登録日:2025/09/22 Mon 00:12:13
更新日:2025/10/12 Sun 06:26:39NEW!
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エルスの天秤とは幻夜祭、すいか虫の2名からなるクリエイター集団AZOOZAが開発したRPGシリーズである。
●概要
もともとガラケー向けにiモードで無料配信されていたRPG。
ゲームシステムとしてはドラゴンクエストなどに近いシンプルなターン制コマンド型RPGではあるが、大きな特徴は一部のボスモンスターを除いた登場するほとんどのモンスターを仲間にできるというドラゴンクエストモンスターズシリーズのような極めて自由度の高いパーティ編成システムにある。
プレイヤーは単純な強さだけでなく、見た目の好みや特定の魔法、攻撃特性など多彩な基準で仲間を選び、自分だけのパーティを編成することができるようになっている。このシステムは単なるコレクション要素にとどまらず、モンスターごとに異なる成長傾向や覚える技などを把握し、目標となるダンジョンやボス戦に向けてパーティ編成を試行錯誤することとなる。
また本作は極めて高い探索の自由度も特徴である。多くのRPGに見られるような「今はここに行くべきではない」といった強制的な進行制限はほとんど存在せず、プレイヤーは自己責任において今のレベルではまだ危険なダンジョンへも序盤から足を踏み入れることができる。
もちろん適正レベルでもなかなか難しい難易度設定の本作においてそれは自殺行為にも等しい荒行であるのだが、それによる大幅なレベルアップや本来まだ仲間にできないはずの強力なモンスターの入手等といった大きな見返りがありどのようにストーリー全体を攻略してゆくかの選択肢を大幅に広げている。
特に仲間にしにくい一部のレアなモンスターなどを苦労して仲間にしたときの達成感はひとしおだろう。そういったモンスターは得てして非常に強力なステータスや習得スキルを持っており、その後の攻略においてかなり頼もしい存在になってくれる。
開発元のAZOOZAは、本シリーズを「ドラクエなど、往年のRPGファンに向けた」作品と位置づけており、その言葉通り、戦闘はやや高い難易度に設定されている。実際にプレイしてみると分かるが全体的に敵のステータスが高く、初めて足を踏み入れるダンジョンでいきなり凶悪な敵集団に襲われて一瞬で全滅するといったことは日常茶飯事。
そして突破できない強敵に何度も全滅させられ、敗北してはレベルを上げ、戦略を練り直し、時には新たなモンスターを育成して再挑戦するという、古典的RPGが持つ試行錯誤のサイクルを体験することになる。この挑戦的ながらも古き良き時代のRPGを思い起こさせる硬派なゲームバランスこそが、シリーズの魅力の一つであると言えるだろう。
これほどのクオリティと骨太なゲーム性でありながら初代はiアプリのフリーゲームであり、妥協のない作り込みによって熱心なファン層が形成され、シリーズ累計で70万ダウンロードというドマイナーなインディーゲームとしては驚異的な成功を収めるに至った。
また続編やリメイク作も存在し、ビジュアルとサウンドの品質が大幅に向上し、物語への没入感が高まっている。その人気は一過性のものではなく、後述するように、開発者が長期間沈黙した後も語り継がれるほどの強い求心力を持つカルト的な存在となっている。
●シリーズ作品
■エルスの天秤(初代)
2009年にフィーチャーフォン(iアプリ、オープンアプリ)向けRPGとして誕生し、2010年にはAndroidへも移植されたシリーズ第一作 。本作の時点で後にシリーズの代名詞となる数々の要素の原型が確立されており、まさにすべての始まりとも言うべき作品である。想定総プレイ時間はこの時点ですでに30時間ほどにもなっており、およそフリーゲームとは思えないほどの大ボリュームの作品となっている。
また有料版も存在しており、こちらはフリー版の内容に加え、クリア後のお楽しみ要素である超高難易度の裏ダンジョンに入れるようになっている。
残念ながら後のリメイク作品や続編と異なり現在はAndroid移植版も含めて完全に配信が終了してしまっており、プレイする手段はほぼ存在していない幻の作品となってしまっている。
中心となるのは前述した通り主人公が手にする不思議な「宝冠」の力によって、ダンジョンに登場する多種多様な魔物を仲間に引き入れる勧誘システムである。序盤の雑魚敵から終盤の強敵に至るまで、ほぼすべてのモンスターをこれで仲間にすることが出来る。
加えて、主人公が武器を使い込むことでその武器種の扱いに習熟していく「武器熟練度」システムが存在。武器種としては、バランス型の「剣」、攻撃力がやや低い代わりに複数の敵を攻撃可能な「ムチ」、魔法攻撃に特化した「杖」、一定確率で敵を即死させる「弓」などが登場し、プレイヤーはこれらの武器を使いこなし、熟練度を上げることでキャラクターを強化していく。 これにより、自身の戦闘スタイルに合わせて主人公を育成していく戦略性が求めらるようになっている。
また古典的なRPGのようにセーブが街などの安全地帯でしか行えないようになっており、自由度の高い探索システムと相まって常に死と隣り合わせの緊張感を生み出している。
物語は、剣豪と謳われた亡き父のような偉大な探検家(レンジャー)を目指す若者、「ルキウス(男)」または「リヴィア(女)」を主人公として展開する。辺境の地「エルス諸島」を訪れた主人公は、魔物を従える力を持つ宝冠を手にしたことをきっかけに、島の広大な地下遺跡に眠る古代文明の謎と、その遺産を守る恐るべき守護者たちに立ち向かう運命へと導かれていく。
■エルスの天秤2
Android版が2011年3月18日に、iOS版が2014年7月6日にリリースされた本作は、単なる続編の枠を超え、前作のあらゆる要素を飛躍的に進化・拡張させた意欲作である。品質、ボリュームともに前作から大幅にパワーアップし、シリーズの人気を決定的なものにした。
前作からの最も大きな進化点は、連れ歩けるキャラクターが主人公込みで最大12体にまで増えたこと。戦闘に参加するのはこの内主人公を含む4体になるのだが状況に応じて控えから予備戦力を投入したり、特定の魔法が弱点の敵の対策として専用のモンスターを用意したりと言ったより奥深い戦略性が生み出されている。
モンスター育成システムも大幅に強化された。
新たに導入された「宝珠合成」システムにより、魔物の潜在能力を引き出し、成長タイプを変化させたり新たな魔法や技を習得させることができるように。
さらに前作では不可能だったモンスターへの武具装備や、モンスター自身の武器熟練度が搭載され仲間モンスターをより深く育成する楽しみが加わった。
グラフィックや音楽の質も大幅に向上し、特にiPhone/iPad版ではHDグラフィックが採用され、より美麗なビジュアルで冒険を楽しむことができた
武器システムも刷新され、敵の攻撃を一定確率で防ぐ「盾」や、防御を捨てて高い攻撃力を得る「両手持ち武器」などが登場し、戦略の幅を広げた。
またダンジョンマップ同士が直に繋がっていた前作に対し、本作からワールドマップが登場。冒険のスケール感がより一層アップし、未知のエリアでまだ見ぬモンスターを探すワクワク感も味わえる壮大な冒険が展開される。
物語は前作から3年後、主人公が長い眠りから目覚めるところから始まる。辺境の地で隠遁する老人にかくまわれていた主人公は、再び広大な世界へと旅立ち、謎多き「サマユ族」との出会いを経て、新たな冒険へと身を投じていくことになる。
■エルスの天秤ONE
作品の概要
2014年頃にWindows、Android、iOS向けにリリースされた、初代「エルスの天秤」の完全リメイク作品 。最新のゲームエンジンを用いてグラフィック、サウンド、ゲームシステムを全面的に刷新しており、シリーズ未経験者にとっての入門作であり、往年のファンにとっては決定版と言える内容となっている。
本作の最大の特徴は、現代のスマートフォンやPCの性能に合わせてビジュアル表現が大幅にパワーアップした点である 。グラフィックは全面的に描き直され、高解像度ディスプレイでも快適にプレイできるようUI設計も刷新された。
ゲームシステム面では、オリジナル版の面白さを損なわない範囲で、数多くの改善と拡張が施されている。武器カテゴリの追加、仲間の覚える魔法総数の増加、リメイク版独自の追加キャラクターやイベントなどが盛り込まれた。
また操作性の向上や戦闘演出の強化、熟練度仕様の改善など、プレイアビリティを高めるための細やかな調整が随所に見られる。初代にもあった恒例のクリア後追加ダンジョンも全面刷新され、より長く遊べるコンテンツとして再構築された 。
これらの近代化が行われる一方で、シリーズの根幹である「自由な進行」「仲間になる多彩な魔物」「戦略性の高い白熱バトル」といった核となる魅力は健在。これにより初代エルスの天秤プレイヤーも新鮮な気持ちで再び遊ぶことができるといえるだろう。
■エルスの天秤3
作品の概要
シリーズ3作目。Android版が2013年6月28日に、iOS版が2014年8月14日にリリースされ、2年の開発期間を経て、過去作からあらゆる面で規格外の進化を遂げた。
本作の発表以降AZOOZAは事実上活動を停止。本作はシリーズの事実上の最終作となり、エルスの天秤は10年以上もの間雌伏の時を過ごすこととなる。
本作はOpenGLを採用した新エンジンで開発され、多くの機種で60fpsの滑らかな動作を実現 。ゲームシステムは根底から再構築され、数多くの新要素が導入された。
武器カテゴリは8種類に増加し、必中の命中率を誇る「銃」や、様々な状態異常を相手に与える「牙」といった新カテゴリが加わった。魔法にも熟練度システムが導入されており、使い続けることで経験値が蓄積、レベルアップすることで上位の魔法に進化するようになっている。
また、本作の育成システムの目玉として「星座システム」が登場。同じモンスターでもランダムに付与される「星座」によって成長傾向や習得する特技が異なるようになっている。さらに前作で導入された「宝珠合成」は大幅に進化し、特定の星座と宝珠の組み合わせで合成を行うことで、モンスターが全く別のモンスターへと進化する、よりダイナミックな育成が可能になった。
加えて、素材を集めて新たな装備や道具を生み出す「アイテム合成」や、兜・靴といった新たな装備カテゴリ、そして洞窟内などを除けば「どこでもセーブ」が可能になるなど、利便性と戦略性の両面で劇的な進化を遂げている。
物語と舞台設定は前作との繋がりはない完全新規のもの。そのためシリーズを初めてプレイするユーザーでも、何ら支障なくその世界に没入できるようになっている。
ゲーム開始時には複数の主人公から一人を選択でき、さらに隠し要素として、前作「エルスの天秤2」に登場したとあるキャラクターを主人公として使用することも可能。
■AZOOZAについて
「エルスの天秤」シリーズを生み出したのは、「幻夜祭」と「すいか虫」の2名を中心とするゲーム&エンターテイメント制作ユニット「AZOOZA(アズーザ)」である。2005年6月17日に活動を開始した。
設立当初は携帯電話やPC向けのサイト開発・運営などを手掛けていたが、やがて本格的にゲーム作りへと軸足を移し、エルスの天秤以外にも「VanityArk」、「ALFEE QUEST」シリーズといったタイトルを開発している。
■近年の動向
「エルスの天秤3」のリリース後、AZOOZAの活動は突如として沈黙期間に入る。公式ウェブサイトの更新は途絶え、開発者個人のブログもアクセス不能な状態となり、その後約10年にわたって開発者は音信不通となる。
その間にGoogle Playストアでは、2019年頃から段階的に64bitアーキテクチャへの対応や最新OSへの最適化(APIレベルの引き上げ)が義務付けられるようになってゆき、これらの技術的要件に対応していなかったエルスの天秤は配信に関する要件を満たしておらず削除されてしまう。
AppleAPPstoreからも姿を消し、シリーズをプレイする手段はFireタブレットシリーズ向けのAmazon Appstore版や、公式サイトから直接ダウンロードするapkファイルなどに限定され、新規プレイヤーが触れることは極めて困難な状況となった。
また最新のAndroidOSへの対応作業もされなくなったため仮に既にインストール済みだったとしても正常に動作できなくなっており、もはや正規の手段で遊ぶことは絶望的な状況だった。
しかし、商業的な流通が途絶え、開発者からの音信が全くないにもかかわらず、「エルスの天秤」の灯が消えることはなかった。その奥深いゲームシステムと心に残る物語は、熱心なファンコミュニティによって語り継がれ、信じられないことに開発元が沈黙してから10年余りが経った2025年になってもなお、わざわざAmazonFireタブレットを購入したりAndroidエミュレーターを使ったりしてまでプレイし続け、もはやインターネット黎明期の古代遺跡と化した公式掲示板で熱心に情報交換を続けるファンが存在したのだ。
シリーズが持つクオリティの高さはこのまま埋没させてしまうにはあまりに惜しく、開発者の不在という逆境を乗り越え、その遺産を存続させるだけの強力な引力を生み出していたのである。
そして2025年、公式サイトの掲示板にて開発者本人から10年ぶりとなる新年の挨拶と共に、シリーズの再配信に向けた準備を進めていることが正式に告知された。
その後告知通りAmazon Appstoreに最新OSに対応したエルスの天秤シリーズとVanityArkの4作品が配信される。
が、残念なことにAmazon Appstoreは同年8/20に通常のAndroidへのサービス提供を終了し自社のFireタブレット専用のサービスとなってしまったため、現時点でプレイする方法はFireタブを購入してダウンロードする方法に限定されている。
いつか再びGooglePlayStoreやAPPstoreでダウンロードして遊べるようになる日が来るのだろうか?
追記修正お願いします。
最終更新:2025年10月12日 06:26