「叔父様、こうして顔を合わせてじっくりと羽を休められる機会は久し振りですね」
「そうだな、リリアーナ」
「そうだな、リリアーナ」
「しかし叔父様。こうして私とばかり話していては、奥方に嫉妬されるのでは」
「まさか。姪と話して嫉妬するのならば、それの方がおかしかろうに」
「ですが、案外『姪だからこそ』という人もいるようですよ」
「……兄の遺児に手を出せるわけなかろう」
「成程、成程。確かに」
「まさか。姪と話して嫉妬するのならば、それの方がおかしかろうに」
「ですが、案外『姪だからこそ』という人もいるようですよ」
「……兄の遺児に手を出せるわけなかろう」
「成程、成程。確かに」
カルロは感情を露にしながらそう言ってのけ、リリアーナはそれに冷淡そうに対応していた。
「さて、叔父様。お父様を、先代当主を今も慕ってくださるのは嬉しいですが。久し振りにボードゲームでも嗜みましょう。砂時計の砂が落ちきる前に手を考える、いつもの早指しで」
「……それは良い。なら、軽食を用意させよう」
「……それは良い。なら、軽食を用意させよう」
そう、リリアーナがかつかつと歩んでボードゲーム(所謂チェスやチャトランガ、将棋のような二人対戦のものである。)と砂時計を運び、カルロは給仕に命令して軽食を用意させる。
この二人の指すものはついつい長くなりがちであった。ただ、それでも多忙であろう二人の遊びはこれであった。
――正確には、本当に正確には。リリアーナにとって唯一の父との『遊び』であり、カルロが『叔父として』姪に合わせているのだ。
この二人の指すものはついつい長くなりがちであった。ただ、それでも多忙であろう二人の遊びはこれであった。
――正確には、本当に正確には。リリアーナにとって唯一の父との『遊び』であり、カルロが『叔父として』姪に合わせているのだ。
ボードと駒、砂時計が出され、カルロとリリアーナは向かい合うように座り、先行を決める。
「何時も通り、共和国貨幣で行こう。私は表だ。リリアーナは?」
「裏で」
「了解」
「裏で」
「了解」
軽快に空を舞う硬貨。出たのは表。カルロの先手である。
「すまない、リリアーナ。私が勝ったかもしれん」
「……さあどうでしょう?先手有利といえど、案外ひっくり返せるだけの技量差があるでしょうから」
「生憎、今の私の頭は冴えてるよ」
「それを言うなら、こちらもです」
「……さあどうでしょう?先手有利といえど、案外ひっくり返せるだけの技量差があるでしょうから」
「生憎、今の私の頭は冴えてるよ」
「それを言うなら、こちらもです」
そう言いながら、駒を並べる二人。因みにこれは後の研究結果だが、このボードゲームは先手有利で知られることとなる。
そうして、駒を並べ終えた二人は早指しボードゲームを始める。
砂時計の砂が落ちきる前に最善手を考え、それを打たねばならないこの遊びを、二人は別の話をしながらしていく。
砂時計の砂が落ちきる前に最善手を考え、それを打たねばならないこの遊びを、二人は別の話をしながらしていく。
「リリアーナ。最近はどうだね」
「そうですね、銀行の融資額も利益も順調に増えています。
ただ、アルミキア方面への融資が増えているのが懸念点ですね。あそこはイルニクス帝国寄りの国です。
このまま彼等が力をつけていけば対帝国方針の転換はあるかもしれませんが、場合によっては私達の富によって築かれたものが共和国同盟に牙を剥くかと」
「そうか、まあそのあたりは一任するよ。それが私が当主である条件だからな」
「左様で」
「そうですね、銀行の融資額も利益も順調に増えています。
ただ、アルミキア方面への融資が増えているのが懸念点ですね。あそこはイルニクス帝国寄りの国です。
このまま彼等が力をつけていけば対帝国方針の転換はあるかもしれませんが、場合によっては私達の富によって築かれたものが共和国同盟に牙を剥くかと」
「そうか、まあそのあたりは一任するよ。それが私が当主である条件だからな」
「左様で」
そう言いながら、リリアーナは守勢を保つ。
対してカルロは先手なのを活かして積極的に攻めていく。
対してカルロは先手なのを活かして積極的に攻めていく。
「ところで、叔父様は?」
「そうだな……」
「ふふっ、少し考える時間が必要ですか」
「かもしれん。っと、チェック」
「そうだな……」
「ふふっ、少し考える時間が必要ですか」
「かもしれん。っと、チェック」
リリアーナの王の駒が、次の手番で取られる状態になる。
ただ、詰んでいるわけではない。十全に阻止できる範囲だ。
ただ、詰んでいるわけではない。十全に阻止できる範囲だ。
「……考える時間を作りましたね?」
「まさか。最善手だよ」
「そうでしょうか」
「そうだとも。それで……」
「叔父様の近況を」
「そうだったな。明後日から他の共和国を幾つか巡ってくる」
「船旅ですね?まあ各国間は数日でつく距離でしょう?」
「ああ。だから、1ヶ月もかからんだろう。それまでは――」
「当主代行ですね。お任せを。前から聞いていましたから」
「そうだったな。失敬失敬。っと、チェック」
「……誤魔化すのが下手ですよ。二つの意味で」
「まさか。最善手だよ」
「そうでしょうか」
「そうだとも。それで……」
「叔父様の近況を」
「そうだったな。明後日から他の共和国を幾つか巡ってくる」
「船旅ですね?まあ各国間は数日でつく距離でしょう?」
「ああ。だから、1ヶ月もかからんだろう。それまでは――」
「当主代行ですね。お任せを。前から聞いていましたから」
「そうだったな。失敬失敬。っと、チェック」
「……誤魔化すのが下手ですよ。二つの意味で」
リリアーナが淡々と捌く。駒を動かし、負けを避ける。
そうして――言葉に合わせるように、攻勢を始める。
そうして――言葉に合わせるように、攻勢を始める。
「……もう一度聞きます。近日の予定はともかく、昨日あたりの出来事を」
「君のことなら、既に知っているだろう?」
「まさか。主観と客観は異なりますよ」
「そうだ、そうだけれど……特筆すべきことはない筈だ。いつものように都市評議会に『意見文』を送り、共和国内の主要街道や港湾の整備や管理の報告を受けていただけだよ」
「叔父様は民生に明るいですからね……っと、チェック」
「おおっと、ずいぶん追い込まれたな」
「私相手ですからね」
「君のことなら、既に知っているだろう?」
「まさか。主観と客観は異なりますよ」
「そうだ、そうだけれど……特筆すべきことはない筈だ。いつものように都市評議会に『意見文』を送り、共和国内の主要街道や港湾の整備や管理の報告を受けていただけだよ」
「叔父様は民生に明るいですからね……っと、チェック」
「おおっと、ずいぶん追い込まれたな」
「私相手ですからね」
楽しそうにする叔父と姪。
「だが……こうすればどうかね」
そう言い、駒を動かす。
「であれば、このように」
「相変わらずの手だな」
「そりゃあ、私ですからね。……チェック」
「相変わらずの手だな」
「そりゃあ、私ですからね。……チェック」
と、一部割愛するが熾烈な応酬があり。
それが終わるのはリリアーナのチェック――トン、とリリアーナの駒がカルロの王に突き立てられる。
よく見ればその駒を取ったところで、進路を塞いだところで避けられぬ――つまり詰みであった。
それが終わるのはリリアーナのチェック――トン、とリリアーナの駒がカルロの王に突き立てられる。
よく見ればその駒を取ったところで、進路を塞いだところで避けられぬ――つまり詰みであった。
「私の負けだな」
「ですが、この前より粘られました」
「そうだろうか?自覚はなかったのだがね……
っと、腹が空いたな。軽食を用意させておいて正解だったようだ」
「叔父様も多忙ですから。遊びの記憶が多少薄れても仕方ないでしょう。
ああ、私のぶんもお願いします」
「ですが、この前より粘られました」
「そうだろうか?自覚はなかったのだがね……
っと、腹が空いたな。軽食を用意させておいて正解だったようだ」
「叔父様も多忙ですから。遊びの記憶が多少薄れても仕方ないでしょう。
ああ、私のぶんもお願いします」
そうして、事前に用意させた軽食が運ばれてくる。
それを食べてから、二人は各々の時間に向けて別々の行動を始めるのだった。
それを食べてから、二人は各々の時間に向けて別々の行動を始めるのだった。