)転倒させた。


所変わってこちらはのび太の家。
外から聞こえてくる大きな泣き声を聞きつけたママとまだご存命中のおばあちゃんは、またのび太が泣かされたと思い、彼を出迎えに上がる。
ところが、大泣きしていたのはジャイアンとスネ夫。のび太は泣かされたのではなく怪我をさせて「泣かせた」のだと知り、ママもおばあちゃんも驚きを隠せない。

2人の傷の手当ても済んだところで「あんまりらんぼうしちゃいけません」という育児始まって以来初のお小言を言うママ。そこへ、先ほどのび太が書いた漢字を見た男性が訪ねて来た。

「天才教育研究会」の関係者を名乗る男は、4歳にして漢字を的確に書き上げる才能を身につけたのび太に関心があると説明する。
ママが知っているのび太は、ひらがなすらまだ書けないはず…と、ここで再度自分の名前を漢字で書いた紙を見せつけながらのび太が登場。


これをのびちゃんが?

まだいろんな漢字をかけるよ。

その後の調査の結果、計算などにおいても4歳児という範疇を凌駕した能力がある事が判明。
突然天才児に生まれ変わったのび太の躍進に、ママもおばあちゃんもただただ感涙。
周囲の反応にのび太も誇らしげ。…だったのだが、「小学2年生ていど」の体力・知力という微妙な結果を出され思わずズッコけ不満気に。


ほんとは4年生なのに……。


仕事から帰って来たパパも、のび太が天才と診断されたとママから聞いて顔がほころぶ。


このぶんなら、まちがいなく東大に入れるわ。

東大どころか、きっと大学者になるよ。

めでたいことじゃ。

その夜の野比家は、将来有望な息子への期待と喜びに満ち溢れていた。


深夜、パパ・ママと並んで眠っていたのび太は起き出してトイレへ向かう。
今までは親がついてあげないと行けなかった夜のトイレも一人で行く姿に両親は再び感激する。


もっとはやくこうすればよかった。


用を済ませ、部屋に戻ろうとした時、丸い大きな影が。
短い悲鳴を上げ逃げ出すのび太だったが、それは迎えに来たドラえもんだった。


たっぷり楽しんだろ。
そろそろ帰ろう。

帰る?ばかいえ。
せっかくみんなよろこんでるのに。

ぼくはこのままおとなになるよ。

「人生やりなおし機」によって家族から「天才」「博士か大臣になる」と褒め称えられ、いじめられる心配もなくなったのび太の人生はまさに順風満帆そのものであった。たった一日でそれらを捨てて帰ってしまうのはあまりにも惜しい。

だが、これにドラえもんは反論。今でこそ神童とされているのび太も、いずれは今と変わらない…どころか「前より悪くなる」と告げるのだった。


こんな機械にたよるより、人間の中身をかえていかなきゃ。

それでもドラえもんの言葉を信用しないのび太。そこで『タイムテレビ』を使い「このまま成長したのび太の未来」を確認してみることにした。

小学校に入学したのび太は、テストでも当然のように100点を連発。
今や取っていなくても0点と決めつけるほど息子に失望気味のママをして「見なくても100点なのはわかる」と言わしめ、3年生へ飛び級まで検討させるほどだった。
「かんたんすぎてつまらない」からと、のび太は放課後も勉強をすることなく遊びに多くの時間を割いていた。
草野球でものび太はジャイアン・スネ夫からエース扱いされており、試合でもホームランを決め大活躍。

1年生ののび太を見る限り、勉強も遊びも全てにおいてまさに理想の人生そのものであり、本人も喜ぶ。


じゃ、4年生のころを見よう。


それから3年後*3…現在と同じ4年生に進級したのび太。ちょうど学校から帰宅した場面のようだが、なにやら様子がおかしい。


のびちゃん。

また0点とったんでしょ。
もっとお勉強しなさい。

これからするよ。

ママの目を盗んでこっそり帰って来たものの大目玉を食らうのび太の姿だった。
これではまるっきり現在と同じ光景ではないか。天才少年として万事快調に過ごしていると思っていたのび太も、この有り様にはまるで理解が追いつかず戸惑いを見せる。


だってもともと2年生なみなんだもの。

周囲から持て囃され、勉強の習慣が麻痺する程のぬるま湯人生を数年間謳歌していた「天才児」は、勉強の仕方さえ忘れてしまい、いつしか元の自分より頭が悪くなってしまっていたのだ。

「人間の中身をかえていかなきゃ」というドラえもんの言葉は、怠け癖を改善しないままより堕落した人生を歩もうとしたのび太の運命にそのまま突き刺さる忠告でもあった。


さらにこのまま大人になった、東大生も大臣も泡沫の夢に終わったと思しきのび太を見せようとするドラえもん。のび太はそれを拒みつつようやく「帰る」と言い出した。



「人生やりなおし機」を使った現在の時間軸に戻ったのび太。


努力しなければ成功はありえないということが……、
これでわかったかね。

どんな人間にも「努力」は大切であると気付かされたのび太は自ら「勉強する」と堂々宣言、ハチマキを締め机へ向かったのだが…。


勉強して発明するんだ。

勉強しなくても頭のよくなる機械を。


どうもまだ、よくわかってないみたい。




【登場したひみつ道具】

○人生やりなおし機
その名の通り、人生をやり直すことができる機械。任意の過去の時間軸まで対象者をタイムリープさせる。
知力や身体能力*4・記憶などを保持した状態となるので、同じ失敗を繰り返すリスクもない。
いわゆる「強くてニューゲーム」的人生を送ることもできる。幼ければ幼いほどその影響力は大きいと考えられるが、作中におけるのび太のように長期間に渡り努力や苦労を経験しなくなると、結果的によりダメ人間と化した将来に改変されてしまうリスクが伴う。
ドラえもんも自分から出しておいてこの機械に人生を委ねることを否定していた。

対象者の頭にヘッドバンド型の装置を取り付けた状態で機械本体の操作を行う。
ここで対象者が戻りたい年齢(年・月単位)の目盛りに合わせてボタンを押すのだが、なぜか目盛りが高速でスライドし、タイミングよくボタンを目押しするという謎仕様。
のび太のように正確な指定がない場合はともかく、諸事情で特定の時期をやり直したい用途に使う場合はかなり操作が高度を極めると思われる。
仮に目盛りが「0歳0ヶ月」以前まで進むとどうなるかは不明。

人生をいつ、どのようにやり直したいかは人それぞれであり、のび太のようにただ「幼少期に戻って褒められたい」という小さな願いを叶えたいだけの人もいれば…。

事故や病気・事件・その他大きなトラブルや損失を回避したい
失敗した受験・就職・その他大事な考査に再戦したい
悲しい別れ方をしたあの人ともう一度会いたい
やり直したい出来事はないけど楽しかった思い出や名場面の追憶に浸りたい
ギャンブルで無双して金持ちに…

…などあらゆる用途が想定できる。

もっとも、この手のタイムリープものでは大事件などを回避しようとしても『実は本人ひとりの努力ではどうにもならない要因が潜んでいた』『回避しようとした行動が新たなイレギュラーを生み出しそれが悪さをしでかして…』といったトラブルが立ちはだかり、なかなか思い通りにいかないというのがお約束と化しているが…。

なお、この機械を使った後に元の時間軸へ戻る際には、機械のヘッドバンドを再び装着する。
この事から、機械を使用した本人がやり直し中に帰りたい場合は、第三者がなんらかの時間移動系道具で迎えに来られる体制を取る必要があると思われる。


○タイムテレビ
4歳からやり直して「天才」と称えられたのび太がこの先どんな人生を歩むかを確かめるために使用した。




【アニメ版】

これまでに計3回(大山版で2回・わさドラ版で1回)アニメ化されている。

◇大山版1回目
帯番組時代の1979年6月22日に放送。

ストーリーは基本的に原作準拠だが、一部シーンに以下の相違点がある他、尺の都合でいくつかの場面がカットされている。
  • 4歳のジャイアンが書いた名前が原作よりは読めるレベルに落ち着いている*5
  • ジャイアンとスネ夫を泣かしたのび太をママが注意するシーンがカットされ、のび太が2人を泣かせた事をママとおばあちゃんが知ったと同時に天才教育研究会の男が野比家を訪ねている。
  • 夜中に一人でトイレに向かうのび太を両親が褒めるシーンがカット。
  • 「タイムテレビ」で観た1年生ののび太については、テストで100点を取った事のみ触れられており、他の場面はカット。


◇大山版2回目
1994年4月8日のスペシャル「春だ!一番ドラえもん祭り」内の新作として放送。前後半2パート構成。

2度目のアニメ化かつスペシャル回ということで大幅にアニメオリジナルシーンが追加された。以下は原作との相違点。

  • 冒頭、ジャイアン・スネ夫とサッカーをしていたのび太は、ある一人の男性( - 徳丸完)と知り合う。男はのび太に見覚えがある一方、のび太本人は全く記憶になかったものの、彼はかつてのび太の「天才」ぶりに驚嘆した「天才教育研究会」の男だった。
  • 「5年生」ののび太に合わせて、としお(声 - 渡辺久美子)の年齢は5歳に上がっている。また、フルネームだけを漢字で書け、割り算を理解できるなど原作より知力がレベルアップしている*6。これにのび太は「漢字で作文が書ける」と対抗し、としおに出した計算問題も増えていた(ただし答えは言っていない)。
  • のび太が戻った年齢も5歳に変更。また、やりなおし機で年齢を設定する際にメーターを目押しする場面がなく、事前の操作でドラえもんが設定を済ませている。
  • のび太が名前以外にも「春夏秋冬」など様々な漢字を披露している。
  • 「タイムテレビ」で観た小1時代ののび太がジャイアン達に加わった遊びがサッカーに変更され、この時はシュートを決めている。
  • タイムテレビで5年生の頃ののび太を観た後、やりなおし機を使用した「現在」ののび太を観察する。そこには冒頭と同じようにのび太と再会した研究会の男が、天才の面影を失ったのび太の姿に失望する光景が映し出されていた。これにショックを受けたのび太は、原作通り「帰る」とドラえもんに訴えるのだった。

DVD「ドラえもんコレクションスペシャル特大号 春の2」に収録。


◇わさドラ版
2008年8月8日に放送。

大山版1回目と同様、ストーリーは原作準拠。以下は主な原作との相違点。

  • のび太がとしおに出した計算問題が「20-10=10」と原作より難易度が下がっている。その後九九の二の段を暗唱したがママに止められた。
  • 小1時代ののび太が仲間と遊んでいたスポーツはキックベースに変更。「たまには三振してみたいよ」と調子のいいコメントを残す。
  • 小4時代のシーンでは、進級するにつれ落ちぶれていくのび太の有様に「育て方が悪かった」「天才だからと期待をかけ過ぎた」と自責の念に駆られやつれてしまったパパとママの姿が映し出され、より悲壮感を増している。




【余談】

  • 「欲しいひみつ道具」の話題で定番のように挙がる道具でもある。2017年の『アメトーーク』集計では大人世代4位、ねとらぼが400人近い読者を対象に行なった投票でも4位を記録している。ただし後者は記者があらかじめ用意した選択肢の一つであり、前者に至っては信憑性に疑問がある(どくさいスイッチの記事参照)ため注意。
  • 作中でおばあちゃんがのび太に語りかけていた「わんぱくでもいい、たくましく育っておくれ。」という言い回しは、1970年代に放映されていた丸大ハム(丸大食品)のテレビCMで使用されていたナレーション「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」のパロディである。このフレーズは当時の流行語にもなった。
  • 学力・体力は小2レベル(小4時点)との結果が下されていたのび太。小1レベルのテストなら問題なく満点を取れるようだが、他の回では「1+1=11」「15-3=8」などと答えていたり、2年生で習う九九もわかっていない描写が存在する。また、有名な「のび()」表記が示す通り、漢字はもちろんひらがなの誤記も多くなおかつ悪筆である。原作・アニメ版のいずれにおいても今話ではそのような本来の知力の低さについては重視されていないようだが、4歳に戻ったのび太が文句なしの天才と評された事すら奇跡に近いのかもしれない。





追記・修正して発明するんだ。
追記・修正しなくても項目のよくなる機械を。



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最終更新:2023年04月07日 01:39

*1 「す」は左右逆、「ね」は前半の折り返しから後半のカーブに繋がる曲線がぎこちなく、「お」は二画目の終点が伸び過ぎて「す」のような形になっている。

*2 おそらく「たけし」と書いたつもりなのだろうが…。

*3 本当に飛び級していたら1年後?

*4 ただし、のび太が眼鏡をかけていない4歳に戻った際には裸眼でも日常生活に支障がなかったことから、視力などは例外らしい。

*5 「た」の4画目を「っ」のような形に書き間違えている程度。

*6 ちなみに「山本年男」表記であることも判明。