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バンド結成
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無題01の返事
翌日の放課後。
ユーリコレットが個人練習室へ入ると、バニラキャラメルはすでに電子キーボードの前へ座っていた。
キーボードの横にはDPo-Xが接続され、昨夜保存された音声データが表示されている。
<無題01>
「昨日の録音、聞かせてくれるんだよね」
コレットはドラムセットの前まで歩き、スティックの入ったケースを置いた。
キャラメルが少し意外そうに笑う。
「何に使ったのか、先に聞かないんだ?」
「聞けばわかるなら、先に聞く」
「コレットらしいね」
キャラメルが再生ボタンを押す。
スピーカーから流れ始めたのは、昨日コレットが一人で叩いたドラムだった。
最初は単純な拍。
少しずつ音が増え、一か所だけ間が空く。
そこへ、静かに鍵盤の音が重なった。
低いコード。
ドラムの隙間を埋めるように伸びる音。
コレットが強く叩いた場所では鍵盤も厚くなり、短いフィルのあとには高い音が一つ返ってくる。
最後にドラムが止まる。
鍵盤だけがわずかに残り、静かに消えた。
コレットはDPo-Xに表示された波形を見つめていた。
「キャラメルが弾いたんだ」
「うん」
「キーボード、弾けたんだね」
「子どもの頃から少しだけ」
コレットは録音を最初へ戻し、もう一度だけ短く再生した。
自分の演奏なのに、昨日とは違う音に聞こえる。
録音されたドラムは、鍵盤がどんな音を重ねても変化しない。
それでも、キャラメルが自分の間を聞き、そこへ返事を置いたことはわかった。
「これ、生で合わせたらもっと面白そう」
コレットが言った。
キャラメルの目が少しだけ明るくなる。
「同じことを考えてた」
「録音だと、私が変えてもついてこないから」
「今ならついていけるよ。たぶん」
「たぶんなんだ」
「最初から完璧だと、二回目がつまらないでしょう?」
キャラメルは鍵盤へ両手を置いた。
コレットもドラムセットの椅子へ座り、スティックを構える。
「四つ数えるね」
スティック同士を軽く鳴らす。
一。
二。
三。
四。
コレットのドラムが始まった。
昨日録音したものと同じリズム。
けれど今日は、目の前にキャラメルがいる。
鍵盤が少し遅れれば、次の一打をほんのわずかに待つ。
ドラムを強くすれば、鍵盤の音も厚くなる。
途中でコレットが昨日とは違うフィルを入れた。
キャラメルの右手が一瞬だけ止まる。
それでもすぐに、新しい高音を一つ返した。
コレットの口元が、わずかに緩む。
最後まで進み、二人の音がほとんど同時に止まった。
「今の、ちゃんと返ってきた」
コレットが言った。
「私も、コレットが待ってくれたのがわかったよ」
「録音より、こっちの方がいい」
「もう一回やろうか」
「うん。次は途中を少し変える」
二回目のカウントを始めようとした時、練習室の扉が軽く叩かれた。
「入るよー」
肩へギターケースをかけたシュガーシロップが顔を出す。
「シロちゃん、ちょうどよかった」
キャラメルが手招きした。
コレットは、シロが持っているケースへ目を向ける。
「本当にギターを持ってきたんだ」
「キャラメルに呼ばれたからね。家の奥から出して、弦も替えてきた」
シロはケースを床へ置き、使い込まれたギターを取り出した。
長く触れていなかったとはいえ、手入れはきちんとされている。
接続機器へケーブルを差し、弦を一本ずつ鳴らした。
少し音を調整したあと、短いコードを鳴らす。
迷いのない手つきだった。
「昔、キャラメルと合わせてたんだって?」
コレットが尋ねる。
「子どもの頃にね。私がギターで、キャラメルが鍵盤」
「シロちゃん、すぐ先へ行っちゃうから大変だったんだよ?」
「キャラメルが慎重すぎたんだって」
「昔から変わってないね」
コレットが淡々と言うと、シロとキャラメルが同時に彼女を見た。
「まだ一音も合わせてないよ?」
「会話だけでわかる」
キャラメルが小さく笑い、シロへ<無題01>のコードを送る。
「八小節だけ。まずはコレットのドラムを聞いてね」
「任せて。昔みたいに先走らないから」
「自分で言ったね?」
「言った」
コレットがスティックを構えた。
「シロはバスドラムより前へ出ない。キャラメルはハイハットを聞く。最初は音を増やしすぎない」
「了解」
「わかったよ」
一。
二。
三。
四。
ドラム。
鍵盤。
その下へ、ギターが入った。
最初の数小節は、三つの音がそれぞれ少しずつ離れていた。
シロのギターがわずかに前へ出る。
キャラメルが追いかけようとして、鍵盤の音も早くなる。
コレットが強いスネアを一つ鳴らした。
二人の音が、そこへ戻ってくる。
後半。
シロが短いフレーズを加えた。
今度はキャラメルもすぐに反応せず、コレットの拍を聞きながら小さな和音を重ねる。
最後。
三人の音が同じ場所で止まった。
シロはギターを持ったまま、嬉しそうに笑う。
「これ、結構楽しいね」
「昔より、ちゃんとこっちを聞いてたよ」
キャラメルが言った。
「成長したでしょ?」
「少しだけ」
「もっと褒めてもいいんだけど?」
コレットは録音を確認しながら、短く言った。
「三人なら、もう少し長くできそう」
それは、次も合わせることを前提にした言葉だった。
キャラメルは何も指摘せず、鍵盤へ手を戻す。
「じゃあ次は、十六小節まで伸ばしてみようか」
ユーリコレットが個人練習室へ入ると、バニラキャラメルはすでに電子キーボードの前へ座っていた。
キーボードの横にはDPo-Xが接続され、昨夜保存された音声データが表示されている。
<無題01>
「昨日の録音、聞かせてくれるんだよね」
コレットはドラムセットの前まで歩き、スティックの入ったケースを置いた。
キャラメルが少し意外そうに笑う。
「何に使ったのか、先に聞かないんだ?」
「聞けばわかるなら、先に聞く」
「コレットらしいね」
キャラメルが再生ボタンを押す。
スピーカーから流れ始めたのは、昨日コレットが一人で叩いたドラムだった。
最初は単純な拍。
少しずつ音が増え、一か所だけ間が空く。
そこへ、静かに鍵盤の音が重なった。
低いコード。
ドラムの隙間を埋めるように伸びる音。
コレットが強く叩いた場所では鍵盤も厚くなり、短いフィルのあとには高い音が一つ返ってくる。
最後にドラムが止まる。
鍵盤だけがわずかに残り、静かに消えた。
コレットはDPo-Xに表示された波形を見つめていた。
「キャラメルが弾いたんだ」
「うん」
「キーボード、弾けたんだね」
「子どもの頃から少しだけ」
コレットは録音を最初へ戻し、もう一度だけ短く再生した。
自分の演奏なのに、昨日とは違う音に聞こえる。
録音されたドラムは、鍵盤がどんな音を重ねても変化しない。
それでも、キャラメルが自分の間を聞き、そこへ返事を置いたことはわかった。
「これ、生で合わせたらもっと面白そう」
コレットが言った。
キャラメルの目が少しだけ明るくなる。
「同じことを考えてた」
「録音だと、私が変えてもついてこないから」
「今ならついていけるよ。たぶん」
「たぶんなんだ」
「最初から完璧だと、二回目がつまらないでしょう?」
キャラメルは鍵盤へ両手を置いた。
コレットもドラムセットの椅子へ座り、スティックを構える。
「四つ数えるね」
スティック同士を軽く鳴らす。
一。
二。
三。
四。
コレットのドラムが始まった。
昨日録音したものと同じリズム。
けれど今日は、目の前にキャラメルがいる。
鍵盤が少し遅れれば、次の一打をほんのわずかに待つ。
ドラムを強くすれば、鍵盤の音も厚くなる。
途中でコレットが昨日とは違うフィルを入れた。
キャラメルの右手が一瞬だけ止まる。
それでもすぐに、新しい高音を一つ返した。
コレットの口元が、わずかに緩む。
最後まで進み、二人の音がほとんど同時に止まった。
「今の、ちゃんと返ってきた」
コレットが言った。
「私も、コレットが待ってくれたのがわかったよ」
「録音より、こっちの方がいい」
「もう一回やろうか」
「うん。次は途中を少し変える」
二回目のカウントを始めようとした時、練習室の扉が軽く叩かれた。
「入るよー」
肩へギターケースをかけたシュガーシロップが顔を出す。
「シロちゃん、ちょうどよかった」
キャラメルが手招きした。
コレットは、シロが持っているケースへ目を向ける。
「本当にギターを持ってきたんだ」
「キャラメルに呼ばれたからね。家の奥から出して、弦も替えてきた」
シロはケースを床へ置き、使い込まれたギターを取り出した。
長く触れていなかったとはいえ、手入れはきちんとされている。
接続機器へケーブルを差し、弦を一本ずつ鳴らした。
少し音を調整したあと、短いコードを鳴らす。
迷いのない手つきだった。
「昔、キャラメルと合わせてたんだって?」
コレットが尋ねる。
「子どもの頃にね。私がギターで、キャラメルが鍵盤」
「シロちゃん、すぐ先へ行っちゃうから大変だったんだよ?」
「キャラメルが慎重すぎたんだって」
「昔から変わってないね」
コレットが淡々と言うと、シロとキャラメルが同時に彼女を見た。
「まだ一音も合わせてないよ?」
「会話だけでわかる」
キャラメルが小さく笑い、シロへ<無題01>のコードを送る。
「八小節だけ。まずはコレットのドラムを聞いてね」
「任せて。昔みたいに先走らないから」
「自分で言ったね?」
「言った」
コレットがスティックを構えた。
「シロはバスドラムより前へ出ない。キャラメルはハイハットを聞く。最初は音を増やしすぎない」
「了解」
「わかったよ」
一。
二。
三。
四。
ドラム。
鍵盤。
その下へ、ギターが入った。
最初の数小節は、三つの音がそれぞれ少しずつ離れていた。
シロのギターがわずかに前へ出る。
キャラメルが追いかけようとして、鍵盤の音も早くなる。
コレットが強いスネアを一つ鳴らした。
二人の音が、そこへ戻ってくる。
後半。
シロが短いフレーズを加えた。
今度はキャラメルもすぐに反応せず、コレットの拍を聞きながら小さな和音を重ねる。
最後。
三人の音が同じ場所で止まった。
シロはギターを持ったまま、嬉しそうに笑う。
「これ、結構楽しいね」
「昔より、ちゃんとこっちを聞いてたよ」
キャラメルが言った。
「成長したでしょ?」
「少しだけ」
「もっと褒めてもいいんだけど?」
コレットは録音を確認しながら、短く言った。
「三人なら、もう少し長くできそう」
それは、次も合わせることを前提にした言葉だった。
キャラメルは何も指摘せず、鍵盤へ手を戻す。
「じゃあ次は、十六小節まで伸ばしてみようか」
白いピック
数日後。
放課後の小合奏室には、先にコレットとキャラメルが来ていた。
コレットがドラムセットを調整し、キャラメルは前回の録音へ新しいコードを書き加えている。
扉の外から、二人分の足音が近づいてきた。
「お待たせ!」
シロが扉を開く。
その後ろには、ミルククラウンが立っていた。
柔らかな金色の髪。
いつもの穏やかな笑顔。
手には、以前楽器店で買った小さな白いピックを持っている。
「こんにちは~。今日は見学させてもらいに来ました」
「いらっしゃい」
キャラメルが笑顔で迎える。
コレットも軽く手を上げた。
「シロから聞いた。ギターに興味あるんだって」
「うん。まだ、きれいに音を出すところからだけどね~」
「それなら、今日は一緒にやろう」
コレットは、すでに四人分の簡単な譜面を開いていた。
ミルクが目を丸くする。
「私の分もあるの?」
「一音だけ。最初はそれで十分」
「コレットちゃん、準備が早いね~」
「来るって聞いたから」
シロは持ってきた黒いケースを床へ置いた。
中に入っていたのは、前回使っていた古いギターだった。
弦は新しく張り替えられ、金属部分も磨かれている。
シロはそれを持ち上げ、ミルクの前へ差し出した。
「これ、使って」
ミルクはギターを見つめた。
「シロちゃんが昔使ってたギターだよね?」
「うん。今はほとんど使ってなかったから、ミルクに持っていてほしい」
「もらっていいの?」
「使ってくれる方が、このギターも喜ぶよ。まだ始めたばかりだから、まずはこれで練習してみて」
ミルクは白いピックを握ったまま、両手でギターを受け取った。
小さな傷。
少し色の変わったストラップ。
長い時間を一緒に過ごしてきた楽器だとわかる。
「大事にするね」
「大事にしまうんじゃなくて、いっぱい弾いて」
「うん!」
シロがストラップの長さを調整する。
ミルクの体格に合う位置まで短くし、左手の置き方を教えた。
「前に楽器屋でやったのと同じ。指を少し立てて、隣の弦へ触れないように」
「こうかな~」
ミルクが弦を押さえ、白いピックを動かした。
最初の音は少し詰まった。
もう一度。
今度は、一本の弦がきれいに鳴る。
「鳴った!」
「いい音だったよ」
キャラメルが言う。
ミルクは嬉しそうに、もう一度同じ音を鳴らした。
コレットがシロを見る。
「シロは今日はギターじゃないんだ」
「ミルクがギターをやるなら、私はベースをやってみる」
シロは壁際へ置かれた学校備品のベースを手に取った。
「ギターの経験は使えるし、低い音をやるのも面白そうだから」
「シロちゃんも新しい楽器なんだね~」
「一緒に覚えよう。ミルクがコードを一つ増やしたら、私もフレーズを一つ増やす」
「競争?」
「一緒に進む目安」
「それなら頑張れそう」
ミルクが笑う。
キャラメルは二人を見ながら、楽しそうに鍵盤の設定を変えていた。
「シロちゃんが人に合わせて始めるなんて、少し珍しいね」
「昔より成長したって言っただろ?」
「じゃあ、期待してるね」
「任せろ」
コレットは四人分の譜面を中央へ表示した。
「最初は四小節だけ。ミルクは一小節目の最初に一度鳴らす。シロは私のバスドラムと同じ場所。キャラメルはコードを長く伸ばして」
全員がそれぞれの位置へつく。
ミルクはギター。
シロはベース。
キャラメルは鍵盤。
コレットはドラム。
「一回目は、音が鳴れば成功」
コレットがスティックを構える。
「失敗しても止まらない。次の拍へ戻ってくればいいから」
一。
二。
三。
四。
ドラムが始まった。
シロのベースが、少し遅れて低い音を鳴らす。
キャラメルのコード。
コレットがミルクへ小さく頷く。
白いピックが弦を通った。
ギターの音が鳴る。
少し濁っていた。
けれど、確かに三人の音の中へ入った。
二小節目。
シロが一音早く入る。
コレットのスネアを聞き、次の音で位置を戻した。
三小節目。
ミルクの指が弦から外れる。
キャラメルが鍵盤を少し厚く鳴らし、空いた場所をつなぐ。
四小節目。
全員が、ほぼ同時に止まった。
音の余韻が小合奏室へ残る。
ミルクが最初に顔を上げた。
「ちゃんと、一緒の音になったね~」
「なった」
コレットが頷く。
「最初としては、かなりいい」
「コレットちゃんに褒めてもらえた」
「聞こえたものを言っただけ」
「それが嬉しいんだよ~」
シロもベースの弦を軽く鳴らした。
「もう一回やろう。次は遅れないから」
「私も、さっきよりきれいに鳴らしたい」
ミルクがギターを構え直す。
キャラメルは鍵盤へ指を置いた。
「次は少しだけ長くしてみようか」
コレットが譜面を八小節へ伸ばす。
四人の二回目が始まった。
放課後の小合奏室には、先にコレットとキャラメルが来ていた。
コレットがドラムセットを調整し、キャラメルは前回の録音へ新しいコードを書き加えている。
扉の外から、二人分の足音が近づいてきた。
「お待たせ!」
シロが扉を開く。
その後ろには、ミルククラウンが立っていた。
柔らかな金色の髪。
いつもの穏やかな笑顔。
手には、以前楽器店で買った小さな白いピックを持っている。
「こんにちは~。今日は見学させてもらいに来ました」
「いらっしゃい」
キャラメルが笑顔で迎える。
コレットも軽く手を上げた。
「シロから聞いた。ギターに興味あるんだって」
「うん。まだ、きれいに音を出すところからだけどね~」
「それなら、今日は一緒にやろう」
コレットは、すでに四人分の簡単な譜面を開いていた。
ミルクが目を丸くする。
「私の分もあるの?」
「一音だけ。最初はそれで十分」
「コレットちゃん、準備が早いね~」
「来るって聞いたから」
シロは持ってきた黒いケースを床へ置いた。
中に入っていたのは、前回使っていた古いギターだった。
弦は新しく張り替えられ、金属部分も磨かれている。
シロはそれを持ち上げ、ミルクの前へ差し出した。
「これ、使って」
ミルクはギターを見つめた。
「シロちゃんが昔使ってたギターだよね?」
「うん。今はほとんど使ってなかったから、ミルクに持っていてほしい」
「もらっていいの?」
「使ってくれる方が、このギターも喜ぶよ。まだ始めたばかりだから、まずはこれで練習してみて」
ミルクは白いピックを握ったまま、両手でギターを受け取った。
小さな傷。
少し色の変わったストラップ。
長い時間を一緒に過ごしてきた楽器だとわかる。
「大事にするね」
「大事にしまうんじゃなくて、いっぱい弾いて」
「うん!」
シロがストラップの長さを調整する。
ミルクの体格に合う位置まで短くし、左手の置き方を教えた。
「前に楽器屋でやったのと同じ。指を少し立てて、隣の弦へ触れないように」
「こうかな~」
ミルクが弦を押さえ、白いピックを動かした。
最初の音は少し詰まった。
もう一度。
今度は、一本の弦がきれいに鳴る。
「鳴った!」
「いい音だったよ」
キャラメルが言う。
ミルクは嬉しそうに、もう一度同じ音を鳴らした。
コレットがシロを見る。
「シロは今日はギターじゃないんだ」
「ミルクがギターをやるなら、私はベースをやってみる」
シロは壁際へ置かれた学校備品のベースを手に取った。
「ギターの経験は使えるし、低い音をやるのも面白そうだから」
「シロちゃんも新しい楽器なんだね~」
「一緒に覚えよう。ミルクがコードを一つ増やしたら、私もフレーズを一つ増やす」
「競争?」
「一緒に進む目安」
「それなら頑張れそう」
ミルクが笑う。
キャラメルは二人を見ながら、楽しそうに鍵盤の設定を変えていた。
「シロちゃんが人に合わせて始めるなんて、少し珍しいね」
「昔より成長したって言っただろ?」
「じゃあ、期待してるね」
「任せろ」
コレットは四人分の譜面を中央へ表示した。
「最初は四小節だけ。ミルクは一小節目の最初に一度鳴らす。シロは私のバスドラムと同じ場所。キャラメルはコードを長く伸ばして」
全員がそれぞれの位置へつく。
ミルクはギター。
シロはベース。
キャラメルは鍵盤。
コレットはドラム。
「一回目は、音が鳴れば成功」
コレットがスティックを構える。
「失敗しても止まらない。次の拍へ戻ってくればいいから」
一。
二。
三。
四。
ドラムが始まった。
シロのベースが、少し遅れて低い音を鳴らす。
キャラメルのコード。
コレットがミルクへ小さく頷く。
白いピックが弦を通った。
ギターの音が鳴る。
少し濁っていた。
けれど、確かに三人の音の中へ入った。
二小節目。
シロが一音早く入る。
コレットのスネアを聞き、次の音で位置を戻した。
三小節目。
ミルクの指が弦から外れる。
キャラメルが鍵盤を少し厚く鳴らし、空いた場所をつなぐ。
四小節目。
全員が、ほぼ同時に止まった。
音の余韻が小合奏室へ残る。
ミルクが最初に顔を上げた。
「ちゃんと、一緒の音になったね~」
「なった」
コレットが頷く。
「最初としては、かなりいい」
「コレットちゃんに褒めてもらえた」
「聞こえたものを言っただけ」
「それが嬉しいんだよ~」
シロもベースの弦を軽く鳴らした。
「もう一回やろう。次は遅れないから」
「私も、さっきよりきれいに鳴らしたい」
ミルクがギターを構え直す。
キャラメルは鍵盤へ指を置いた。
「次は少しだけ長くしてみようか」
コレットが譜面を八小節へ伸ばす。
四人の二回目が始まった。
四人分の音
その日から、四人は予定が合う放課後に小合奏室へ集まるようになった。
毎日ではない。
シロにはバドミントン部や、ほかの運動部の助っ人がある。
コレットにも、一人でドラムを叩きたい日がある。
キャラメルは自宅でも鍵盤を弾き、四人の音が重なりやすいようにコードを整理した。
ミルクは自宅へ持ち帰ったギターを、毎日少しずつ練習した。
最初は一つの音。
次は二つのコード。
指先が痛くなった日は、無理をせず休む。
シロもベースの感覚へ慣れていった。
ギターより太い弦。
低い音。
目立つために前へ出るのではなく、ドラムと一緒に曲の足元を支える。
それまでのシロとは、少し違う役割だった。
「シロ、今の音は少し長い」
コレットが言う。
「もう少し短く?」
「うん。ミルクが入る場所を空けて」
「了解」
シロはすぐに弾き直す。
「今度は?」
「いい」
「短いけど、ちゃんと褒められた」
「毎回長く言う必要はないでしょ」
「コレットらしいね~」
ミルクが笑った。
「ミルクは、次のコードへ移る時に手を離しすぎてる」
「先に指を近づけておくんだよね?」
「そう。形だけ準備しておけば間に合う」
「もう一回やってみる」
ミルクはゆっくりとコードを押さえ直した。
今度は音が途切れずにつながる。
「できた~」
「うん。そのまま覚えて」
キャラメルが鍵盤を鳴らしながら言う。
「コレット、すっかり先生だね」
「全体を見てるだけ」
「それができる人がいると、進みやすいよ」
「キャラメルも、音を増やしすぎないで」
「はーい」
「今の返事、増やす人の返事」
「ばれた?」
「最初から」
四人の音は、少しずつ長くなっていった。
八小節。
十六小節。
途中に短い間奏が加わり。
最初にキャラメルが作った旋律が、少しずつ四人のものへ変わっていく。
シロが新しいベースラインを思いつけば、コレットが合うリズムを探す。
ミルクがきれいに鳴らせるコードが増えれば、キャラメルは鍵盤の音を少し減らし、ギターが聞こえる場所を作った。
誰かが一方的に引っ張るのではない。
一人が変われば、ほかの三人も少し変わる。
それはコレットが最初に欲しいと思ったものだった。
伴奏データからは返ってこなかった音。
自分の一打に、誰かが音で返してくる時間。
ある日の放課後。
最初から最後まで通して演奏することになった。
「途中でずれても止まらない」
コレットが言う。
「誰かが戻る場所を出すから、そこへ合わせて」
「任せろ」
シロがベースを構える。
「私も、最後まで弾くね~」
ミルクは白いピックを握り直した。
キャラメルが鍵盤へ両手を置く。
「四人で最後まで行こう」
コレットがカウントを始めた。
一。
二。
三。
四。
ドラム。
ベース。
鍵盤。
ギター。
最初の部分は、これまでで一番きれいに進んだ。
中盤。
ミルクがコードを一つ外した。
音が一瞬だけ薄くなる。
シロがベースの音を少し長く伸ばした。
キャラメルも、空いた場所へ小さな和音を置く。
コレットは止まらず、次の拍をはっきり鳴らした。
ミルクが戻る。
次のコードは、きれいに鳴った。
終盤。
今度はシロが一音早く入った。
コレットのスネアが、戻る場所を示す。
シロはすぐに次の音を遅らせ、ドラムの下へ戻った。
キャラメルは二人をつなぎながら、最初の旋律へ重ねる。
最後の一小節。
コレットのフィル。
キャラメルの高い音。
シロのベース。
ミルクのギター。
四つの音が重なった。
全員が、同じ瞬間に手を止める。
余韻だけが、練習室に残った。
ミルクはギターを抱えたまま、嬉しそうに三人を見る。
「最後までできたね~」
「途中でずれたけど、ちゃんと戻れた」
シロも笑っていた。
「ミルクが外した時、今度は私が待てた」
「シロちゃんの一音が早かった時は、コレットちゃんが戻してくれたね」
「キャラメルも音をつないでた」
コレットが言う。
「今のは、誰か一人じゃなくて、四人で戻った」
キャラメルは録音を保存した。
<無題01・全体演奏>
昨日までの音源とは、もうまったく違う。
音数が増えただけではない。
四人が、互いの音を聞きながら作った演奏になっていた。
「次は、もっときれいにできそう」
ミルクが言う。
「次も頭から通そう」
コレットが、すぐに次の練習メモを作り始める。
「シロは終盤の入りを確認。ミルクは中盤のコード。キャラメルは間奏で少し音を減らす」
「コレットは?」
シロが尋ねた。
「私は、ミルクが戻る場所をもう少しわかりやすくする」
「ちゃんと自分の分もあるんだね」
「全員で直すんだから、私だけないわけないでしょ」
キャラメルが四人の顔を見回した。
「次の練習も、同じ曜日でいい?」
「部活が終わったあとなら行ける」
シロが答える。
「私も大丈夫」
コレットも予定を確認した。
「私も楽しみにしてるよ~」
ミルクは、ギターケースを大切そうに閉じる。
次の約束は、ごく自然に決まった。
バンドにするかどうかを何度も話し合う必要はなかった。
すでに四人は、同じ曲を続きを練習しようとしている。
誰かが弾けるようになったことを喜び。
ずれた音を一緒に戻し。
次に直す場所を話している。
それを続ける名前として、バンドという言葉が一番わかりやすかった。
「これからも、この四人でやろう」
シロが言った。
コレットは頷き、ミルクも笑顔でギターを抱えた。
キャラメルはDPo-Xを開き、四人の演奏者登録を一つのグループへまとめた。
ドラム。
キーボード。
ベース。
ギター。
登録画面の一番上には、空欄が残っている。
<演奏グループ名>
「名前、決めようか」
キャラメルが言った。
四人は少しだけ周囲を見回した。
机の上には、それぞれが持ってきた飲み物が置かれている。
コレットの無糖の紅茶。
シロのスポーツドリンク。
ミルクのミルクティー。
そして、キャラメルが学校のカフェで買ってきた紙カップ。
カップの側面には、英字で飲み物の名前が書かれていた。
FLAT WHITE。
ミルクが紙カップを覗き込む。
「響き、かわいいね~」
「短くて覚えやすい」
コレットも言った。
シロは一度その言葉を口の中で繰り返し、笑う。
「今の私たちには、ちょうどいいかもね」
白いピック。
柔らかな鍵盤の音。
四つの楽器を支えるドラムとベース。
まだ、どんな音のバンドになるのかは決まっていない。
だからこそ、最初は響きだけで選んでもよかった。
キャラメルが登録欄へ文字を入力する。
三人の顔を見てから、確認ボタンを押した。
「バンド名は、Flatwhite」
毎日ではない。
シロにはバドミントン部や、ほかの運動部の助っ人がある。
コレットにも、一人でドラムを叩きたい日がある。
キャラメルは自宅でも鍵盤を弾き、四人の音が重なりやすいようにコードを整理した。
ミルクは自宅へ持ち帰ったギターを、毎日少しずつ練習した。
最初は一つの音。
次は二つのコード。
指先が痛くなった日は、無理をせず休む。
シロもベースの感覚へ慣れていった。
ギターより太い弦。
低い音。
目立つために前へ出るのではなく、ドラムと一緒に曲の足元を支える。
それまでのシロとは、少し違う役割だった。
「シロ、今の音は少し長い」
コレットが言う。
「もう少し短く?」
「うん。ミルクが入る場所を空けて」
「了解」
シロはすぐに弾き直す。
「今度は?」
「いい」
「短いけど、ちゃんと褒められた」
「毎回長く言う必要はないでしょ」
「コレットらしいね~」
ミルクが笑った。
「ミルクは、次のコードへ移る時に手を離しすぎてる」
「先に指を近づけておくんだよね?」
「そう。形だけ準備しておけば間に合う」
「もう一回やってみる」
ミルクはゆっくりとコードを押さえ直した。
今度は音が途切れずにつながる。
「できた~」
「うん。そのまま覚えて」
キャラメルが鍵盤を鳴らしながら言う。
「コレット、すっかり先生だね」
「全体を見てるだけ」
「それができる人がいると、進みやすいよ」
「キャラメルも、音を増やしすぎないで」
「はーい」
「今の返事、増やす人の返事」
「ばれた?」
「最初から」
四人の音は、少しずつ長くなっていった。
八小節。
十六小節。
途中に短い間奏が加わり。
最初にキャラメルが作った旋律が、少しずつ四人のものへ変わっていく。
シロが新しいベースラインを思いつけば、コレットが合うリズムを探す。
ミルクがきれいに鳴らせるコードが増えれば、キャラメルは鍵盤の音を少し減らし、ギターが聞こえる場所を作った。
誰かが一方的に引っ張るのではない。
一人が変われば、ほかの三人も少し変わる。
それはコレットが最初に欲しいと思ったものだった。
伴奏データからは返ってこなかった音。
自分の一打に、誰かが音で返してくる時間。
ある日の放課後。
最初から最後まで通して演奏することになった。
「途中でずれても止まらない」
コレットが言う。
「誰かが戻る場所を出すから、そこへ合わせて」
「任せろ」
シロがベースを構える。
「私も、最後まで弾くね~」
ミルクは白いピックを握り直した。
キャラメルが鍵盤へ両手を置く。
「四人で最後まで行こう」
コレットがカウントを始めた。
一。
二。
三。
四。
ドラム。
ベース。
鍵盤。
ギター。
最初の部分は、これまでで一番きれいに進んだ。
中盤。
ミルクがコードを一つ外した。
音が一瞬だけ薄くなる。
シロがベースの音を少し長く伸ばした。
キャラメルも、空いた場所へ小さな和音を置く。
コレットは止まらず、次の拍をはっきり鳴らした。
ミルクが戻る。
次のコードは、きれいに鳴った。
終盤。
今度はシロが一音早く入った。
コレットのスネアが、戻る場所を示す。
シロはすぐに次の音を遅らせ、ドラムの下へ戻った。
キャラメルは二人をつなぎながら、最初の旋律へ重ねる。
最後の一小節。
コレットのフィル。
キャラメルの高い音。
シロのベース。
ミルクのギター。
四つの音が重なった。
全員が、同じ瞬間に手を止める。
余韻だけが、練習室に残った。
ミルクはギターを抱えたまま、嬉しそうに三人を見る。
「最後までできたね~」
「途中でずれたけど、ちゃんと戻れた」
シロも笑っていた。
「ミルクが外した時、今度は私が待てた」
「シロちゃんの一音が早かった時は、コレットちゃんが戻してくれたね」
「キャラメルも音をつないでた」
コレットが言う。
「今のは、誰か一人じゃなくて、四人で戻った」
キャラメルは録音を保存した。
<無題01・全体演奏>
昨日までの音源とは、もうまったく違う。
音数が増えただけではない。
四人が、互いの音を聞きながら作った演奏になっていた。
「次は、もっときれいにできそう」
ミルクが言う。
「次も頭から通そう」
コレットが、すぐに次の練習メモを作り始める。
「シロは終盤の入りを確認。ミルクは中盤のコード。キャラメルは間奏で少し音を減らす」
「コレットは?」
シロが尋ねた。
「私は、ミルクが戻る場所をもう少しわかりやすくする」
「ちゃんと自分の分もあるんだね」
「全員で直すんだから、私だけないわけないでしょ」
キャラメルが四人の顔を見回した。
「次の練習も、同じ曜日でいい?」
「部活が終わったあとなら行ける」
シロが答える。
「私も大丈夫」
コレットも予定を確認した。
「私も楽しみにしてるよ~」
ミルクは、ギターケースを大切そうに閉じる。
次の約束は、ごく自然に決まった。
バンドにするかどうかを何度も話し合う必要はなかった。
すでに四人は、同じ曲を続きを練習しようとしている。
誰かが弾けるようになったことを喜び。
ずれた音を一緒に戻し。
次に直す場所を話している。
それを続ける名前として、バンドという言葉が一番わかりやすかった。
「これからも、この四人でやろう」
シロが言った。
コレットは頷き、ミルクも笑顔でギターを抱えた。
キャラメルはDPo-Xを開き、四人の演奏者登録を一つのグループへまとめた。
ドラム。
キーボード。
ベース。
ギター。
登録画面の一番上には、空欄が残っている。
<演奏グループ名>
「名前、決めようか」
キャラメルが言った。
四人は少しだけ周囲を見回した。
机の上には、それぞれが持ってきた飲み物が置かれている。
コレットの無糖の紅茶。
シロのスポーツドリンク。
ミルクのミルクティー。
そして、キャラメルが学校のカフェで買ってきた紙カップ。
カップの側面には、英字で飲み物の名前が書かれていた。
FLAT WHITE。
ミルクが紙カップを覗き込む。
「響き、かわいいね~」
「短くて覚えやすい」
コレットも言った。
シロは一度その言葉を口の中で繰り返し、笑う。
「今の私たちには、ちょうどいいかもね」
白いピック。
柔らかな鍵盤の音。
四つの楽器を支えるドラムとベース。
まだ、どんな音のバンドになるのかは決まっていない。
だからこそ、最初は響きだけで選んでもよかった。
キャラメルが登録欄へ文字を入力する。
三人の顔を見てから、確認ボタンを押した。
「バンド名は、Flatwhite」